マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート南凪チャート   作:みみずくやしき

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虚実皮膜のサイケデリア

 アリナは、作りたいものを作ってきた。感性に従って描いてきた。

 

 シリアスなマインドでコンクールに出したことなんてない。神浜現代芸術賞なんて貰ってもハッピーになんかならないし、勝手にペラペラ喋って広めたフールガールにはアングリー。

 

 だけど、ジャッジが置いていった手紙に書かれた『世界を変える気が無ければ作るのを止めろ』という言葉で、アリナが作る理由が気になった。作品じゃなくて自分の価値を問われたのは初めてだったカラ。

 

 アリナは生まれてからすぐにアートに触れていた。家がギャラリーだったし、ファミリーの死に触れてからはエモーショナルな衝動のままに手を動かした。絵画、彫刻、映像、写真、インスタレーション、決まったやり方なんて持たないでとにかくやり続けた。

 

 だから、思ったワケ。

 目的と方向性を持たないアリナは空っぽで、このままじゃブリリアントなアートの輝きはいずれ尽きると。

 

 そんなことは認められない。アリナ・グレイは15歳で才能が枯れ果てるなんて、ノット。

 自分の辿った道を振り返ったり、ワンマンスぐらい色んな国を見て回ったり、死が近づいてゾクゾクするからラストアートワークを作ろうと屋上からダイブしたり手を尽くしたケド……まあ、色々とフールだったヨネ。

 

 なにせ最初から中身は存在してた。魔法少女になって、生と死の境をさまよってから気づいたテーマは、アリナの美。それを空っぽだと言うなら言えばいい。勝手に酔いしれて、好きに評価すればいい。アリナはアリナの感じるままに作り続けるだけなんだカラ。

 

 そんなことよりベストだったのは魔女! もう、人生をひっくり返したヨネ! こんな素材があるなんて、今までにないほど気持ちが高まって止められなくなっちゃった。世界の裏側に隠された奇妙なデザインのクリーチャーを前にすると、今まで埋もれていたインスピレーションが次々に湧いてくるんだヨネ。新たに着手するアリナのアートをチェンジしたワケ。

 

 だからいずれ使うために魔法でクリエイトした結界に色々とコレクションしてたんだケド、逃げ出してどっかの魔法少女を勝手に襲ったりするのはソーバッド。でもまあ、おかげで外に出すまでソウルジェムに反応しないってことも知れた。このエクスペリエンスは後々役立ったからグッド。

 

 ただ、逃げ出して人を襲うと他のマジカルガールがやってくる。

 例えば、逃げ出した魔女や育てようと襲わせてた魔女を片っ端からデリートしてくれたヤツとか。

 

 そう、帆秋くれは。南凪の魔法少女。

 アイツに言いたいことは色々とある。それこそ文句からインスピレーションを得られたプラスのエモーションとか。ま、トータルで言えばマイナスだケド。

 

 とにかく、アイツとアリナの因縁は『マギウスの翼』が本格的に活動する前からのこと。小学校とかウォールナッツとか色んなとこで邪魔してきて、捕まえたり戦ったり色々とあった。

 

 そして巡る戦いの中、周囲どころか自分すらかえりみずに傷つけるアイツを見てピンと来た。

 人の破滅願望。それはアリナが見つけた美のルーツ。デストルドーは過去から現代まで繋がっていて、人間は無意識に滅びたがっていることに気づいたんだヨネ。だから、デザイアが叶わない凍えた心と地球をホットにしてあげようと思ったワケ。今まで漂う死にエキサイトしてきたアリナのベストアートワークはそこにあるはずだカラ。

 

 必要なペイントブラシを手に入れるためにウワサを纏ったアリナは……まあ、結局……なんやかんやで今は普通にスクールに通ってるって変な感じ。裁判なんかもあったケド、借りは返したからイーブンだヨネ。

 

 それで。

 

「漫画描いたの~! 見てほしいの~っ!」

 

 二人しかいない美術室で、フールガールは相変わらずだった。アリナに構うよりもクロッキーやデッサンをすべきだし、魔法少女として妙に強くなってもどうしてココはノーチェンジなワケ?

