マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート南凪チャート   作:みみずくやしき

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パート28 愛は無限に有限だって言うけれど

 

 マミさんと歩くRTA、はーじまーるよー。

 

 前回、マジカルハロウィンシアターのおいしいところ(クリアボーナス)だけもらってさっさと帰ってました。あ~うめぇなぁ!

 

 そしてマミさんから電話があったので、喫茶店(雫ちゃん家)で待機中です。夕方ですけど間違いなく調整屋への案内でしょう。

 今回は帆奈ちゃんも同伴です。いつでも連れて行ける戦力が入っとるやん! 良い仲間だぁ……。

 

 おっとマミさんのエントリーだ! 

 

「実は聞きたいことがあって……」

 

 はい調整屋ですよね! へへへ、すぐにお連れいたしやす。ささこちらへ! お前がマギウスの翼になるんだよ!

 

「あなたを襲ったっていう魔法少女の衣装は黒かった? 少し前に見滝原で事件が起きたのだけど……」

 

 へえぇっ!? いきなりなに言ってんだこいつ!?(驚愕)

 なるほど見滝原で女子中学生が殺害されたと。大きく切り裂かれたような損傷からしてその子が魔法少女で、襲われたのではないかって話ですね。まるで鈴音みてぇだな? でもキュゥべえに聞いたら黒っぽい衣装の魔法少女が近くを通ったらしいですよ。遠かったから判断はできなかったみたいですけど。

 

 それ十中八九『(くれ) キリカ』じゃねぇか! マミさんそいつと戦ってないんすか!

 

「え、ええ。私は遭遇したことないけど……」

 

 今なんつった巴ェ!

 これは……キリカが『魔法少女狩り』をしてませんね。鈴音のことをキュゥべえから聞いて別の方法にしたのかもしれません。またあの白タヌキの影響か(呆れ)。

 

 このキリカの行動は『美国(みくに) 織莉子(おりこ)』の行動パターン次第でいくらでも変わります。彼女と出会わないこともありますが、それならこちらに影響はほぼないので無視して大丈夫です。逆に会っていたら危険です。なので織莉子と会っている前提で行動した方が安定します。

 

 その織莉子こそ、メインストーリーの不安点です。マミさん並みに注意しましょう。

 

 なんせ彼女の固有魔法は『未来予知』です。契約時の予知した内容で基本的な行動パターンを決定し、その後はルートによって細部を変えて翻弄してきます。マギウスルートならクリア直前かと思いきやキリカとタッグを組んでソウルジェムを割りに来たりしますね。ほむほむのループ具合によっては鹿目まどか殺害RTAの走者になるので親近感はありますが……。

 

 まあ大体はまどかスレイヤーなのでそれを想定して動きます。こっちも予知してるようなものですが、変なパターンをピンポイントで想定できるわけないだろ! いい加減にしろ! 

 それとまどかが殺されたらほむほむが時間遡行で離脱するのですぐにわかります。その時はそれ用のチャートに変更です。

 

 しかし時期的にはもう動いてるでしょうね、ええ(恐怖)。

 変動がなければ、彼女の策の一部となる『千歳(ちとせ) ゆま』が杏子ちゃんに出会うのは第4章の終了時です。つまりその辺りから暗躍が始まる危険性が出てきます。

 

「あなたたちも注意してほしいの。……って、本題はこれじゃなかったわね。『ドッペル』の話を聞かせてくれる人の所に連れて行ってくれる?」

 

 あ、いいっすよ(快諾)。というか最初からそれが目的なんだよなこっちはなぁ! キリカのことは考えても仕方ないでしょう。見滝原に行ってまどかを守り続ける不審者になったら他の行動ができませんし。

 今日は雫ちゃんも出かけてますしとっとと行こうぜ! 日が暮れちまうよ!

 

 

 

 オッス調整屋ー!(ももこ並の入店)

 おっ、今日も人いんじゃーん! ちょっと熱いんじゃないこんなとこで~!

 

「くれはと……マミ」

「……佐倉さん、神浜には近づかないようにと言ったけど」

「その言い付けを素直に聞くとでも? あたしがどうするかはあたしの勝手だろ?」

 

 今日も二人の仲は絶好調だな! ヨシ!

