マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート南凪チャート 作:みみずくやしき
そもそも、魔法少女を裁くことは可能なのだろうか。
自分が裁判の話を聞いた時に最初に思ったのはそのことだ。遠く離れた地の人間を魔法で殺しましたなどと一般人に裁けるはずがなく、種も仕掛けもない密室殺人を容易に起こせてしまう存在をどう扱えばいい。
汎用的な魔法なら魔法少女であればまだわかる。だが、固有魔法となれば『暗示』や『幻覚』に『偽装』など魔法少女同士どころか本人でも把握しきれない魔法が多くある。
そして、もっとも厄介なのは『願い』だ。どこまでも便利なようで不便で、気が利かないかと思えば常軌を逸した度合いの事象を引き起こすそれ。
例えば誰かを殺したとしよう。その人物を『願い』で生き返らせたら、殺したという事実とその人物が生きているという現実が食い違う。どちらを真実と受け取ればいい?
それでも傷つけたという罪状で裁くことはできるだろう。だが――『殺したことをなかったことにして』と願ったら、どうなる。
干渉されるのは、因果だ。原因と結果と言ってもいい。キュゥべえの言うそれは過去から未来へ連綿と繋がる運命のようなものだろう。現実で言うならば、ガラスのコップを落としたから割れたという一本の糸で結ばれた事象。
それが実在するものだとはうい君の身に起きたことで説明できる。世界から切り離されたことで、彼女がいなかったものとして世界が書き換えられた。そもそものコップを消してしまったのだ。だから糸はぷっつりと切れて、『落とした』という原因と『割れた』という結果まで消えた。
おそらく『願い』でも同じことはできる。最初からなかったことのように世界を書き換えることができてしまう。そうなったら証拠もなにもあったものではない。
それ以外にも今の状況で考えてみればいい。もしもどこかに『マギウスに暴走して欲しい』と願っていた魔法少女がいたら。……または、直接的でなくとも神浜に被害を及ぼすことを願ったら。その場合、誰が悪いのだ。願った魔法少女か? そう願わせた周囲の環境か? それとも大元のキュゥべえか? そんなことを考えていたら終わりがない。
つまり、魔法少女の裁判において重要なのは確実に確認できる事実。それに対して罪を考えるしかない。後出しのもしもを考えていたら決着など夢のまた夢だ。
と、いう考えを七海や帆秋たちに述べた。それが魔法少女裁判を形作る一つになっただろう。これから先に、話し合いで解決するためにも必要なことだからな。
そして、それとは別に話して聞かせた相手がいた。
「……『願い』ですか」
一瞬だけ悔やむような感情を表面に見せた彼女がもう一人の検事。
金髪に大人びた容姿を持つ少女の名は――奏遥香君だ。中学三年生ではあるが、しっかりとしていてリーダーとしての責任などを持っていると聞いている。学業は優秀でスポーツも万能。生徒会長もこなしているそうで、周囲からの信頼も厚いらしい。
この役割に誰を選出するかという話し合いにおいて、肝となったのは感情の問題だ。みかづき荘の面々が里見君たちに対して情を抱くのは当然の話だろう。それ以外にも当事者たる神浜の魔法少女も同様。逆に執拗に恨む者がいても公平性を失ってしまう結果になりかねない。自分の中にそういった感情がないわけではないが、厳しすぎず甘すぎない罰にする矜持はある。
こういった理由から神浜の魔法少女以外の目ならばどうだという話となった。そして、呼ばれたのが彼女というわけだ。
自分から見ても信頼に足る人物に見えるが、一つだけ気になることがある。彼女を呼ぶと決まった時、更紗君が自分に「あんまり頼りすぎないほうが良いよ」と言ったのだ。それは彼女がホオズキ市に出向いていたという時期が関係しているはず。自分や常盤君が帆秋を監督不行き届きとして散々説教した話だ。
