マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート南凪チャート   作:みみずくやしき

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後日談
新たな風、そして


 少女は這いずるしかなかった。

 脚を潰されて、痛くて涙が止まらない。けれど死にたくないからそうするしかなかった。

 

 身体を引きずるのはガラスのように透明な床で、床下にはいくつもの歯車が見えている。空間は薄暗くどこまでも続いており、赤いカーテンに似た糸のようななにかが天井の代わりをしている。かと思えば、額縁が飾られていて役割が点在していた。

 その様はとても現実のものとは言えないもので、たちが悪い悪夢のようだ。

 

 現実離れしていると言えば少女の衣装もそうだ。こんな状況とは正反対のファンシーなものはまさしく空想の魔法少女。

 しかし、彼女は『魔女』と戦う本物の『魔法少女』。願いを叶えてもらうことを対価に、おとぎ話とは程遠いこの世界に足を踏み入れたばかりの新人だった。

 

 初めは格好とファンタジーな魔法を使えることに心を動かされた。

 けれども気味の悪い魔女の結界に足を踏み入れた時に不安を覚えて、使い魔に傷つけられた時に亀裂が入り、振り子時計のような魔女に怪我を負わされた時、ついに決壊した。

 

 キュゥべえという白い生き物が言う通り些細な願いは叶った。でも、こんなことになるのなら契約なんてしなければよかった。魔法少女になんてならなければよかった。そんな思いが少女の胸中に浮かび上がる。

 

 恐怖を増長させるように、ボーンと気の抜ける振り子時計の音が聞こえた。

 

「あ、ああ……あぁっ!」

 

 段々と大きくなる音は、ゆっくりと近づいて来る異形が発したものだった。

 身体を構成するのは根のように張られた糸。それでは動けそうにないのに、確かに少女に歩みを進めている。ゆらりと揺れる振り子に描かれた逆さまの口が笑って、赤く濡れたガラス板を振り下ろす時を今か今かと待ち望んでいるようだ。

 

 身体を引きずってもあの巨体と比べたら僅かにしか進まない。襲い来る怪物が生み出した焦燥感がより先に進ませても、距離が縮まっていく。

 

「助けてよ……助けて……っ!」

 

 叫んでも声が暗い空間に響くばかり。

 こんな場所に誰が来るというのか。来たとしてもあんなのに勝てるわけがない。受け入れたくない現実に涙が溢れた。

 

 力が入らない。指が真っ平な床を滑って、もはや身体を進めることもできない。

 逃げないといけないのに、限界が来ていた。

 

 もう無理だと、諦めた。

 家族や友達とまた会いたくて自分の愚かな選択を嘆いた。ソウルジェムが黒く濁るマイナスの感情は確実な死を意味していた。

 

 だが。

 

 彼女は確かに助けを求めたのだ。

 助けてと望みを伝えたのだ。

 

 それを――その伸ばされた手を! ()()が掴まぬことがあるものか!

 

 証明と返答は遠方より飛来した刃物。振り子に突き刺さったそれは羽根を模したカトラス。

 その一手を下したならば、次の行動も決まっている。

 

 目にもとまらぬ速さで接近してきたのは緑の衣装を纏った魔法少女。

 赤い羽根が付いた帽子が特徴的な彼女は、這っていた少女に一度目をやると両手にカトラスを生成して振り子の魔女に突撃する。

 

 地面に伝う糸が刺し貫こうとその身を伸ばすも、一つたりとも当たらない。むしろすれ違うたびに軒並み切断されていく。その姿はまるで踊っているようでありつつ、無駄がない。

 円舞の相手となった魔女のガラス板は、連続で振るわれる刃が砕いた。振り子も同じように斬撃が切り裂く。

 

 舞い上がるカトラスが炎を纏う。どこまでも紅く儚い光がこの空間を照らす。

 それが空から振り落とされて、あっけなく魔女は真っ二つにされた。

 

「……大丈夫?」

 

 緑の魔法少女が言った言葉に返事が来る前に、主を失った結界が崩壊していく。気がつけば世界はよく知るものになっていて、少女が踏み込んだ路地裏に戻ってきていた。

 