 

 じゃねえ! あもしもし? あもしもし? あすいません、あの、調整屋に、赤い魔法少女がちょっと入り込んでるんですけど……。想定外ですよ想定外! あ今すぐ、みたまさんなんとかしてください。お願いします!

 

「でも、用事は同じだと思うわよ?」

 

 多分ドッペルだと思うんですけど(名推理)。みたまさんが二人に話してますが、いつものお話なのでスキップしていきましょう。

 しかしここでの一般的な説明だとドッペルは安全! 安心! 次回もお願いします! って感じですけど、初心者が真に受けてドッペル連打という戦法を試すかもしれませんよね。魔法少女の身をなんとも思わないナチュラル狂気の発想です。まあやってるんですけど(ド畜生)。

 

 というか今の時期にマミさんと杏子ちゃんが同時に神浜にいるということは……。あのフラグが立っている気がしますね。ここは二人を離さずに一緒に行動するようにしましょう。万が一でもどちらかに退場されたらチャートが崩壊します。

 

 あ、終わりました?

 じゃあもう夜だし駅までお送りしますんで、はいヨロシクゥ! 無事に神浜から帰ってくれよな~頼むよ~。

 

 

 

 

 

 

 

「待ってたよ、黄色いのと赤いの。それにそこの二人も」

 

 (何事もなく帰宅するのは)ダメみたいですね。

 あのフラグとは、予知した織莉子が神浜を探るためにキリカを送り込んでくることです。見滝原の魔法少女が数名同時に来るとこんな感じで発生しますね。

 なお、その予知で来る日を知っているのでどんなに足掻こうと絶対にエンカウントします。一歩エンカよりひでえや。

 

「神浜のこと、教えてくれるかな?」

 

 教えます教えます(食い気味)。

 この場面では神浜になにが起きているかを素直に伝えれば、相当ここまでの過程がひねくれてない限りは帰ってくれます。殺意丸出しの相手をわざわざ挑発するとか、バカだぜぇ~!(5敗)

 

「だいたい覚えた。……ああそれと、更紗帆奈? キミに伝えなきゃいけないことがあるんだ」

「……へえー? 敵相手にお喋りなんて随分と余裕だね?」

「戦うよりもこっちのほうが重要だからね。で、内容なんだけど……キミの大切な人、もうすぐ死ぬみたいだよ」

 

 誰のことですかね(すっとぼけ)。まあ信頼度をガン上げしたくれはちゃんでしょうけど、魔女化する予定もソウルジェムを砕かれる予定もないんだよなぁ。牽制でしょうね、ええ。織莉子が帆奈ちゃんを危険視してる証拠です。

 

「……冷静に。あれは挑発よ」

「疑うの?」

「んなの誰にだって言えるだろ? 他人の言葉なんて誰が信じるもんか」

「……疑うんだ? 織莉子がせっかくかけてくれた言葉を?」

 

 カンカンカンカン……(踏切くん迫真の警告)。

 

「ここで殺すなとは言われてるけど、適度にやってとは言われてるんだ。安心しなよ。血溜まりができるぐらいで止めるから!」

 

 (予測と展開が)ちょっとずれてるかな……。

 

 帆奈ちゃんが変身しているのを杏子ちゃんに見られるのはマズいですよ! 

 マミさんならどうせしばらく会えなくなるのでいいですが、杏子ちゃんは『マジカルハロウィンシアター』でやちよさんやみゃーこ先輩に会っているのでそこからバレるおそれがあります。

 

 戦ってられるか撤退じゃ撤退! 行くぞ帆奈ちゃん! 帆奈、動け! 帆奈、なぜ動かん! キリカがもう来てるんだから動け――あっぶえ! 

