マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート南凪チャート   作:みみずくやしき

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パート20 莉愛・おぼえているのか

 

 アイドルを追っかけるRTA、はーじまーるよー。

 

 いやあ前回はみとちゃんがピンチでリセットの危機でしたね。やちよさんを呼んでおいて良かったです。慢心はやめようね!

 

 

 本日は新西区に来ております。でもブロッサムではなく、レナちゃんと遊びに来ました。

 

 というのも、レナちゃんの信頼度が足りないという事実に気づいたからです。ウォールナッツで気づけたのでセーフです。セーフだよな?

 

「遅いわよ。今日は一人?」

 

 なお、帆奈ちゃんは置いてきました。彼女に今日のスケジュールは過酷ですからね(建前)。本音を言うと、レナちゃんとの相性が良くないためです。この二人の間の信頼度が低いので阻害されてしまいます。

 

 レナちゃんの信頼度を上げるには、彼女が好きなアイドルであるさゆさゆこと『史乃(ふみの) 沙優希(さゆき)』を事前に調べておく……ではいけません。彼女はガチのアイドルオタクです。付け焼き刃の知識など一瞬で見抜かれてむしろ信頼度が下がります。

 なのであえてさゆさゆのことを調べず、話の中で教えてもらう形にします。するとぐんぐん上がります。チョロい(確信)。

 というか、彼女はかえでちゃんが知らないうちに友達を作ってると嫉妬するぐらいには友人関係がアレです。もう簡単に上がります。なのでこのタイミングでリカバリーが間に合うんですね。

 

「でも真顔でサイリウム振るのはやめてよね……」

 

 かえでちゃんは光る棒を振ってなにが楽しいかわからないと言いますが、ライブは信頼度上げに使えるので楽しいですね、ええ(満足)。特にレナちゃんやももこちゃん狙いの時に効果的です。

 

 というわけで、次のライブに参戦する予定を立てたらここで別行動を取ります。ガバってもただでは起きません。この行動を利用して、次は出会っていない魔法少女を探しに行きましょう。

 さゆさゆの情報を得た今、彼女のことを誰かに聞くことが可能になります。当然聞く相手は……。

 

 

 

 

 オッス莉愛様元気か!

 

 なんとこのお方、さゆさゆの友人です。なので同じく友人の『(こずえ) 麻友(まゆ)』を経由するか、もしくは直接さゆさゆご本人に出会えます。凄ェ! さすが莉愛様ァ!

 こうやって先に出会っておくことで、ライブでさゆさゆとレナちゃん両方の信頼度を上げることができるから水名女学園に来る必要があったんですね。

 

「ええ、その『さゆさゆ』……史乃さんなら知り合いだけど……」

 

 どうした莉愛様、口調が素になってるとか元気ないな!

 

 なんでも今はちょうど神浜現代美術館にいるらしいので、莉愛様に付いて来てもらいましょう。

 ただし、水名区と中央区を移動する間は芸能事務所のスカウトイベントが発生することがあるので注意しましょう。話しかけられたらロスです。話しかけるなよ……? 話しかけるなよ……? だから話しかけるんじゃねぇ! 帰れ帰れ! ぺっ、おとといきやがれ!

 

 

 到着しましたが、ここってつい最近来ましたね。先ほど言った『梢 麻友』がここでアルバイトしてるので張り込んでましたが出会えなかった苦い思い出の場所です。

 

 というかなんでここにいるんでしょうね。さゆさゆはアイドルなのでスケジュールが決まってて予定外の行動は早々しないはずなんですが……。

 

「彼女、今度地域PRドラマの主役をやるのよ。それで自主練してたのだけど、なかなか上手くいかなくて気晴らしに来てるって」

 

 あっ、ふーん……これは『沙優希ステップアップ仕る!ですぅ~』ですね。成功すると彼女のステータスが上がりますが、絶対必要なものではありません。ですがレナちゃんの信頼度上げの都合上成功させておきましょう。

 

 早速見つけました。さゆさゆです。梢麻友ことまゆゆもいますが……なんか静かですねぇ。

 

