マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート南凪チャート 作:みみずくやしき
薄暗い聖堂に響く足音。冷たい床に伝わる振動。
「……その、姿」
地下のはずなのにぼんやりと光るステンドグラスの下に令ちゃんはいた。
サイドテールに魔法少女の衣装は同じだ。でも、色が違う。暖かみも冷たさもない灰色一色になっている。肌は原色のように白くて目は虚ろなのに、口はいつも通りのように笑っていてそれがアンバランスさを際立たせてた。
「観鳥なのよね」
「そう、これが“私”だよ」
奥の一段高くなった場所から階段を降りて近づいてくる。
まだ全然遠いのに、令ちゃんだけどそうじゃないって感覚が段々と強くなっていって胸が締め付けられるようだった。
「こうして連れてきたのも私の意思。今ならこんなこともできるんだ」
ただ広くて殺風景だった空間に、教会にあるようなベンチが生えてくる。太陽を模したような模様のステンドグラスと相まって聖堂が完成していくようで、ついには最奥に大きな鐘が浮かび上がってきた。
でも、そこに木の根が歪に加わる。無理やり押さえつけるようなネジやボルト、鎖まで現れて、本心を隠されているみたいだ。
それを見たらもう我慢が出来なかった。わかってても、言わなきゃって思って止められなかったんだ。
「令ちゃん、一緒に帰ろう。くれはちゃんもそれを望んでるんだよ。こんな、本当はやりたくないのにやらされてる姿はもう見たくないよ……」
「……牧野チャン、言ったでしょ。私の意思だって」
端的に言えば、私はウワサとの融合がどういうことかよくわかってなかったんだと思う。
だって、令ちゃんの背後に生成されたのはあの白いバズーカだ。言葉を交わした結果、その引き金が勝手に引かれて砲弾が私に向けて飛んでくるだなんて、欠片も考えてなかった。
砲弾の威力も速度も知っている。だけれどあまりにも速いそれは以前と同じじゃない。目が追いかけるばかりでなにもできない。
くれはちゃんがカトラスを投げるよりも早く届いた砲弾は――チャクラムの一撃で爆発した。
「やっと出てきたんだ。いるのはわかってるんだからさ、早く来ればいいのに」
「こうして防げたんですから意味はありました」
私の横の空間がぐにゃりと歪む。
そこにいたのは、もこもことした黒いガウンパーカを着た魔法少女。そうだ、みふゆさんはいろはちゃんたちと聖堂に行ったからあの場にいたはずなんだ。
「きゅ、急に出てきたの!?」
「相手はマギウスですから『幻覚』で隠れて隙を伺ってたんです。でも姿を消した瞬間に同じように連れてこられまして……」
「いろはが奇襲の意味がなくなるからって小声で伝えてたぞ。まあ、こうなってるなんて知らなかったが……で、だ」
険しい顔をしたひなのさんが、薬品の詰まった緑のカバンからフラスコを取り出した。
「おい令、本気なんだな?」
「ひなのさんも聞くんだね。今のが答えだよ」
「やめてほしいの! 観鳥さんは優しい人なの! こんなことする人じゃ……」
「それをするのがウワサとの融合と洗脳よ」
カトラスを構えたくれはちゃんがひなのさんの横に立つ。同じ南凪の先輩二人がそれぞれの得物を令ちゃんに向ける。
「だから、言ってるよね。神浜以外じゃまだ魔法少女が魔女になっていく。帆秋さんみたいな思いをする子が増えていくんだ」
「そうね、それだけは止めなきゃいけない。けれど……私は綺麗事が好きなのよ。神浜を、無辜の人を犠牲にするなんてできない。ましてやあなたを見殺しになんてできるはずがない」
言葉を交わす二人の視点はどこかずれているようでもあり、同じものを見ているようでもあった。けれども、令ちゃんの言葉には違和感がある。きっとそれが二人を隔ててしまっているものなんだ。
「……そっか、でも私はこの道を選んだんだ。だから――決着をつけよう」
「ええ、必ず――あなたをそこから助け出すッ!」
それが、始まりとなった。
「まずは力を削ぐ! かりんは私と前へ! ひなのさんは援護を!」
「任せろ。みふゆは郁美を頼むぞ!」
「ワタシもできる限りは手伝います。郁美さん、なるべく近くに」
さっきのバズーカが数えるのが億劫になるほど生成される。それはそれぞれで段になるように整列して、全てがこっちに砲口を向けている。