 そんなことを言うと最近はイチゴ牛乳を自分から渡してくる。たまにならいいけど、そういうことじゃないんだヨネ。

 

 適当にあしらって未着手のキャンバスを見つめていると、懲りないフールガールはとことことアリナに近づいて来た。

 

「アリナ先輩! 一緒に買い物に行くの!」

「オーケー。……ワッツ? なにそのフェイス」

「断られると思ってたの……」

 

 ハンドを伸ばしてイチゴ牛乳を奪う。スイートなテイストが口内に広がった。

 受け取らなかったから自分で飲んでたみたいだケド、やっぱりこれだヨネ。

 

 にしても、アリナがノーしか言わないと思ったらミステイク。

 なんでも大型モールに行きたいらしいし、アリナ的にもちょうど良いタイミングだった。アリナ、ネームが広がってるからソロだと面倒なのが声をかけてきたりするんだヨネ。その点、チャイルドでエアーをリードできないフールガールがいると便利なワケ。

 

 無駄にタイムを使うのはイヤ。次の日には栄区のその大型モールに行った。

 そうしたら。

 

「ヴァァァアアァァッッッッ!! またか帆秋くれはァッ!!」

「こっちのセリフよ、アリナ・グレイ!!」

 

 無駄にパワーがあるアームとアリナのアームがぶつかり合う。どうしてコイツがいるワケ!? アリナとアイツはまさしくウォーターとオイル。そう簡単に相容れることはない!

 それだけじゃない、他にも二人いる! グリーンでヘアースタイルも似てるヤツら!

 

「さなおねえちゃん、ケンカ?」

「大丈夫だよゆまちゃん、取っ組み合いになるのはいつものことだから……。あ、私はゆまちゃんとくれはさんだけじゃ不安だって、佐倉さんから頼まれたんです……」

「くれはさんたちはわたしが呼んだの。みんなで見て回るの!」

「フールガールッ!」

 

 掴んでたアイツのアームを離して詰め寄る。イーブンになったとはいえ好き好んで会いたいものじゃない。アリナのコレクションを滅茶苦茶にして引っ掻き回したことは、エターナルにブレインに刻み込まれてるワケ。それをこのフールガールは……!

 

「だって、仲良くしてほしいの……」

「インポッシブル。無理」

「無理じゃないの! ……でも……もしも、もしも今日一日、一緒にいて、ほんとに無理だと思ったら諦めるの」

「アリナにメリットがない!」

 

 背を向けてゴーホーム。付き合ってられないヨネ。

 

 ……いや、ステイ。

 フールガールのこと。これを断ったらまた別の日に言ってくるはず。この先ずっとループするなら今日でケリをつけたほうがグッド。

 

 それに、くれはもアリナがいることは聞かされてなかったらしい。一応監視役の予備になってるケド、一度も二人っきりになったことはない。向こうも同じマインドなら面倒なことにはならないはず。

 

 シンキングすることワンセカンド。アリナはもう一回くるりと向きを変えた。

 

「気が変わった。一緒にショッピングしてアゲル。でも、絶対に仲良くなんてならないから諦めてヨネ」

「ありがとうなの~!」

「ドントタッチ! 暑苦しい! ……なに? えーと……二葉さな」

「アリナさんって、こういうときも楽しそうにするんだなぁって……」

「は?」

 

 どこをどう見たらアリナがエキサイトしてるように見えるワケ。

 勘違いしてるコイツ、シールドを持ってるヤツだヨネ。ウワサに裏切られるなんてレアなことになった原因で、確か……七海やちよのチームにいたはず。ま、アリナとの関係はそれしかないからミステイクするのも仕方ないヨネ。

 

 無駄に見てくるのはゆまとかいうチャイルドも同じ。よく知らないケド、フールガールとたぶん同類。メンタル的にもきっとそう。天真爛漫なフェイスしてるんだカラ。

 

