マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート南凪チャート   作:みみずくやしき

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巣立ちは空を見上げて 前編

 わたしは、未熟だ。

 

 契約してからすぐにトラブルが起きて、お姉ちゃんたちに助けてもらうまでずっとエンブリオ・イブとして存在していた。それで魔法少女歴の割に活動している時間が短い。灯花ちゃんやねむちゃんと比べるとぜんぜん弱いし、パトロールのやり方だってわからない。ワルプルギスの夜との戦いの時だってみんなに守ってもらっていた。

 

 だから、神浜の魔法少女の人たちに鍛えてもらってるの。

 今日はななかさんと葉月さん。二人と一緒にパトロールをして、結界内で魔女と戦っていた。

 

「今です!」

「あの上のとこ!」

 

 ななかさんが作ってくれた隙に、葉月さんが示した箇所にツバメさんを飛ばす。

 魔法少女の武器は人それぞれだけど、わたしの場合は凧みたいなツバメさん。乗せてくれたり戦ってくれたりするんだ。

 攻撃するように指示をすると桃色の光線が魔女に放たれる。二人と比べたら弱いけど、それでもそれがトドメになって結界が消えた。

 

「か、勝ったぁ……!」

「お見事でした。最初と比べたら反応速度も上がっていますね」

「いや~……便利だね、ツバメさん」

「ええ。それと……ういさん、これを」

 

 そう言ってななかさんがくれたのはさっきの魔女が落としたグリーフシード。魔法少女にとってその卵がどれだけ大事かはよく知っている。

 思わず視線をそれからななかさんの顔に移すと、穏やかな笑みを見せていた。

 

「同じ問題を抱える魔法少女として助け合うのは当然ですよ」

「ういちゃんが倒した魔女だからね」

「ななかさん、葉月さん……」

 

 感謝を言ってグリーフシードを受け取る。自分で倒したって言われると少し誇らしくなった。

 

 この二人のこと、最初はちょっと怖いなんて思ってたんだ。他の人から笑顔が怖いとか裏で手を回してそうなんて話を聞いたり、ななかさんに引っ張られるくれはさんを見たからかもしれない。

 でもね、ぜんぜんそんなことなかった! 今日みたいに訓練に付き合ってくれて、たまに一緒にごはんを食べたりもするぐらい良い人なの!

 

「ういー!」

 

 そのまま少し話していると、遠くからお姉ちゃんの声が聞こえた。迎えに来てくれたんだ。

 

「いろはさんも来たようですし、これで解散としましょうか」

「はい! ありがとうございました!」

 

 肩を並べて去っていく後ろ姿を眺めていると、あの二人も仲が良いんだなって思う。戦っている時も動きがピッタリ合っていた。

 

「このはさんは?」

「今日はウォールナッツ。料理教室だって」

「今度向かう際はまなかさんに話を通しておきましょう。それと――」

 

 しかも話す姿はなんだか知的。かっこいいなぁ。

 そんな、なんとなく思ったことを帰り道にお姉ちゃんとも話したんだ。頼りになって、かっこいい。そんな人が他にもいるよねって話を。例えばくれはさんとか! 知的って言ったら微妙な顔をされたけど……。

 

「……くれはさん?」

 

 言霊って言うのかな。くれはさんのことを話していたら、本人が現れたの。道端でばったり会ったからすごい偶然って考えたけど、やちよさんが「彼女、どこにでも来るのよ」って言ってたことを思い出した。

 くれはさんの表情はいつものように真顔だった。けど裁判の時と同じくらい重々しくて、少し怖いぐらい。ゆっくりとお姉ちゃんに近づいて、その腕を掴んで顔を近づける。瞬きもせずにじっとお姉ちゃんを見つめてた。

 

「いろは」

「な、なんですか……」

 

 あの人は本当に真面目に、真剣に言ったの。

 

「一日、立場を入れ替えましょう」

「なに言ってるんですか」

「あなたとうい、灯花、ねむ。私と帆奈、観鳥、このみ。同じよね」

「違いますよ……」

「同じよね」

「違います」

 