 

 ぐえー! なんだこの火力! 体力もくれはちゃんも真っ赤っかだぜ! 危うく帆奈ちゃんまで貫通するところでしたね。

 死にはしませんけど死んだと思うレベルの怪我されたら、ソウルジェムが一気に濁ってドッペルが出ちゃうので、庇う必要があったんですね(メガトンドッペル)。こんなとこで使ったら騒ぎになりますし誰か一人ぐらい退場してしまうかもしれません。

 

「あ、あ……!」

 

 人前で血だらけのガタイ晒してマジやべぇよ。すっげー視線を感じるぜ。いいぜ、魔法少女はどうせ魔力で回復できるんだし、ギラギラした目線で見てやがる奴にはとことん庇う姿を見せ付けてサービスしてやるぜ!

 

 嘘です。一撃でこれじゃもう一発受けたら体力が消えます。ドッペル使わせないために庇ったのに自分が使うことになっちゃ意味ないだろォ!?

 まあここのキリカは体力ギリギリで残してくれるように戦うので安心ですね(建前)。いやミスられて死ぬ可能性があるので安心ではない!(本音)

 

「てめぇ……!」

「すごいね、これを防げるんだ! じゃあこれは?」

 

 はえ~マミさんと杏子ちゃん相手に戦えてるとかキリカって強いんすねぇ。

 いえ、これが一番の懸念だったことです。彼女はどういうわけかその強さが大幅に変動します。普通ならマミさん一人で勝ってくれますが、最悪の場合はボス仕様も相まってマミさんと杏子ちゃんタッグでも押し切られます。今のことだな?

 

 このとんでもないステータスをしたキリカにくれはちゃんが勝てるわけがありません。一撃死しなかっただけ良かったですねほんと。

 しかし、もしもここで二人に退場されると今後のチャートが死ぬぅ! のでこうして付いてくる必要があったんですね。

 

 というわけで『魔法少女 呉キリカ』戦です。デデドン!(絶望)

 

 とりあえず体力を回復して、自分と帆奈ちゃんにグリーフシードを使っておきましょう。まずそれからです。

 

 キリカの固有魔法『速度低下』は『停止』くんに似ていますが、燃費も使いやすさもあっちの方が上です。周囲の速度を低下させて相対的に味方全体の速度を向上させることもできる使い勝手の良い固有魔法ですね。

 高速で接近してくるので首を狩られないように気をつけ……気をつけられねえな? マミさんと杏子ちゃんなら即死はしないので盾にしつつ『停止』でサポートだけします。

 

 ところでこのボス戦ですが、織莉子が杏子ちゃんへの牽制としてゆまちゃんを神浜に連れて来ている場合には、織莉子と出会った雫ちゃんが助けに来てくれます。そうでなくともマミさんか杏子ちゃんと会ってくれていれば確率で来てくれます。

 

 なので基本的には耐えましょう。高速で動くキリカから逃げるのはワープでないと困難です。

 『停止』でもこのステータス差だと……止められるのは一瞬だけですね。とどのつまり無理です。諦めてください。

 

 ちなみにキリカが袋を持っていた場合、それを攻撃してはいけません。大体は織莉子のお使いで紅茶を買ってきてるのでこのようにブチギレ状態になって本気で殺しにきてしまいます。みんなは……タイムと命を大切にして生きようね! もうやってしまった子は……頑張ろうね!(無責任)

 

「償え! 償え! 死んで償えッ!!」

 

 げきおこ呉キリカと正面から戦って勝てるわけがありません! こんなん絶対DEATHデスよ!

 おう杏子ちゃん退路を確保してくれや! マミさんは足止め! 逃げるって言ってんだYO! 雫ちゃーん! 雫ちゃんマミさんと会ってるでしょ助けてくださーい! これじゃキリちゃんに鏖(37564)にされてしまいますデース!

 

 逃走! 失敗!

 逃走! 失敗!

 逃走! 失敗!

 逃走! 失敗!

 

 4ミスとかうせやろ?

 

 無理ぃぃぃ! 死ぬ! くれはちゃん死んじゃう! 紅茶! 紅茶ありますから! ブロッサムの稼ぎを使った紅茶で帰ってくださあれ家に置いてきてるつっかえ! 嫌だー! リセットは嫌だー!! 助けてくださいお願いしますああああああああ!!!

 

 こうなったらドッペルしかねえ! 魔法少女の生き様見せてやるぜ!