しかして――今はその理由を追求する時ではないだろう。
「確かに世界が書き換えられたら目に見える証拠はなくなります。ですが――」
「うむ、方法はあるな」
奏君の言う通り、『願い』の結果によっては目に見えるものは消え記憶まで消え去る。
だが、願った本人が覚えていなければ誰がそれを証明すると言うのだ。もしも本人まで忘れていたら魔法少女になった因果が成立しなくなってしまう。存在しなければ、それを願う理由もないのだから。
そして本人が覚えているのならば――あるではないか。確実に今の事実を見る手段が。
自分の『読心』と相野君の『心を繋げる力』。それらで記憶を読み取れば、そこに残った真実を覗くことができる。更紗君の時のような妨害があってもその妨害の事実を知ることができれば十分だ。
「なるほど、この資料はそれで……」
彼女が手に取った紙は事前に準備をしたもの。
このような調査を帆秋は環君と行ったようだが、自分が供にしたのは相野君だ。その理由は固有魔法。自分と合わせればより効率的なのは間違いないが、彼女がいなければならない理由もある。
自分たちが裁くのは、魔法少女にしか知りえない社会だ。一般人には自然災害として現れた被害は裁ける内容ではない。ゆえに、一般に言う裁判とは少々異なる。下手すれば身内可愛さに手を抜いたと言われかねんが。
相違点は様々だが……最も大きく、かつ重要なのは大多数の魔法少女の納得が必要なことだろう。万年桜のウワサや帆秋も含めて自分たちがやることは事実の指摘をして適切な罰を見つけ出すこと。あとはそれが受け入れられるかだ。
その辺りは七海たちが最初から考えていた第二審と第三審の内容を利用させてもらっている。違いと言えば、意見書を第一審でも使うことだろうか。
そのためにも、他人に証明するには相野君の魔法でより深く読み取らないと信憑性がない。納得させるには彼女のほうが都合が良かった。
そうして事前の打ち合わせを済ませて、自分たちは法廷となる万年桜の結界に足を踏み入れた。
話に聞いたところ内部は桜の木と四つの椅子しかなかったそうだが、そこはウワサ。内部を自在に作り変えて傍聴席まである法廷が出来上がっていた。左右には検事側と弁護側の席があり、最奥には万年桜のウワサが既に待機している。
傍聴席は足りなくなれば万年桜君がその場で増やすらしいが、もう魔法少女で埋まっていた。常日頃見知った顔もいれば、共にマギウスの翼と戦った者、元羽根だった者、決戦の日と説明会までなんの関係もなかった者と様々だ。
その中の一人がこちらに気づくと近づいて来て、奏君に声をかけた。
「ハルカ先輩、頑張ってください」
青髪の彼女は神浜で見る顔ではない。奏君と同じくホオズキ市の魔法少女である詩音千里君だ。彼女は『魔法効果の解除』という強力な固有魔法を持っているそうで、彼女で魔法を解いて自分か相野君で記憶を見ればより確実だなと思ったものだ。更紗君の時ももっとスムーズにいったかもしれん。
今日来ているのは彼女だけのようで、他の魔法少女の姿はない。別件だが、いずれあの天乃鈴音のことも話をしなければならないだろう。
軽く詩音君と話してから検事側の椅子に座る。向かい側の弁護側にはまだ誰の姿もない。更紗君は既に傍聴席にいるし、巴君と美国君を連れてきた佐倉君は用は済んだとばかりに帰ってしまった。
傍聴席以外に移動する者が増えたのはそれから少しした後。画伯もとい御園君に引っ張られたアリナがやってきた。それからすぐに七海たちみかづき荘の面々に連れられて里見君、柊君、梓、天音姉妹に八雲が姿を見せる。
なにやら七海と話した環君は意気込んで弁護側に向かうが。
「ええっ!? くれはさんまだ来てないんですか!?」
空のその場所を見て慌てふためいた。
……帆秋、なにをしている。もう開廷するというのにどこで油を売っているというのだ。
環君が関係者に聞いても誰もわからない。都が少し前に探しに出て行った以上、わかる者は同じくここにいない観鳥君ぐらいなものだろう。