 勘違いを解くのも面倒だし、そのままモールを回ることにした。

 フールガールが来たいと言ってた画材屋に行くのはいい。さなが本屋に行くのもいい。くれはとゆまがその辺のショップに行くのも……まあ、いい。

 ただ、フールガールはアイテムだけ揃えて形から入っても宝の持ち腐れだし、くれはは色々と買う物がアンノウン。スウィーツのブックとかキャンディーとか買ってるのはゆまを甘やかしてるんだと思うケド。でも、さなとは趣味が合いそうなんだヨネ。世界拷問全書なんてセクシー。必然的に死を纏うインタレスティングなものなワケ。

 

 けど、他のヤツらの買い物を眺めに来たんじゃないんだヨネ。今度はアリナの番だって、他の四人に指差したのは今まで関係なかったショップ。

 

「アリナ、水着が見たいんだケド」

「ゆまも! くれはの水着見たい!」

 

 急かすように引っ張られていくアイツも満更じゃなさそう。視線がかち合ったのが気に入らないケド、なにか言いたそうだから聞いてあげた。

 

「そういえば、アリナ……みふゆのことをスケッチしてるって聞いたけど、それ用?」

「ノー」

 

 みふゆのパーフェクトボディーは死んだ。

 ここ最近は特に。サボタージュのしすぎでファット。夏までにはなんとかして欲しいワケ。

 

 なんて、シンキングしながら並んでる水着をチェック。へぇ、紐はこうやって解ける。生地のここは伸びる……アンダスタン! やっぱりリアルを見ないとわからないヨネ!

 そうやって新たなマインドを巡らせていると、またも、フールガールがとことことやってきた。

 

「似合いそうな水着持ってきたの! 試着してほしいの~!」

「は?」

 

 手にはいっぱいのスイムウェア。緑だったり黄色だったり、フリフリしてたりクールだったり、ビキニだったりワンピースだったり。どこからこんなにブリングしたのかワンダーなほど。

 

「ちょっとアナタ……なんでアリナが――」

「……私は試着するわよ」

 

 忌々しいボイスに横を向くと、くれはが同じように、スイムウェアを持ってきたゆまに詰め寄られていた。

 

「別に着ないつもりもないんですケド」

「えっ、あのアリナさんが……?」

「ハァ……アナタ、アリナのことなんだと思ってるワケ?」

 

 どこぞのエアーをリードできないフールガールじゃないし、シリアスなフェイスをしてる横のヤツでもないんだヨネ。それに、着ることで初めてフィット感や素材の良し悪しがわかることもある。元からそのつもりだったんだカラ。

 

 返事を聞くまでもなくフィッティングルームで着替えると、即座にフールガールが反応した。

 

「可愛いの~! 最っ高なの~!! 大好きなの~っ!!」

 

 ベリーノイジー。けど、悪くないヨネ。こういうアリナの美のベクトルもアリなワケ。

 アリナのアラウンドをぐるぐると回ってエキサイトするフールガールと、感心した様子で眺めてるさなとゆまの好きなようにさせてアゲル。

 

 それからすぐ、隣のフィッティングルームのカーテンが開いた。当然、それはくれは。グリーンのビキニを着たアイツは――

 

「……ビューティフル」

「アリナ先輩が褒めたの!?」

 

 これがくれはだってことが納得いかないケド、美しさに善悪は関係ないヨネ。これが変動しなければまさしくエターナルに輝く美。決めた。デッサンする。ちょうどフールガールが画材店に行ってたから道具はあるワケ。

 

「やめてくださいアリナさん! 水着を着た人が水着の人を描く変な場になっちゃいますから!」

「ドントストップ! エモーショナルな衝動はぶつける!」

「さすがなのアリナ先輩!」

「ゆま、もっといっぱい持ってくるね!」

「ええ」

「すみません佐倉さん、私じゃ止められませんでした……ここにいろはさんがいてくれれば……」

 

 しばらくスケッチを続けて、別のスイムウェアも試着する。段々とインスピレーションが高まっていく。来て良かった! もう、サイッコー! 