 お姉ちゃんがやんわりとくれはさんを離すと、今度はわかりやすいぐらいにしょんぼりとしてしまった。ちょっとかわいそう。

 

 だからわたしが話を聞いてみたんだけど、単なる思いつきだったみたい。あの三人があんまりにも積極的に来るものだからちょっと立場を考えてみたいんだって。

 でも、仲良くできるのは良いことだよね……? なんでだろう? お姉ちゃんに聞いても教えてくれない。

 

 それであんまりにもさみしそうな目だったから、お姉ちゃんを説得してみかづき荘まで来てもらったんだけど……。

 

「いいじゃない」

 

 事情を話したらやちよさんがすぐに許可してくれたの。

 

「いろはとしても悪くない話よ。今後のためにもね」

「別の立場に立って考えてみるってことでしょうか……? でしたら、いろはさんにもメリットがありますよね……」

「そうかな……そうかも……」

 

 さなさんの言葉にお姉ちゃんが頷くと一気に予定が決まっていく。来る日とか連絡方法とかがどんどん決められて、その途中で視線がわたしに向けられた。

 

「ついでにその日のレクチャー役を任せたらどうかしら。彼女なら他の魔法少女もよく知っているし、神浜市の知らない場所に連れてってくれるわ。それに、伊吹さんたちは彼女が色々と教えたそうじゃない。来る日も来る日も連れまわしてパトロールをしていたんでしょう? おかげで実力がついたみたいだし」

「アイツらアレずっとやってたのかよ!? すっげー歩かされるんだぞ!」

「……そういえば鶴乃も連れてかれた日はちょっと元気がなくなってたわね」

 

 フェリシアさんはみかづき荘に来る前は時々雇われて一緒にパトロールをしていたんだって。でもずっと結界を探して歩き回って何度も何度も戦うことになるから大変だったみたい。

 それにあの元気な鶴乃さんも疲れるなんて、わたしもちょっと怖いけど……それだけ本気で魔法少女として活動してたってことなんだよね。だったら、がんばらないと!

 

「わたし、やる!」 

 

 心配そうに見るお姉ちゃんを安心させるように、そう宣言した。

 一人を除いたみんなの視線が大きく変わる。お姉ちゃんはもっと心配そうになって、やちよさんとさなさんは納得した感じ。フェリシアさんは少し痛かった視線が柔らかくなった。変わらないのはくれはさん。

 

  ……それで、お姉ちゃんはくれはさんの家に泊まることになって、逆にくれはさんがみかづき荘に泊まることになったんだ。一泊二日の予定なんだって。

 大変そうだけど、お姉ちゃんはお泊りだって思ってからは楽しそうだし、くれはさんが来るのもワクワクする! 灯花ちゃんとねむちゃんも一緒に連れて行ってくれるところがあるそうで、なんだか遠足みたい!

 早くその日が来ないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、数日が過ぎてその日はやってきた!

 

「じゃあ、行ってきます!」

「こっちは任せて、楽しんできてね」

「……そういう話でしたっけ?」

 

 時々こっちを振り返る後ろ姿を笑顔で見送る。

 実は、お姉ちゃんの気分転換の意味もあったみたい。ワルプルギスの夜との戦い、説明会、裁判って人の前で気を張ることがずっと続いていたから少しでも楽しいイベントを、って思ってやちよさんがすぐに許可してくれたんだって。

 

 わたしも、もう少ししたら来る灯花ちゃんたちと一緒に出かけるんだ。その二人がいるから今日は観光がメインみたい。

 

 待っている間、みんなに聞いてみたいことがあった。

 

 つい昨日、学校で進路希望調査表を出されて書かなくちゃいけないの。お姉ちゃんは前に今は看護師さんかなって言っていたけど、わたしの将来の夢ってまだわからない。灯花ちゃんやねむちゃんみたいにもう科学者や作家に到達しているわけじゃなく、やりたいことが決まっているわけでもない。