肩を落として帰ってきた彼女は、こちら側にいる奏君に一礼した。
「いろはさん、大丈夫かしら……」
「ああ見えて芯の強い人間だ。決戦の日と説明会の時にその一端は見えたのではないか?」
奏君と環君は事前に顔合わせをしているが、直接会ったのはそれが初めてだという。最初に来た時はそもそも環君はまだ神浜におらず、次は『ワルプルギスの夜』との戦いでそれどころではなかった。説明会も同じだ。
ただ、同い年で同学年ということもあってか気は合うようではあった。うい君と話す姿はまるで姉のようだったとか。
「しかし、これ以上待つのも厳しいか。環君だけとなるが――」
「待った」
万年桜君に合図をしようとしたところ、それを弁護側から止める声が届いた。
見るといつの間にか帆秋が立っている。相変わらず真顔だが汗が浮かんでいて、急いで来たのは明白だ。傍聴席を見ると同じような状態の都に観鳥君がいるところを見ると三人で来たようだ。
「……ギリギリ?」
「本当にギリギリですよ……」
「│……それでは開廷します│」
帆秋の謝罪も程々に、万年桜君が開始を告げる。
対象となった七人が立つ。その数を相手にすらすらと罪状を読み上げるところは流石ウワサと言ったところだ。
里見君の罪状は『マギウスの計画を一から考えたこと』、『神浜に魔女を呼び寄せ一般人に被害を与えたこと』、『魔女を呼び寄せることで市外の魔法少女を危険に晒したこと』、『電波などの技術を使用し生活を脅かしたこと』、『構成員を騙し錯乱状態に陥れたこと』、『それらの被害を想定した上で行動したこと』など。
柊君の罪状は『ウワサを制作し一般市民を巻き込んだこと』、『魔女や少女を呼び寄せるサポートをしたこと』、『意図的に大量被害を出そうとした未遂事件があること』、『構成員をウワサで操ったこと』……他にも里見君と同一のものもあるな。
そして、アリナ・グレイ。彼女の罪状はマギウス共通のものに加えて『魔女を育てていたこと』、『イブを操って多大な被害を出そうとしたこと』などの魔女に関するものが多い。
だが、それだけだ。里見君のように大元の計画や作戦を考え出したわけではなく、柊君のようにウワサを創造したわけでもない。魔女の育成にウワサの利用は罪だと言えるが、そこまでだ。本人の性格や思想を罪に問うわけにもいかない。
彼女に関しては見た通りだろう。それが性質を示している。
梓は『マギウスの翼の勧誘・維持の軸であり続けたこと』。天音姉妹は『最初期から白羽根として活動してきたこと』。……八雲は『中立を偽り、グリーフシードを横流ししてエンブリオ・イブの成長への貢献をし続けたこと』、『マギウスの翼へ情報を流していたこと』。
この四人は罪と軽減できる行動がわかりやすい。特に天音姉妹を重く裁いては他の羽根全てに同様の判断を下さねばならなくなる。
つまり、この裁判で重要なのはマギウスへの処遇。特に全ての計画を立てて先導した主犯たる里見君が一番の争点だろう。
「│以上、相違はありませんか│」
「そのとーりだよ」と、里見君の声と同様の意図の声が聞こえる。
ここからが自分たちの仕事だ。だが、主に帆秋が動くことになるだろう。本来なら検事は疑わしきを立証せねばならないが、こと今回に限ってはその殆どに多数の目撃者がいる。
よって、帆秋たちは目に見えない心情的部分でいかに防御をするか、自分たちはそれが過度にならないように抑えるかとなる。
「ねむに聞きたいことがあるわ。……ウワサで暴走していた黒羽根は一般人には見えていなかった。だから、その時はもう一般人を巻き込もうとはしてなかったはずよ」
「結果的に、だけどね。あの時の僕は余計な邪魔が入ることを懸念していた。こちらから一方的に攻撃できるメリットもあったから」
「│……検事側│」
「ウワサによる暴走後、神浜では意図的な停電が起きています。その他にもワルプルギスの夜やエンブリオ・イブによる被害を容認していたことから、巻き込もうとしていないというのは道理が通りません」