「あっ、電話が繋がらないから今から探しに行こうとしてたんですよ!」

「あみめさんは盗んでないですよねっ!?」

「だから阿見莉愛よ! ハッ……これも夢と同じ……!」

 

 なるほどぉ……効果的な展開ですね。これですよ、『ほわほわ少女頑張る!』っていうんです。こっちは『主役はいつだって私!』も、発生しているんですよ。

 

 バキィ!!(リカバリーが壊れる音)

 

 う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 

 (同時発生のイベントは)三つぴったりくらい。あぁ(リカバリーが)落ちたねぇ、落ちましたね……。

 

 

 

 落ち着きました。

 

 とにかく重要なのは、レナちゃんの信頼度を上げるためにさゆさゆのライブを成功させることです。なので『沙優希ステップアップ仕る!ですぅ~』を成功させる必要があります。

 困ったことにまゆゆと莉愛様のイベントに彼女が絡んでしまった以上、これらが失敗すると連鎖的に失敗します。

 つまり成功させないといけないのは全部です(絶望)。

 

 今美術館でなにが起きているかをまゆゆが説明してくれていますが、そんなことを聞いている場合でありません。要は美術館の品を魔女が盗んだので犯人がわからないというだけです。

 つまり犯人探しなんか必要ないぜ! ちょっと待っててくれよな!

 

 

 

「あの、そんな急な用事なんですか!?」

 

 そういうわけで連れてきたのはかこちゃんです。ブロッサムにいたので早かったですね。

 彼女の固有魔法『再現』は自らの魔力範囲内で目の前で起きたことを繰り返すことができます。なので応用して当日の様子を見せてもらいましょう。

 なお、魔力をオーバーしても大丈夫です。そこにうってつけの人がいます。

 

「……ひょっとして沙優希ですか~!?」

 

 さゆさゆは固有魔法により味方に魔力を分けられます。消費が重い魔法を使うときにうってつけですね。『停止』くんお前じゃねぇ座ってろ。

 

 ちなみに、戦闘では後方でひたすらグリーフシードで浄化してもらいつつ、前線の味方を回復させ続けるのが基本的な戦法です。まさにアイドルですね。

 これはドッペルがない神浜では非常に強力で、以降もドッペルを見せられない場面では重宝します。ですが彼女はスケジュールの調整が難しく、思ったように誘えません。来てくれたらラッキーぐらいに考えましょう。

 

 時間もないのでさっそく彼女にかこちゃんを強化してもらいましょう。行けー! ほら行けー!

 

 使い魔が盗んでる姿が見えたのではい問題解決! あとは同じ魔力パターンを持った大元の魔女をとっちめるだけだぜ!

 

 次に魔女がどこに行ったか探す方法ですが、探しません。誘き出します。

 普通なら誰かの大切な物を置いておけばそのうち勝手に来るので十分です。しかしそんな悠長なことをしていたらライブに間に合いません。今回ばかりは誤差だよ誤差で済ますとレナちゃんが退場しかねないのでちゃんとやりましょう。

 

 というわけで電話で呼んでおいた人がそろそろ来てくれるはずです。

 

「魔女が現れたと聞いてやってきました!」

「人手は多いほうが良いって話だから、一応明日香も連れてきたよ」

 

 明日香とささらだぜ! まあ、目当てはささらの固有魔法『挑発』なんですが。これには悪を引き寄せる力があるので、魔女を引き寄せて囮の物まで誘導します。やはり名字が美凪と我らが南凪に似ているだけあって頼りになりますね。

 来なかったら? リセットだよリセット!

 

 というわけで作戦開始じゃ! さゆさゆはその間に台本を覚えててくれよな!

 

 来そうにないのでリセット!(ロス) はいリセット!(ロス) はい来た!

 結界に乗り込めー!

 

 今回はくれはちゃん、莉愛様、まゆゆ、さゆさゆ、明日香、ささら、かこちゃんの七人パーティです。数の暴力だ囲んで殴れ!

