マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート南凪チャート   作:みみずくやしき

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パート- 混沌の一日

 

 水平線から見える朝日が今のあたしの一日の始まりだった。

 

 最初は全然起きないあたしを起こしに来てたんだけど、寝てるフリをしてからかってたら自分で起きろって目覚ましを大量に設置された。一時間も演技して待ってたんだから、もっと反応してくれてもいいのにさー!

 

 抗議したら目覚ましはなくなったし、普通に起きるのは慣れたけど……ふかふかのベッドはまだ慣れない。この部屋だってあたしには広すぎる。

 でも、住めば都ってやつ? あいつに押し付けられたときより散らかっててあたしの部屋って雰囲気が出てきた。

 

 まだ着慣れてない南凪の制服に着替えて、珍しい見た目のドアノブを捻る。

 その先は埃一つない二階の廊下。充てがわれた部屋以外にも空き部屋がいくつかある。中には衣装部屋みたいなものまで。

 

 こうしてくれはの家に住むようになってから少し経った。今は他人の監視も外でしかないし、学校に行く分にはくれはだけでよくなった。

 

 

 で、元から変なやつだとは思ってたけど、一緒に住んでてこいつの異常性を再認識した。

 

 くれはは毎日決まった時間に寝て決まった時間に起きる。まるで機械かと思うほど正確だ。今の時間なら間違いなく起きてる。

 ピカピカの手すりの付いた階段で下に降りると、案の定、ダイニングテーブルでメロンパンを頬張っていた。毎朝のことだから無視してキッチンへ。

 

 あたしが住み始めた頃と言ったら、家にある食料はメロンからメロンパン、メロンアイス、メロンソーダ、メロンジュース……とにかく名前にメロンがついてればなんでもいいのか、そういうものばっかり。

 本当にそれしかない。水、お茶、コーヒー、肉、魚、野菜、なんだっていい。そういう他のものが一切ない。こんな場所にいたら数日で歯を全部失いそうだったよ!

 

 だから自分の分はコンビニ弁当やらで済ませようとしたら、それは止められた。珍しく慌てたような動きで意地でもその意思を曲げるつもりはないらしい。……面倒な奴。

 

 じゃあ料理作ってくれんの? って聞いたらエプロンを着けたのに変身してカトラスでメロンを切り始めたから全力で止めた。

 

 だから今は自分で料理なんかしてるんだ。笑っちゃうよね? まあ失敗してもくれはに食わせるだけだからいいんだけど! 

 あいつはメロンしか食ってないように思われてるけど渡せば普通に食べる。丸焦げで原形をとどめてない目玉焼きだって顔色を変えずに食べたし、ちょっと成功したフレンチトーストもやっぱり顔色を変えないで食べてた。むかつく。

 

 今日もまた適当に作った料理を持って、くれはの目の前の椅子を引く。

 二人だけの食卓は雑音なんてない。こいつの家は庭まであるし、テレビなんてないから雑多な人間の話し声なんて聞こえない。鳥のさえずりがあたしとくれはの間に入ってくるだけ。

 

 こうしていると、くれはがなにを考えているかがわからない。今はその気がないとはいえソウルジェムなんかわかりやすい所に置いてあるし、あたしを監視しようって気が感じられない。

 

 かと思えば、今日は急にスマホの画面を見せつけてきた。

 

「……なに」

「監視するアプリ入れたから。あなたのにも」

「ふーん、いいじゃん犯罪者みたいでさ」

 

 七海やちよの家から出たあとにその足で買わされたのがスマホだ。いつでも連絡が取れるからって料金やらなんやら全部くれはが払ってた。その金がどこから出てきてるかもわかんないし、契約とか色々あるはずなのにそう簡単に買えるもんなの?

 

 両親がいた頃とか施設の頃とかはこんなのに縁はなかったね。瀬奈と会ったあとだって別にいつもの場所に行けばいいだけだし、興味もなかった。

 

 言われた通り操作すると、縦長の画面に地図と『ハンナ』って文字が浮かび上がる。……って、『クレハ』って文字まである。

 

「ねえ、これあんたの位置まで表示する必要ある?」

「わからないと文句言うでしょ」

「言う。わかってるじゃん」

 

 あはっ、でも基本的に一緒にいるんだから意味ないよね? 