 この帆秋くれはがただ逃げていただけだと思ったか! (人目が少ない場所に)すり替えておいたのさ!

 

「うおぉ! 急に出てきた!」

「……くれは、あなたっていつもトラブルに巻き込まれてるのね」

「なんて言ってる場合じゃないみたいだけど……!」

 

 アザレア! アザレアじゃないか! 

 行動スケジュール的に夜の魔女退治ですね。ひたすら逃げてたら巡回ルートにぶつかったみたいです。良かったー帆奈ちゃん変身させないで。

 

 であれば作戦変更。七人に勝てるわけないだろ! あっちが速度を上げるならこっちは葉月の『身体スキャン』で相対的にバフをかけましょう。命中率や回避率、クリティカル発生率が上乗せできます。更にこのはの幻惑で翻弄しつつ、危なかったらあやめに任せます。

 生存力が違うぜ! やちよさん並みの持久力だぜ! 相変わらず連携がすごいですね。

 

「七人……殺し切っても償い切れるか……」

「な、なんかヤバいよ……!」

「――でも、そっか! ここで殺しちゃったら失敗だった! 緑のは許さないけどそっちの三人には感謝すべきかもしれないね。十分傷を与えられたし、紅茶を買ってこないと……」

「……はぁ?」

 

 帰ってくれそうなので誰も手を出すなよ! フリじゃないからな!

 ……セーフ! 生きてるぅー! 帰ってくれたーハッハッ生きてる! ハッハッ! あー生きてるよ!

 

 多分これゆまちゃんが神浜に来てないな? なるほどぉ……織莉子が雫ちゃんにゆまちゃんの存在を伝えることがなかったから助けに来なかったんですね。屑運では確率に頼れません。くそー、難易度ハードでチャートが持つのかよ!

 

 このまま見滝原まで追うルートもありますが、神浜を出たらもちろんドッペルは使えません。

 もう穢れが溜まる速度がとんでもないくれはちゃんでは速攻魔女化してゲームオーバーなので行けませんね。やっぱり……地元を……最高やな!(神浜っ子)

 

 帰宅しつつ今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の海は黒い。寝る気になれなかったあたしは月明かりもない暗闇を見つめていた。

 ふかふかしたベッドには慣れたけど、この気持ちは慣れることなんてない。

 

 最近のくれははおかしい。

 

 『暗示』であたしたちのことを忘れてた時よりも誰かを助けようとひた走っている。

 あれだけ買い込んでたメロンパンだって最近は全然減ってないし、家で食べているところを見てない。学校では食べてるし、少しづつは減ってるからまったく食べてないわけじゃないんだろうけど。

 

 全部、あの『ドッペル』なんてものが現れてからだ。

 あれは魔女化じゃなくて解放された証なんだって言うけど、アレが解放だなんてあたしには思えない。だってそれは穢れの象徴だ。魔女じゃなくても、使うたびに魔女に近づいているみたいで気味が悪い。

 

 ……あるいは、それも目的なのかも。

 『口寄せ神社のうわさ』を調べるって言うから付いて行った時、あいつは瀬奈の名前を絵馬に書いてた。

 それで現れた偽者に動揺してたけど、心のどこかで本物が来るかもしれないって思ってたんじゃないの。少しでも瀬奈に近づきたいなんて考えちゃってさ。

 

 もう、戻れないんだよ。

 諦めたほうが楽なのに手を伸ばすの?

 

 なら、どうしてあたしをもっと頼ってくれないの。ドッペルなんて使わなくても、全部倒してあげるのに。あんたが誰かを助けようとするならその手伝いだってする。言ったところで止まらないし、勝手にさせてたらどうなるかなんてわかりきってるからさ。

 

 それとも『暗示』を持ってるあたしが信じられない?

 

「……それはないか」

 

 あいつが瀬奈の遺した魔法に怯えるわけがない。あの頃だってやれてたんだから信じられないわけがないんだ。

 少なくとも、その事実だけが暗闇を照らしてくれている気がした。

 

 

 

 いつものように連れ出された喫茶店であいつが待ってたのは巴マミ。事あるごとにこいつと二人で行動してたりするやつ。神浜の外の魔法少女だからって理由でくれはを頼りすぎ。

 くれはもだ。少しは放っておいてやったってもいいのに、なんで一々手を貸すの。

 

 黒い魔法少女? そんなの知らない。調整屋に行きたいなら自分で探せば? 