 

 ついでにまゆゆの解説もしておきましょう。

 『梢 麻友』は絵筆のような槍で戦う近・中距離系の魔法少女です。シャボン玉みたいなのも出ます。固有魔法は敵の攻撃を止めることができますが、燃費最悪の『停止』くんとは違ってそれに特化しているためにバンバン使えます。総じて前衛のサポート系キャラですね。ソロで戦わせるのはやめておきましょう。

 

 言ってる間に倒しました。秒ですよ秒! 本来はこの半分ぐらいの人数で行うイベントなので火力が高すぎましたね。

 

 

 次はさゆさゆ……と言いたいところですが、『沙優希ステップアップ仕る!ですぅ~』は彼女がどれだけ頑張ってくれるかにかかっているので直接的に解決できません。まゆゆが本調子になったのでここはサポートを任せましょう。その間に莉愛様のファッションショーが成功するように仕込みをします。

 

 やるべきことは……もう大体終わってるやん!(歓喜) リカバリーはねぇ、自信あるんですよ!

 

 明日香とまゆゆにささらがファッションショーについて話してますし、ちょうどさゆさゆがいるので彼女のグッズであるペンライトかサイリウムを莉愛様にさりげなーく見せておきましょう。こうして事前に見せておけば成功します。

 

 あとはさゆさゆが台本を覚えて撮影を成功させてくれれば、ライブが無事行われてレナちゃんの信頼度が上がります。撮影が失敗したらリセットです。

 なんだよ……結構……簡単じゃねえか……(ロス)。

 

 

 

 

 

 あ、やっと……さゆさゆのライブに来れたんやなって……。

 

「さ、さゆさゆーーーっ!! 斬ってーっ! 斬り捨ててー!!」

 

 レナちゃんのテンションが凄いことになってますが、ここまでの苦労を考えたら当たり前だよなぁ?

 

 というわけでミニゲームが始まって急に音ゲーになりますが、何なのだ、これは! どうすればいいのだ! と焦らず合わせましょう。こんなこともあろうかとコールは完璧に覚えてきました。くれはちゃんのリズム力はゲーセンで鍛えてあります。

 

 

 イクゾオオオオオオオ! 国宝感覚! 国宝感覚! wow! oh! oh!

 まゆゆ見てるー? ささらさーん! 明日香さーん! ありがとう! 莉愛様ー! 莉愛様見てるかー! かこちゃんありがとう! フラッシュ!

 さゆさゆでした! どうもありがとー!

 

 

 パーフェクトです。俺凄いやろ? 凄い? 言ってみ? 凄いです(半笑い)。

 これでさゆさゆとレナちゃんの信頼度がグーンと上昇します。

 

「はあ良かった……ドラマも何度も見たけど本物はやっぱり違う……あ、それとあんた……少しはわかってきたみたいね!」

 

 こんな反応ですけどこれは結構上がってますね。チョロいな(確信)。

 じゃあ帰りましょうか。余裕があればあと一回ぐらいはももこちゃんを連れて参加すると今後が少し楽になります。

 

 おっと向こうから来てるのは……莉愛様じゃないか!

 

「良いところに! ここの魔女をお願い!」

 

 今のは『主役はいつだって私!』のラストシーンですね。準備は終わってますし、まあ莉愛様はギャグ時空に片足突っ込んでるので大丈夫です。

 あとは帰るだけなのでさっさと片付けてグリーフシードだけ貰っていきましょう。

 

 レナちゃんと結界に突撃しつつ今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (語り:隆田 等)

 

 阿見莉愛は放課後も多忙だ。

 その奇跡的な美しさを多くの人が望んでいる。モデル、取材、ファンサービス……その全てを彼女は涼しい顔でやり遂げる。

 今日もまた、彼女を見送ろうと多くの生徒が待っていた。

 

 Q:学生とモデルを両立させるのは大変では?

 

「そうですね……確かにそう思う日もあります。ですが、こうして毎日を過ごせるのは活力になりますから」

 

 Q:毎日このスケジュールをこなせるのには何か秘訣が?

