マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート南凪チャート   作:みみずくやしき

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パート30 ひとりぼっちの最果て 後編

 まなかが契約をしたのは、ひとえにウォールナッツのためでした。

 今は毎日様々な方に来ていただいて嬉しい日々が続いていますが、実のところ、以前は閑古鳥が鳴いていたのです。

 

 まなかには、どうしてもそれが納得いかなかった。お父さんの背中が幼い頃に見ていたよりも小さく弱気なものに見えてしまった。……願いで繁盛させることもできるというあのタヌきちの言うことをそのまま実行したわけではないですが、頼ったという意味では同じです。

 

 食べてさえもらえれば、広めるチャンスさえあれば、きっとまた活気のあるお店になる。

 だからまなかは願いました。『お店の味を広めるチャンスをください』と。

 

 そして、すぐにその機会は巡ってきました。

 なんと水名女学園と聖リリアンナ学園の生徒会交流会で出す料理を任せられたのです。聖リリアンナは各界の著名人のご令嬢方が集う由緒正しき学校。上流階級の方に名前と味を広めるチャンスでした。

 もちろん結果は大成功です。その方々をも満足させた料理の噂は瞬く間に広がって、水名でも特製弁当を売るようになったり、まなかやお父さんに出張シェフの依頼が来るようになりました。

 

 ですが、それでお店に人が来てくれるわけではなかったのです。今思えば味を広めていただけでしたから当然です。お店を賑わせるために初めた広報活動だったのに、店内はむしろ以前より静まり返ってしまいました。

 けれども仕事が入るようになって売り上げは右肩上がり。毎日笑顔で出かけるお父さんの嬉しそうな姿を見ていたらなにも言えなかったのです。

 

 もう、お弁当も出張シェフもやめようと思いました。

 名前を広めることがかえって存在を霞ませた。賑わせることに繋がらないなら料理をする意味なんてないと考えてしまったのです。

 

 それを引き止めたのが、名前も知らない誰か――『二葉(ふたば) さな』さんでした。

 お弁当は売り切れているというのに走ってきた彼女に、もう販売をやめることを伝えると泣き出してしまって……。

 

 結局、そのままにするわけにもいかずに自分用のお弁当を渡して話を聞きました。彼女は友達がいなくて、ひとりぼっちのお昼休みが大嫌いで、まなかのお弁当を食べた時だけ笑顔になれていたそうで。

 話しにくい内容にもかかわらず教えてくれた彼女は、お弁当をとてもおいしいと食べてくれて……話通りの素敵な笑顔を見せてくれたのです。

 

 その時、わかりました。

 まなかの料理をする意味と喜びは、食べた人の笑顔のためにあると。

 

 お店という形にこだわらなくてもそれはできる。だからそれからもお弁当と出張シェフは続けました。すると不思議なことに段々とお店の方にも人が来てくれるようになって、最初の思いもその後の思いも両方満たすことができたのです。

 

 それだけに、時折姿を見せていた彼女を見なくなった時は阿見先輩に悟られるほどに落ち込むことになりました。

 まなかも忙しくてお昼に売る時ぐらいにしか会えてませんでしたから、きっと友達ができて今はそっちを重視してるのだとポジティブに考えることにしましたが、それは果たして正しかったのでしょうか。

 

「あの子、学校に来てないんだって」

「行方不明だって聞いたよ?」

「『電波少女』の噂ってさ……」

 

 ふと小耳に挟んだそれに、いてもたってもいられなくなって行った電波塔では確かに聞こえました。噂の内容とは違って、楽しそうな二葉さんの声が。

 魔法少女なんてものをしているわけですから、そういう魔女の仕業かもしれないとも思いました。ですが、まなかにはどうにも本人のように感じられたのです。だってそれは、あの時見せてくれた笑顔と同じ類のものでしたから。

 

 噂を調べたい。けれどお店を疎かにするわけにもいかない。

 先輩に事情を話して調査を頼もうか考えていた時、あの人がやってきたのです。いつも誰かを連れてきては宣伝をしてくれるのに料理教室を引っ掻き回してくれる、帆秋さんが。

 

 ウォールナッツに揃った四人は、奇しくも最初に出会った時と同じでした。

 まなか、阿見先輩、帆秋さん、春名さん。あの頃と違うのは楽しく話す雰囲気ではないというぐらいでしょう。

 

 まずまなかが言ったのは、先輩が聞いたという噂話の少女こそ、その二葉さんかもしれないということ。そのまま彼女との関係性を説明すると、帆秋さんは『ウワサ』という都市伝説が実体化したような魔女に近い存在のことを教えてくれました。その『電波少女』もウワサかもしれないとまで。

 

