マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート南凪チャート   作:みみずくやしき

74 / 141
正義と真実、神浜最後の逆転 中編②

 もう一人の目撃者である棒島さんの証言には明らかな矛盾が存在する。

 それを指摘するため、観鳥さんが自分で口を開いた。

 

「『結界で見たことは忘れるようにして、水徳商店街で買い物をしていた時』……それは本当?」

「はい、そうですが……」

「ちょっとおかしいな。佐倉さんはももこさんに連れられて、ボイラー室から出て行っている。その後の行動は全部知られているんだ。どこで言う暇があったのかな」

「あっ……!」

「そして皆殺しにしたという発言は、事件より後じゃないと成り立たない。実際はどのタイミングで聞いたのか、それとも聞いていないのか。弁護側は証言の訂正を求めるよ」

 

 ……さあ、どうくる。

 

「│証人、これはどういうことか説明を│」

「……そ、そうでした。すみません、気が動転してて記憶が混じってたんです。……本当は、昨日……‟事件の翌日”に、噂話として聞きました」

 

 これは、どう判断するべきか。

 

 『怖くなって帰った』のが事件当日。

 『結界で見たことは忘れるようにして、水徳商店街で買い物をしていた時に噂話として聞いた』のが事件翌日。

 彼女の言い分としては、混乱して混ざってしまったという。疑いは残るけれど、ありえない話じゃない。

 

「あなた、杏子が言ったって言ったじゃない」

「キョウコ?」

「│被告のこと│」

「あ、ああ……そうですね。私、最近引っ越してきたので、神浜の人の名前と顔が一致しないんです。よく考えてみれば、似た人が噂をしていただけなのかも……」

 

 厳密に言うと風見野の魔法少女というのは今はいいだろう。

 それよりも、また微妙なラインだ。疑えるけど、確信を持っては疑えない。

 

「現に噂は流れている。タイミングが不明瞭なのが気にかかるが、被告が言っていないということにはなるまい」

「他にも言ってた子がいたわよね」

「そうなんだよなぁ……」

 

 困ったことに、噂自体は観鳥さんたちも聞いている。

 十七夜さんやみたまさんだって確認した。手元の資料にも書かれていて、魔法によって蔓延しているわけでもないと判明しているそうだ。

 帆奈ちゃんが暗躍していた頃だって、意図的に流した噂でこのはさんたちが犯人だと疑われたことがあった。これは自然に増えていると見て間違いないだろう。

 

「でも、杏子がそんなことを言うわけがない」

「観鳥さんもそう思うけど……いや、この際本当に言ったと信じよう」

「どうして?」

「こうやって噂として流れてると、言ってないと証明するのは難しい。だったら発言のタイミングや意図の方面から勘違いだったと否定したほうがいいよ」

 

 もっとも、『皆殺しにしてやった』なんて決定的すぎる。言葉通りの意味以外にどう説明すればいいのやら。

 ここはタイミング……事件前に言っていた可能性で攻めるしかないと、帆秋さんに尋問を頼んだ。

 

「初めて噂を聞いたのは事件の翌日なのね。間違いない?」

「は、はい……」

「無論『読心』も使った。聞いたという情報が読み取れただけで時間帯や場所はわからないのだがな」

「じゃあ、もっと前に聞いた人はいないの?」

「知っている者の中にはいない。今から探すとなると時間がかかるぞ」

 

 そこでまた、桜子さんが木槌で叩いた。

 

「│証人を介さず二人の会話になっている。彼女にこれ以上の尋問の必要性はないと思われます。弁護人、それでも尋問を続けますか?│」」

 

 聞けることは聞いたはずだ。ここで次の証人に移ってもいいけど……もう一度、証言台を見てみよう。すると、視線に気づいた棒島さんがはっとした表情で横を向いた。

 

「なっ、なんですか……」

「ごめんごめん、なんでもないよ」

 

 というのは表面の話。おどおどしている棒島さんはなにかを隠していると、観鳥さんの直感が囁いている。仕草や言葉の節々に拭いきれない違和感があるんだ。

 無理やりにでも聞き出すか、一旦引き下がるか。

 