 

「両親や友人といった支えてくださる方のおかげです。水名だけではなく南凪のほうにも――」

「せんぱーい、また一人でなにやってるんですか」

「今いいところだったのよ!」

「結構危ない人でしたよ……」

 

 気づけば前にいたのは胡桃さん。いつもお昼に売っている特製弁当は水名の名物で、この私のように人気がある実力者。歯に衣着せない言い方をするけど明るい後輩。

 でも、普段のように声をかけてきたと思ったらどうにも元気がないみたいで。

 

「むっ、阿見先輩に悟られるとは。いえ偶然ってだけだと思う話なので……」

「なにかあったら言いなさいよ?」

 

 実を言うと最近は私も普段の調子が出ていない。夢でなにかを見て、それが気がかりになっているのだけど、これっぽっちも内容を覚えてない。

 

 ぐぐぐ……私は阿見莉愛! 夢に惑わされない気高いハートの持ち主よ! 今度、ファッションショーの大トリを任せられたのにこれではダメ!

 だから今日もお肌のためにぐっすりと眠るの!

 

 

 

 

 

 

「な、なんてこと……魔女を倒していたら時間が……」

 

「フレー! フレー! 莉愛様!」

「応援ってそういうことじゃなくて!」

 

「停電っ!? これじゃ私が見えないじゃない!」

 

 こ、これは……ファッションショーの……!

 

「――はっ! 夢!?」

 

 思わず飛び起きる。毎度なにか嫌な夢を綺麗さっぱり忘れているけれど、この日ばかりは美の女神が私にお告げをするようにしっかりと覚えていた。つまり、色々とトラブルが起きてファッションショーが失敗してしまう。

 よーく思い出してみると、帆秋さんや史乃さんまでいて……これはやはり、なにかの予兆では?

 

 いつものように学校を終えると、その予想は現実となった。

 

「莉愛、聞きたいことがあるのだけど」

 

 夢で見た通りに校門前で待っていたのは私に並び立つほどの親友、帆秋さんだった。ええ、親友ですとも。なんせ彼女は一度たりとも私の名前を間違えたことがないのですから! ドア様やシェア様、あみめさんなど色々言われながらも!

 

 南凪の制服を着ている彼女を避けるように生徒の波が分かれる中、悠々と近づく私。……やはり、私たちに近づくのを遠慮しているようね! まあこの美しさの前では仕方ないのですけれど!

 

 用事を聞くと史乃さんを探しているようで、同じ水名の私ならなにか知っているのではないかと訪ねてきたそう。頼られるのは嬉しいけれど、史乃さんも夢にいたのはやはり偶然ではないと予感が高まっていく。

 ちょうど麻友さんと史乃さんはPRドラマの撮影の息抜きで神浜現代美術館に行っている。それは知っていたのでそのまま行くことにした。……いや、落ち着くのよ阿見莉愛。まだ偶然、偶然のはず。まさかこの後の展開まで同じじゃないはず。

 

 

 

 

 

「あっ、電話が繋がらないから今から探しに行こうとしてたんですよ!」

「あみめさんは盗んでないですよねっ!?」

 

 同じ! じゃない!

 夢でも私たちと二人が並んでこう言ってたわよ!

 

 どうやら神浜市が生んだ天才画家、茂根先生の絵葉書がなくなっていて、監視カメラに私が映っていたから疑われているらしい。史乃さんの撮影をここでやるから下見に来てただけよ! それにそんな卑劣な真似をするわけないでしょう!?

 

 むぐぐ……信じてもらおうにも証拠がないと……。

 ……こ、このままじゃ窃盗の疑いをかけられた挙句、麻友さんは不調でアルバイトを続けられなくなり、史乃さんは台本を覚えられずになんやかんやでファッションショーが失敗してしまう!

 恐ろしい想像をした私の肩に手をかけたのは帆秋さん。まるで全部任せろと言っているようなオーラがとても頼もしい。

 

 そう、無実の帆秋さんが協力してくれるなら私の疑いも!