「……もし、本当に二葉さんが閉じ込められているのならまなかは助けに行きたいです」

「胡桃さんが行くなら当然同行するわよ。もっとも、帆秋さんのためならこの阿見莉愛、力をお貸ししますけれど!」

「元々調べるつもりだったのよ。付いてきてくれるなら断る理由もない」

 

 あの帆秋さんならそう言うとは薄々わかっていました。彼女という強力な助けがあれば絶対に大丈夫だと打算があったのかもしれません。

 だからこそ、春名さんの言葉に胸を締め付けられることになりました。彼女は帆秋さんに今にも泣きそうな顔で言ったんです。

 

「やめてよ……もう無茶しないで……。また倒れたり、魔法少女に襲われたりしたら……」

「大丈夫。一人で戦うわけじゃないから」

「そうじゃないよ……」

 

 そこにまなかと先輩が口を挟む隙間はない。帆秋さんが倒れて調整屋に運ばれたことは相談所でも話題になったことですし、聞いていました。ですが彼女なら大丈夫ではないかと思っていたのです。

 ここに来て、まなかは後悔していました。このことを口に出した以上、この人は絶対に助けようとするのではないかと思えてしまったのです。春名さんを悲しませることは本意でないというのに。

 

「止めても、行くんだよね」

「ええ」

「だったら、変なことしないで無事でいて」

「もちろん」

 

 珍しく自分たち以外いないウォールナッツはとても静かで、春名さんの言葉は小さいのに強く聞こえて。

 

「……ごめんなさい。私はもう、くれはさんの戦う姿を見られない。……一緒にはいけないよ」

「なら、私が絶対に守るわ。彼女は私に並び立つ存在。その肌を傷つけさせるわけにはいきません」

 

 今だけは、先輩のその物言いが頼もしく思えた。

 

 春名さんの思いのためにも、なにがあろうと絶対に帆秋さんは無事に帰します。二葉さんだって連れ帰ります。

 今度はまなかが教えましょう。あなたはひとりぼっちになんてならない、と。

 

 

 

 

 

 

 帆秋さんに連れられて来たのは、中央区の電波塔の屋上。

 周囲のビルの夜景は綺麗ですが、この高さで吹く夜の風はとても冷たく、下に見える人は点々で、到底普通の人が来る場所ではありません。

 

 でも帆秋さんには確信があったのでしょう。来る前に電話をしていた通り、ここには先客がいました。

 

「な、七海やちよっ!?」

「……またあなた?」

 

 先輩が勝手にライバル視している七海やちよさんを始めとして、環いろはさん、由比鶴乃さん、深月フェリシアさんといった見知った四人。そして見知らぬ三人。それぞれ鹿目まどかさん、暁美ほむらさん、美樹さやかさんというそうです。彼女たちは全員が魔法少女らしく、まなかたちを含めれば実に十人もの魔法少女が揃っていました。

 

 一旦話し合って情報を整理してみると、彼女たちはまなかたちよりも多くの情報を持っていました。こちらが知っていたのは『電波少女』は単なる噂で、『名無しさんのうわさ』がウワサという存在だということぐらいだというのに、彼女たちはなんと、そのウワサから自分を消してと言われたらしいのです。

 

 ウワサがいて、二葉さんが閉じ込められているのが『ひとりぼっちの最果て』という場所。行き方は――この高所から飛び降りること。

 

「そうすればそのひとりぼっちの最果てに行けるのね?」

「ええ……だけど帆秋さん、あなたはダメよ。……あの事は言わないでおくから、従って」

「……? やちよさん、待ってください……アイさんからメッセージが……」

「マギウスの翼が来てるって! 急ごう!」

 

 ウワサとマギウスの翼という組織が関係していることも聞いています。魔法少女の解放とやらを目指しているようですが、そんなことは今のまなかにはどうでもいいことです。

 重要なのは、気づかれないように少人数が飛び降りるという話。もちろん立候補して、同じく手を挙げた環さんと鹿目まどかさんという方と淵に並びました。

 

 あと一歩踏み出せば、真っ逆さまに落ちる。いくら魔法少女でもこの高さから落ちたら命の保証はできない。

 正直、怖いです。高所恐怖症でなくとも身が震える高さではありました。しかし、うだうだ言ってられないのです。躊躇いはありません。覚悟をして来ているんです。

 

 二人とタイミングを合わせて、足を地面から離すとふわりと落ちる感覚が続いて――

 

 重力に引っ張られなくなったと気付くと、緑色と数字に囲まれた不思議な場所に辿り着いていました。魔女の結界に似てはいるけれど魔力が違う。まなかだけではなく二人もいたので成功したみたいです。

 