 

「アハ……」

「先輩、どれにするの? わたしはこのシンプルなのが一番似合うと思うの!」

「次の試着? それはもう着たヨネ」

「違うの。買う水着の話なの」

 

 ……ワッツ? フールガールはなに言ってるワケ。アリナが既存のデザインの水着をメインに着るわけがないヨネ。

 

「アリナ、言ってあったヨネ? "水着が見たい"って。買いに来たわけじゃないんですケド」

「ええっ!? だって、あんなにノリノリだったの!」

「じゃあ私が買う」

「は? 絶対に買わないとも言ってないワケ」

 

 なんて言ったら、フールガールの顔がパアッと明るくなった。

 マネーはあるからノープロブレム。実物を持っておくことも大事だヨネ。素材の感触に新しい構造のチェックはまだいるカラ。

 

 結局、ショップを出る頃には入った時から随分と荷物が増えた。くれはなんてさなとゆまに持たせずに両手に何個も袋を持ってる。アリナの分を持ってるフールガールもだけど、よくやる。

 

「ちょうどいいからみんなでご飯にするの! ここのカレー屋さんが最近オープンしたって聞いたの!」

 

 フールガールは今も妙に嬉しそう。アリナたちを先導して進む姿はスクールじゃあまり見ないものだった。だから、その理由が気になっただけ。そうじゃなきゃアイツと一緒に食事とかしないヨネ。

 

「ここなの! 五人なの!」

「五名様ですね。ご案内します」

 

 入って連れてかれたのはテーブル席だった。前にアイツがいる状況でイートするなんてありえないし、肩を並べるなんてもってのほか。だからさなを間に挟んで座った。フールガールが正面で、ゆまがその隣。

 他のヤツらはなにをオーダーするか迷ってるみたいだけど、アリナは最初から一択に決まっている。

 

「カレーはチキンアンドベジタブル。アメイジング!」

「私はメロンソーダを飲めればいいわ」

「カレー屋に来てメロンソーダをメインにするとかソーバッド! ちゃんとチョイスしてヨネ!」

「え、あの、私この間に挟まるんですか……? すん……すん……」

「なかないで、おねえちゃん」

「ゆまちゃん……うん……っ」

 

 横がノイジー。けど、カレーが来たらそんなことはどうでもいい。

 散りばめられたベジタブルのカラフルなルックス、ノーズをくすぐるスパイシーなフレグランス、口に運ぶと広がるホットなフレーバーとフレッシュな甘み。ファイブセンシズで味わうこのカレーこそ、アリナのようなアーティストに相応しいワケ。エキサイティングでアダルトなテイストは、チャイルドなフールガールには無理だヨネ。

 

 飽きることのないデリシャスな味を堪能していると、ふと、別のフルーティーなフレグランスを感じた。それがなんなのか、アリナのメモリーがフルに活動を始める。すぐに決定的なアンサーが浮かぶ。これは――

 

「メロン……ッ!」

「そうよ」

 

 さなを押しのけてアイツの前にあるカレーをチェック! 見た目はノーマルなカレー……いや、よく見れば具にある! あの、メロンが! ……ステイ、ハンドで隠れて見えなかった部分はグリーン! なんてものを!

 

「メロンカレー、あったわ」

「おいしーよ?」

「あなたたちも食べてみる? 一口ならいいわよ」

「わたしは遠慮しとくの」

「私もちょっと……普通のがいいです」

「アリナは食べる」

 

 ゆまも食べてたのはサプライジングだったケド、なんでもチャレンジしてみるものだヨネ。

 くれはのスプーンを奪うように受け取って食べてみると、これは……まさか……。

 

「デリシャス……」

 

 そのまま二口目。カレーのスパイシーさを損なわず、フルーティーな甘みが後味に広がる。具材としてのメロンもテイストを邪魔することなくフュージョンしていて……まさしく、異なるカルチャーの一体化。オリエントとオクシデントの歪な対立構造がアーティスティックな一品を生み出すように、考え抜かれたアートがこのディッシュにある。

 

「もう一口――ヴァァアァッ!!」

「ダメよ」

 

 伸ばしたハンドに万力じみたパワーがかかる! ス、スチューピッド! スチューピッドパワー! 