 

「実はもう一人、怪しいと言われてる人がいるんです。美術館の近くで発見された不審者の情報なんですけど……南凪自由学園の制服、ふわふわした淡い栗色の髪、そして凛とした立ち姿の人で……あとメロンパンを食べてたそうです」

 

 あなたも! じゃない!

 横にいる帆秋さんは顔色ひとつ変えてないけれど間違いない。その特徴の数々は私の親友である彼女に一致する。特にメロンパンの部分が!

 

 でも、盗むなんてそんなことはありえない。

 

「断じて! 帆秋さんじゃないわ!」

「そうよ。そして莉愛でもない」

「やはりあなたはよくわかってる!」

「そっか莉愛ちゃんと同じタイプなんだ……」

 

 けれど、帆秋さんの自信の源は確かにあった。「少し待ってて」と言って出て行った彼女が連れてきたのは夏目かこさん。私も何度か会ったことのある子だ。

 

 なんでも、夏目さんの固有魔法である『再現』で過去の現場を見ることができるらしい。

 史乃さんと協力して浮かんできた風景には、使い魔の姿がしっかりと映っていた。通りで魔法みたいに消えたって騒がれたわけね。だって、本当に魔法少女の分野の事件だったんだから。

 

 この使い魔は他にも物を運んでいる。ということは収集する性質を持つ魔女が犯人だと明白だった。でも、魔女が増えてきている神浜じゃ特定の魔女を探すのは難しい。

 どうやって探し出そうかと全員が悩んだとき、私たちの元に来た人が二人。

 

「魔女が現れたと聞いてやってきました!」

「人手は多いほうが良いって話だから、一応明日香も連れてきたよ」

「私が呼んだわ。魔女のような気がしたから、ささらが見つけられるんじゃないかって」

 

 なるほど。ささらさんが持つ魔法の『挑発』で使い魔か魔女を引き寄せて、囮の物を盗ませれば簡単に見つけられると。……さすがは帆秋さん! いえ、私もそうしたほうが良いんじゃないかとは薄々思っておりましたが!

 

「あの、多分なんですけど……その魔女は大切な物を盗んでるんだと思います。あの絵葉書は美術館でとても大切にしてたので」

「私もそう思います。使い魔が運んでた物の中に本があったんですが、とても大切に扱われてたんだなって思えたんです。魔女は人を不幸にしようとするから、きっと……」

「じゃあ大切な物を囮にして、私の『挑発』を使うってことでいいね?」

 

 そうなると当然のことだけど、なにを使うかという問題になる。美術館の物を使うわけにはいかないし、探したり取りに戻っていたらまた同じような事件が起きるかしれないし……。

 

 ああでもないこうでもないと使えるものがないかと全員で考えてたとき、視界に入ったのはパンフレット。いえ、これは関係ないじゃない。

 だけど私の視線に気づいた麻友さんが説明をしてくれた。

 

「それはですね、アリナ・グレイさんの企画展の時のパンフレットです。『サイケデリック青春賛歌』って名前で結構話題になったんですよ。ただ、いきなり作品を壊し始めてびっくりしちゃったんですけど……」

 

 私も美に名を連ねる身、当然アートの知識もある。その『アリナ・グレイ』の名前は聞いたことがあるし企画展だって知っていた。怖いけど怖くない、引き込まれる作品だと麻友さんは言う。

 一応見てみるけど、今は関係が――

 

 瞬間、思考が冴え渡る。経歴に見える家族の文字。

 

「――これよ! 家族関係の品物! これなら大切な物と判定するんじゃないかしら!」

 

 大切な物は人によって異なるしどうやって選んでいるのかもわからないけど、それは多くの人にとって大事。狙われる確率も上がるのでは。

 と、思いつきで言ったそれは良い閃きのはずだったのだけど、夢が影響してたのかあることを失念していた。そしてそれを言い出す人柄だってことも。

 

「で、でも今持ってる人はいますかぁ? 失敗して盗まれちゃったら……」

「……私のペンダントを使いましょう」

「っ! ダ、ダメ! それはダメよ! 別の手段にしましょう!」

 

 だってそれは麻友さんのお父さんの形見。以前なくした時に私も一緒に探したことのある思い出の品なのだから。

 ……うっかりで済まないわよ、阿見莉愛。今すぐ別の方法を提案しないと本当にそれを囮にするって引かなくなる!