そして、一つ一つの口先が光った。瞬きをする間が過ぎて、単発でさえ私には避けれないのにまるで夜景のように輝く斉射が襲う。
「こちらへ!」
慌てて、モップを構えるより先にみふゆさんの後ろに滑り込んだ。
チャクラムを操って私たちに当たる弾だけを全て破壊している姿は、力が落ちてきているって言ってもやっぱり黒羽根よりも遥かに強いんだって私に教えてくれた。この砲弾の雨は私じゃどうしようもないんだから。
爆発の轟音と閃光は凄まじい。聴覚と視覚が邪魔される。でも、前に行った三人を見続けた。今の私にはそれぐらいしかできないから。
「……みんな」
くれはさんは被弾しそうなものだけにカトラスを投げて、ひたすら令ちゃんに近づこうとしている。かりんちゃんも同じだ。投げるものは鎌だけど同じように接近しつつ、時々ワープしている。ひなのさんは回避しつつ、その二人へ向かう砲弾に的確にフラスコや試験管を投擲して道を作っていた。
その中で最初に令ちゃんの所に着いたのはかりんちゃんだ。パッと姿が消えたかと思ったら、バズーカの山の真上に現れて鎌を一気に振り下ろした。鋭利な鎌は砲身を真っ二つに切り裂いていって、列に穴ができる。
ということは、その縦列には砲弾が来なくなるってこと。全員がそこに移動して、くれはさんがさらに高速で接近できるようになった。
もう少しでみんな近づける。接近戦に持ち込めば砲弾を止められるし、ウワサを剥がすための攻撃の準備もしやすくなる。
ただ、くれはさんを見る令ちゃんの口元がより大きく弧を描いた。
戦闘に積極的に参加せずに動きに注目していたから気づけたことだ。動かした視線の先には列に隠されていたバズーカがある。
穴が開いたことで見えたあの後ろの数門。あれだけはなにかが違う。
……もし、私の予想通りなら――マズい!
「後ろのバズーカ! 『確実撮影』がかかってるかもしれない!」
「んなっ……!」
砲弾を弾幕にしていたから、てっきり使えないものかと思っていたんだ。
『確実撮影』は令ちゃんの固有魔法。効果は単純明快で、百発百中の効果を得るものだ。
そう、
予想通りに発射された数発の砲弾は、カトラスに鎌、フラスコを全て回避して、こっちの全員の位置を正確に把握してるかのように縦横無尽に動く。あそこまで強力じゃなかったはずなのに、そんな呪いじみた高精度のものが強烈な一撃を抱いて飛来する。
「止まれ!」
着弾の前に、くれはちゃんの『停止』が固有魔法を使った砲弾を止めた。この間なら回避されないから、私も近くに来ていた砲弾にモップを投げつけて起爆させる。弾幕よりも爆発が大きくて、こっちが本命だったんだって思い知らされた。
だからこそ、その本命が一回だけで終わるはずがない。
対処に乗り出したのはやっぱり、一番見ていたくれはちゃんだった。集中砲火を受けそうになって、慌てて一旦戻ってきたかりんちゃんに顔を向けた。
「あのバズーカだけを狙って。撃たれたら盗んで起爆」
「でもそれじゃ近づけないの!」
「当たるよりマシでしょ。それに、一人でも近づければいい」
そう言うと、一瞬だけ全ての砲弾が止まった。
全部に『停止』を使ったとしたら、どれだけの魔力を消耗したんだろう。私だってその意味がわからないわけじゃない。
証明するように、くれはちゃんの背中からツタが生える。現れるのは内に炎を灯した釣鐘。
魔女化に代わる私たちの希望で、令ちゃんを苦しめたものでもあるそれは、ドッペルだ。
彼女の動きはさっきまでとは全然違う。回避優先だったのに、いくつもの砲弾を釣鐘で受け止めて前に突き進んでる。爆炎が、自身を癒す炎と一緒くたになっていた。
だけどこの戦い方は危険なものだ。
今も私の横をすり抜けて壁を破壊する砲弾の威力は尋常じゃない。壁はすぐに元に戻るけど一度は粉々になってるんだ。全部受け止めるなんてしたら持つはずない。
「ドッペル! あなたも私なら少しは耐えなさい!」
炎がより一層燃え上がる。叫んだ言葉の意味を理解したみたいに、着弾前に引火させて少しでも被害を減らそうとしてる。そのおかげで、令ちゃんの元に辿り着く瞬間までは釣鐘は耐えてくれていた。
ドッペルが消えた瞬間はこっちの一番危険なタイミングで、向こうのチャンス。だからくれはちゃんはカトラスを持って次の砲弾を防ごうとしていたのに、なぜかバズーカまで消えていた。
