マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート南凪チャート 作:みみずくやしき
あのワルプルギスの夜との戦いは、神浜に大きな被害をもたらした。
それは進路の状況を見れば誰だってわかることだ。魔力を持たない一般人にも今回のことは未曾有の自然災害として認識されている。とても隠し通せることじゃない。
ただ、エンブリオ・イブとアリナ・グレイによる破壊の跡はそれと同一視されているようで、あまり注目されていない。中央区の被害も大きいのに、そういうところは一般人と魔法少女の差ってやつだね。
帆秋さんはそれを「困ったものね」なんて言ってたけど、二つの脅威を止めるためとはいえ彼女も刀を振り回して余波で壊してたらしいから、復興活動に率先して参加している。南凪の不審者として有名になっていたからメロンパンの差し入れが来るみたい。『観鳥報』のネタにも事欠かないよ。
そうそう、観鳥報と言えば観鳥さんも学校に戻ってきたんだ。
休学明けの久しぶりの学校でみんなはどんな反応するかな、なんて思ったりもしたけど、なんと、そもそも休学が無かったことになってた。
美雨さんが『偽装』や蒼海幣の人たちを駆使した結果らしいけど、いくらなんでも無茶がある。誰か他の人の固有魔法も使ったんじゃないの、って帆秋さんに聞いたら目が泳いでたからそういうことなんだろうね。
それで、今日は休日だけど学校に寄ってから歩いてあの場所に向かってる。
高級住宅街の家々も被害を受けてるものが多いのに、その家はどういうわけか傷一つなく完全な状態を保ち続けていた。
それはお屋敷みたいな大きな家。一人で住んでいたはずなのに、今や同居人が増えてどこか騒がしくなった場所。
綺麗な門のそのまた奥の扉から出てきたのは、帆秋さんや帆奈ちゃんでもなく佐倉さん。観鳥さんに色々あった間に一時的な協力関係ってことで住み始めたそうで、ラフな服装で案内する姿はもう随分と慣れてるみたいだった。
入った家の中もまたすごい広い。ブロッサムで買った花が飾られてたり、家具は高級品みたいだしでまさにお屋敷って感じ。ただ、そこにお菓子の箱とかが混じって生活感がにじみ出ている。多種多様な雑貨は彼女の多趣味というか、人付き合いの多さを証明しているようだ。
「そのまま行ってくれてもよかったのよ。こっちに来たら遠回りでしょ?」
そう言う帆秋さんはもう準備を済ませていて、あとは帆奈ちゃんとゆまちゃんを待つだけで二人きり。佐倉さんは手伝いに行ってる。
確かにこれから向かう場所は南凪区でも別の場所にあるから来る必要性はない。
でもさ、帆奈ちゃんは住んでて、このみさんは来たことがあるんだよね。なら観鳥さんも来ないとフェアじゃないだろう? 抜け駆け? なんのことやら。
それで待ってる間に話したことは他愛もない日常の話だった。
相変わらず帆秋さんは国語以外は赤点。だから別の教科も教えようかって言おうとしたけど、観鳥さんも勉強が遅れてるんだった。今後は仲良く勉強会に行くことになりそうだね。ななかさんも帆秋さんにお話ししたいことがあるみたいだしちょうど良い。
あとはアルバイトの話。帆秋さんはまたブロッサムで働き始めたんだ。こうして生活する分は『願い』の効果で維持できてるみたいだけど、自由に使える分を全部使い切っちゃったんだって。ミナギーランドで散財したからだよそれ。
「今思うと随分思い切ったことをやったわよね」
「ひなのさんも呆れながら一緒にいたんでしょ? 一応止めたって言ってたよ」
相変わらずずっと真顔だけど、話し方や身振りからどことなく嬉しそうな感情が伝わってくる。
一時は離れたけどこういう話をできる間柄に戻れた――いや、進んだんだ。
広い家の奥から準備を終えたと声が聞こえる。もう出発だ。
でも、誰も呼んでいないのに白い生き物が姿を見せた。
「やあ久しぶりだね、帆秋くれは。神浜での出来事で聞きたいことが――」
「さ、行きましょう」
キュゥべえを無視して、すたすたと歩いていってしまう姿は本当にいつも通りだ。
置いて行かれた次は帆奈ちゃんに話しかけてたけど、すぐに帆秋さんに付いて行ってしまったから結局話をできてない。佐倉さんはゆまちゃんに近づいてこないように追い払っていた。
「やれやれ、わけがわからないよ。忙しいみたいだしまた別の日に来るよ」
用事がなくても帆秋さんは無視すると思うけど、それは黙っておいた。
さて、向かった先は海浜公園。決戦の場所となったここには、あの時のように多くの魔法少女が集まっていた。人目につく場所だし、元々黒羽根や白羽根だった子はローブを脱いで来ているみたいだ。
今日はここでマギウスがなにを行っていたかの説明がある。ウワサで操られていた子なんか特に、自分の身に起きていたことを知りたいだろう。