 

 そんな私の肩に手をかけたのは、またも帆秋さんだった。

 

「これ使って」

「写真……くれはちゃんのご家族のですか?」

「形見よりこっちのほうがいいでしょ。大切と言えば大切だけど……まだあるから」

 

 帆秋さん、写真の中でも真顔なのね。お屋敷みたいな家を背後に両親と三人で写っている。見せてくれた他の写真も帆秋さんの服が違うだけで後は一緒だったから一枚だけというわけではないみたい。

 

「……いいんですか?」

「いいのよ」

「わかりました! この竜城明日香、その気持ちを無駄にしません! みなさんのため、必ずや魔女を倒しましょう!」

 

 ……ありがとう、帆秋さん。ええ、絶対に成功させますとも!

 

 全員の同意が得られて、遂に誘き寄せ作戦が始まった。

 警戒されるからってことで『停止』で隠れている帆秋さんとささらさん以外はスタッフルームへ。彼女も言っていたけれど、暇をしているわけにはいかない。

 

 そう、あの夢では史乃さんが台本を覚えていなかった。なら今のうちに!

 

「な・や・み! 斬って! 煎じよう!」

「そこは進ぜよう! よ!」

「すみません私が間違えました! かくなる上は自害して!」

「や、やめてください!」

 

 ……なんとかなる、なんとかなるわよね?

 

 偶然だけれど夏目さんがいてくれたおかげで予想以上に史乃さんは頑張った。でも、台本も本だからって理由でなんで教えられるのかはわからないけど。

 

 そして一息ついていた時、その連絡が来た。

 

(みんな! 魔女本体が来た!)

「……来ましたわね! さあみなさん! 行きますわよ!」

 

 運の良いことに使い魔じゃなくて魔女。ここで倒せば話は早いわ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご協力、ありがとうございました! 絵葉書が戻ってきて、莉愛ちゃんの疑いも晴れて……大成功です!」

 

 さすがに七人も魔法少女がいたら魔女はひとたまりもない。帆秋さんの『停止』で止まった隙に竜城さんが移動を、麻友さんが攻撃をそれぞれ封じて一斉に攻撃を仕掛けたらあっという間に倒れた。

 けれど、問題はまだある。史乃さんにはまだ頑張ってもらうとして……そう、確かあと二つ……夢で見た『応援の問題』と『停電の問題』の対策をしなければ。

 

 ファッションショーに来ると約束してたのは竜城さんと麻友さん。そうね、確かに応援してくれるとは言ってたけど、練習の時の竜城さんを見ているとなにか勘違いされている気がする。

 事実、聞いてみると応援とは運動部のようなものだと思っていたらしく美凪さんに呆れられていた。

 

 停電は……どうしよう。機械のことはいくら私でも詳しくないし。

 と、思いましたがやはり美の神は私を見てくれていた。史乃さんを見てピンと来たのです。そう、止める方法が思いつかないなら停電すらも演出に見せれば良いと!

 

 さ、さすがだわ……完璧よ……阿見莉愛……! ここまで全てを解決できるなんて……!

 

「おーっほっほっほっほ!」

「いきなり笑ってどうしたの」

 

  

 

 

 そうして訪れたファッションショー当日。

 既に準備は済ませてある私は気分上々、万全の状態! 街中を歩く姿は気品に溢れ、誰もが羨む! でも仕方ないわよね。美しいんですから!

 史乃さんも撮影は無事に済んだらしく、今日のライブを頑張ると教えてくれた。互いの姿を見られないのは残念ですが、共に輝きましょう!

 

 ですが、そこに暗雲が。

 

「あら、この反応は……!?」

 

 わ、忘れてた!? そうよ、ここで魔女が出てくるのよ! まだ問題が残ってたじゃない!

 相手をしてたら間に合わない……けど魔女を見逃すわけには……!