 たまに知り合いにソウルジェムごと預けて一人でどっかに行くけどすぐ帰ってくるし、あんまり必要性を感じない。

 

 そんなことをしてたら、もうそろそろ家を出る時間だった。いつも通り片付けて準備をして玄関で待つくれはの元へ。

 

 

 両開きの扉を開いたら、青空が眩しかった。

 

 通学路も慣れたものだ。電車を使わずに歩いていける距離だから景色なんてもう見飽きた。

 学校なんて水名の頃から未練なんてないし、こっちのほうが騒がしいからまだマシってだけで行きたくもない。くれはがいなきゃ家で大人しくしてたほうがマシ。

 

 というか美雨ってやつの『偽装』? あれ、『暗示』には負けるけどスゴイね! 条件がどうとか言ってたけど、あたしをくれはと同じクラスに放り込めるなんて! おかげで全然授業の内容がわかんないけど。

 

 だから堂々と入っても変な時期に来た転校生としか思われてない。だって転校って部分だけ『偽装』で残りは信じたやつが書類とかを用意してんだもん。水名だって本当に転校したと信じ込んでる。

 

「おはよう帆秋さん! あ、その……更紗さんも……」

「……あ?」

 

 同じクラスのやつが話しかけてきたから少し睨んでやったらそそくさと逃げてった。いひっ、昔のあたしならこんなことできなかっただろうなぁ。

 

 ……くれはのやつ、他人になにを言われても本当に変わらない。あたしがずっと側にいるのをからかわれたときも一蹴した。今も遠巻きに見てくるやつらの視線なんて気にしてない。

 

 授業中に見てても同じ。派手に計算を間違えたりしても焦らない。

 でも知ってるよ? 前のテスト、ひっどい点数だったんだってね~? 国語以外はダメダメだったらしいじゃん。補習は避けてるみたいだけどいつまで持つのやら。

 

 つっまんない授業が終わったら昼休み。教室内だとどいつもこいつも見てくるから中庭のベンチに移動するのが最近の流れ。

 やっぱりメロンパンを食べてるくれはの横で購買で買ったパンを食べてると、電話が来たみたいであいつはちょっと離れた場所に行った。別に珍しいことじゃないよ。いつの間にか交友関係を広げたみたいでよく連絡が来るんだ。

 

 さっきよりもパサついたパンを飲み込んだあと、あたしを見る視線に気づいた。

 

「更紗帆奈……」

「あ、あー……なんだっけ。観鳥って名前の」

 

 うん、思い出した。観鳥令だ。金髪のサイドテールで、昏倒事件のときとかにくれはと調査してたやつだ。こいつも仲良くしてたみたいだから、何度かちょっかい出したりもしてたけどすっかり忘れてた。同じ学校にいるっていうのにまったく見なかったんだ。

 

 一緒にお昼を食べようとかそういう雰囲気じゃない。木陰で暗い顔があたしを見下ろす。

 こいつの見てくる目、ゾクゾクする。こうして暮らしてなければ飛びついてたぐらいには好みの目!

 

「帆秋さんは気を許してるみたいだけど、観鳥さんはまだ疑ってる。変な真似はしないでよ……?」

「はいはい。もう何度も同じようなこと言われてるよ。あたしが手ぇ出すわけないじゃん」

 

 ま、信じないだろうけどね! 眉をひそめて睨んでくるし。あはっ、逆の立場だったら一発殴ってるかもしんないのによく耐えるね〜!

 

 そんな剣呑な雰囲気を悟ったのかあいつは小走りで戻ってきた。観鳥もさっきまでの目つきから変わってる。

 でも、くれはが伝えたことが今度はあたしの目つきを変えた。

 

「挨拶回りぃ!? なんでそんなことしなきゃいけないわけ!?」

「顔見せ。やちよと十七夜からやれって言われてるのよ」

 

 あたしの存在を周知させるために昏倒事件の被害者とかまだ会ってないやつに会わなきゃいけないんだって。引っ張ってでも連れて行くって言うけど、こいつは本気だ。拒否したら本当に引きずられかねない。

 ……へへっ、まあいいよ。付いてってあげる!