 どうやらこれがウワサ結界というものらしく、慣れているらしい環さんの先導に従って進む。

 そして、その先にいたのは間違いなく彼女だったのです。同じ水名の制服を着ていて、聞こえていた笑い声の通りに無事な姿で。

 

「えっ……胡桃さん!?」

「その通り、胡桃まなかですよ。二葉さん」

「なんでここに……あ、私が見えるってことは、もしかして――」

 

 ……まさか、彼女も魔法少女になっているとは思っていませんでした。それでマギウスの翼とやらに入っていると勘違いされて悲しい顔をされましたが、そうではないと否定して、言ったのです。まなかたちは迎えに来たのだと。

 

 閉じ込められているのなら喜ぶはずですが、返ってきた難しい顔は、隣にいるウワサの存在がそうさせたのでしょう。

 まなかが思った友達が出来たのかもしれないというポジティブな想像はあながち間違いではありませんでした。そう、彼女はこの『ひとりぼっちの最果て』でウワサと仲良くなっていたのです。

 

 自分がいるとマギウスの翼に利用されてしまう。だから自分を消してほしい。そしてここを離れて人と仲良くなるべきだという『アイちゃん』というウワサの言葉に彼女は迷っている。

 

「さなちゃん、私ね……」

 

 誰よりも早く二葉さんに近づいて環さんが言ったのは、彼女が抱えていたような孤独感と疎外感を自分も感じていたということ。でも魔法少女の友達ができてからうまくやっていけるようになったという話でした。

 

 その二人の苦悩を、まなかは知りません。料理一筋でそれ以外のことに目を向ける余裕がありませんでしたから。けれど同じく魔法少女の知り合いができてから多くの事を知りました。それはきっとあなたの不安を消してくれるはずなのです。

 

「私たちはね、手を取り合って戦うこともできると思うの。魔法少女として、友達として……今度は私たちがさなちゃんを必要とするから」

 

 だから、環さんの言葉にまなかも鹿目さんも同意する。

 

「それにまなかのお弁当を食べていたときは笑顔だったじゃないですか」

「だって……忙しそうなのに、私なんかきっと迷惑になってると思って……」

「……そんなことはないですよ。お弁当はまだ売り続けてます。だからまた見せてください。まなかの料理を食べたあなたの、最高に幸せそうな笑顔を」

 

 そうしてまた、何度でも、まなかに教えてください。まなかが料理をする意味を。料理をする、喜びを。

 

「……はいっ」

 

 二葉さんはまなかたちの手を取ってくれた。それはアイさんの望み通りにウワサを消すということで、簡単に決められたものじゃなかったはずです。

 だから、変身して盾を構える手は震えていました。

 

 アイさんは最期に教えてくれました。鹿目さんが探している巴さんはここにはいないけれど、マギウスの翼が知っているということ。環さんが探している妹さんはウワサなら知っているということを。

 色々なことを教えてくれた彼女は、二葉さんの攻撃をその身に受けて――

 

 気がつけば、消した後はそこに転送するという話通りに神浜セントラルタワーのヘリポートにいました。他のみなさんも集まっているところを見ると、作戦成功と言ったところです。

 

 アイさんの望み通りに消すことができて、二葉さんを迎え入れることができた。まだ探さなければならない人たちが環さんと鹿目さんたちにはいますが、その手がかりが少しでも手に入って今日のところは一段落。

 

 そう、思った時でした。

 

「ヴァァァアアァァッッッッ!! またか帆秋くれはァッ!!」

 

 叫び声と共に緑の光線と白い光弾が帆秋さんを狙って降り注ぐ。あまりにも急だったそれを彼女は知っていたかのような速度で回避した。

 

 攻撃の出処を見ると、そこにいたのは殆どが黒いローブを着た黒羽根と呼ばれる魔法少女たちでした。そうでないのは焦った様子を見せる揃いの衣装の笛の魔法少女と、遠目でも怒り狂っているのがわかる黒を基調とした衣装と帽子の魔法少女。

 このタイミングと様子……彼女たちが、マギウスの翼なのでしょう。

 

「ホームページでウワサを調べてる魔法少女を釣る。あの双子のことだから期待はしてなかったしウワサに反逆されるなんてクレイジーだケド……アナタが関わってることがアリナ的にベリーバッド! 前からさあ、アリナの育ててた魔女を片っ端からデリートしてくれちゃってさあ! いい加減に死んで欲しいワケ! もう弁償とかそういうラインじゃないんだヨネ……!」

「ア、アリナさん落ち着いて……」

「は?」

 

 言いたいことを押し付けるように言うアリナと呼ばれた魔法少女は確かに注意すべき相手ですが、まなかと先輩が驚いたのはあの言動に振り回されている二人の片方でした。

 