「ぐっ……」
今のは無理筋というものだ。魔女とウワサは一般人に大きな被害を出している。そのような犠牲の上で自分たちの目的を果たそうとしたのは、少なくとも記憶を取り戻すまでは確実に同じだっただろう。
それからも帆秋と環君は質問を重ねるが、返ってくるのは罪を認める言葉ばかり。自分たちも事実を返すしかない。
「そんなに積極的に被害を出そうとしてたわけじゃ……」
「遊園地草原の作戦が成功していれば多大な被害が出ていたことは間違いないだろう」
「異議あ――」
「くれはさん、全部聞いてからにしましょうよ」
「ウワサの力がなければアリナを止められなかった」
「ウワサがなければその状況にはなっていなかったがな」
そのような言葉が何度か交わされ、幾人かの証人を呼び出して裁判が続けられるが、決定的なものはない。八雲たちに対しても既存のもの以上の要素は出てこないだろう。
「そもそもだ。帆秋、マギウスにより苦しめられたのは君も同じだろう。自分を厭わずドッペルを使い自身を痛めつけて他者を恐怖に陥れた。君の意思で行ったことだが……もとを正せばそれも彼女たちのせいだと言えるのではないか?」
「……それは」
じりじりとした緊張感が包む法廷で、環君が勢い良く手を挙げた。
「万年桜さん! 一旦お休みをお願いします!」
「│検事側、承諾しますか?│」
「うむ、自分たちに異論はない」
「│……休廷。ニ十分後に再開します│」
用意された椅子に座り込み、向こう側を眺める。
今のは状況が芳しくないと悟った環君の独断だろう。なにやら二人が話した後、傍聴席への方へと歩いて行った。里見君たちも一旦移動している。
それより自分が気にするべきなのは隣のもう一人の検事だ。先ほどまでずっと気を張っていたからか、ゆっくりと深く息を吐いて落ち着こうとしていた。
「すみません、少し疲れて……」
「気にするな。人を裁くことは難しい。誰しも精神に負担をかけるだろう」
精力的に善行に勤しむ聖人君子のような魔法少女だと評される彼女もまた、一人の人間だ。完璧な人間などいない。だからこそ手を取り合うのだ。自分もその一助に――む、こんなことを言うと相野君や帆秋のようだ。
「詩音君と話してきたらどうだ? リラックスできるかもしれん」
「いえ、今は裁判に集中したいので……」
そうか、と返事をするもこのまま黙っているのもばつが悪い。かと言って都合良くリラックスできる話題を持っているわけでもない。
「……奏君、この裁判を行う意味はわかるか」
「それは……私見でいいですか」
「もちろんだ。神浜以外の者がここまで触れてきてどう思った?」
ともすれば話題の選択を間違えたかもしれないと頭を過ったが、彼女は否定の感情をおくびにも出さず、自分の目を見てしっかりと伝えた。
「やはり、一人の魔法少女としては重いです。被害者の皆さんが納得するように結果を出さなければならないというのは特に。住んでいる人たちに所属していた人たちの思いは私よりも大きいでしょうから」
……一度根付いた感情はそう簡単には消えないだろう。解消することが絶対にないとは言い切れないが、常盤君と更紗君のような関係が奇跡的なのだ。もっと嫌悪に満ちた関係でもおかしくない。
「ですが、いつまでも先に進めないのも違う。皆さんの心の整理をつけるために行っている、そう私は思っています」
彼女の考えは正しいはずだ。『全員が納得する答えを出すなんて到底無理』と都が言っていたように、どこかで決着をつけなければなるまい。
そして奏君は、より強い意志を持って言葉を続けた。
「十七夜さん」
「なんだ?」
「……たとえ全てが罪を忘れてしまっても、本人はいつまでも覚えています。それはとても苦しいことだけど……だからこそ、向き合う必要があると思うんです。この裁判にはそういう意味もあるんじゃないでしょうか」