 みんなを引っ張っていける人になりたい、なんてぼんやりとした考えはある。お姉ちゃんややちよさんみたいな人になりたいって思いがあった。

 

 だから、出かけた時に会った理子ちゃんや月咲さんに話してみたりもしたんだ。その時に言われたことは、やちよさんからも言われた。

 

「焦る必要はないわ。大切なのは考えること。多分、今日のこともそのためになるはずよ」

「私は透明だから色々難しいけど……それでも興味を持ってやってみたいって思うことがあるの。私の場合は生き物だけど、ういちゃんもそういうものがあるんじゃないかな……?」

 

 やちよさんもモデルのお仕事を続けるか就職するかで悩んでて、さなさんも同じ思いを持ってた。悩むのってわたしだけじゃないんだ。

 そう教えてくれた二人の言葉はじんと胸に沈んでいく。これから出かけるのに将来のことが気になってちょっとモヤモヤしてたから、話してみて良かったな。

 

 ただ、フェリシアさんはなにも言わずに遊びに行くって言って出て行っちゃった。

 ちょっと様子が気になったけど、入れ替わりに灯花ちゃんたちがくれはさんを連れて来てその雰囲気じゃなくなる。二人に気を取られたのもあるけど、いつもなら一緒にいる桜子ちゃんがいなかったからそっちのほうが気になった。

 

「桜子ちゃんは?」

「今日は僕たちが外に出るから、みふゆの勉強をサポートするように頼んだんだ。知識はインストールしてあるからね」

「くふふっ、わたくしから奨学金と家を借りてるんだからちゃんと合格してもらわないとねー」

「みふゆ、本当に薬学部を受けるのね……」

 

 みふゆさんはマギウスの翼に入った時に薬学部に合格するって約束をしたんだって。大変みたいだけど将来に向けて頑張ってる。それもきっと、一個の選択肢。

 

 そして今度はわたしたちが見送られる側になって、みかづき荘から歩いていく。ねむちゃんの車椅子はくれはさんが押していて、何回かやっているからか慣れた手つきだった。

 

「くれはお姉さま、ミラーズにはいつ付き添ってくれる?」

「別に私じゃなくてもいいんじゃないの。十七夜とかいるじゃない」

「論理的に言えばそうだけど、そうじゃない無駄も必要なんだにゃー」

 

 今の灯花ちゃんの振る舞いは安心して見ていられる。

 元々敵対してた二人は最初、くれはさんに対して負い目を感じていたみたい。特に灯花ちゃんは観鳥さんにしたことをまだ苦しく思ってるはず。説明会の日にミラーズに誘ったこととかは、少しでも歩み寄れないかっていう灯花ちゃんなりの行動なんだと思う。

 でも、裁判でがんばっていた姿を見て少し楽になったみたいなんだ。だから今、こうしてちゃんと話すことができてる。……わたしも、友だちは仲良くしていてほしいから。

 

 ねむちゃんも車椅子を押すくれはさんを見上げて日常の話をしていた。灯花ちゃんと比べたら積極的じゃないけど、二人だけの話題がある。

 

「桜子は学校でどんな風に見られているのかな。他の生徒の意見を教えて欲しい」

「美人だとか不思議だとか。帰国子女ということにしてあるから変な言動をしても受け入れられてるわ。それと私と行動が似てるというのも聞いたわ」

「それは……もう少し教えないといけないことがあるね」

 

 ……あれ? 桜子ちゃんはウワサだから日常生活に慣れてないんだよね? その桜子ちゃんと似た行動をするくれはさんって……?