「……ドッペル。私は止めてって言ったのに、ずっと使うんだもの」
「あなたを助けるためよ。最初からこっちにいてくれればこんなに使ってない」
「私のせいだって?」
「そうとも言うわ。ほぼ自分の意志だけど」
あれ。
少し、ほんの少しだけど。令ちゃんの違和感が薄れている。すぐにまた戻ってしまうけど、心を通わせられ始めているんじゃないかって思えた。
「だったら私のほうに来てよ。一緒に逝こう」
「お断りよ。私はそっちには逝かない。誰かを犠牲にして平気でいられるほど強くないし、残して逝けるほど恩知らずじゃないから」
「……欲張りだよ」
その言葉を最後に、燃える黒鉄の剣がくれはちゃんを狙って降り注ぐ。
今度は白羽根としての戦い方だ。けれどやっぱり、魔法少女としての桁が違う。普通は二本のはずの剣が何百と浮いていて、纏う炎の熱量も高い。剣の向こう側の景色が歪んで見える。
「……すみませんっ、何本かは防ぎきれません!」
「大丈夫です、私だって!」
さっきまでみたいに逃げる場所がないわけじゃない。回避しようと思えばできる。
だけど、質が違う。みふゆさんでもチャクラムの攻撃を何回か当てないと一つを砕けない。
今まで守ってもらってたんだ、少しぐらい頑張らないと。
砲弾よりも速度は遅い。軌道は読める。半円を描くように空中を回る剣にタイミングを合わせて、身体を左に動かす。そして、そのままモップを全力で叩きつける!
モップと剣がぶつかりあって、激痛が私に走った。思いっきり打ち付けた腕が痺れてしまう。
あまりにも硬すぎてモップが折れてしまっている。それに私の全力の攻撃を受けたはずの剣は、最初の軌道のまま床に突き刺さっていた。
ダメだ。呆然としてる場合じゃない。今すぐにこの場所から移動しないと二本目が飛んでくる。今度は下方からすくい上げるような一撃だ。
――当たる。
「ぐっ、ぬぉ……!」
「なんで……!」
「後輩の友だち守るのも先輩の仕事だからな! ……かりん、やれ!」
確信した私に飛び込んで守ってくれたのは、ひなのさんだ。
燃える剣に背中を斬られた痛みは想像できないけど、こんな気丈に振る舞えるはずがない。それでもかりんちゃんに指示して剣の対処をして場を持たせてる。年齢はほぼ同じなのに、場数が全然違うんだ。
少しでもできることをしようとひなのさんの治療をしている間に、剣がかりんちゃんの魔法で盗まれ続けて一か所に集められる。治療を終えたひなのさんがそこにありったけのフラスコが投げつけて、大爆発が起きた。それだけの威力を見ているだけで済んだのは『停止』で爆風や飛び散る破片が止められているからだ。
打ち合わせなんてしてないけど、三人は最初からそのつもりだったんだと思う。
爆風が止んだあとに見えたのは、足を『停止』で止められた令ちゃん。そして、カトラスを突きつけるくれはちゃんの姿だった。
「あなたの戦い方も白羽根としての戦い方も破った。それだけみんなよく知ってるの」
「じゃあ次はそれで傷つけるんだ?」
「ウワサを剥がすだけよ」
いくらウワサと融合してるとはいえバズーカに剣と魔力を消耗してるはず。いまなら攻撃を当てられる。だけど剥がすには心を通わせた状態で多くの魔力を使って攻撃を叩き込まないといけないから、できるのは一回か二回だ。
「大丈夫なの! だって二人の心は通じ合ってるに決まってるの!」
「……待ってください。いくら剥がしにくくしてあるとはいえ、令さんとくれはさんを会わせたらウワサを剥がせる可能性はゼロではないでしょう。灯花がそれを考えてないわけがありません」
あの灯花ちゃんのことだ。その可能性を考えてなかったわけじゃない。けれでも、だからって対策の内容なんてわからない。みふゆさんに織莉子さんでも知らないのならマギウス本人しかわからないんだ。
やることは決まってる。声をかけて、違和感が薄れてきてるから方法は合ってるはず。……もう少し、だよね。
「ゆきかと郁美から聞いたわ。私のことを大事に思ってて、横に立ちたかったんだって。あなたがそれを望むのならいくらでもこの先やりましょう。だから戻ってきなさい」
「それは……」
令ちゃんの言葉が少しずつ戻ってきてる。異様だった表情も少しずつ本来の表情に戻っていってる。大丈夫、これなら元に戻せる!