 

「や、やめてください……! 目の前でアリナさんの腕がミシミシ言ってます!」

「アリナ先輩、仲良しなの!」

「どこ見て言ってるワケ!?」

 

 スプーンを手放すとアイツもハンドを離す。マジカルガールじゃなきゃアームを持っていかれていた。あのパワー、意味不明なんですケド。

 

 まあ、そこまでして無理に食べるものでもない。アリナ、食へのこだわりはないし。今は目の前のマーベラスなチキンアンドベジタブルに集中するワケ。

 

 これがこだわり? ノー。食べることは生きることなんて言うけど、それは死をも内包しているワケ。これもまた、アリナの美を高める行為。アート活動だヨネ。

 だからスプーンを口に運ぶ動きはとどまることを知らず、カレーは死を迎えた。

 

 他のヤツも食べ終わってたケド、まだ席を立つことはない。それに、ちょうどさなのスマートフォンに電話がかかってきたようだった。何回か返事をするさなのフェイスは段々とシリアスなものに変わっていく。話し終わると、くれはに顔を向けて言った。

 

「今のやちよさんからだったんですけど……カフェに行ったら魔女が材料を運ぶトラックを襲ってたみたいで、料理が出せないということになってるみたいなんです。それで、そのトラックはちょうど栄区の辺りを走っていたみたいみたいで……」

「魔法少女の出番なの! 捜して運転手さんを助けるの!」

「うん! ゆまもがんばる!」

「おー、なの! ……ふっふっふ、今こそ我の魔鎌ジャックデスサイズが輝くのだ……!」

 

 無駄にラウドボイス。時間がズレてるからカレーショップにはアリナたちしかいないケド、普通迷惑だヨネ。ウェイターは一人いるにはいるケド、聞こえてないフリしてるし。

 

「って、し、しまったの! こんな大声で話してたら店員さんに聞かれちゃうの!」

「平気よ」

「コイツの言う通りなんですケド」

 

 ほんと、フールガール。

 

「そこのウェイター、魔法少女だヨネ。別に大声で話してもノープロブレム」

「さなのこと見えてたじゃない」

「あっ、そうなの! 魔法少女にしか見えないはずなの!」

「そ、そうです……五人って言っても普通に反応してくれましたし、私の分も普通に運ばれてきました」

 

 それを気づいてたのが本人とアリナとくれはって、ちょっと癪。

 だからゆまはともかく、くれはが荷物を持ってたんだヨネ。インビジブルな彼女に持たせると一般人からは空中に浮いてるように見えてオカルティックなインシデントになるカラ。

 

 フールガールは安心したのか元気を取り戻して席を立つ。それを横目にラッシーをドリンクして、ヒラヒラと手を振った。

 

「勝手にやってヨネ。アリナは変身できないカラ」

「じゃあ、わたしとさなちゃんとゆまちゃんは行くの」

「は? コイツは?」

「監視役の人を置いておかないとダメだって、なぎたんが言ってたの。だから先輩は仲良くしててほしいの!」

「フゥールガーァアールーッ!!」

 

 最近ずっとやかましいし妙に押しが強い。アリナのボイスを笑顔でスルーして、ウェイターに話しかけてから出て行った。

 

 すると当然、残されるのはアリナとメロンソーダを飲むくれは。

 ウェイターは事情を聞いたのか、離れた位置でアリナのことを怯えた様子で見てるだけ。疎そうでもマギウスのことは知ってたみたい。ああいうのはノットインタレスティング。わかりきってるレスポンスしかしないんだヨネ。

 

 というか、なんでアリナが言いなりにならないといけないワケ。バカバカしい。アリナはアリナのしたいようにする。それはエターナルに変わらない。

 

 だからさっさとスクールに帰ってスイムウェアのデザインを纏めようとした。

 でも、アリナのメモリーに刻まれた一瞬がそのアクションを中断させる。インスピレーションが勝手に目覚めてくる。先のことをシンキングすると勝手にフェイスに笑みが溢れた。

 

「ねえ」

 

 席を立って、くれはの目の前のチェアーを引いて適当に座った。そして、相変わらずメロンソーダを飲む姿にフィンガーを突きつけて言ってあげたワケ。

 