 そんな私の疑問はねむちゃんの表情からほぼ正解なんだってわかって、くれはさんのイメージがだんだん変わっていく感じがした。

 

 こうして歩いて、時には電車に乗って。今日の目的地に着く。

 

「お帰りなさいませぇ~、ご主――」

「これがメイドカフェ! わたくし一度来てみたかったんだー!」

「ひ、ひえぇ……灯花ちゃん……」

 

 二人を見てびっくりしたのか、最近はあんまり見なかった口調に戻ったのは郁美さん。

 くれはさんが教えてくれたんだけど、このメイドカフェでメイド長をしているんだって。メイドカフェ自体は通っている芸能の専門学校が経営してるそうで、アイドルになる夢に向かって学校とここでがんばってる。

 

 そして、店内には既に魔法少女の知り合いがいた。水名女学園と参京院教育学園の人。

 

「かのこに夏希じゃない。偶然ね」

「ここで会うのはマツリちゃんの時以来?」

「それってハルカさんたちと初めて会った時ですね!」

 

 矢宵かのこさんと空穂夏希さんだ。二人とも相談所で何回か出会ったことがあるけど、詳しくは知らないんだ。かのこさんは衣装のデザインの勉強、夏希さんは付き添いらしい。

 

「郁美、案内してくれるかな」

「――はっ!? も、もちろんだよぉ~! くみにお任せ!」

 

 郁美さんに連れられてテーブル席へ。ちょうど空いていたから、かのこさんと夏希さんも移動してきた。

 メニューを見てみると普通のサンドイッチや紅茶があったり、くまさんやひよこさんのイメージしたかわいいオムライスやデザートがある。かわいいけど……食べるのがもったいなくなっちゃうなぁ。

 

「これは選択が難しいね。……むふっ、贅沢な悩みだ」

「うん。今は自分で選んで決められるんだよね……どうしようかな……」

「わたくしはオムライスー」

「……あっ! メイドカフェって言えば……!」

「なるほど。僕も同じ」

 

 そう! メイドさんがケチャップで絵を描いてくれるんだよね!

 

 笑顔で待っててくれた郁美さんは注文を聞くと元気よく返事をしてくれた。それで少し待つと、「お待たせしましたぁ~!」という声と共にオムライスがやってくる。

 

 灯花ちゃんとねむちゃんは来るまでなにを描いてもらおうかずっと考えてたけど、わたしはパッと思いついたもので決めていた。

 それは、音符。わたし、気を抜くと歌っちゃうことがあるぐらい音楽が好きなんだ。だからそれが一番だと思ったの。

 

 郁美さんに描いてもらうと、おいしそうなオムライスがもっとおいしそうに見える。好きなものに好きなものを足すってことかも。

 それを見た二人はそれぞれお星さまと本にしていた。きっと、わたしと同じなんだ。

 

「今日はくみのステージもあるから楽しんでいってね!」

 

 やっぱりメイド長だから忙しいみたいで郁美さんは他のメイドさんのサポートへ。

 行く前に言ったステージってなんなのかなって思ったけど、それはかのこさんたちが教えてくれた。

 

「ここの目玉はやっぱりステージライブよ! 熱気とカワイイの真骨頂が見られるの!」

「かのこさん、結構ハマってるんです。けどコールで声を出すのは私も好きだから!」

「私もライブは得意だわ」

 

 くれはさんもこう言ってるし、本当に楽しそうに教えてくれるからわたしも楽しみになってきちゃった。オムライスもおいしいし、楽しいことばっかり。

 

「みんなぁ~! お待たせ!」

 

 郁美さんの声が店内に響く。他のお客さんと一緒にそっちを見ると、遂にステージが始まるみたいだった。

 

「はい、ペンライト」

「……くれはお姉さん、それずっと持ち歩いているのかな」

「嗜みよ」

 

 始まったライブでは他の人の声に合わせて声を出してみる。かのこさんが言うには『いくみん』と『BBA』が定番らしい。いくみんは郁美さんのことだってわかるけど、びーびーえーってなんだろう。今度お姉ちゃんに聞いてみよう。

 

「あの子はキュンキュンでぇ~?」

「K・A・W・A・I・I! いくみん! いくみん!」

 

 かのこさんと夏希さんは掛け声に遅れる様子もない。くれはさんはいつも通りだけど、ペンライトの動きからして楽しんでるんだと思う。慣れない灯花ちゃんとねむちゃんと一緒にペンライトを振って声を出してみると、一体感が生まれていた。

 