 日の射す場所では少女を助けた魔法少女の姿がよく見える。ふわふわとした淡い栗色のロングヘアに人形のように白い肌をした綺麗な人物で、変身を解くと着ていたのは南凪自由学園の制服だった。

 

 そこに駆けてくる人物が一人。金髪でボリュームのあるポニーテールの魔法少女が、少し離れた位置からなにやら叫びながら近づいてくる。

 

「決まったーっ! 決まりました! さすがです! くれは選手、使い魔をバッタバッタとなぎ倒して魔女を一刀両断だ! その勇姿はこのめぐるがしかと実況させていただきました!」

「観鳥もいれば良かったわね」

「そうですね、インタビューはやっぱり――ってその子、酷い怪我ですよ! 治療しましょう!」

 

 騒がしい人物と共に簡易の魔法を施こされると、少女の痛みは段々と引いていく。

 それでやっと、助かったという実感と他に魔法少女がいたという事実が認識できた。

 

 少しは話す余裕が生まれて最初に言ったのは感謝の言葉。

 ここまでの経緯を一通り話した後、命の恩人の名前を聞いていないことに気づいて、その名前を聞いた。

 

「帆秋くれは」

 

 彼女は、やはりいつもの真顔でそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ、と息を吐く。力を抜いてさっきまで相談をしに来ていた相手が出て行った扉を見つめた。化学部の部室が本来とは別の使い方をされるのも慣れたもんだ。

 

 海浜公園でマギウスたちが行った説明会の後、アタシはさらに忙しくなった。

 黒羽根や白羽根だった魔法少女たちが相談に来ることが増えたんだ。今後の身の振り方が心配になったようで、今日もその類の真剣な話にかなり神経を使った。

 だがこれは西のやちよや東の十七夜も同じらしいし、必要なことだとわかっている。愚痴をこぼす理由もない。

 

「ないがな……」

 

 今後の事を考えると頭と胃が痛くなる。

 

 解散となった『マギウスの翼』に属していた魔法少女の数はあまりにも多すぎる。それも神浜だけじゃなく別の街の魔法少女までいる。

 

 当然、それだけ人がいると考えの違いがでてくるわけだ。

 最初は解放に縋って来た者の中にも魔法少女至上主義に傾倒していた者、ただ自分の居場所を守るために来た者など様々な者がいる。

 

 神浜にいるヤツらがこうして相談に来るならいい。問題は姿を隠したヤツらがなにをしようとしてるかだ。徒党を組んで新たな組織でも作った場合、下手すれば東西の対立が激化していた頃に逆戻りしてしまうことだってあり得る。

 

 そして市外から来た魔法少女たち。これも問題だ。

 神浜に魔女を集めていたのなら、他の場所では少なくなっていたということ。それはつまりその場所の魔法少女が困窮しているという事実を指し示している。狩り場を移した杏子なんかが良い例だろう。

 まだ魔女が多いことや自動浄化システムの情報を外に伝えたり、話が噂となって流れたりしてたらそれを聞いた他の地域の魔法少女は間違いなく来る。穢れは生き死に直結する話だからな。

 

 それに、あのワルプルギスの夜との戦いはある意味アタシらに都合が良すぎた戦いだっただろう。

 アタシらに力を授けてくれたあの羽がなければ? 『回収』や『エネルギー変換』に『心を繋げる力』、『希望を受け継ぐ力』といった倒す鍵となった固有魔法を持つ魔法少女がいなければ? そもそも、エンブリオ・イブを倒すことができて自動浄化システムが生まれたことだって。

 

 今の状況は数多の都合が良い奇跡が積み重なって生み出されたものだ。それこそあの決戦の日よりもずっと前からの折り重なりだ。なにか一つでも欠けていたらこんな笑って過ごせる時間はなかった。

 だからこそ、この先はそんな奇跡に頼らずに神浜と魔法少女を守っていけるように備えないといけない。

 

「あー……」

 

 ここまで来ると単独で動いていた鈴音の対策をしていた時の方が楽だった。帆奈の監視なんて仕事もあったがまだマシだ。

 