「アナタ、弱いヨネ」

「急になによ」

「着せ替えさせられそうな時、シリアスなフェイスが少し崩れたのを見逃さなかった」

 

 ほら今だって。アリナの言葉でドリンクをやめた。

 

「理由はわからないけど、あの瞬間の揺れ動くエモーション……アハ……ゾクゾクするぅ……。アナタもそんなフェイスをするんだって、アリナ、前みたいにインタレスティングになっちゃうヨネ」

 

 死に向かおうとする頃のアナタ。観覧車草原で会った時には消えていたあのデストルドー。あれはアリナが求めるものと同じで、新たなステージに引き上げるキーとなったインポータントなソウル。それをもう一度見せてくれるのなら、そのハンドを取ってもいい。

 なんて、思いながら続けた。

 

「だから多くの魔法少女と繋がりを持つのはウィークの表れ。一人立ちできないスイートなマインドだカラ、コネクトを求めるんだヨネ」

「そうよ、私は弱い。誰かと共にいないと生きていけないの。……あなたはそう思うことはないの?」

「ない」

 

 当然。今さらな話なワケ。だからアリナは、『誰にも邪魔されないアトリエが欲しい』と願ったんだカラ。

 

「アリナはアリナのために生きてきた。アリナの表現はアリナの美。アナタが他人のために生きる大きな環の一つになるように、アリナはアリナのためだけに、一人でクリエイトする閉じた輪になる」

「……あなたにも、生きる世界があるんでしょう。孤高に完結する世界を私は否定しない。それが望みなら、きっとあなたにとっての正解だから」

 

 そこで、くれははアリナの瞳をじっと見つめた。

 

「それでも」

 

 ブルーブラックのそれにグリーンが映り込む。アイツの範囲にアリナがいる。

 

「押し付けでしかないとしても。あなたにも、私は手を伸ばすわ。私だけじゃなく、いろはもきっと。……もっとも、誰よりも近い人がいるでしょうけど」

「へぇ……」

 

 それって、自分勝手だヨネ。

 押し付けて否定すればイージーなのに、押し付けて肯定するなんてわざわざディフィカルトな手段を使う。裁かれても他の魔法少女から見ればアリナは大罪人。それを受け入れたらアナタも同類なのに。

 

 あの決戦の日、アナタは言った。ハッピーエンドが好きなだけだって。

 でも人間が無意識に抱くデザイアは、アナタにとってのバッドエンド。リアリティのないドリームなワケ。だから『無重力シャボンのウワサ』を扱えたのかもしれないケド、エモーションを表に出さないのに矛盾した行為をするそれは、他人を巻き込むって気づいてるヨネ。否定しないって言っても否定することに変わりはない。それでも貫くなら、それがアナタのアート。

 

 ……アリナのエゴとアナタのエゴ。ホント、どっちも傲慢でフール。

 

「戻ってきたのー!」

「全部かりんちゃんが倒しちゃいました……」

「はやかった!」

 

 ノイジーなのが帰ってきた。

 だから、変なことを思われる前にアクションを起こす。アイツのフェイスにアリナのフェイスを近づけた。

 

「言っておくケド、アリナは謝る気なんてない」

「別にいいわ」

「感謝だってしてない」

「そうね」

「思想をチェンジしたわけでもない」

「でしょうね」

「赦しはいらない」

「そう言うと思ったわ」

「だから、アリナたちは変わらない。じゃ」

 

 これでなにを思おうがアナタの勝手。また死へと堕ちるのなら、その時はアリナのアートの素材にしてアゲル。ヘアーを燃やして痕跡をこの世からエターナルにデリートするヨネ。

 

「あ、待って欲しいのー! アリナせんぱーい! お会計忘れてるのーっ!」

 

 ……フールガール。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その帰り道、フールガールはニコニコとしていた。無駄にジョイに満ちた口調でアリナのアラウンドを駆け巡りながら話してきてうざったい。

 理由を聞くと、いっそう笑った。

 