 こうしてみんなで声を合わせてひとつのものを作ることは、わたしの記憶に強く訴えかけた。

 ……そっか。わたしの好きなこと。やりたいこと。考えることは大切だけど、難しく思いすぎていたのかもしれない。

 

 

 ライブが終わってしばらくして、わたしたちはそろそろ店を出ることにした。ちょうどかのこさんたちと同じタイミング。

 見送りに来た郁美さんはピンクの紙袋を持っていた。なにかなと思って聞いてみると、中身はなんとメイド服。

 

「これ、プレゼント! ういちゃん、途中でメイド服の話してたでしょ?」 

「いいんですか!?」

「発注間違ってデザインが違うからウチじゃ使えないし、大丈夫だよ~。このサイズだと……いろはちゃんなら着れるんじゃないかな?」

 

 なんだか今日は良いことばっかり起きる。郁美さんにお礼を言って、わたしたちはメイドカフェを後にした。

 まだ時間的に余裕はあるから、かのこさんと夏希さんに事情を話すと、散策と一緒にパトロールをしてくれることになった。前にホオズキ市の人が来た時に似たようなことをしたんだって。

 

「そっか、試験なんだね! よーし応援するよ、ゴーッ、ファイッ、ウィーンッ!」

「夏希は相変わらずね……よし、私も応援する!」

 

 夏希さんの魔法の効果があるのかもしれないけど、二人の声援でやる気がどんどん湧いてくる。

 よし、って気合を入れて、これまでに教わったことを思い出す。ちゃんと基本を覚えてるかどうかも大事なんだよね。

 

 特定の魔女を捜す時は魔力を探る。でも一度会ってないとダメだし、今回はパトロールだから違う。魔女は人が多い場所や治安が悪い場所に多くいるからそういう場所を中心に歩く……。もしも魔女の口付けを見つけたら、それは近くに魔女か使い魔がいる証拠。口付けから助けたらどうしてわたしたちがいるかの説明もして……。

 

 こうやって考えると魔法少女がやることってたくさんある。大変だけど、みんなも学校に行きながらやってるんだ。

 やっぱり先輩だからか、夏希さんは車椅子を押すくれはさんと話しながらも慣れた様子で魔女の魔力を探っているみたいだった。

 

「帆秋さん、初めて会った頃と比べたら良い意味で変わりましたよね。ほら、あきらとあいみと一緒に将来の話をした時です」

「そんなこともあったわね」

 

 思い出話を聞いていて思ったことがある。そういえば、くれはさんは将来のことをどんな風に考えているんだろう。理子ちゃんや鶴乃さんみたいに家がお店ってわけじゃないし、絶対にこれなんだろうなってものが思いつかない。

 いつもブロッサムでアルバイトをしているしお花屋さんかな? 試しにこのみさんの横に立つ姿を想像してみると、すごく似合ってる。微笑むこのみさんにくれはさんが返事をして――

 

 ……って、ダメダメ! 今はパトロールに集中しないと!

 

 わたしが魔法少女として成長することは、灯花ちゃんとねむちゃんを守るためでもあるんだから、気を抜いちゃいけない。

 裁判の結果、二人は付けている腕輪の効果で自分の身を守る時か研究の時以外は変身できない。だから、強くなったわたしが側にいればもっと安全になるはずだもん。

 

 そんな思いを持って工匠区を移動してみるのは、少し新鮮でもあった。

 理子ちゃんの家である『千秋屋』さんの周辺に行くことはよくあるけど、工業開発予定地とか工場跡、旧車両基地なんかは魔法少女とは関係なく危ないから行っちゃダメってお姉ちゃんに言われてる。だからみんなに連れられてそういう場所を見ることできるのはなんだか嬉しい。

 すいすいと進んでいくかのこさんと夏希さんは、もう魔法少女としてベテランなんだと思う。

 

 途中、この辺りで一番有名なたい焼き屋さんに連れて行ってくれたり、新しく売り出したご当地たい焼きのことを教えてくれたりもした。そのご当地たい焼きはかのこさんが提案したって聞いてびっくりしちゃった。