確信したように振り上げられたカトラスは、多くの魔力を持って振り落とされた。
ように見えた。直前で止まったんだ。
「……なんで、また笑ったの」
「なに言ってるのさ、こんな状況で笑うわけ……あ、あ……?」
「観鳥、正気に……!」
あの声は間違いなく元の令ちゃんだ。なのに、動きだけが操られているみたいにおかしい。『停止』が解除されて自由に足が動くようになったのに、意思に反して後ろに下がっていく。
そして、私たちとの間に鎖が敷き詰められた。
向こう側は固く閉ざされて、もう姿が見えない。ただ痛ましい声だけがずっと聞こえる。
「だって、だって……! 私はずっと、帆秋さんの助けになりたくて……! あ、あぁぁ……」
「なんでなにもしてないのに苦しんでる!? ウワサを自壊するようにしてたのか!?」
自壊……? そ、そうだ、そうだよ! このフェントホープと融合してるなら、あんな戦い方してたら自分を傷つけてるのと同じなんだ! まさか対策として最初からこうなるようにしてたんじゃ……!
「みなさん、なにかわかりませんか! 令さんに起きていることの手がかりが少しでもあれば……!」
手がかりって言っても、なにを調べればいい?
令ちゃんが苦しんでるのに落ち着いて探すことなんてできないよ。
それでも、まとまらない思考を無理やりに動かしてなにか変なことがなかったかを考える。私だって令ちゃんを助けたい。諦めたくない。
……ない。
思いつかない。
最初に出会った時、令ちゃんがいなきゃゆみを助けられなかったかもしれない。辛いことや悲しいことがあったら相談に乗ってもらってた。聖堂の穢れに私よりも耐えてすぐに白羽根になった強い令ちゃん。
それからもずっと羽根として助けてもらったことがあったのに、こんなときに恩返しできないなんて……!
考えて。
考えるんだ。
手がかり。おかしなところ。本当になにもないのか。私たちの様子、令ちゃんの様子、魔力反応、足元、天井、周囲……。
「……鐘?」
そういえば、元の聖堂にはあんな高台と階段はなかった。あの鐘だってフェントホープのどの場所でも見たことがないし、話にも聞かない。あんなに大きいんだから誰かが見てたっておかしくないのに。
それに、令ちゃんはフェントホープを維持するウワサと融合してる。だったら、鐘もその一部のはずなのにその意匠には統一性がない。
新しく作れるなら私の考えはすぐに破綻する。
でも、もしかしてって思って、鐘の反応だけに集中した。ホテル内部は魔力探知が難しいけど一つの対象に全力を投じればできる。普通ならそんなことに魔力を割く理由も意味もないけど、この戦闘に役立たない私にはこれしかないから。
それでわかったんだ。
あれは、フェントホープじゃない。
「あの鐘、反応がおかしい!」
叫ぶと、すぐにくれはちゃんが鐘にカトラスを投げた。
ただの建築物のはずの鐘が勝手に動く。地面の鎖が蠢いて刃を弾く。
間違いない。この反応は――
「『絶交階段のウワサ』……っ!」
「それやちよたちが倒したってやつじゃなかったか!?」
「そうなの。かえでちゃんが倒し……たとは言ってなかったような……」
もう一つのウワサがいたことで今までの辻褄が合った。
違和感の原因の一端はそれだったんだ。フェントホープと混じり合って気づけなかったけど、同じ反応が令ちゃんにもある!
「みふゆさん、ウワサを二つ融合させるってできるんですか!?」
「……わかりません。ですが、マギウスなら可能と考えたほうがいいでしょう」
そんなことをしたら精神がどうなるのか。粉々に砕け散るんじゃないかって恐怖が押し寄せて、上乗せするような事実までも思い知らされる。
「ちょっと待て、
「その名の通り不和を操るものですから、友情や絆が弱点――まさかっ!?」
「あいつら……ふざけるなよ……! どうりで自信満々に言うわけだ!