 それでいいのに、マミの心配をしたり見つけたら教えるとか。ご丁寧に調整屋に案内までして、今はマミと杏子の仲が悪いと見るやみたまに声をかけてる。挙げ句の果てには駅まで送るってさ。程度ってものがあるでしょ?

 

 で、待ち伏せしてたみたいにそいつは現れたんだ。夜の闇に溶けるような真っ黒な魔法少女が。

 

「待ってたよ、黄色いのと赤いの。それにそこの二人も」

「……黒い魔法少女に鋭利な爪……まさか……」

 

 マミの言ってた魔法少女ってのはこいつかもしれない。そうでなくともこの感じは普通じゃないってことはすぐにわかる。

 魔法少女が相手じゃ変身できないと無力でしかない。神浜のことを知りたがってたみたいだからくれはが丁寧に教えてやってるのを見るしかなかった。けど、その間も警戒だけは解かずにあたしのソウルジェムを奪えるように構える。

 

「だいたい覚えた。……ああそれと、更紗帆奈? キミに伝えなきゃいけないことがあるんだ」

「……へえー? 敵相手にお喋りなんて随分と余裕だね?」

「戦うよりもこっちのほうが重要だからね。で、内容なんだけど……キミの大切な人、もうすぐ死ぬみたいだよ」

 

 その言葉はあたしの構えを解いた。

 

 くれはが、死ぬ?

 そんなのでまかせだ。特定してないんだからなんだって言える。一笑に付せばいい。

 

 でも、その可能性が頭を過る。

 昏倒事件で戦った時も路地裏で倒れてた時もそれを考えなかったわけじゃないんだ。瀬奈がいた時は一緒に消えようって計画してたのに自分で否定してた。

 

 だから、避けられたはずの見え見えの突撃をぼんやりと見てた。

 そりゃあたしを狙うよね。変身してなくて突っ立ってるだけだし、あたしだって同じことをする。

 

 それでどうなるのかもわかってたはず。

 だけど、情けない声を止められなかった。

 

「あ、あ……!」

 

 抱きしめられても苦しいだけだ。

 傷で荒くなった息遣いと抑えられなかった呻き声が責め立てる。死なないって信じられなかったあたしが悪いんだって言ってるみたいに。

 

 赤い液体が流れ落ちる。常人なら死ぬような傷でも魔法少女なら死なない。だって本体は首元に輝くソウルジェムだ。

 それが、なんだ。目の前のくれはは確かに傷ついているじゃないか。あの時はそれがなによりも嬉しくて、あたしが痛みを与えてあげてるって思えてたのに。

 

「てめぇ……!」

「すごいね、これを防げるんだ! じゃあこれは?」

 

 飛びかかったマミと杏子があいつを引き剥がす。

 だからって危機が去ったわけじゃない。肩越しに見える景色ではあの二人ですら手こずってる姿が見えた。さっきよりも速いスピードで槍を避けて、射線上に杏子が来るように誘導してる。これじゃすぐにでもこっちに来る。

 

 ……嫌だ。失いたくない。死んでほしくない。

 

「大丈夫、だから」

 

 魔力を使って傷を治しても、まだその思いは消えない。グリーフシードで浄化してようやくマシになったぐらい。

 

 ああ、くれはの気持ちが、少しは理解ができた。こんなの味わいたくないに決まってる。

 だから走り回るんだ。あたしよりその辺が鋭敏で、ずっと優しいから。

 

 今だってあの中に飛び込みたいはずなんだ。くれはの速度なら遅くされたところで影響は少ないんだから脅威になる。

 でも、あたしの前に立って『停止』でサポートに徹してる。

 

 変身させて手伝わせればいいのに、誰かといる時には律儀に約束を守ってるんだ。『更紗帆奈が他人に危害を加えないようにする』って約束を。ゆきかってのがいたのに気づいた時はすぐに変身を解除させたし、『暗示』だって二人の時だけしか使わせてくれない。