 

「莉愛、偶然ね」

 

 見るとそこにいたのはライブ帰りと思わしき帆秋さんと、何度か会ったことのある水波さんがいた。……帆秋さんっ! やはりあなたは私の親友、共に並び立つ方ですわ!

 

「良いところに! ここの魔女をお願い!」

「は? なによあんた」

「ファッションショー、頑張ってね」

「ちょ、ええ!?」

 

 真顔で手を振る帆秋さんを背後に私は駆ける! その想い、受け取りました!

 遅れることなく無事に辿りついて待機する私の心中に、不安など一切ない。ここまで力を借りて乗り越えてきたのだから、心配なんてするわけないのです!

 

 そろそろ私の出番が回って来る……そして、ここ!

 

「照明が落ちたぞ! すみません、今すぐ……!」

「いえ、ここは私にお任せを」

 

 あの時思いついたことを実行すればいい。史乃さんのライブとこのファッションショーに共通する物を利用すれば!

 

「みなさん! ペンライトの準備はいいかしら! ……3、2、1!」

 

 そして暗闇の中、光に照らされ現れる美少女……! この演出のインパクトよ!

 聞こえるわ、歓声が。竜城さんと麻友さんの声が!

 

 ――決まった。さあ、全ての視線は私のもの。この華麗なる阿見莉愛をとくとご覧なさい!

 

 

 

 

 

 

 

 (語り:隆田 等)

 

 阿見莉愛は今を輝く美少女モデル。

 その美しさはどこまでも高く磨き上げられている。世界三大美女が世界四大美女になる日も近い。いや、もうそう呼ぶべきなのだろう。

 彼女は先日のファッションショーも大トリをつとめ、大成功させていた。

 

 Q:ファッションショー、大盛況でしたね。

 

「ありがとうございます。これも日々応援してくださるみなさんのおかげです」

 

 Q:やはり、次は世界を目指して?

 

「はい。私を呼ぶ声がそこにあるのなら――」

「せんぱーい、帆秋さん帰っちゃいましたよ」

「な、ええっ!?」

「もー……」

 

 いえ、これはきっと……そういうことなのね! あなたは一段高いステージへと登ったと! ふ、ふふ……いいでしょう! それでこそ、共に打倒七海やちよを掲げた親友というもの! スカウトを断っていましたが、次は同じモデルとして――

 

「あのー……無視しないでほしいでございます」

 

 ふと気がつくと誰かに声をかけられていて、胡桃さんが私を小突いていた。

 

「すみません、先輩最近ずっとこんな感じなんです」

「これは失礼。どうなさいましたか?」

「……先ほどの方、帆秋くれはさんでございますか?」

 

 その方は明槻月夜さん。私の同級生で筝曲部の部長でもある正真正銘のお嬢様。

 そして彼女はこう言ったのです。「ぜひ一度帆秋さんとお話したいでございます」と。

 

 

 




■今回の内容
 『主役はいつだって私!』
 『ほわほわ少女頑張る! ~待って、それ誤解です!~』
 『沙優希ステップアップ仕る!ですぅ~』

■梢 麻友
 勘違いさせる系魔法少女。しゃんとしたい。
 素でチャームを持ってないか?

■史乃 沙優希
 刀剣アイドル魔法少女。さゆさゆ。
 主役イベントの最後にゲリラライブを行った。

■莉愛様
 なんやかんやで頼りになる莉愛様。
 好きなカレーのトッピングは店舗限定メニュー。

■レナちゃん
 属性の欲張りセット。
 本編でもかなり序盤からさゆさゆ推し。

■水名女学園
 一説によると芸人を育成してるのではと噂されるお嬢様学校。
 そんな水名の生徒だった人がいるそうですね。

■隆田 等
 莉愛様の魔法少女ストーリーに出てくる謎の脳内インタビュアー。
 じゃあまず、年齢を教えてくれるかな?

■主役はいつだって私!
 イベントが重なりまくった結果、難易度が跳ね上がった。
 それでも突破するなんて凄ェ! さすが莉愛様ァ!



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