「それは――」
ある意味で彼女らしくない語気に一瞬言葉を詰まらせるも、それが信念を持った発言だとすぐに理解する。
体験談のように真に迫ったそれは、自分に一考の時間を必要とさせた。やや時間をおいてから、自分なりの答えを二言三言返すと、休廷の時間は終わっていたのだった。
再び向かい側に立つ帆秋と環君もこの間になにかをしていたようで、纏う雰囲気が少々違う。
「│それでは再開します。続いて│――」
「待った!」
こうして止める声は二度目だが今度は随分と勢いがある。しかしいきなり止めるとはどういうつもりだろうか。
帆秋はなにやら紙を取り出し、それを高らかに掲げた。
「ここに聖リリアンナ学園の取材結果があるわ」
「│証拠は事前に提出してください│」
「……そ、そうね」
文句を言いつつも受け取った万年桜君は、内容を読み上げる。
それは学校での活動報告だった。
曰く、最近は縦割り授業で同じ班の下級生に算数を教えてあげているそうだ。それもマギウスとして敵対していた頃の姿からは想像もできないほど優しく、かつわかりやすく教えてくれるから教師からも評判が良いのだとか。
時期的には彼女たちがマギウスであった頃はそうではなかったらしく、怒ることさえあったようだ。
「灯花、その話……」
「そうだよ……灯花ちゃんは、本当は喜びを他人に与えられる子なんだよ……院内学級の自由課題の時だって……」
反応したのは梓と環君だ。驚愕と想起、その意味は違えど抱える感情は似ている。
「記憶を取り戻してからの行動の変化はある。更生の兆しは見えるはずよ」
遅れていた理由はどうやらその証言を取りに行ったことらしい。最近は鳴りを潜めたかと思ったが、この分だとまた不審者行動を起こしているようだ。環君に時折なにかを聞く少々抜けているところなども変わらない。
……だが、その甲斐があったようだ。
おそらくだが、うい君が消えたことで環君とも出会わなくなった結果、本来なら成長していたような倫理観まで消えていたのだろう。それは里見君だけではなく柊君も同じ。今の二人ならマギウスであった頃の行動はしないという証明には些か届かないが、これには指摘することもない。新たな要素だ。
その後、彼女の言は柊君へも及ぶ。元より穏便な面が見られた彼女にも、参京院で多少の変化はあったようだ。
「十七夜、休廷前の問いの答えだけど……だとしても、少なくとも私は許すわ。だからここに立っている。そう――……えーと……いろは……」
「たぶん、不起訴処分かと……」
「不起訴処分ってやつよ」
そうだ。魔法少女の裁判で必要なのは宥恕の感情。被害者の許す気持ちがあるかどうか。
自分たちの魔法で真実に限りなく近づいたとしても、その真実まで捏造されていたり因果が断ち切られていたらもはや手の打ちようがない。自慢げに言ったが、うい君の例では無力なのだ。結局のところ、最後は加害者の反省の態度と再発の危険性、それに被害者の感情。やり直しの機会を与えられるかどうかだ。
今は確かにそう思うが、以前の自分であれば徹底的に潰していたかもしれん。
……何故だろうな。いつの間にか、西への恨みつらみが協調への思いに変わっていったのだ。魔法少女同士で境界なく手を取り合ったからだろうか。それとも――君を見ていたからか。
思えば、始めて出会った時から幾度となく力を合わせてきた。その度に良くも悪くも驚かされたものだ。君の思い、信念、そして境遇と偶然を変える意志。それを信じられぬ自分ではない。
「万年桜君。意見書は届いているな?」
「│もちろん│」
「ならば、意見陳述に移ろう」
帆秋のような者もいればそうでない者もいる。それを広く知るためのそれだ。なに、元よりこれが一番の比重を占めるのだ。遅いか早いかでしかない。
読み上げられていくそれは、自分の知らぬ者もいる魔法少女たちの声だ。
『罰を受けないのはモヤモヤするけど、だからって殺すのは違うと思う』