「……明槻さん?」

「ひ、人違いでございます! 天音月夜でございます!」

「その口調はやはり明槻月夜さんでは?」

 

 水名の箏曲部の部長さんが魔法少女だった事実と敵対している現状。いきなり現れた彼女たちのことを理解する前に、強力な魔女の反応が近くに現れたのです。

 その方向を見たアリナは急に表情を変えて、地を蹴って猛スピードでそこに向かっていました。

 

 理由はわかりませんが、どちらにせよあそこまで成長した魔女を放っておくことはできません。ですから全員がそこまで行こうとすると、黒羽根と月夜さんたちが魔女を守るように立ち塞がったのです。

 魔女を守る魔法少女。その存在は信じられませんでしたが、邪魔をしてくるのなら押し退けて進むまで!

 

「あれはオレが倒す! 邪魔すんな!」

「フェリシア、突出しないで!」

「……私がカバーする。やちよはここの指揮を」

 

 黒羽根の攻撃を無視して突撃しようとするフェリシアさんの後に続いたのは帆秋さん。

 ……ダメです。あれは誰かが止めるか援護すべき行為なのはわかっていますが、あなたがやることではありません。春名さんに言われたじゃないですか。

 

 しかし、そうは言ってもまなかにも余裕はありませんでした。

 威勢の良いことを言いましたが対人戦なんて滅多にやるものではないですし、相手は最初からそれを想定しているかのような動きで攻めてくるものですから、鎖や剣をフライパンで打ち返すのが限界。とても手を貸せる状態じゃありません。

 

 そんなまなかにいつもの調子で言ったのは、あの人でした。

 

「ここは私が。胡桃さんは二葉さんの近くにいてあげなさいな」

「――っ、帰ったらオムライス作りますから!」

「メガ盛りでね」

 

 先輩はあんなですけど強い。黒羽根や明槻さんの攻撃をすり抜け、時には固有魔法の『隠蔽』で姿を消して着実に前に進んで行きました。

 こうなればこちらは目の前の敵の相手をするだけ。やちよさんや由比さんを中心に、まなかと二葉さんがガードを。環さんと鹿目さんが鎖を撃ち落として、暁美さんと美樹さんは援護。指揮通りにそれぞれの役割をこなすだけです。

 

 まなかたちは魔女を倒せればそれでいいのですが、彼女たちはここを全員に突破されるわけにはいかない。だから行動を変えるのか、明槻さんが指示をすると全員が一斉に離れました。

 

「……ドッペルは解放の証。それを存分に理解してほしいのでございます」

「そうそう、前は見せられなかったけど今回は使うよ」

「ねー」

「ねー」

 

 二人のソウルジェムは黒々と濁っていたのに、嬉々としている。

 そしてもう元の色がわからないぐらいに染まりきった時。魔女に似た半円の球体が二つ、彼女たちを包んで浮かんでいたのです。

 

「行くでございます!」

「全力でやるから!」

『笛花共鳴!』

 

 来る、と構えてもなにもない。笛から流れるはずの音はまなかたちには聞こえない。けれど、やちよさんと由比さんは頭を押さえて苦しんでいました。

 

 二葉さんが言うには、あれは頭の中に直接音を響かせて動きを止める技のようです。ウワサの結界で練習しているのを見たことがあるらしく、笛を手から離せば中断するのが弱点のようですが……球体で突撃してくるため狙いが定められない。当てたとしてもアレは攻撃すら弾いてしまうみたいで防戦一方。

 

「それに、これは……!」

 

 突撃の威力は尋常ではありません。二葉さんの盾でも受け止められない以上は避けるしかありませんが、動けない二人を庇いつつ避けるのは至難の技です。

 

 その広範囲攻撃のために黒羽根も近づけないようですがこのままではこちらが危険。時折暁美さんがワープするかのように移動して助けてはくれますが、その度に明槻さんのほうの球体もワープして動きが読めません。美樹さんや二葉さんが庇ってくれるのにも限界があります。

 

 そして少しづつですかダメージが蓄積して、ソウルジェムも濁り始めてきた時。またあの声が聞こえたのです。

 

「……帆秋くれはァッ!」

 

 なにかに吹き飛ばされたのか、先輩が向かっていった方向からアリナが飛んできました。背中から白いチューブのようなものが生えているところを見ると、あの二人と同じドッペルとやらを使っている状態なのでしょう。

 アリナに追いつくようにフェリシアさん、帆秋さん、先輩も姿を見せて、ドッペルを使う三人が挟まれる形になる。向こうには黒羽根もいますが、この場に割り込んでくる様子はない。

 

「アリナさん……」

「叩いて砕いてすり潰す……アナタたち纏めて、真っ赤な絵の具にしてやる!」

 