全員が理解した。原因はそれだったんだ。
ウワサにはその性質に応じた耐性と弱点があるってことは羽根なら知っている。それが絶対のものじゃないとはわかっていても、その弱点はあまりにも今の状況に合致していた。
……それじゃ、剥がせない。
剥がそうとしたら苦しめて殺してしまう。
今だって令ちゃんの痛みを訴える声が聞こえるのになにもできない。
『選びなよー。時間切れで死んじゃうか自分の手で殺すか』
あの言葉は、この状況を示唆していたんだ。
「……そんな結末、認めない」
くれはちゃんが一歩前に出た。
「ウワサは柊ねむが固有魔法で命を削って作っているもの。だから私は止められない。それは彼女の『願い』を否定してしまうから。……でも、だけどッ! その性質だけは否定するッ!」
掌を向けて腕を伸ばしたその姿は、覚悟を決めたもので。
だからこそ、それは今までの『停止』とは一線を画すものだった。理屈もなにもわからないけど、苦しみそのものを止めたかのように令ちゃんの痛ましい声が消えた。これが悪いものなはずがない。だって、くれはちゃんの気持ちは本物。きっと魔法が応えてくれたんだ。
ウワサ側はどんな状態か理解したのか、今まで姿を見せなかった熊や南京錠が付いた金庫の姿をした手下をけしかけてくる。やっぱり、効いてるんだ。自分たちを剥がされて消されるかもしれないって、焦ってるんだ。
だったら、今しかない。この声を届かせることのできる、今だけしか!
「確かに善悪清濁併せ吞むっていうお前の観鳥報はゴシップかもしれんがな、それを楽しみにしてるヤツもいるんだよ! かく言うアタシもそうだ! だからとっとと戻ってこい!」
「言ってくれたこと、全部覚えてるの。だからここまで強くなれたの。怪盗少女の真実、今なら全部話せるから取材してほしいの!」
「令さん、あなたを勧誘したことは覚えています。そして、こんな事態を招いたことは謝罪します。月咲さんも心配してるんです。無事に帰ってきてください……!」
「私は昔の令ちゃんを知らないけど……みんなから話を聞いて少しはわかったんだ。くれはちゃんに振り回されて、南凪で記事を書いて、良いことでも悪いことでもシャッターチャンスを逃さないんだって! だから、次はその姿を直接見せて!」
ひなのさんが道を遮る鎖を爆破で吹き飛ばす。
かりんちゃんが熊の手下を集めて鎌で切り裂く。
みふゆさんが金庫の手下をチャクラムでまとめて吹き飛ばす。
私だって、『フリーズ』で動きを止められるから!
「……いい、みんな、もう無茶しなくていいから! 全部を助ける気なの!? 私を殺せば神浜も魔法少女も救われるでしょ!?」
「私はね、全部は無理だって諦めて、助けることができたはずのものを失いたくない。だから無茶だとか言われようと手を伸ばし続けるの」
まだ再生を続ける鎖の中にくれはちゃんが突っ込んだ。激流のように押し流そうとしてくる鎖を全てカトラスで斬り続けて、令ちゃんの元に少しづつ進んでいく。
「だって、私は、隣に立てなくて……!」
「私にはあなたが必要なの。だから近くにいてほしい。もっと関わってほしい」
「なんの助けにもならなかった!」
「助けられることがないなんて思わないで。あなたに何度も助けられてきた」
「……帆秋さんみたいに自信満々にいられない」
「はっきり言うけど『あなたが決めたことなのだから間違ってない』って言葉を言った時、私にも確信がなかったのよ。だってあれが私の最初の人助けだったんだから」
「変わらない強さなんて持ってない!」
「私もよ。変わらないものなんてないって思ってたから。でもね、多くの人と関わって、助けられて……やっと、わかったの。変わらないものもあるのよ!」
言葉を交わして、想いを伝えて。
今一度届かせるために。
「何度手を振り払われても構わない! 数千でも数万でも何回でもッ! あなたが拒もうと、私は手を伸ばすッ! だから聞け観鳥令! あなたは私の最初の後輩で、最初に手を取ったかけがえのない存在なんだ! それを拒絶するこんなウワサは――!」
全員の魔力を注ぎ込んだカトラスが、振り上げられた。
「私が、打ち砕くッ!」
明るさを取り戻した聖堂に響く声。輝く床に伝わる振動。
「……観鳥」
今までよりも光るステンドグラスの下にいたのは、全てが元通りになった令ちゃんだった。
「言ったでしょ。あなたは私が守る、どんなときでも助けるって約束したじゃない」
「覚えてたんだ」
くれはちゃんのその言葉は気丈なものだったけど、声色は震えていた。
「ちょっと、泣かないでよ……観鳥さんだってさ、もう、色々と……」