 

 ……もう少し、あたしのことも信じて頼ってよ。他の連中も納得してくれるはずなんだよ。約束の“他人”にはあんたも入ってるんだから、もうそんなの関係ないんだ。

 

「償え! 償え! 死んで償えッ!!」

 

 なにが起きたのか、あいつの攻撃が激しくなる。さっきまでの理性のある戦い方じゃない。それでも全てを弾くか受けるかしてる辺り、余力を残してたみたいだった。

 

 勝てはするだろうけどこれじゃ誰か死ぬ。黒い魔法少女を殺してしまっても同じだ。敵味方なんて関係ない。誰かが死ねば、くれははきっと立ち直れなくなる。

 それを本人は気づいていたのかは知らないけど、あいつはあたしを抱えて言ったんだ。あたしが言えなかった「逃げる」って言葉を。

 

「杏子、マミ! 協力して!」

「それが最善ね……。私が牽制するから!」

「賛成だ……! 付いて来い!」

 

 調整屋じゃ仲が悪そうだったのにあの二人の連携は随分と手慣れていた。逃げるとなったらすぐにあたしたちを援護する動きをし始めて、助けてくれている。

 

 このまま逃げ切れればいいけど、あいつの速度は尋常じゃない。ただ逃げるだけじゃ意味がない。

 くれはが選んでる道はどんどん人がいない方向に向かってる。どうせ巻き込みたくないって思ってるんだろうけど、今はそれが正解だった。

 

 飛び込んだ路地裏にいたのは、このはたちだ。変身してるし真面目だからパトロールでもしてたんだと思う。こいつらも相当だよ。いきなり敵を引き連れてきたってのにすぐに協力するなんて、どれだけくれはを信用してるんだか。

 

 あやめが盾になってこのはが霧で幻影を作る。それだけでも十分楽になったのにまだ葉月の援護が加えられる。

 激怒してても数の不利を察したか、それとも時間が経って落ち着いたのか。あの黒い魔法少女は急に、紅茶を買わないとなんて言い出した。

 

 正気には見えないけどそのまま帰ってくなら文句はない。全員が落ち着けたのは、姿が見えなくなってしばらくしてからだった。

 

「……またスズネみたいなのが出てきたってこと? ねえ、くれはさん――っ、ソウルジェムが!」

 

 葉月が言ったそれにゾッとした。

 また使おうとしていたんだ。あの、穢れを。

 

 

 

 その後、このはたちは家まで見送りに来た。

 明日も様子を見に来るって言うから、来るなって言い返したらくれはに止められた。やっぱり、なにかおかしい。

 

 もう手慣れたキッチンでメロンを切り分けて、気が抜けたみたいにソファに座ってるあいつに皿ごと渡す。

 

「ほらメロン。これ食べて元気出しなって。食べさせてあげよっか?」

「ん……」

「はいあーん。おいしい? せっかくあたしがやってあげてるんだよ~?」

「……おいしいわよ」

 

 食べさせられてる姿も返事をする姿も変だ。もう長いこと一緒に暮らしてるんだからわからないわけないのに、なんで平気な顔をしてるの。

 

 ……似た姿を見たことがある。

 これはあの時の瀬奈と同じだ。真面目だから全力で魔女退治をし続けて、遂には魔女化してしまったあの景色。本人は大丈夫だって言って耳を貸さずに、終いには不幸を生み出すそれだ。

 

 二度目は、ダメだ。

 あの悲しみと苦しみを今のあたしが受けたら狂うことさえできない。

 顔を変えずにメロンを食べるその隣に座って、それを言うのに時間はいらなかった。

 

「……もう、アレ使うのやめて」

「ドッペルならまだ使うわ」

 

 心底わかってない。なにも気づいてくれない。

 

「あんただってわかってるでしょ!? アレは瀬奈を奪ったのと同じなんだって! なんでそんなに――」

 