 

 

 

 

 でも、正直後悔したかな〜。まさかここまで連れ回されるなんて思わなかった。

 

「帆秋さん! この阿見莉愛に会いに来たのでしょう! ささこちらへ!」

「メガ盛りオムライスとメロンジュース」

「それは喜んで提供しますが……次の料理教室でまたあんなことしたら出禁にしますからね?」

 

 連れてかれた洋食屋じゃあの金髪と襲ったやつ。

 くれははこいつといる時は必ずオムライスを頼むんだって。結局メロンを付けるのは変わらないけど珍しいね。

 

「今日はどうします!? 新しい型を教えましょうか!」

「それでいいわ」

「いやそれ前もやってたよ……」

 

 竜真館なんてとこに誰かいるのかと思えば今度はあの青髪。ささらってのもいた。

 あんたの武器はカトラスでしょ。小太刀も教えてるらしいのに薙刀を習ってどうするのさ。

 

「くれっちー! お、はんはんじゃーん!」

「はんはん……」

「……まだ色々あるけどさ、相談所はいつでも来てもらっていいって。ボクも待ってるよ」

 

 相談所は結構狙いにしてたからね。あの二人は知ってる。

 でもこいつらは嫌い。だってあたしが加害者だってのになんでもなかったように見てくるんだ。もっと怒ればいいのに。

 

「あんたシュークリームの話覚えて……え、なにこのメロンシュークリームって……」

「レナちゃん、これ結構高いんだよ? そんなのも知らないの?」

「ごーめん、二人ともいつも通りだからさ。あそこに行って来なよ。……たぶん、待ってるだろうから」

 

 三人組と話した以外にも色んな場所に行った。

 知らない連中と話す知らない姿。

 実際に目にすると思い知らされる。思い出したって言うけど、こいつの中であたしら三人の思い出なんてちっぽけなものになってるんだろうなって。

 

「慣れてたみたいだけど、こんなの毎日やってたわけ?」

 

 色んなところを回ってるのにその歩みに淀みはなかった。会うやつらだって来るのがいつも通りみたいな対応で、挨拶回りというよりくれはの日常を見せられてる気分。

 

 それで、最後に連れてかれたのは『ブロッサム』だった。

 ここで働いてるくれはだって見たことあるし、誰がいるのかなんて知ってる。その橙色の髪のやつはいつものようにそこにいた。

 

「くれはさん。それに……帆奈ちゃん」

 

 帆奈ちゃんだってさ! いひっ、あたしを見て怒ろうともしないしどんだけお人好しなわけ!?

 ……ふ~ん? 違う、なぁ。見てるのが違う! 見てんのはくれはだよね!

 

「聞いたの。今までの事件の犯人がその子で、またくれはさんが無茶したって……!」

 

 あたしを無視してくれはにそう言う。

 もう無茶しないでとか私が守るとか言うけどさ、こいつが止まるはずないでしょ? 今まで見てきてそれぐらいわかんないの? それにあんたは守れるほど強くないでしょ?

 ね、くれは? 二回もあたしにやられてさあ、よく言えるよね。……だからさ、そんな目をしないでよ。

 

「……帆奈?」

「なに。別になんでもないっての」

 

 そう言うと、二人の話に戻ってく。いつの間にかいつ頃ブロッサムに戻ってくるのかとか、いつ予定が空いてるのかって話になってた。特に後者をぐいぐい聞いてる。

 

「だってくれはさん、予定がたくさんであんまり遊べないし……」

「そうね」

「前、今度は一緒に出かけてくれるって言ってたよね?」

「……そうね」

 

 ダメな流れ。くれはは約束したら守ろうとするからね。こういう相手はダメ。ああ見えて恥ずかしがるところもあるんだから、手を取って近づいたりなんてしたら余計にダメ。

 で、色々と積み重ねて意を決した顔であいつは言ったの。

 

「じゃあ一日、デートしてくれる?」

「いいわよ」

「いいんだ……」

 

 はあ、デート。デートね。お熱いね〜! 別にいいんじゃないの? ソウルジェムがある以上あたしもいるし。

 って小突くように言ってやったら、その日はあのちっさいやつに預けてくって返された。

 

「……じゃああたしはどうすんの?」

「勉強会。どちらにせよそれに出てもらう予定だったから」

「は、はぁ!? ならくれはも出るべきでしょ!?」

「ななかからの提案だから。いいのよ私は」

 

 あ、あいつ……今まで色々やってたからわかる! 絶対に嫌がらせだ!