 そんなアタシのことを察知したのかそれともタイミングが良いのか、扉が開いて入ってくるヤツがいた。同じ南凪の生徒でダークブラウンの髪に優しそうな顔。微笑む姿はまさしく聖母だと観鳥報でも取り上げられていたのを覚えている。

 

「ひなのちゃん、お疲れ様」

「すまん助かる」

 

 差し出されたお茶に礼を言ってから受け取る。頼んだわけじゃないが話し疲れてちょうど欲しかったところだ。こういう細かな気遣いがそう言われる所以なんだと身に染みた。

 

 こういうことがあると、説明会が起こした出来事は悪いことばかりではないと思える。

 あの一件は近くにいた魔法少女と出会うきっかけにもなった。大っぴらに話すことじゃないから隣人が魔法少女だったなんてこともまあある。天音月夜と七瀬ゆきかの二人とかな。

 

 今も微笑む彼女――『由貴(ゆき) 真里愛(まりあ)』もその口。ワルプルギスの夜の時は、子供たちの安全を守るために戦っていたから姿を見かけなかったそうだ。

 

「……ん?」

 

 ふと窓際から下を覗くと淡い栗色の髪が走っていくのが見えた。それに追従してるのは金髪だが令じゃない。ここ最近珍しくもなくなってる光景だ。

 

「くれはちゃんは今日も元気ね」

「アイツはもう少し落ち着いたほうが良いと思うがな」

 

 帆秋のことは最近はくれはと名前で呼ぶようにした。このみと帆奈には悪いがアタシは令を推すからな。理由はそんなとこだ。

 

 で、事あるごとにアイツに付いて行って実況してるのが放送部の『枇々木(ひびき) めぐる』。ここ最近契約したらしい新人だ。

 

 そう、新人がいるということは、すなわちまたキュゥべえの姿を見るようになったってことだ。

 灯花が言うには自動浄化システムが出来ている以上被膜は張られているはず。なにかの影響でキュゥべえを遮断する効果が消えてるのかそれとも別のルートでもあるのかはわからん。被膜が消えた瞬間に入ってきて取り残されたのかもしれん。

 

 とにかく、魔法少女が増えたなんてのは本来喜ぶべきことじゃない。こちら側の世界を知らずに暮らせるならそれが一番だし、わざわざ危険に身を投じる必要なんてないんだから。

 

 ……いかん。最近は考え込むことが多くなった。

 

「そうだひなのちゃん」

「くれはが学童の手伝いでなんかやらかしたか? そういうのは令に言ってくれ」

「大丈夫よ、本当によく手伝ってくれて……じゃなくて、今日って勉強会の日じゃなかった?」

「……あーっ! 逃げたな!?」

 

 相談が続いてうっかりしてたが勉強会の日だ。水徳商店街の厚意で普段打ち合わせに使う場所を使わせてもらってるってのにアタシがこんな体たらくじゃいけない。

 

 真里愛に別れを告げて部室を出た後、少し遅れると衣美里に連絡を入れて、アイツの行きそうな場所を知ってるヤツらに片っ端から電話する。

 

 その結果、向かった場所はあっさりとわかった。

 学校を出て電車に乗って、中央区に水名区まで通り過ぎて着いたのは新西区。ここまで来れば誰でも予想がつく。当然、『フラワーショップ・ブロッサム』だ。

 

 なにかイベントをやってるみたいで店の前には人が多い。非常に、ひっじょーに屈辱的だがなにをやってるのかこの背丈じゃ見えん。だがあの騒がしい声は雑踏に負けない大きさで実況をしてくれていた。

 

「さあ次、次のお題は!? はいそこの学生さん! おーっとクローバーだそうで――っ!? なんと、くれは選手もう作っております! 『ク』の時点で緑の風船に手を伸ばしていたというのでしょうか!」 

「なにやってんだアイツ……」

 

 湧き上がる歓声にアタシの声はかき消される。

 