『神浜市の魔法少女が団結しようとしているのにまた殺伐とするのは残念。見せしめのようなことはしないほうが良いと思います』
『自分の住んでた街のこともあるけど、償うのなら殺す以外にもあるはず』
『今はまだ許せない。強い魔女をバラまいて人が死んだんだ』
『自動浄化システムに生かされたことは事実。これからもその恩恵に預かるのだから目を背けてはいけない』
『勢いで死んでって言ってしまいそう。特に魔女を育てて被害を出したのは許せないし、顔を見たら感情が爆発する。……でも、自分の気持ちを確認するためにもまだ死んでほしくない』
『決戦の時、マギウスも一緒に戦うって聞いて恐れた私たちをみふゆさんたちが説得してくれたことは覚えています。騙された、裏切られたって気持ちはあるけど……三人と一緒に戦って、少しは許してもいいかなって思いました』
『年が近いので、話してみたいです』
犯した罪に対する罰と彼女たちの求めるもの。それを一致させるのが今の仕事。その手はここまで尽くしてきただろう。
「――│判決を下す│」
元より静寂に包まれた法廷が、衣擦れの音さえ騒音のように静まり返る。万年桜君の言葉を一言一句聞き逃さぬように誰もが耳を傾けていた。
「│多数の魔法少女を率いたマギウス、そして幹部たちの行いは非道なものである。しかし、彼女たちが方針を改めなければあの状況を打開できなかったのもまた事実であり――」
そのような前置きから始まった結果は、各人それぞれに詳細が告げられていった。
結果、梓と八雲は監察。天音姉妹は他の羽根たちと同様に無罪とする判決が下されたのだ。
そして、マギウスの三人が前に出るように指示される。
「│里見灯花、柊ねむは条件付無力化刑。自身の生命の危機に陥った場合、その状況を打開するためにだけ変身を認める。また、自動浄化システムの研究においてのみ、変身が必要な場合には地域リーダー同士の合議の結果によって変身も可能とする│」
極刑になることがない以上、無力化刑が一番重い刑だ。それが与えられたことに思うところはあるだろう。
だが、付け加えられた条件は彼女たちにとっては大いに意味がある。自動浄化システムこそ彼女たちの功績であり最初の願い。そしてそれを求めたからマギウスの翼が出来上がって今の神浜があるのだから。
「アリナ先輩は……?」
傍聴席の御園君の声が僅かに聞こえる。ここまで名の上がっていない彼女を心配するのも無理はない。もっとも、最悪の事態にはならないはずだ。
「│ワルプルギスの夜との戦いの折、確かに彼女に守られた魔法少女がいる。そして、そもそも最初に環ういを助けたのは彼女であり、御園かりんなどの栄総合学園の生徒、それに梢麻友など美術館からの証言もある│」
それが、彼女の性質だ。芸術のために簡単に一線を飛び越えるそれが悪い方面に表れたのだろう。ウワサを着込んで悪意にあてられたのもあるはずだ。それこそが、冷酷無比な狂人ではなく、一人の血の通った人間だと証明している。
「│アリナ・グレイは監視及び条件付無力化刑。監視役は状況を鑑みて別に決定する│」
その言葉に安心したのか脱力する御園君と、彼女の背中をさする秋野君の姿が見えた。
こうして、神浜のおける初の魔法少女裁判はその幕を閉じたのだった。第二審、第三審もあるが……意見書の内容からして大きく変わりはしないだろう。
判決が結果的に良かったか悪かったかは、今の自分たちには判断できん。まだ見ぬ未来がそれを決めるのだから。だが――私情を言わせてもらえば、良かったと思いたいものだ。
奏君も、その表情から察するに同じ思いだろう。
「もう少し暴れるかと思ったのだがな」
「アリナはもっとクールなんですケド。別に変身できなくても今はいいんだヨネ」
刑を知らされた面々は各々それを受け入れている。アリナでさえこの調子だ。
ただ、八雲は普段の様子とは打って変わってなにか思い詰めているようであった。隣にいた梓に話しかけられると元の調子に戻ってはいたが……。