姿を消したウワサのことも気になるけど、今はやっと戻れた二人のことを見守っていたかった。
だって、令ちゃんの顔は涙で濡れていても、とっても嬉しそうだったんだから。
すすり泣く声が少しずつ聞こえなくなって、離れていた時間を取り戻すように二人は口を開く。
「こうして話すなんて久しぶりだね」
「……そうね」
「観鳥さんがいなくて大丈夫だった? テストとかさ」
「赤点ギリギリよ」
「じゃあまた教えなくちゃね」
「頼りにしてるわ」
「任せてよ」
打てば響くように問いかけと返答がぽんぽんと飛び交うなんて、この二人だから当たり前。
「言ってくれたこと、嬉しかった。そう思っててくれたんだって心の底から信じられた。……小さなことだけどさ、このみさんや帆奈ちゃんと違ってずっと名字で呼ばれてたから」
「だって観鳥は観鳥でしょう。あなたも私を名字で呼ぶし、一人称だってそうじゃない」
なんだかまだ微妙にすれ違ってる。通じてるのにわからないことってあるのかな。
だから、くみがそれを伝えようって思ったんだ。
「令ちゃん、もしかしてなんだけど……くれはちゃんって他の人をなんて呼ぶ?」
「え? ずっと名前で呼んで……」
「つまり名字で呼ぶのは令ちゃんだけなんでしょ? それって、特別ってことなんじゃないのかな」
「え、ええ!? うそ、帆秋さん!?」
「……悪かったわね。わかりにくくて」
そのことにみんなが笑って、令ちゃんまでつられて本当の笑顔を見せてくれた。
今が一番彼女らしい。とても、とっても、幸せだ。
「良かったね、令ちゃん」
「そうだね。本当に……良かった」
◆
いきなりステージ移動されたRTA、はーじまーるよー。
前回、観鳥さんが融合しているということがわかりました。
なので急いでみと様を呼び戻しましたが……ここまでフェントホープを操れるうえに外にアリナ先輩がいるとなると到着がかなり遅れることでしょう。到着できない可能性? あの超強化みと様が来れないわけないじゃないですか。
しかし彼女はこのあとのワルプルギス戦の出番もあるので温存できるならしておきたいですね。
というわけでそれは最終手段にして、来るまでに突破できるように頑張りましょう。
今回のようにウワサと融合した場合、ウワサとしての戦い方と本人の戦い方の両方をしてくる可能性があります。まずはどちらかを見極めて――あっぶえ! いきなりバズーカ撃ちやがったな! オイ! もう許せるぞオイ!
「やっと出てきたんだ。いるのはわかってるんだからさ、早く来ればいいのに」
「こうして防げたんですから意味はありました」
みふゆさんいたんかワレェ! いるなら先に言ってくださいよ!
急にみふゆさんが参戦しましたが、さっそく『ウワサの観鳥』戦を始めていきましょう。おうみゃーこ先輩! 南凪の友情パワー、見せてやろうぜ!
前衛はくれはちゃんとかりんちゃんが担当します。みゃーこ先輩は中衛で援護。みふゆさんは後衛にいてもらいます。
いくみんはオレが置いてきた。参戦はしたがハッキリ言ってこの戦いにはついてこれそうもない……状態なので後ろでみふゆさんに守られててもらいましょう。まあくれはちゃんの防御力も彼女と似たようなものですけどね!
今そこら中に飛び交うバズーカですが、これは融合したことにより威力が上がっています。
幸い、観鳥さんは普通にメインストーリーを進めると戦うことになるので行動パターンの練習はしてあります。数は増えてますが避けれない量ではありません。
ところで残念なお知らせがあります。
対人戦に弱いくれはちゃんですが、相性最悪な相手が観鳥さんです。
ご存知の通り、『停止』で止めた物は効果時間が切れるとまた元の動きをします。なので遠距離攻撃は止めたところでカトラスで弾いておかないとまた飛んできます。
普通なら射線から出ればいいんですが、最悪なことに観鳥さんが固有魔法を使って撃ったものは必中です。つまり全部叩き落とさないとホーミングしてきて当たります。
まさに今の状況だな! かりん、なんとかしろ(無責任)。
言うまでもなく、攻撃と速度に特化したくれはちゃんは紙装甲です。一撃でも受ければ致命傷になりかねません。
そこでこちら、『対流のドッペル』くんのご紹介です。
これ見ての通りの非一体型タイプ。そして再生機能付きだから使い勝手もとっても良いんです! いきますよ、使い方簡単です。
例えば、砲弾が当たってくる、ご注目……いきますよ! よく見といてください。これ、炎を釣鐘に動かすだけ。ただただひたすら傷がホラホラ! 新品になって出てくるんです!