 

「ふっふっふ……あの時は『これぞ神浜! と遊びに来た記念になるたい焼き』には届かなかったことが歯がゆかったけど、これならいける! 神浜といえばカミハマッシュ茸! 材料の都合で一日五個の限定販売になっちゃったけどこれなら――」

「ごめんね、かのこさんってキノコのことになると……」

 

 なんというか、くれはさんの知り合いにはこういう個性的な人が多い気がする。このみさんもお花のことになるとこんな感じになるってお姉ちゃんが言っていた。

 でも……それって、それだけ好きってことなんだよね。わたしだって、自分で気づかないだけでそういうものがあるのかも。

 

 そうやって神浜を歩いていると、気がついたらもう夕方だった。魔女の痕跡は見つけられなかったけど、それは平和の証。

 

 くれはさんがスマートフォンで連絡をして、少し待っているとみふゆさんと桜子ちゃんがやってきた。灯花ちゃんとねむちゃんの帰りは二人が送っていくんだって。 

 

「ではこれで。今度、ワタシも泊まるとやっちゃんに――」

「みふゆ、勉強は?」

「い、いいじゃないですか! たまには前みたいにみかづき荘にいても!」

「│くれは、私が押す。代わって│」

 

 それぞれに家族がいるけれど、みふゆさんと灯花ちゃん、ねむちゃんと桜子ちゃんの関係も家族みたいだな、と思ったの。

 

 

 

 みかづき荘に戻ったわたしたちを待っていたのは、どういうわけか鶴乃さんだった。

 

「だってくれはちゃん、万々歳に来てもまったく食べてかないんだよ! 美雨師匠と来た時もそうだったし!」

「と、いうわけで今日は出前よ。絶対に食べてもらうって昼から言ってるの」

 

 今日は普通の量だけど、万々歳はお店だと魔法少女サービスとしていっぱい料理を出してくれるらしい。写真で見たけど、大盛りのラーメンにチャーハンと野菜炒めってすごい量。お姉ちゃんは食べきったそうだけど、味の感想は濁してた。

 チャーハンを食べたくれはさんはやっぱり「50点」と言ったけど「ネギはうまく切れてる」とフォローする。なんでずっと50点なんだろう。

 

「今度は帆奈ちゃんたちを連れて万々歳に来てね! 鶴乃お姉さんとの約束だー!」

「そういう年の差じゃないでしょ」

 

 そんなやりとりがありながらも、鶴乃さんを見送って普段通りいつものように夜の時間を過ごす。違いと言えばお姉ちゃんじゃなくてくれはさんがいて、フェリシアさんがわたしを見る目が前よりも鋭くなってる気がするぐらい。

 

 せっかくだから、昼間に気になったことを聞いてみることにした。

 

「……くれはさんは、将来って考えたことある?」

「なかったわ」

「そ、即答ですか……」

 

 さなさんもやちよさんも呆れている。同い年ぐらいの月咲さんもねむちゃんに焦ったほうがいいって言われたから、同じことなんだと思う。

 でも、普段の真顔がほんの少しだけ柔らかくなって、わたしに言ってくれた。

 

「だから、あなたと同じでこれから考えるの。……この世は変わっていくことばかり。だけど、変わらないものもあるから。私はきっとそれに関係した将来を選ぶ」

「それって……?」

「絶対に手放したくないほど恋しく、とっても嬉しくなれるもの。そのうち気づけるわ。あなたの場合、すぐ近くにありそうだもの」

「くれは、なに言ってんだ?」

「……ああ、そういうこと。フェリシアにもあるわよね」

 

 恋しくて、嬉しくて、すぐ近くにあるもの。

 なんだかわからなくて、うーんと考えてみて、浮かんだのはお姉ちゃんのことだった。

 そうだ。今日はずっとお姉ちゃんのことを考えてた気がする。もしかして、くれはさんが言ってたのって――

 

 

 