 聞いた感じバルーンアートをやってるみたいだがアイツはいつから大道芸人になったんだ。この分だともうそれで稼げるんじゃないかってぐらいの盛り上がり方だ。

 だが、ジャグリングとか手品とか楽器もできるのだから不思議な話でもない。化学教室での待ち時間に子供たちに見せてたりしてたが、バルーンアートをやらせたらそっちに持ってかれそうだ。

 

 どうにか人ごみをかき分けて前に出る。やっと見えた店先には横長のテーブルに多くの風船が置かれていた。既に花の見た目になっているものが多い。

 

 作り上げてるのは実況の通りにいるくれはだ。いつもの南凪の制服にブロッサムのエプロンを着ている。真顔なのに手だけは素早く動いている辺りがアンバランスだ。

 ブロッサムにはこのみもいるはずだが、見ると奥の方で花を包んでいた。代わりに店頭でくれはと並んでいたのはかこだ。

 

「どうしたの」

「今日勉強会だろ。行くぞ」

「……」

「黙々と手を動かすなーっ! というかめぐる、お前も少しはコイツを止めろ!」

「いや~こんな実況しがいがある人なかなかいなくて!」

 

 めぐるの言うこともわからなくはない。相変わらず神出鬼没であらゆる出来事に首を突っ込むコイツに付いて行けばそりゃ実況できるだろう。

 だが、それとこれとは話が別。赤点ギリギリなのも相変わらずなのだから。

 

「あの、行かないと今度の会合でななかさんがまた……」

「行くわ」

 

 かこに言われてなにを思ったのか随分と変わり身が早い。今日はここまでだと集まってた人たちに言ってすたすたと店内に戻っていく。

 それに付いて行くとこのみと目が合った。

 

「ちょっと借りてくぞ。うちは自由な校風だが試験はあるもんでな」

「あ、勉強会ですね。今日はかこちゃんもいて手は足りてますから……」

 

 その言い方はどことなく名残惜しさを感じさせるものだった。

 いや、だからって露骨な視線をくれはに向けるな微笑みかけるなそこはわかりやすすぎるぞ。

 

「また明日も来るわ」

「うん、待ってる。花もいつでも用意できるから。……それと、また家に来てね」

「え、ええ……」

「お前ら何回目だそれ……」

 

 ずっと住んでる帆奈と張り合ってるのか、くれはがこのみと令の家に呼ばれることは多い。親も満更じゃないみたいで歓迎してくれるそうだが限度があるだろ限度が。

 逆に泊まりに行ってることも多いがあの家は広いしそっちはまあ……いいか……。

 

 それで、このみとかこはこのままブロッサムに、めぐるはこれで帰るようだった。アタシらは電車で参京区へ。

 

 移動中に話したことは特別なことでもなんでもない。常日頃会ってるのだから今話さないといけないことも別にない。アイツから言ってくるのは観鳥報のネコ日記の手伝いをしただとか、また料理教室に行こうかなんて話。手伝いはいいが料理教室はやめとけ、と返すだけの平和な会話だった。

 

 ここで終われば平和だなで話が済んだが、念話が届く。大っぴらに話せない内容なのはこの時点でわかった。

 

(この前、契約したての魔法少女を助けたわ)

(みたまから聞いた。住んでるとこの近くの魔法少女とチームを組ませたらしいな)

(……思ったのよ。めぐるも危なかったって)

 

 くれはの言う通り、めぐるも魔法少女としての初戦はギリギリだったそうだ。校内でキュゥべえと契約して即結界に向かわされたようで、右も左もわからずに魔女と戦わされたらしい。

 偶然来ていたももことくれはの二人が助けに入らなかったら命はなかったかもしれない。めぐるに魔法少女の素質があったから助けが間に合ったものの、黒羽根になったような魔法少女では結果が見えるというもの。

 

 互助組織の件も早く進めないといかん。次の話し合いはいつだったか……。

 

 そうしてまた頭を悩ませていると、いつの間にか水徳商店街に着いていた。

 寄合所の前には参京院教育学園の制服を着た生徒がいる。それ自体は参京区であるから珍しくもない。しかし、芯の通った佇まいと銀色のアンダーリムの眼鏡、そのまた奥に鋭い視線を合わせ持つヤツはそうそういないだろう。常盤ななかだ。