これで接近できました。ドッペルくんありがとー!
みと様に頼らないでウワサを剥がす場合、素の状態で心が通じ合っている必要があります。しかもこの方法で剥がすには結構な量の魔力が必要です。
今の成功率は……低いですね。同じ南凪なんだからもう少しは高くてもいいんじゃねえか? 悲しいなぁ……。
仕方がないので戦闘を続行します。
一度追い詰めたので攻撃パターンが変化してこれは……白羽根のものですね。
元々がモブの攻撃パターンといっても油断してはいけません。ウワサの黒羽根共に苦戦させられた時と同じで、融合ウワサは非常に強力です。特に今回融合してるのは『女王グマのウワサ』という元々強力なやべーやつです。観鳥さんの能力も相まってもう気が狂う!
それに燃える剣ってかなり嫌な覚えがありますからね。天乃鈴音ー! 天乃鈴音聞こえてるかー!
それでも対処法は対羽根戦と同じです。白羽根五十人弱に囲まれたものだと思ってください。(剣の数は)120ぐらいじゃないすか?
ここは味方のみなさんにお願いしましょう。
まずはかりんちゃん全ての剣を盗んでもらって一か所に集中させます。そうしたらみゃーこ先輩が全力で爆破させるだけです。同じ戦法で白羽根110人弱まではなんとかなります。
(簡単すぎて)笑っちゃうんすよね。(普通にかかって)来いすか?
これで攻撃パターンが二回、いわゆる第二形態まで突破した感じです。
バズーカに剣と結構魔力を使わせてるのでウワサの精神汚染も結構薄まってるんじゃないですかね。成功率は……そこそこですね(無礼)。
五分五分ってとこですが……まあいいや。いけるいける同じ南凪なんだからダメ押しで説得すれば十分成功できる範囲だって安心しろよ~。
でもなんか様子が変ですねぇ。ウワサと融合しても説得は普通にできるはずなんですけど、まったく効いてません。こんなトラップありましたっけ。
『女王グマのウワサ』にそんな性質はありませんし、こうなるウワサなんてあるわけ……。
あっ(察し)。
ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい! 待って! 助けて! 待って下さい! お願いします! ストップ! 止まれ! 攻撃ストップ! 死ぬ! 観鳥さん死ぬ!
セーフ! ギリギリセーフ!
あります。説得が逆効果になるウワサは確かにあります。里見灯花ぜってぇ許さねえ!
「あの鐘、反応がおかしい!」
……やられたぜ! 『女王グマのウワサ』に『絶交階段のウワサ』を入れたな! 倒し切ったと誤認したか、どっかに残ってた残滓から復活したか、またねむちゃんが再生させたかはわからねえが、今いるということはどれかだぜ!
そういえば第2章って完全にスルーしてたのでどんなクリアしたかまでは確認してませんでしたよね(ガバ)。
このウワサ二種融合はマギウス側の技術が高いと発生することのあるイベントです。
パワーや耐性が上昇しますが、その分消費魔力や弱点も増えるのでメタればむしろ倒しやすくなります。
ただし、『絶交階段のウワサ』だけは別です。
なんせこいつが操るのはその名の通り『絶交』です。ウワサを剥がすのに心を通わす必要があるのに完全に拒絶されます。
弱点はその逆の絆パワーに友情パワーですが、それはつまり協力して一撃を与えると、心を通わせられないのに弱点を突いて倒してしまうということなので……なるほどぉ……効果的な融合ですね。バキィ!!(チャートが壊れる音)
やべぇよ……やべえよ……どうするよ……よりによってこいつが来ちゃったよ……。
みと様がみとちゃんになっちゃう相手じゃ頼る戦法は使えませんし、経過時間的にそろそろイブがフェントホープを壊してもおかしくありません。
かなり危ない状況ですがまだリセットする場面ではありません。実は融合版『絶交階段のウワサ』に対するカウンターは一応ここにあります。
一発突破できたら第9章があっという間に終わりますからチャンスがデカイんですかね? 成功率は低いですよ。
そのカウンターとはくれはちゃんの『停止』です。
こいつは認識対象を止めるので、その実結構色々止められます。今までも手足や炎、魔力反応に自分の精神とか止めてきましたね。
『絶交』という性質は認識できないのでさすがに止められませんが……今回止めるのは大元のねむちゃんの固有魔法『具現』の効果なので問題ありません。
ウワサは『具現』の効果で出現してるので、みゃーこ先輩の『化学爆発』による爆発物生成は止められずとも発生する爆発を止められるのと理論的には同じです。
さすがに融合解除まではできませんが、ウワサの性質から生じる耐性を一時的に無効化するぐらいはできます。弱点も消えるのでメタ戦法にまったく使えねぇな? しかも『願い』が関係する固有魔法なのであの極悪『マチビト馬のウワサ』にはもちろん通じません。
これどうやって使うのか、ちょっとやって見せてお(嘲笑)。
すぐ見せますよ(勇猛果敢)。
といってもくれはちゃんの認識具合で変わるので絶対とは言えません。
魔力の反応が止められるんならこれぐらいできるって頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れもっとやれるってやれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ! そこで諦めるな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る観鳥さんだって頑張ってるんだから!