まだまだこの先やらなければならないことはあるけど、事の顛末を話して共有して……それで一連の騒動も収束することになる。マギウスと幹部たちにとってのけじめみたいな場だ。
様子からして全員揃い切ってはいないようで、観鳥さんたちはとりあえず、待っていた魔法少女たちの輪に加わった。
その中で一番に話しかけてきたのはみとちゃんとこのみさんで、青い綺麗な花を持っていた。それにれいらちゃんとせいかちゃんが続く。
「見て見てくれはさん! これ、ナギハマクサ!」
「あのね、大嵐で吹き飛ばされちゃったものが多いからまた育てようって計画があるんだって。ブロッサムにもその話が今朝来たみたいで連絡があったから持ってきたの」
「言ってくれれば手伝ったのに」
「今日はいいの。……ね?」
柔らかい微笑みが示すのは、果たしてなんだろうね。それが帆秋さんの後ろに向けられてることは間違いないけど。
と、そこに、暇を持て余したのか今日の話の中心となる二人――里見さんと柊さんまで加わってきた。
「青いバラの花言葉は『不可能』から『奇跡』といったものに変わったそうだけど、同じく青いそれの花言葉は一体なんなのかにゃー?」
「僕としても興味がある。良いものにしろ悪いものにしろ意味があるものだからね」
「そうですよね、知りたいですよねっ! 種として似ているシロツメクサは『約束』、アカツメクサは『勤勉』などで、ベニバナツメクサが――」
「ああなると長いんです……」
れいらちゃんが言うには前にも似たようなことがあったそうだ。そのときはブロッサムの出張販売があったから止まったみたいだけど、この分じゃ止まりそうにないね。でも、話が段々花言葉から離れていって専門的なものになり始めたところで、遂に帆秋さんが話を遮って無理やり止めさせた。
あの二人はそれを助かったと言いたげな顔で見て、準備があるからって去っていこうとした。けど、裏がありそうな笑みで最後に一言だけ言ったんだ。
「わたくし、今度『果てなしのミラーズ』に行くことにしたんだー。調整屋さんが言うには付き添いがいないと危険だって話だし、付いてきてくれないかなーって」
「ミラーズってなによそれ」
「え、帆秋さん知らなかったの!?」
まあ、らしいと言えばらしいかな。ここ一年ぐらいはずっと忙しかっただろうし。
それはそれとして、マギウスはもう一人いる。
最後の最後で解放という理念すらどうでもいいと言ったアリナ・グレイ。あの決戦の時、どうして協力してくれたのかのは誰もが口を揃えてわからないと言うしかない。
どうやら彼女はいつもの調子に戻ってるようで。
「今探してるってかりんから電話が来たわ」
なんでも、かりんちゃんが迎えに行ったらいなかったとか。
それを確認した電話口から「ヴァァアアアッ!」とか「フールガール!」なんて声が聞こえるからそのうち来るだろうね。電話先のかりんちゃんもそう言っていたみたい。
あと、この場で言及すべきなのは他の街の魔法少女もいるということだろう。
まなかちゃんと話してるグループや、かこちゃんと話してるグループがそう。織莉子さんたちはなぜか衣美里ちゃんと話してる……いや、あれは勢いに押されてるだけかもしれない。
そして、あの見滝原の人たちも来ていた。そそくさと逃げようとする佐倉さんを巴さんが積極的に捕まえたのが印象深い。
まあ抵抗する気はなかったらしく、彼女はすぐに普通に話し始めた。全員が気になっていることは同じみたいで質問攻めにされている。
「鹿目さんたちに聞いたのだけど、帆秋さんの家で暮らしてるって本当なの?」
「別にすぐ出てく理由もねーし、見滝原と風見野にも行けるしな……」
まだ神浜のほうが魔女が多いという魔法少女としての理由もあるから、とも付け加えたけど、観鳥さんは見逃してないよ。言った理由も確かに真実だろう。ただ、大半は一緒にいるゆまちゃんのためのはずだ。今だってそれを隠しきれてないんだから。
「ゆま、帆奈に料理教えてもらってる!」
「ばっ、それ言うなって! ちょっと杏子!」
「知らねーよ帆奈が勝手にやってることだろ」
「そう言うあんたは料理できるの?」
「そりゃ自分で食う分ぐらいはできねぇと」
うん、それはそうだ。
帆奈ちゃんから聞いてるけど、帆秋さんの料理の腕は相変わらず酷い。まな板をカトラスで切断するし、フライパンを持てばどういうわけか折ってしまう。同じ料理教室に通ってたこのはさんは少しはマシになってるのに、どうしてこうもダメなんだか。
「……ほむらちゃん、どうしたの?」
「みんなとこうして平和に話してると、あのワルプルギスの夜を本当に倒せたんだなって、思って……今さら実感が湧くだなんて変だよね」
「ううん、わたしもね、またみんなと会えてとっても嬉しいんだ。だから同じ気持ちだよ」