「帆秋さん、どうする? 聞き出すとまた心証が悪くなる気もするけど」

「他に聞いた人を見てみたいわ。十七夜はいないって言ってるけど……傍聴席! この噂、聞いたことがある人は!」

「ちょっと!?」

 

 傍聴席から証人を探し出そうなんて、あまりにも前代未聞すぎる。いつもの突飛な行動が極まっているじゃないか。

 しかし探せばいるもので、突然の呼びかけが止められる前に、傍聴席から手が挙がって――

 

「はいはい! それ、あたしも聞いた!」

 

 それはなんと、毬子ちゃんだった。どうやら傍聴に来ていたらしく、隣には保澄ちゃんもいる。

 大丈夫なのかと視線を向かい側に戻すと、十七夜さんがじろりと見ていた。

 

「待て、彼女に発言させてどうする。事件当日は君たちと一緒にいただろう。それに、聞いたのが昨日なら先ほどの証言と同じになるぞ」

「どうなの、あやか」

「お笑いライブをやってた時で間違いな……って、ダメだ! それじゃ昨日――」

「昨日は私と捜査に出ててやってないよ」

「そ、そうだった……ありがと雫ちゃん。ライブをやってたのはくれはちゃんたちと会う前だから……あれ? じゃあ、あたしが聞いたのって事件当日?」

「なんだと!?」

 

 思わぬところから出た発言に法廷がざわめいた。

 桜子さんの言葉で静けさを取り戻すも、観鳥さんだってまだなにか言いたい気持ちだった。まさか、帆秋さんが選んだ第三の選択肢が正解だなんて。

 

 そんなものだから、証言台に立ったままだった棒島さんと交代して、毬子ちゃんが中央に立ったのだった。

 

「えーっと、毬子あやかです! 今日は名前だけでも覚えて……ってそういう雰囲気じゃないか。今は中央学園の生徒ですけど、将来はお笑い芸人を――」

「名前と職業は聞いてないぞ」

「ええっ!? これが証人のお約束だって調べてきたんですけど!」

 

 場所が場所だからか、いつもの調子が多少は抑えられている。多くの観客がいるこの場でネタの一つでもやりそうなところを、十七夜さんに急かされてすぐに証言に入った。

 

「その日は学校が終わったあとすぐに雫ちゃんと合流して、水徳商店街に行きました。いつもそこでストリートライブをやってるんです。いつ聞いたかは……何本かネタをやったり、休憩を挟んで移動したりしたのでごちゃごちゃしてて、しかも声だけだったんで、ちょっとわかんないです。どこかで聞いた覚えがあるんですけど……少なくとも、ライブをやっていた時だったと思います!」

 

 この証言では具体的な時間はまだわからない。でも、聞いたのは観鳥さんたちと出会ったあのストリートライブの場所だったことになる。

 

 これはチャンスかもしれない。今度は観鳥さんが尋問をしようと――

 

「観鳥君、こう思ってはいないか。聞いたタイミングが事件前であれば、被告の発言はなにかの偶然・聞き間違いであって本事件とは一切関係のないことだと説明できる、と」

「……まいったね。使ったの?」

「これぐらいは考えればわかる」

 

 静かで、強い口調だった。

 

「一つ忠告しておく。自覚のない悪は正義と表裏一体で、実に面倒だ」

 

 馬上鞭を一振りすると、今度はモノクルを帆秋さんに向けた。

 

「タイミングが違った、論理的におかしい――そんな()()()()()で大衆は納得しない。いつまでも残り続けるぞ。つきつけるのなら決定的な証拠にしろ。根も葉もない噂には、明らかな真実を見せるしかないのだ」

 

 十七夜さんめ、なんて無茶を言うんだ。暗に、“どういう意図だったかを説明してみせろ”とぶつけてきているじゃないか。

 ……まあ、わからなくもない。証拠がなければ信じてもらえないのはよく知ってる。言ったのが事件前でも、事前に計画を話していたから計画性があった、なんて難癖つけられちゃたまらない。