 チューブから極彩色の絵の具が撒き散らされる。それが一つの巨大な容姿を作り上げ……アリナの姿が見えなくなると、完全な魔女のように夜空に立った。

 試すかのように誰もいない場所に振り下ろされた一撃は、このセントラルタワーそのものを破壊するような振動を巻き起こし、次は味方のはずの黒羽根ごと叩き潰そうともう一本の腕を作ってはそれを振り上げて――

 

「止まれ……!」

 

 下ろされる前。『停止』ではなく、帆秋さんの背中から伸びる釣鐘が止めていた。

 じりじりと押されているようではあるけれど、ツタが持つ釣鐘はまだもう一つあってそれを振り回している。あれで殴れば倒せるかもしれない。でも、まなかが考え付くことは相手も同じ。

 

「双子ッ! 行け!」

「で、でも……」

「元はと言えばアナタたちの行動の結果なワケ!」

 

 よほどその言葉が効いたのか、きっかけとなって球体はまなかたちを無視して帆秋さんに向かっていく。笛に意識を割く余裕がなくなったようで笛花共鳴とやらは解除されたみたいですが、あの三体を止める手段は誰も持っていない。

 

 唯一あるとすればあのツタで釣鐘を支えている得体の知れないもの――そう、思っていました。

 ですが、帆秋さんが声をかけたのはまなかだったのです。

 

「まなか! 私の攻撃に合わせて『伝播』を!」

 

 それはまなかの固有魔法。お店の味を広めるチャンスを願ったから得た力。

 理由もどう使えば良いかもわかりませんでしたが、あの人がまなかに呼びかけたのならそれに間違いはないはず。今までだってそうでした。 

 ……それに、お客様のオーダーにお答えするのもシェフの務めですから!

 

 振り回される釣鐘が、球体に激突したタイミングで衝撃を『伝播』させる。自分たちに影響がないように調整して、でも全力で! これよりも難しいことを調理で何度だってやってるんです。この程度、朝飯前!

 

「ぐ、ぅうう!」

「がっ! ……っ……最初にやるべきはあのコックだったヨネ」

 

 思った通り。

 ダメージが伝播して極彩色の魔女を崩壊させて、球体を消滅させました。直接受けたわけでもないのにこの威力なのだから直撃した明槻さんが心配でしたが、なんとか立っているようでした。

 

 ……次に狙われるのはまなかでしょう。こちらを見るアリナの目は恐ろしく、まだ諦めていない。黒羽根も総動員してくるはずです。

 ですが、まなかは一人ではありません。あのドッペルが消えた今ならば。

 

「行かせません……! 胡桃さんは下がっててください……!」

「あなたは私たちが守るから。環さん、遠距離は任せたわよ。……そっち、まだ戦える?」

「この私を誰だと思って? 七海やちよ、よく見ておきなさい!」

「まどか、まだ大丈夫?」

「うん! ほむらちゃんは?」

「なんとか……平気……」

 

 帆秋さんの釣鐘は消えていましたが、あっちは先輩がいますし守ってくれるはずです。こちらだって心強い仲間がいます。

 

 互いに睨み合う中、最初に動いたのはどちらでもありませんでした。下の階に繋がる扉から姿を見せた魔法少女がアリナに声をかけたのです。

 

「アリナ、ここまでにしてください。これ以上はワタシも全力で止めないといけなくなります」

「……みふゆ」

「もう全員限界です。このままでは解放どころではありません」

「そんなのどうでも――」

「ワタシの体が傷付きますよ?」

「……ノーグッド。帆秋くれは、次はないカラ」

 

 彼女の言う言葉にどれだけの意味があったのか。さっきまでの姿が嘘のように大人しくなって、去っていく黒羽根に混じって夜の闇に消えていった。

 そのみふゆさんとやちよさんもなにか話していましたが……一番の心配事はあの人です。

 

「……大丈夫。心配かけたわね、まなか」

「ほんっとにこの人は……! 春名さんがどんな思いだかわかってるんですか!」

 

 フェリシアさんを助けに向かったこととかまだまだ言いたいことはたくさんありますが、彼女のおかげでアリナを止められたのも事実。フラついているこの人に言いたいことはまた後日と胸に秘めて、まなかたちはその日を終えたのです。

 

 

 それからというもの、学校では他人に見えない友達と話すことが増えました。

 

 帆秋さんではないですし変な話ではありません。二葉さん――さなさんは魔法少女になった時に『透明人間になりたい』と願ったようで、同じ魔法少女以外にはその姿が見えない。だからこうして隣を歩いて話していると、一人だけのように見えてしまうのです。

 でも、魔法少女は他にもいますから。

 