できました。ほう経験が生きたな。
これで説得による効果が普通に通るようになったので全員で説得を叩き込みます。これはそれぞれの観鳥さんに対する信頼度で効果が変わるので今回はメンバー的に良いですね、ええ(満足)。特にみゃーこ先輩連れてきて良かった~って思うわけ。
ここまで来ると手下が出てきますが、こいつらは他のメンバーに任せましょう。
この中で一番対観鳥さんの信頼度が高いくれはちゃんが攻撃を叩き込まないといけないので余計な魔力を消耗できません。邪魔する鎖は斬ってひたすら接近します。
そして近づいたら最後はくれはちゃんの説得です。最速で最短で真っ直ぐに一直線に胸の想いを伝えます。頼むぞくれはちゃん! ここまで来たらもう走りきるしかないんじゃ!
カトラスを叩き込んで、観鳥さんにダメージがない場合は成功です。
というかくれはちゃんの攻撃力じゃ無防備の相手にカトラス当てたら真っ二つになりかねません。見た目でわかります成功です。
見てくださいよこの状況! 見事なハッピーエンドじゃないですか!
あ、やっと……クリアしたんやなって……。
まあしてないんですけど。
ウワサを剥がしたのに本体が出現してないということは別の場所に出現してます。今だとイブのところですね間違いない……。それに今ので感情エネルギーも結構生まれてたと思うので、これは……。
「フェントホープが崩れるぞ!」
「みなさん、一か所に集まってください!」
ああ、外に出たねえ、出ましたねぇ……。
ウワサの結界が崩壊して外に出た場合、出現位置は結構まちまちです。今回は……どこだここ! 森の中なのは間違いないですね。
で、遠くに見えるでかいのがイブです。結構離れてるじゃねえか!(屑運)
多分いろはちゃんたちはイブの近くにいるのでこのままイブ戦に突入してもいいですが……ここはあまり消耗してないかりんちゃんとみふゆさんに先に行っててもらいましょう。
「わかったの。多分、そこにアリナ先輩もいるはずなの」
「……すまん。アタシはしばらく無理だ」
みゃーこ先輩に観鳥さんは負傷、いくみんは行かせても対マギウスじゃ正直厳しいので待機です。ぶっちゃけ、くれはちゃんもドッペル使って消耗しまくり負傷しまくりのやべー状態なのでこのまま突っ込んだらマジで死にます。
それにみと様とせいかの動向も気になりますし、万年桜の待機組に合流する必要もあります。ついでに第9章が終了したこのタイミングでメンバーの再編もしたいですからね。
編成を変えるので今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。
■今回の内容
くれはちゃんの物語としての終着点。
■観鳥さん
帰ってきた。大勝利。
ストップからのリターンと救出効果が組み合わさって信頼度が高すぎる。
■絶交階段のウワサ
第2章でやられてなかった。ガバだな?
細かいところが変わってても仕様です。
■ウワサ二種融合
(できるかどうかは)ぜんぜんわからん!
二次創作! 二次創作です!
■『停止』
使いどころがここしかないピンポイント過ぎるカウンター。それはどうかな?
(渾身の策を覆されて)悔しいでしょうねぇ。
■くれはちゃんの衣装
ピーターパンモチーフの緑。
みどり。
■メロン
くれはちゃんが好きな果物。
みどり。
■約束
忘れない、大事なもの。