 ハッとして、言おうとした言葉を飲み込んだ。今思い浮かんだのは観鳥令のことだ。なんでって思ったありのままを伝えようとしてギリギリで踏みとどまった。

 だって、それを言ったらあいつを認めることになる。あたしらの仲に割って入れるって証明してしまう。

 

 ぐしゃぐしゃとしたそれを心の奥底に放り込んで、もう一つの本音を口にする。

 

「あたしが変身してることとかバラしたら終わりだよ? だからさ、やめようよ。あたしがいればそんなの使わなくても……」

「いいでしょ別に」

 

 最後のメロンを味わいもせずに飲み込んで、立ち上がったかと思えば投げ捨ててた上着を拾って着込んだ。

 あれはそろそろ寒くなるからって二人で買いに行った時の物だ。今はそれが死に誘う手に見えて。

 

「くれは……!」

 

 また外に行こうとするあいつの考えてることは、もうわからない。

 

 言っても止まらない。誰かがいても止められない。

 あたしを無視する。

 

 だったら。

 

「……どいて」

 

 冷たい床に押し倒して馬乗りになる。

 そして、首に手をかけた。

 

「止めてよ! あの時みたいにあたしを止めてよ……!」

 

 どれだけの力を込めてるかなんてわからない。魔法少女の力をセーブしてるのか本気でやってるのかなんてどうでもいい。

 

 これでも死なないんだ。いくら苦しくても、死ねないんだ。

 痛くて、苦しくて、悲しくて、でもどうしようもない恐怖を味わえばいいんだ。

 

 だってのに。

 

「なんとか、言ってよ……抵抗してよ……」

 

 受け入れないで。こんなあたしまで。

 

 気づいたら、手を離してどいていた。

 咳き込む声が現実だって突きつけてくる。なにをしたのかを教えてくる。

 

「……今日は家にいるから。もう寝なさい」

 

 変なのに、なんで変わらないの。

 あたしはもう前と同じ気持ちでいられないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、目覚めて初めて見たのは天井でも朝日でもなかった。

 仰向けじゃなくて横向きだったんだから壁か窓が見えるはずなのに、見慣れた顔が見える。

 

「なんでここで寝てんの」

 

 でもそんなのはどうでもいい。

 やっぱりあれは悪夢だったんじゃないかと思えるほど、その寝顔は安らかだったんだから、起こさないようにそっとベッドから出た。

 

 けど、首に残っていた跡がまたあたしを責め立てる。

 

 着替える気も起きなくて、一階のソファに同じように座ってた。まだ朝早いなんて思ってたのに時計の針はくるくると止まることを知らずに回って、いつも通りのくれはが降りてきた。

 跡は、ない。

 

「このはたちが来るから着替えておいて。朝ごはんはそれからでお願い」

「……なにも言わないの?」

「来るにしてもリビングだけでしょ。あなたの部屋には入らせないから嫌ならそこにいて」

 

 そうじゃなくて、なんてのも言えずに、言われるがままに着替えて適当に一人でメロンパンを食べた。見るのも嫌だったけどそういう気分だったから。

 

 その間はいつものように話なんてしなかったけど、それがかえって落ち着かない。

 あいつらが来るのを今か今かと待ち続けてて、近くに来たと連絡が来ればあたしがいの一番に出迎えに行った。

 

 ただ、いたのは三人じゃなくて四人。

 まあこのはに見つかった以上、どこかしら経由して連絡がいくだろうとはあいつも思ってたはず。

 

「……このみ」

「このはさんから聞いたの。また無理したって」

 

 春名このみ。

 あのドッペルの件のあと、くれはから一歩引いたはずのやつだ。お見舞いのつもりなのか花を持ってきて、さも当然のことのように渡してくる。

 

 お前になにがわかるって言うんだ。あたしがわからないものを、お前が。

 そんな醜い思いを抱えたまま、見たことのない人数がリビングにいる様を見ていた。

 

「すっげー! めっちゃ広い!」

「外観からわかってたけど、確かにこれは……。あ、それと……メロンアイスを作ってきたわ」

 