「あみめさーん!」

「だーかーらー! 阿見莉愛よ!」

「……あっ! あなたが二葉さなさんですね。仲良くしてくれると……嬉しいなぁ……」

 

 史乃先輩と阿見先輩は相変わらずですし、梢先輩の勘違いさせるような言動も慣れたものです。みなさんとても特徴的でさなさんは驚きっぱなしですが。

 

「こ、こんなにいたんだ……」

「ふっふっふ、まだ他にも魔法少女はいますからね。今度紹介しますよ」

 

 お昼休みですから当然やることは決まっています。

 今日も味は抜群ですぐに売り切れてしまったけど、必要な分は別に確保してありますから。今度はみんなで食べましょう。

 

「さぁ、まなかの特製弁当を召し上がれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まどほむと出会うRTA、はーじまーるよー。

 

 前回、まなかちゃんが先んじてさなちゃんの名前を知っているというトラブルに見舞われました。

 確かにこの二人はどちらも水名である以上、どこかで勝手に会っている可能性があります。オイオイオイ、死ぬわチャート。なんでもよくないけどよぉ、問題はどれだけ親密かどうかだぜ。

 

「実は……」

 

 なるほどなるほど弁当を売ってたら会ったと。それだけなら大丈夫です。

 あまりにも仲良くなりすぎていたら、さなちゃんウォールナッツ居候ルートに突入してチームみかづき荘が揃わないところでした。まなかちゃんを退場させれば回避できるものなので危うくカトラスが光るとこでしたね。

 

 この辺の話は適当に聞き流して下準備をしましょう。

 スマホで電波少女の情報が載っているホームページを開きます。するとパスワードを要求されますがこれは前回見つけましたね。これで電波少女に関係する『名無しさんのうわさ』の情報を手に入れることができます。あとはこの情報をやちよさんにプレゼントすれば超スピード!? で解決できます。

 

 というわけでもしもーし? いろはちゃんいまどこ? 中央区でウワサ調査? はえ~。

 

 いや妙に早いなあいつら……お前ひょっとして無類の短縮好きか? このままだと勝手にボス戦に突入して勝手にピンチになるので急いで向かいましょう。

 

 

 

 オッス(電波塔)。

 

 おうおうどうしたみんなお揃いで~。

 あ、さやかちゃんじゃないっすか!(すっとぼけ) それにまどかさん(先輩への配慮)とほむらちゃんもいるじゃないかたまげたなぁ(すっとぼけ)。

 

 みなさんご存知の見滝原組はマミさんが行方不明になると高確率で神浜にやってきます。これは行方不明になるタイミング次第なのでもっと早いときも遅いときもありますね。今回は普通です。

 そしてそれはつまり、マミさんはマギウスが預かっててくれているということです。これで唐突なチャート崩壊に悩まされずに済みます。マギウスありがとー! みふゆさん、みふゆさん見てるかー!

 

 じゃあウワサの結界にイクゾー! と、言いたいところですがくれはちゃんは付いていきません。まなかちゃんが良い感じにイベントを発生させていた結果、彼女の方がさなちゃんへの説得率が高いので代わりに行ってもらいます。

 

 じゃあな! アリナってやつに気をつけろよ!

 

 その間に居残り組は神浜セントラルタワーのヘリポートに移動します。ここが第5章のボス戦会場になります。

 待ってる間に全員の状態を確認して、変なデバフがかかっていたりソウルジェムの穢れが溜まっていたりしたら回復しておきましょう。激戦になりますからね。

 

「あ、いろはちゃーん!」

「……転送されて来たわね」

 

 ひとりぼっちの最果てに突入したメンバーが戻ってきたら様子をよく見ましょう。怪我をしていたり、ソウルジェムが濁っているようなら一戦交えてます。ここではピンチになっても『名無しさんのうわさ』ことアイちゃんが離脱させてくれるので安全です。まあ今回はなにもなかったみたいですが……となると……。

 

「ヴァァァアアァァッッッッ!! またか帆秋くれはァッ!!」

 

 来た、来た、来たなぁっ!? 確認する前に回避! セーフ!

 無事な場合、ハードだと奇襲の可能性があるのでこうして避けることは重要です。運良く全部避けきれたみたいですね。

 (アリナ・グレイが)出たわね。なんか言ってますがこの間に敵の数を確認します。アリナ、ピーヒョロ姉妹、黒羽根、ヨシ! 最悪の場合ここにマミさんが混じりますが大丈夫ですね。

 

「……明槻さん?」

「ひ、人違いでございます! 天音月夜でございます!」

「その口調はやはり明槻月夜さんでは?」

 

 こんな感じで水名の魔法少女を連れてくると月夜ちゃんが身バレしますが些細なことです。どうせさなちゃんがまた通い始めるんだから一人二人増えたって構わねぇよ!