 

 今も後ろに控えている佐倉さんに聞ければ手っ取り早いんだけど、この事に関しても口をつぐんだままだ。肯定も否定もしていない。

 

 どうする。

 最初は、みとちゃんの『心を繋げる力』で毬子ちゃんの記憶に飛び込めばいいかと思った。でも、それじゃダメだ。声だけじゃ意図なんてわかりやしない。それに、彼女は捜査で魔法を多用していて今は休んでいるんだ。来てもらってはいるけど、使えるのは一回きりだろう。使うべきは今じゃない。

 

「│弁護人、尋問を│」

「観鳥、ここは私がやるわ」

 

 こういうときは帆秋さんの無鉄砲さが頼もしく感じる。

 とにかく、毬子ちゃんの証言は事件前のものの可能性が高い。だったら、どこかに『意図』を推測できるものがないか探し出すんだ。

 

「ライブはいつも水徳商店街でやってるの?」

「そうでもないかなー。くれはちゃんと初めて会った時も水徳商店街だったけど、結構色々な場所でやってるよ」

「今度のはどこで?」

「おっ、よくぞ聞いてくれました! 次は水名でやる予定なんだ!」

「│二人とも、関係のない話は慎むように│」

 

 観鳥さんの考える時間を作ってくれても、このままだと退廷させられかねない。

 『休憩を挟んで移動した』のあたりをゆさぶってもう少し情報が出ないか試したほうがいい。証言の別の場所を聞くべきだと進言しようとした時だった。

 

「それがね、関係あるのよ」

 

 そう、自信満々に言った。

 

 え……まさか、今のどこかにあったのか?

 不敵な表情を崩さない帆秋さんの目は――泳いでいた。ダメだ。ハッタリだこれ。

 

「│では、どのような関係が?│」

「そ、それは……」

「それは観鳥さんが答えるよ」

 

 いや、いやいやいや……とりあえず繋いだけど行き当たりばったりすぎる。今のがどう関係するんだ。

 この先の予定を聞いたって仕方ない。別の話にすり替えるのも無理。心証が悪くなろうと、ここは適当に質問して誤魔化すしかないか……。

 

「毬子ちゃん、ライブをやってたのはどこだった?」

「やってたのは和菓子屋の前だよ。オバチャンが応援してくれてね、たまに差し入れくれるんだ」

 

 結局、言ったのは当たり障りのないこと。

 そのはずだったんだけど。

 

「……ん、和菓子屋? ……あーっ、そうだ! あたしが聞いたの、和菓子屋にいた時だ!」

「ほう、新たな証言だな。帆秋が適当を言い出したのかと思ったが」

「え、ええ……」

 

 十七夜さんはわかってたな……。

 思いがけない進展でも、毬子ちゃんが和菓子屋の前でライブをしていたというだけだ。観鳥さんたちと会った場所なんだから既にわかっている。それがどう――

 

 瞬間、脳裏に当時の光景が思い浮かんだ。

 

『はいどーも! 毎度おなじみ毬子あやかです! ではここで雫ちゃん、一発ギャグを!』

 

 それは、帆秋さんも同じだったらしい。

 

「私たちが見た時、あやかは……」

「ああ。和菓子屋の前じゃなかった」

 

 一応、あの日に撮った写真は全部プリントアウトしてある。細部まではチェックしてないけど、毬子ちゃんが写り込んだ写真を探せば……よし、あった。

 

「やっぱり揚げ物屋さんだ。おじさんの苦笑いまで写真の端に入り込んでる」

「じゃあ、あやかが聞いたのは」

「間違いなく休憩を挟んで移動する前だろうね。タイミングから言って、まだ事件の起きてない時刻だ」

 

 これで発言は事件前だったと言える。事件後じゃありえないんだから当たり前と言えば当たり前なんだけど、一歩前進した。

 あと一手、意図がわかるなにかがあれば。

 

「ちょっと待って。証拠、持ってるかもしれない」

「え?」

 