そのときのほむらちゃんの様子は少し不思議だったけど、その感覚は観鳥さんの背後からかけられた声で掻き消えた。
「やっほ~令ちゃん! くれはちゃんは今日も囲まれてるけど、ちゃんとアタックしなきゃダメだぞーっ!」
「牧野チャンも普段通りに戻ったよね」
「なんのこと? くみわかんな~い」
観鳥さんが知ってる羽根の子たちは、牧野チャン以外にも来ていた。
たとえばマギウス二人の付き添いみたいになっている天音姉妹の二人。誰かになにか頼まれたのか、せわしなく移動しているゆきかさん。羽根だった……というのは語弊があるかもしれないけど、雫ちゃんもあやかちゃんの突発単独ライブを見てる。観客は途中でそっちに行ったせいかちゃんを合わせても二人しかいないけどね。
幹部クラスのみふゆさんは、噂をすればなんとやら。みかづき荘の面々と一緒に姿を見せた。合流してから来たちょっとした理由は、観鳥さんと同じだろう。
十七夜さんにひなのさんもいることだし、もう始まることだろう。だったら、そろそろ観鳥さんも自分の仕事をする番だ。
首から提げていたカメラを手に取る。マギウスの翼の広報部だった人も来てるけど、これだけは譲れない。
色々とあったけれども、真実を撮るという意志は今でも変わってないさ。
今日の出来事と、これまでのことの是非を問う気は今はない。だって、このファインダー越しに見える景色が現実だからね。
そして、元マギウスたちによる説明が始まったんだ。
自分たちの目的。イブとはどういうものだったのか。ワルプルギスの夜を呼んだ理由。ウワサというもの。自動浄化システムとドッペル。
一言で表すにはあまりにも多くの内容ではあったけれど、全員に理解してもらおうとなるべくわかりやすく説明していた。
終わったのはもう夕方になろうかという頃。
話を聞いて状況を理解した魔法少女たちの反応は実に様々だった。
そう、怨まれるだけじゃなかったんだ。
イブを育てたり、ワルプルギスの夜を呼んだり、神浜に被害を与えたりしたから、否定の感情を持つ子のほうが多いのは当たり前。でも、自動浄化システムが作られたのも事実。神浜にいる限り魔女化の恐怖に怯えなくてよくなったという安堵は大きいから、完全には否定せずに多少は肯定する子もいた。
いろはちゃんが最後に言った言葉も影響したかもね。
『同じことを繰り返さないように、みんなで一緒にどう生きるかを考えよう』。元マギウスたちが償いのために責任を果たすという意味が含まれてたと思うけど、誰一人見捨てないという意志を伝えるものでもあった。
綺麗事。夢物語。そう言われても仕方のないことを正直に実現しようとするんだもの。その欲張りな姿は、まるでどこかの誰かさんみたいだ。
だから、これだけ多くの魔法少女が一堂に会する今を無駄にはしない。責任を果たして、かつて願った解放とこれから目指す未来を掴むためにも。
「……帰りましょうか。ああ、それと観鳥」
取材を終えて荷物を片付けた観鳥さんを引き止めたのは帆秋さん。
「前に家に泊まりたいって言ってたわよね。なんなら今日でもいいけど」
その時の観鳥さんは、ぽかんとした表情をしてたんだろう。小突いてくる帆奈ちゃんのおかげですぐに戻ったけど、らしくない。
確かそれは、ワルプルギスの夜を倒した後の帰り道にふと口にしたことだった。ゆっくりと今までどうしてたのかを話してて、このみさんの家に泊まったって話を聞いたときだったと思う。
そんな些細な呟きを覚えてたんだ。なんて思ったけど、それは当たり前だよね。だって、彼女は「覚えておく」って返事をしてたんだ。
だから、その手を取った。“私”の先輩で、かけがえのない存在の、彼女の手を。
「言ったじゃない。約束は忘れないって」
ふわふわとした淡い栗色のロングヘア。青いセーラー服。ぶっきらぼうな言い方。
彼女はやっぱり、帆秋くれはなのだから。
「令ちゃん。それ、あのときの写真?」
「よく撮れてるでしょ? さすがは観鳥さんだ」
二人が喫茶店で見ていたのはワルプルギスの夜を倒した後の写真。
参加した魔法少女たちのものが並ぶ中、あるひとつを取り出す。
それは――青空の下、笑顔で写る帆秋くれは。
誰も見たことのなかった瞬間をしかと捉えたその一枚。
観鳥令は、シャッターチャンスを逃さなかったのだ。
最初の『願い』通りに、されどその心は一歩前に進んで。
少しだけ欲張りになった彼女は思う。
願わくは、それをまた、瞳を合わせて。
SEE YOU
■最後の内容
帆秋くれは 魔法少女ストーリー 3話『変わるもの、変わらないもの』
■変わるもの、変わらないもの
開放条件 『舞台装置の魔女』を撃破する。
■くれはちゃん
これからもイベントが発生するだろうし、
第二部の出来事に巻き込まれることになるだろうけれど。
それはまた、別のお話。