 

 というわけで『マギウス アリナ・グレイ』、『白羽根 天音姉妹』との戦闘だー!

 チームみかづき荘五人にまどほむさやかちゃん、まなかちゃん莉愛様にくれはちゃんの魔法少女イレブンに勝てるわけないだろ! と言いつつ……。

 

 そうか、頭の中に音波が! という技『笛花共鳴』とドッペルを組み合わせられると厄介です。

 この笛花共鳴ドッペル戦法こそピーヒョロ姉妹を天音姉妹に格上げします。『笛花共鳴』でこちらの二人の動きを止めてきますし、笛を落とさない限りは止められません。それに防御型ドッペルの耐久性が組み合わさってもう気が狂う!

 

 特に厄介なのはそれぞれのドッペルの特性です。月夜ちゃんの『隔絶のドッペル(Dum)』はあらゆる物理攻撃と時間関係の魔法を無効にします。あのほむほむの時間停止すら効きません。そして月咲ちゃんの『無縁のドッペル(Dee)』はあらゆる精神干渉を無効にするので互いの弱点を打ち消し合います。

 同時発動させると地獄ですね。パワーしか能のない『滞留のドッペル』くんも見習わないといかんのちゃうか?

 

 あ、『停止』くんは物理攻撃でも精神攻撃でも時間を止めてるわけでもないので通ります。他にも直接影響しないタイプの『幻惑』やこちらに作用する『無敵化』に『耐える力』などなら普通に対策できるので意外とガバガバ耐性です。

 

 それに攻撃方法が突撃しかないので放置しておけばそのうち時間切れで消えます。それよりもここでは、勝手に突撃するフェリシアのサポートをします。

 ノーマルならアリナの結界に突っ込まれても余裕で帰ってきますが、ハードだとボコボコにされて退場する可能性があります。突入までの道はダメージを気にせず駆け抜けましょう。

 

「あれはオレが倒す! 邪魔すんな!」

 

 あ、待ってくださいよ~。アリナ先輩に追いつくとフェリシアはすぐに結界に消えるので、なりふり構わず突っ込みましょう。

 この結界をいかに早く脱出して戦線に復帰できるかが鍵です。そのための『停止』? そのためのフェリシアって感じでぇ……。

 

 おっと後続の魔法少女。

 

「任されてるんだから……! 一気に片付けるわよ!」

 

 なぜこっちに来た莉愛様ァ! 向こうの戦力が手薄になるだろォ!? 

 仮にやちよさんと鶴乃ちゃんが笛花共鳴で止められてたら、ステータスの高い莉愛様か速度のあるさやかちゃんが時間稼ぎをしてくれるはずだったんですがこれじゃチャートが壊れるわ(しみじみ)。

 

 仕方がないので三人で三角形になって魔女を殲滅しねぇか?

 結界内の魔女は普通にエンカウントする魔女の強化版ですが、『停止』で止めてフェリシアの全力の一撃と莉愛様の『ベラ・スピーナ』を与えればすぐに倒れます。この威力、やみつきになりソース……。

 

 倒して出てくるとアリナ先輩にヘイトを向けられますが、フェリシア一人に向けられるより遥かにマシです。下手するといつの間にかフェリシアが退場してたりするので分散しておきましょう。

 

 アリナ先輩との直接勝負ですが、彼女は遠距離攻撃タイプなのでくれはちゃんではあまり相性が良くありません。カトラスでビームを叩き落しつつ、どうにか接近します。

 

「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなァ!」

 

 うーん、結構こっちに攻撃が来ますね。悪い行動パターンを引いたようです。

 いろはちゃんたちと距離も離れちゃいましたし……じゃあ特別な稽古つけてやるか! 

 

 莉愛様の『隠蔽』と『停止』のコンビネーションで三人の姿を消しましょう。こうすれば適当にキューブから乱射するだけになります。後は隙を見て近づいて……全身を『停止』! フェリシアがハンマーで吹き飛ばす! 信じられません予告ホームランです!(事後報告)

 

 追いかけるぜついてきな! オラオラ黒羽根共どきなー! まあ向こうで天音姉妹がドッペルを使ってるので彼女たちは動きません。巻き込まれないように動く動作が邪魔をしているんですね。

 

「叩いて砕いてすり潰す……アナタたち纏めて、真っ赤な絵の具にしてやる!」

 

 えー、今回のボス戦はですね、フェリシアのー、一撃がちょっと強力すぎてしまいましてね、えー順調だったんですけど、えー(ドッペルを)やられてしまいました。まさかこんなに(敵意を)感じるとは思わなかったんでね、次回(こそは安定した手段)もお願いします。

 

 本当は天音姉妹のドッペルが消えてからの予定だったんですが……まあ誤差だよ誤差!