 

「お待ちしていました」

 

 後ずさるくれはの腕を掴み、前に押し出す。

 

「べ、勉強会には来たじゃない……」

「確かにそれと関係はありません。あきらさんから見てないかと連絡が来たので、来週の会合の際に同じ事がないように釘を刺しに来ただけですから」

「……あの話?」

「あの話です」

 

 この二人の会話はさっぱりだが、当人同士の話に立ち入るべきじゃない。

 

 だが、会合がどんなものかは少しは知っている。もう何度も行われてるそうで、最初はあの一回目の昏倒事件の後だったとか。随分と前の話だ。

 メンバーはななかたち四人にこのはたち三人。それとくれはと帆奈。たまに別の魔法少女も来るらしいが今じゃその九人で固まっている。

 

 「ではこれで」と去っていく後ろ姿を見て、今日は魔法少女と会ってばかりだなと思う。それもこれも全部、嫌々ながらも中に入っていくコイツの関係だ。事あるごとに魔法少女の知り合いを増やしていって今は何人いるんだか。

 アタシだけでも衣美里を通じて会ってただろうヤツはいる。けど、ななかや帆奈なんかは顔を知っている程度に留まっていたかもしれない。

 

 そしてそれはこの勉強会もそうだ。明日香にささら、梨花にれんやらそこそこの数がいるが、集まってるヤツは全員魔法少女の繋がりで知り合ってる。

 

 くれはがパイプ椅子を引いて座ると、待っていたかのようにその右には令、左には帆奈が椅子を持ってきて座った。

 

「……というかなんでお前らがいるんだ。令は撮影で帆奈はウォールナッツじゃなかったか?」

「観鳥さんがいないと勉強したくない人がいるみたいでね」

「あたしは元々来るつもりだったけど?」

「そういうことにしとくよ」

 

 二人がくれはを挟んで言い合いをしてるがいつものことだ。そんなことより準備だ準備。

 

「くれっちー、今特に悪いのはー?」

「日本史。ほらこれ」

「どれどれ……あの、さすがに私もここまでできないのはどうかと……」

「明日香がそこまで言うなんて相当だよこれ……」

 

 パラパラとノートをめくりつつその様子を眺める。そういや化学教室で使う薬品もロクに覚えてなかったな。

 今日はその辺をやろうかと思い始めたとき、梨花が疑問を口にした。

 

「そういえばくれセンパイどこ行ってたの? いつもは嫌そうでもちゃんと来るのに」

「……ブ、ブロッサム」

「へえ、ブロッサム」

「そっかそこ行ってたんだ~?」

「あ、あの……怖いです……はい……」

 

 ……まーた始まるぞ。

 

「帆秋さん、今日ってアルバイトの日じゃないよね。観鳥さんにはお見通しだよ」

「用があるって言ってたのはそのことだったんだ? あはっ! あたしの用は断って、またあの騒がしい魔法少女と一緒に行ったわけ?」 

「そうじゃない、そうじゃないわ」

「ちゃんと教えてくれてたらこのメロンの缶ジュースあげようかと思ってたんだけどさ」

「抜け駆け? 抜け目ないね~」

 

 あれは半分遊んでる。それもいつものことだ。

 というか令は観鳥報の取材、帆奈は家、このみはブロッサムってそれぞれ絶対に来る場所があるんだからそれでいいと思うんだが、あんな感じに張り合っている。それでいて仲が良いみたいで互いに遠慮がない。

 よくもまあポンポンと言葉が出るもんだ。いや、令についていける帆奈が成長してるのか? 