 脳裏にブチ切れてる姿と嫌な笑顔を浮かべてる姿が浮かんだ。……同じ澄ました顔しててもこっちのほうが想像しやすいね。

 ……むかつく。

 

 

 

 

 

 帰ってきた頃にはもう暗かった。

 この辺りの家はみんな大きいから妙に静か。だから悪くない。

 

 夕飯も基本は朝食と変わらない。くれははやっぱりメロンパンを食べてた。

 あと、さすがに惣菜ぐらいは買うのを許可してくれてる。ただ買いに行くとたまに七海やちよと鉢合わせるんだよね~。それが嫌。

 

 朝と同じような感じで食べてたけど、なんか、違った。

 だからかな~……あたしも思ってたことを言う気分だったんだ!

 

「この家、変なんだよね。無駄に大きいし。外側からしか掛けられない鍵の部屋とかあるし、衣装部屋があんなに広いのに服は制服とちょっとしかないじゃん」

 

 あいつのメロンパンを食べる手が止まった。

 

「つーかさ、なんでまったく汚れてないの? あんたはいつ掃除してんの? それともまさか――」

「いいでしょ別に」

 

 口癖みたいなこの言葉。それが出るってことは。

 

「じゃあこう言ってあげようか。外はどう? 深窓のご令嬢さん? それともお嬢様がいい? ……いや、お人形さんか!」

「……」

「そうだよその目! それが見たかったの! あはっ! その澄ました顔を崩すにはこれが一番効くんじゃん。遠回りしたなー」

 

 あたしと戦ってたときよりもずっと酷い顔してる。観鳥令があたしを見てた時の顔よりも!

 今まで言われたことないでしょ? あたしが初めて言ってあげたんだよ? だからその目で見て!

 

「ほら言ってみなよ。『私はこんなに不幸なんです』ってさ! それで同情を煽りなよ。あはっ! できないよね? そんなこと知られたら、頼られなくなるものねぇ! クールでカッコよくて変な行動でみんなを惹きつける『帆秋くれは』はさぁ!」

 

 青と黒が入り混じった視線は鋭い。

 ……けど、ここまで言ってもくれはは動かなかった。今はあたしが遠巻きで眺めてるあいつらと同じになってるんだろうね。

 

「ふーん……ま、あたしならこんなこと言う奴がいたら殺してるけどね」

「……どういうことよ」

「あたしがくれはに言うのはいいんだよ。他人が言ったら殺す」

 

 気が向いたからメロンパンを奪って一口かじろうとしたら『停止』で止められた。

 あはっ! いつも通りだね! いくらグリーフシードを大量にストックしてるからって無駄遣いしちゃって!

 

 はー、心配して損した。やっぱお前は変わんないね。

 いいよいいよ勉強会でしょ。出てあげる。一日楽しんできなよ~? 帰ってきたらたっくさん聞かせてもらうから!

 

 

 その後、部屋に着替えを取りに行って風呂に入ることにした。

 それはやっぱり広い。無駄に広い。海は見えるし露天風呂までくっついてるし、初めて見たときはどこのホテルかと思った。うんうん、こればっかりは本当に良い変なとこだよ。

 

 で、脱衣所のドアを開けたらくれはが制服を脱いでるところだった。

 

「お、お前! 着替えてるなら言え!」

「なんで?」

 

 ……こいつ、本当に自分がどんな見た目してるかわかってんの? 外面だけは良いんだからバカな奴らが群がってくるってのに。放っておくとどうなることか。あ、旅行に行くとか言い出したら無理やりでも付いてこ!

 

 横で脱ごうとしてもやっぱり変わんない。

 二人で入ったところで全然スペースに余裕はあるし別にいいんだって。そうじゃないでしょ。

 

 広~い浴場に二人だけ。もう一人ぐらい、いたっていいのに。

 海に浮かぶ月は綺麗だったけど、もう満月を過ぎてた。

 

 

 

 

 

 先に出てきたあたしはあいつの部屋に行った。

 というか本当に監視する気ある? 今ソウルジェム取ったらどうすんの?

 

 目当ての部屋は一階。前にもちょっとだけ入ったことがあるけど、あたしのより狭い。ベッドに机、本棚ぐらいしかなくて機能性重視って感じ。

 けど前に見たんだ! 机の上に茶色いウサギみたいなマスコットが置いてあるのを! あいつにそんな趣味があるなんて知らなかったし、探せばまだあるかも~って思って来た。

 

 でも、あったのはチラシとか。化学教室とか料理教室、いけばな展のイベントのやつとかそんなんばっか。どうせ利用しないのに弁当屋のまで。というかなんでメイドカフェのまであんの?