「だって、アリナ先輩は仲良くなってくれたの!」

「は?」

「やっぱり大丈夫だって思ってたの。灯花ちゃんやねむちゃんが言ってたけど、マギウスだった時もみんなと仲良くしてたって聞いてたし……それに、くれはさんといるときの顔、わたしもあんまり見たことないの!」

 

 どうシンキングしたら仲良くしてたように見えるのか。時々鋭いことを言うのに、普段は鈍いにもほどがある。

 

「好きの反対は無関心って言うし、アリナ先輩もきっと……」

「またどこかのコミックに影響されたワケ? ライクの反対はディスライクなことに変わりないんですケド」

「でも、無理だって思ってないの! だから……また誘ったら来て――」

「行くケド?」

「え……? でも、今……」

「だからフールガールなんだヨネ」

 

 勘違いしないでほしいワケ。アリナは仲良くなることなんてないケド、絶対に会わないとは言ってない。

 それに神浜がずっと平和なわけがないし、しばらくは大人しくしといてアゲル。適度なブレークタイムはクオリティを高めるワケ。

 

 こうも思う理由の一つはシンプル。アリナのアート、一つは完成してるんだヨネ。ウワサを纏って、思うまま、願うままに力を振るって残した爪痕。人間の希望の結晶が生み出したそれは、アリナも含めて人のフールなエモーションを如実に表してる。

 ……まあ、アイツまでウワサを着てくるなんて思わなかったケド。アリナ、らしくもなくホットになっちゃったし。全力全開でぶつかり合えたのはアリナとしても――バッド。なにシンキングしてるんだか。

 

 とにかく、アリナのロードとアイツのロードが交わることはない。だからきっと、また邪魔しにくるはず。ま、別にいいケド。だったらスタートから想定しておけばいい話。

 

 この先もアートワークは終わらない。

 まだパッションとエナジーは燃え盛ってるんだカラ。どこかの誰かのせい、だヨネ。アハ……アッハハハハ!!

 

 




■今回の内容
 『イチカレーと10辛級のクライシス』
 アリナ・グレイ 魔法少女ストーリー 1話 『消えるモチベーション』(一部分)
 アリナ・グレイ 魔法少女ストーリー 2話 『最後のアートワーク』(一部分)
 アリナ・グレイ 魔法少女ストーリー 3話 『目覚めるセンス』(一部分)
 アリナ・グレイ 衣装ストーリー 水着(2019)『名作に犠牲はつきもの』
 梓みふゆ 衣装ストーリー 水着(2019)『十何回目かの夏、初めての敵』(一部分)

■アリナ先輩
 本来はこのタイミングだと行方不明中の人。なのでかりんちゃんが元気。
 カレーコラボの際、いろやちとまどほむに並んでさも味方キャラのようにいた。

■ミコイチ?
 限定星4メモリア。なぜかいろやちとアリナ先輩が並ぶ謎の存在。
 先輩がカレー好きなのは英語混じりで話すからかもしれない。ルーだけに(激ウマギャグ)。

■さなちゃん
 くれはちゃんがアリナ先輩のヘイトを引き付けた結果、ちょっと苦手ぐらいに収まっている。ほんとはアリナ先輩だけ呼び捨て。逆にルートによっては悶絶アリナ専属拷問官になる。
 『ひとりぼっちの最果て』でアイちゃんが襲撃されておらず、『楽園行き覚醒前夜』や『サラウンド・フェントホープ』で対決していないのが原因。
 
■人選
 ゆまちゃん(緑)。
 さなちゃん(緑)。

■アリナのコレクションに襲われたどこかの魔法少女
 第二部以降に出てくる魔法少女。
 真里愛様の知り合い。

■店員
 高校を卒業しているモブ魔法少女(?)。妹も魔法少女。
 本来はカレー好きの魔女に材料を奪われる。なんだよカレー好きの魔女って(哲学)。

■世界拷問全書
 マギアレポート第二部19話に出てくる。さなちゃんの家賃代わり。
 実際にクリスマスに貰ったのは刑罰の歴史。

■やちよさんの言うカフェ
 カレーチェーン店のこと。
 食に対するやちよさんの知識が発揮される。

■メロンカレー
 実在する。








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