しかし、それを問い詰める前に里見君が自分に近づいてきた。
「ちょっと言いたいことがあるの」
「今さら結果は変わらんぞ」
「少し違うかにゃー。決意表明だよ」
いつもの物言いながら真剣そのものの声に、奏君たちと協議してから許可を出すと、よく見えるように彼女はもう一度法廷の中心に立って全員に呼び掛けた。
ざわついていた結界内がまたも静かになり、里見君は全員を見渡した。
「……イブとの戦いでのこと、ずっと考えてたんだ」
語り始めは、らしくない声色。
「わたくしね、余りを捨てることが正解だとは思ってるよ。それは絶対不変の真実だから。でも、諦めて掴み取らなかったそれは、本当に余りなのかなって思ったの。お姉さまの考えで今があるんだよね」
里見君はトップとして何度か演説をしていたはずだが、今はどこか拙く初心であった。あるいは、言おうとしていることは慣れていないのかもしれない。
「最初はお姉さまを助けようとした『里見灯花』だったし戻ったかもしれないけど、自動浄化システムを世界に広げようとした『マギウスの里見灯花』であった事実は消えたわけじゃない。当時の記憶だって残ってる。そのわたくしを願って縋った人たちの思いを捨てたくない」
……それは、紛れもない本心だろう。梓から彼女たちが隠し事をする時の癖は聞いていたがその様子はない。なにより、そのわけがない。
「だから、もしもまだ信じてくれるなら! 自動浄化システムの研究をさせてほしいの!」
あの条件が付いた時点でそれは許可されたのと同じだというのに、里見君は真摯にそう伝えた。ここに来ていた元羽根と他の魔法少女一人一人に伝わるように言葉を続けた。
その姿は、年齢特有の自分本位の考えから一歩前に進んでいるように自分は思えたのだ。
くれはと十七夜たちが担当したあの裁判から数日。結局、第二審第三審でも結果は変わらずにそのまま通った。なにかの間違いで極刑にならなかったのは喜ばしいが……。
いつものように化学部の部室にいたアタシの目の前には、アイツがいた。同じ南凪の制服を着ていても法廷でずっと見ていたのだから見間違いのはずがない。
「│くれはと同じクラスということになった│」
「一纏めにしておいたほうがなにかと都合が良いから、だって」
『万年桜のウワサ』改め『
で、問題は周囲のコイツらだ。
「……一応聞くがなんの用だ?」
「あたしも同じクラスだし?」
「もちろん観鳥さんは観鳥報用の取材に」
「めぐるはその実況に来ました!」
「私は付き添いで」
帆奈に令、めぐるに真理愛がそう言う。
ダメだ、これはダメだ。間違いなく頭痛と胃痛が加速する。
「ま、真理愛……いやお前もそっち側か! もうまともなら誰でもいい! 誰かーっ! 誰かコイツらを止めてくれー!! アタシのキャパシティは限界だーっ!!」
■今回の内容
『ユメミルサクラ』
里見灯花 魔法少女ストーリー 2話 『小学生でも知ってるよ』(一部分)
里見灯花 魔法少女ストーリー 3話 『笑顔と心の優しさだよね』(一部分)
■柊 桜子
祝・南凪入り。なおみゃーこ先輩にダメージ。
桜子ちゃんはねむちゃんの子供みたいなもんやし……。
■検事なぎたん
難しいことを考えるのにうってつけの存在。実は姉。
困ったらなぎたんにお任せ、だぞっ! ご主人。
■ハルカ先輩
マミさんと同じく本当に中学生三年生か枠。実は妹。
帆奈ちゃんがなにをしたかはそのうち。
■弁護側
くれはちゃんは姉であり妹。
いろはちゃんは言うまでもなく姉。
■ユメミルサクラ
(話が)重い! 辛い! 難しい!
内容が本来のものと4割ぐらい違う。
■世界の書き換え
因果の量とか『願い』の規模とかが関係してるんでしょ(適当)。
(詳しいことは)ぜんぜんわからん!
■RTA要素は?
ワルプルギス撃破後のことを無視して走っていたのでくれはちゃんが対応に苦しみます。
くれはちゃんが変なことをしたりガバると第二部で走者が苦しみます。