 翌日。夕方にお姉ちゃんは帰ってくるけど、それまでは本格的にくれはさんが鍛えてくれる予定になっている。昨日は観光がメインだったからこっちが本番。

 

 スタート地点の公園で準備をしていると、昨日と同じように遊びに行ったはずのフェリシアさんがなぜかあやめさんと一緒に現れた。

 

 あやめさんは元々くれはさんに連絡することがあったみたいで話してる。

 その間、フェリシアさんはわたしを見ていた。なにか言いたそうなんだけど、言おうかどうか迷ってる雰囲気。フェリシアさんもわたしにとって大切な人のひとりだからもっと仲良くしたいんだけど……結局、出発する直前までその状態が続いたの。

 

「じゃあそろそろ行くわ。このはには伝えておいて」

「……フェリシアさん」

「ふん! ……ういにはできねぇよ、ホントに大変なんだぞ」

「そうだそうだ! 葉月は甘やかしてるみたいだけどあちしたちは――え、くれはのパトロールに付いてくの? ……が、がんばれ!」

「おい、あやめ!」

「だってアレは……」

 

 あやめさんがフェリシアさんと同じような雰囲気になったかと思えば、応援してくれた。それがどういう意味かはこのあとよくわかった。フェリシアさんとやちよさんが言っていたことは事実だったから。

 

 まず、止まらない。他の人は休憩を挟んだりするのにまったくその気配がない。言えば休ませてくれるけど、わたしがいなかったらずっと歩き回ってるのかな。

 それに結界を見つけて入ったあとも早い。と言うより、くれはさん自身の速度が速い。ツバメさんに乗って横を飛んでやっと追いつけるぐらいの速度をずっと出し続けてる。それで疲れた様子を見せないんだから、ベテランってすごい。

 

 そんなことを何度も繰り返して、何度もくれはさんのイメージを改めた。

 途中で会った他の魔法少女の人たちの目、そういう意味だったんだね……。

 

 終わったのは夕方。ほんとに疲れた。何回魔女と戦ったかぜんぜん覚えてないぐらい。

 こんな大変なことを続けてたられいらさんたちも強くなるよね……。特に、みとさんなんてやちよさんや十七夜さんぐらいにまでなってるんだって。どれだけくれはさんと戦ってたのかなぁ……。

 

 みんながクールで少し抜けている人って言っていた理由がよくわかった。

 ……でも、くれはさんは優しい人って想いは変わらない。今日のことは確かにわたしの力になっている。

 

「試験、頑張ってね」

 

 くれはさんが来てくれた一泊二日は、色んなことを与えてくれた。

 わたしも、与えられるだけじゃなくて、与えるようになりたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、立場を考えてみたいっていうのは?」

「……忘れてたわ」

 




■今回の内容
 『巣立ちは空を見上げて』
 環うい 魔法少女ストーリー 1話 『やりたいことってなんだろう?』
 環うい 魔法少女ストーリー 2話 『憧れはあるけれど…』
 日向茉莉 魔法少女ストーリー2話 『ヘッドドレス→洗剤』(一部分)
 牧野郁美 衣装ストーリー メイド服 『ある日のステージ』(一部分)

■ういちゃん
 今日も今日とて修行中。いろはちゃんと比べると押しが強い。
 これを連日続けるとういさん化する。

■いろはちゃん
 いなくても存在感を放つ主人公。
 知らないところで衣装『メイド服』を勝手に入手された。

■いくみん
 本編中はシリアス続きだったので完全に牧野さんだった人。
 ホームなのでフルスロットル。

■神浜魔法少女のみなさん(第一部)
 本編開始一年前 + 本編の時間分の経験が積まれてる。
 なんだかんだで揃いも揃って強い。

■海洋生物研究者さなちゃん
 もしもの将来。『みかづき荘のSummer Vacation』End No.5。
 新種のカニを見つけるし本を出すしで大活躍。しかしBAD END。
 
■巣立ちは空を見上げて
 ういちゃんのイベント。魔法少女として頑張る話。
 なお、まだほとんど進んでいない。RTAなら失格ですよ失格!






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