 最初から葉月が持ってた妙に大きな箱はクーラーボックスだったみたいで、苦笑いして取り出した。

 確かにそれはアイスなんだろうけど、あまりにも毒々しい緑色。くれは並みに下手だって知ってるからろくなもんじゃないって思ったんだけど、あいつは断らなかった。

 

「どう? 今回は?」

「……おいしいわ」

 

 やっぱり表情を変えずにそう言った。調子が悪くなる様子もない。

 でもやっぱり辛かったのか、飲み物を入れてくると言ってキッチンへ向かっていった。あの様子じゃもう誰もアイスに手を出したがらないのは当然だね。

 

「メロンジュースかな? メロンソーダかな?」

「帆奈、やっぱりこの家ってその二択なの?」

「蛇口ひねれば水出るでしょ、なんであんたらに……」

 

 ……いや、そういえば前に買ってしまっておいたものがあったはず。

 そんなことを考えてたらくれはが帰ってきた。全員にメロンソーダを配って、自分は既に飲み始めている。その姿を見ていると、懐かしく思えて嬉しかった。

 

「昨日のことだけど、もうななかさんには連絡したわ。やちよさんにも伝えられるはず」

「そう、ひなのさんには私から言っておくから。それとマギウスの翼なんだけど……」

 

 様子を見に来るなんて言ってたけど、対策の話し合いを始めるなんて本当に真面目なんだろう。

 けれど、それに付き合いつつ相変わらずメロンソーダを飲み続けている姿は、あたしの知ってるくれはなんだからそれで良い。

 

 そう思ってた。

 

「にがーっ!? メロンじゃない!」

「え、これ、ハーブジュース……」

「……そうね。通りでマズいと思ったわ」

「くれは、あなたやっぱり……」

 

 緑のそれはメロンソーダじゃなかった。あたしがいたずらで冷蔵庫に入れておいたメロンソーダそっくりの飲み物。ウォールナッツで飲んだ時には心底嫌な顔をしていたから、変な真似したら飲ませる気でいてずっと忘れてたもの。

 あいつは、それをなんの感情も持たない目で飲んでたんだ。

 

「味覚、失ったんでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織莉子っ! ごめんね織莉子! 頼まれてた紅茶が……!」

「いいのよ、そんなこと」

「代わりになるような紅茶がなくて、これしか……」

 

 キリカが最初に言ったのは本当に、そんなことだった。

 わたしにとってはこうして帰ってきてくれただけで十分。神浜の情報だって聞きだしてきてくれた。

 

「この紅茶もきっといい味がするはずよ。あなたが買ってきてくれたのだから」

「織莉子……」

 

 今この瞬間の二人の世界は、永遠に続くものではない。

 

 魔法少女になった時に見た光景は、地獄の様だった。

 

 燃え盛る街。抉り取られたような大地。明日さえ見えない曇天。

 こんな結末を引き起こしてはならない。それがわたしのいる意味。

 

 予知した未来の終末を避けるため――

 

 

 

 

 帆秋くれはには、死んでもらわなければ。

 

 

 




■今回の内容
 美国織莉子 魔法少女ストーリー 3話 『わたしはとても困るのよ』
 呉キリカ  魔法少女ストーリー 2話 『狂ってやがる』

■美国 織莉子
 おりこ☆マギカのラスボス系主人公。鹿目まどかスレイヤー。
 他のコラボキャラは限定の中、何故か恒常のおりマギ組。

■呉 キリカ
 魔法少女を襲うタイプの魔法少女。眼帯。
 『停止』くんも『速度低下』くんを見習わないといかんのちゃうか?

■千歳 ゆま
 小学校低学年ぐらいの魔法少女。まだ未神浜。
 ネコミミで緑色で小学生……みゃーこ先輩……?

■ドッペルの悪影響
 連打しすぎ。
 想定外の挙動。

■ダメなルート
 マミさんも良い仕事するぜっと思ったけど、これからがくれはちゃんの正念場。魔女退治と調整屋で鍛えまくった超特化ステータスが悲鳴を上げることに。未だ撤退する様子のないブチギレの魔法少女が一人、戦える魔法少女はくれはちゃんだけ。こうなったら、くれはちゃんの命を魔法少女を満足させるまで提供しなければ許されない。




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