 

 もうここはいいかって次に目を移したのは本棚。でも、これもまたなんか変。

 

「なにこのラインナップ」

 

 入ってる本は厚みやサイズがバラバラだ。『怪盗少女マジカルきりん』なんて漫画もあれば、作んないくせにお菓子のレシピ本もあるし、ファッション誌もある。心理学や脳科学の小難しい本まで並んでるし。

 その中に、毛色の違うものがあるのを見つけた。店売りの緑のブックカバーを付けたそれは中身が分からない。だからなんの気後れもなく手にとって開いた。

 

「……あ? これ日記じゃん」

 

 あはっ! こういうのだよこういうの! 人の日記を読むほど楽しいこともないよね~!

 だから最初のページを開いたんだけど、少し手が止まった。

 

『ここ最近、特定の時期の記憶が全くないことに気がついた。だからこうして記憶を書き留めておく。忘れたくないことは沢山ある』

 

『何一つ思い出せない。ただ、誰かを救いたかったということだけが心に残っている。助け続ければ、いつか会えるだろうか』

 

「……あー……そっか、そうだよね。あいつならそうするわ、うん」

 

 罪悪感なんてものはとうの昔に消えたけど、ここまで影響を及ぼしてるとは思ってなかったから少したじろいだ。元からの性格に拍車がかかってる。

 

 書かれてるのは化学イベントを手伝っただとかブロッサムでアルバイトをしたとかごく普通の内容ばっかりで面白くない。同じ学校だからか観鳥の名前が多いだけで特に変なこともない。

 昏倒事件のことも書いてるけど知ってることばっかりだし。

 

『今日はメロンソーダにメロンが入っていないということを聞いた。多分嘘だと思う』

「あいつこの辺で飽きてきてるな……」

 

 なんかどうでもよくなってきた。そろそろ止めようかと思いつつも読み進めると、妙に力強く書かれてるページがあった。

 

『スズネの一件が無事に解決して安心した。もうなにも失いたくない。私が絶対に守る』

 

 ああ、あんときは随分とあの二人にご執心でむかついたね~! せっかくだから一人ぐらい死なないかな~ってあのまさらってのを止めてたけど、あんたがあそこで死にそうだからやめたんだっけ。

 

 思い出しながら読んでいくと、なんだかんだでもう次のページで最後だ。時期的にも二度目の昏倒事件のことだろう。

 

『今日、全部思い出した。みことのことも帆奈のことも。帆奈が私のことを思って封じてくれたんだろう。大丈夫、もう二度と忘れることはない。だからこの日記はこの日で最後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 それと帆奈。あなたがこれを見るだろうことは想定してる。面と向かっては言えないだろうからここで。あなたとみこと、三人で過ごした時間は私にとってかけがえのない時間だった。それを守ろうとしてくれて、ありがとう』

 

「……勝手に勘違いしてなよ、バーカ」

 

 やっぱりお前はくれはだよ。

 『暗示』は瀬奈じゃない。ここにあたしと帆秋がいても瀬奈はいない。だからお前はくれはなんだ。あの頃には戻れないんだから。

 

 あの日、あんたと瀬奈だった魔女を追い出した屋上でキュゥべえがペラペラ話した。

 宇宙とかエネルギーとかそんなのはどうでもいい。ただ、魔女になったら戻す方法はないってことだけが頭に響いてた。

 そんときから目の前がパーっと開いたみたいになった。まずはキュゥべえが嫌がることをどんどんやってやろうって動いたんだ。

 それであとは昏倒事件の流れのまま。

 

 

 ……あいつが呼ぶ声が聞こえる。メロンアイスがどうとか。

 

 ああ、でもさ。

 

「――あたしの取っといてよー? あはっ!」

 

 戻せないし戻れないけど、少しはあんたの笑顔に近づけたかな。

 

 




■今回の内容
 更紗帆奈 魔法少女ストーリー 3話 『更紗帆奈に微笑みを』(一部分)
 帆秋くれは 魔法少女ストーリー 1話『混沌の一日』

■混沌の一日
 開放条件 『更紗 帆奈』の信頼度が一定値以上。

■朝
 帆奈のログイン②(朝)ボイス。
 ログイン③(昼)もいいぞ。

■見た目
 ここまでにお嬢様も深窓の令嬢も人形も他人に思われたことがある。

■くれはちゃんハウス
 海が見えるお屋敷めいたハウス。
 一人暮らし。

■RTA要素は?
 ないです。



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