 先ほどアリナ先輩を止めたために良い感じに濁ってますし、怪獣大決戦の時間だぜ! 滞留のドッペル、君に決めた!

 

 ところで今アリナ先輩が使っている『熱病のドッペル(OldDorothy)』は特殊能力に特化したタイプです。ドッペル自体の耐久性は低いですが、あれが撒く絵の具に触れると混乱を始めとした各種精神系ステータス異常にかかります。最悪の場合は永続的狂気とかいうふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん状態になるので絶対に味方に触れさせないようにしましょう。

 なので自分に『停止』を使って精神干渉を無効にしてからドッペルで攻撃を受け止めます。今日は大活躍だな?

 

 こちらからの攻撃ですが……絵の具でできた身体に攻撃しても効果は薄く、かと言ってドッペル本体を狙うと尋常でない攻撃力をしたドッペルくんのパワーによりミンチにしてしまいます。

 予定では時間切れを待ってみふゆさんに連れ帰ってもらうつもりでしたがまなかちゃんがいるなら話は違います。ガバっても短縮を諦めないとか意識が高いんですかね? 効果は大きいですよ。 

 

 おう打ってこい打ってこい! ドッペルを使えば自分に攻撃が集中するのでそのタイミングを狙います。良いドッペルだな、少し借りるぞ!

 

 今だまなかちゃん『伝播』! そして月夜ちゃんのドッペルをドーン!

 いい威力だ。攻撃力の桁が違いますよ。そしてその余波を敵全体に広げてもらいましょう。幾らかダメージは落ちますが、元々が半端じゃないので十分です。

 

 本来ならこの馬鹿げた威力で月夜ちゃんが退場してしまう恐れがありますが、物理攻撃を無効にしてくれるので思いっきりやりました。無効にされても本来与えられるはずのダメージの余波が伝播で通ります。いわゆる貫通ダメージか反射ダメージだと思ってください。

 

 (全てのドッペルを)工事完了です……。滞留のドッペルくんの特性によって地味にダメージを受けましたが勝ったので別にいいですぅ!

 戦闘開始からの時間からしてもう終わりだぁ!(レ) 

 

「アリナ、ここまでにしてください。これ以上はワタシも全力で止めないといけなくなります」

 

 乙ぅ~。みふゆさんが来ればアリナ先輩は帰ってくれるので余計な手出しはせずに見送ります。

 これで第5章も終了して後半戦に突入するわけですが、第6章前にやっておきたいことがあるので今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 

 




■今回の内容
 第一部第5章『ひとりぼっちの最果て』
 第5章アナザー『その秘密を知りたい』
 胡桃まなか 魔法少女ストーリー 1話 『無邪気なシェフ』(一部分)
 胡桃まなか 魔法少女ストーリー 2話 『絶品フルコース』(一部分)
 胡桃まなか 魔法少女ストーリー 3話 『私が料理をする理由』

■二葉 さな
 拷問器具が出てくる盾持ち魔法少女。シールダー。
 しかし持ってる攻撃方法と固有魔法的にアサシン。

■まなかちゃん
 これまなかちゃんの章じゃないっすかぁ!(困惑)
 伝播も電波も……変わらへんか……。

■アリナ先輩
 やべーやつ。かりんちゃん呼んできて?
 でも本番はここからなんですケド。

■お弁当
 さなちゃんはキーホルダーの一件以降学校に行っておらず、その間に魔法少女になった。
 なので既に魔法少女になっているまなかMSS3は本来は5章の後。なのに会ってやがる! 下手に二人が交友を深めていたら再走だった。

■私が料理をする理由
 さなちゃんがお昼に特製弁当を買う話。それまで学校では一人だったらしい。
 今回は最初から莉愛様とまなかちゃんがいるぞ! まゆゆとさゆさゆも付けるぜ! 竜城明日香もだ! 

■ドッペル
 常日頃使ってるし相手もやってるので変なことではない。
 まだ動けるので無事。ヨシ!

■ダメなルート
 放課後の教室でスマホをチェック。「あなたは魔法少女ですか?」いいぜ、メインストーリー楽しみにしてるぜ~! 今日はどんなウワサかな〜今日のチャートも楽勝だな♪ 
 それにしても中央区はいいな。モブ魔法少女たちはみんな、まるで「プレイヤーを見ないのがエチケット」って感じでいてくれる。それともくれはちゃんの格好が激エモのモロ不審者だから目をそらすのかな(笑)。
 電波塔に着くと、笑顔で迎えてくれたのはウワサではなく、魔法少女でしかもアリナっぽい。……やられたぜ! どこかでフラグを踏んだな!




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