 

 まあ、それはそれとして。

 

「その辺にしとけー、日が暮れるぞー」

 

 アタシの一言でピタっと止まったのを見て、くれはが安堵の息を吐く。

 その後は特段問題もなく勉強会らしい風景が続いていった。

 

 令は元々くれはに教えてただけあってのみこみが早い。人に教えるにはその三倍理解する必要があるなんて言うが、この様子を見てるとその通りだと思う。一応休学中の分を取り戻すために来てるはずなんだがやっぱりくれはに教えることになっている。

 

 帆奈はあんなだが真面目だ。最初の頃は反発もあったが仲良くやってる。

 それを示すように、マギウスの件が片付いて心配事も減ったからか周囲への歩み寄りも増えていた。

 

「帆奈さん、ここなんですけど……」

「ああ、そこならこうやって――」

 

 その中でも帆奈と意外と仲が良いのはれんだ。どういうわけだが話が合うようでくれはがいない時はもっと話してたりもする。梨花が笑顔で微笑ましく見てる辺り仲良くやってるようだ。

 

 始まる前に色々とあったが今日も何事もなく終わるかと思ったとき、くれはが 『政治・経済』と表紙に書かれた本を見て呟いた。 

 

「……裁判、ね」

 

 そう言う理由はあの説明会の後で一番多かった質問にある。

 それは『マギウスと幹部の処遇』だ。多くの羽根たちを率いてやってきたことを考えれば当然のことだろう。

 しかし、ワルプルギスの夜の後処理や使い切ったグリーフシードの確保なんかでその対応が後手に回っていた。もうそろそろどういう判断を下すかの結論を出さないといけない時期だ。

 

 だが、だがなぁ……これも頭が痛くなる話だ。

 洗脳されてたわけじゃないとはいえ因果が途切れて記憶を失っていて、なんだかんだでアリナの凶行はくれはが止めたし、スパイのような行動をしていた織莉子なんてのもいる。神浜だけじゃなく他の街の魔法少女全員が納得する答えを出すなんて到底無理。

 

 だから裁判という形でケリをつけると灯花は言ってたが、それもどうだか。かと言ってうやむやにもできんし……。

 

 また色々と考えだした思考を頭を振って無理やり打ち切る。それは今考えることじゃない。

 それで集中しようと前を向いたが、くれはがいないことに気が付いた。

 

「……どこ行った」

「くれっちなら電話って言って外行ったよー?」

 

 だったら別に珍しいことでもない。なんせ広い交友関係のせいでスケジュールがかなり埋まってる。

 無論、勉強会を優先させてるがその内容は数多。レナやももことライブに行ったかと思えば中央学園のヤツらとハイキングをしてる。最近は水名に行ったかと思えばゲームセンターにいたらしいし、前々から趣味がどうなってるんだかわからん。

 

 で、衣美里に伝えた内容が嘘であるはずもなくスマートフォンを片手に戻ってきた。

 そしてアイツはかかってきた電話の内容と事情を言う前に高らかに宣言したんだ。

 

「弁護士になるわ」

 




■今回の内容
 枇々木めぐる 魔法少女ストーリー 1話 『魔法少女の秘密をめぐって』(一部分)

■枇々木 めぐる
 投稿中に増えた南凪魔法少女その1。南凪の喋る機関銃。
 南凪はこんな奴らばっかりかよぉ!?

■由貴 真里愛
 投稿中に増えた南凪魔法少女その2。聖母。
 学童保育でアルバイトしているパペマペ。みゃーこ先輩枠。

■モブ魔法少女
 名も無い誰か。『黒』などの枠。
 新規でご契約されました。もう許せるぞオイ!

■白タヌキ
 被膜があってもいるヤツ。
 完全に追い出すと後で神浜出身の魔法少女を増やせなくなるから……(小声)。

■後日談
 という名の劇場版的な話。別にみとさんはメタル化しない。
 (文字数は)12万くらい(の予定)じゃないすか? 案外少ないっす……。

■めぐるMSS1話
 また屋上の魔女じゃねぇか!

■めぐるの契約タイミング違くない?
 めぐるMSSは調整屋開店初期。なので本当はずっと前。
 ここはつじつま合わせということで気にするな! 

■RTA要素は?
 タイマーストップしてしまったのでお亡くなりになりました。
 (語録がないのは)これはないですね。クキキキキ……。

■時間経過し過ぎて学年が変わってるのでは?
 バカ野郎お前いいだろそんなこと! ホラ飲め飲め!




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