 またも突拍子のないことを言い出した帆秋さんは、鞄を漁って一冊のノートを取り出した。どこにでもある大学ノートだ。やっぱり緑色をしている以外に目立つところはない。

 

「なんだいそれ」

「家計簿つけ始めたの。見てなさい――これが、決定的な証拠よ!」

 

 止める間もなく法廷につきつけたのは、家計簿から取ったレシートだった。

 

「それが関係するというのか?」

「モチロンよ。あやかは和菓子屋にいた時に聞いている。……十七夜、開廷前に話したことを覚えてる?」

「話したことか。挨拶と情報統制のことぐらいだろう?」

 

 重要なのはそれぐらい……いや、もう一つだけある。帆秋さんがまたハシゴをキャタツだって言いだしたことだ。あの時の会話は確か……。

 

『言葉の違いか……うむ、まとめてキャシゴでいいんじゃないか? しかし、どうやら緊張はしていないみたいだな、安心したぞ』

 

 ……言葉の、違い……。

 そうだ、同音異義語。同じ発音でも意味が異なる言葉は多い。だったら、もしかして。

 

「杏子は『皆殺しにしてやった』なんて言わないわ。もし、もしも仮にやったとしても……自ら言いふらすことはしないはずよ」

「ならば、その言葉をどう説明する」

 

 毬子ちゃんが聞いたのは和菓子屋だ。

 そして、観鳥さんの予想が正しければ、あのレシートに書かれている商品名は――!

 

「“皆殺し”とは、おはぎのことだったのよ!」

 

 そう、おはぎ。もしくは、ぼたもち。

 急に出てきた和菓子の名前に法廷がどよめく。十七夜さんでさえ呆気にとられた顔をしていた。 

 

「えーっ!? おはぎ!?」

「そうか勘違いされてたのか! だからあんな噂が――やば」

「│せ、静粛に。静粛に。どういうこと?│」

 

 どうやら柊さんは桜子さんのデータベースに入れていなかったらしい。もち米を半分潰すのが“半殺し”。全部潰すのが“皆殺し”だ。一部地域で使われている方言で、その紛らわしさから昔話にもなっている。

 つまり、あの発言の意図は単純に、『おはぎを買ったのを誰かに言った』というだけのものだったんだ。

 

「彼女は甘いものが好きなのよ。よくあの辺のお店に寄って買っていたわ。このレシートにあるのは当然、おはぎ」

「なるほどな……裏付けはレシートの時間やその店に行けばわかることか。どうやら本当に無関係だったようだな」

 

 十七夜さんが認めてくれた。傍聴席でもひそひそと驚いたような話し声が聞こえている。この噂を払拭するにはこれで十分だろう。

 

 にしても……。

 

「なんで今さら気づいたのさ」

「家に帰ったあとに帆奈から貰ったのを家計簿に挟んだまま忘れてたのよ」

 

 ……それ、もうちょっと早く言って欲しかったな。

 たぶんなんだけど、今は法廷にいない帆奈ちゃんが証拠として渡したものな気がする。

 

 おかげでちょっとは有利になったものの、楽観視もしてられない。今の証明で新しい疑問点が浮かび上がってきている。

 

「│毬子あやかの証言を終わりにしてもらっていい?│」

「待った。おはぎに関するものだったら、あの言葉はニュアンスからして他人に言ったものだよ。被告は当時誰かといた可能性がある」

「それがどうしたの?」

「帆秋さん、十七夜さんの冒頭陳述を思い出してみよう。佐倉さんは、()()()水徳商店街を散策していたと言っていたんだ」

 

 加えて、お店の人に言ったわけでもないだろう。“してやった”は、買ってあげたとか選んであげたとかそういう類だ。

 この些細な食い違い、黙秘を続ける佐倉さんへの切り札になるかもしれない。幸い、彼女と一緒に行動する人物には心当たりがある。

 

 それは当然、帆秋さんもすぐに思いついた。

 

「ゆまでしょ」

「十中八九そうだろうね。本人から聞いてない?」

「帰ったら帆奈が寝かしつけてたから起こすのも悪いと思って……次の日も朝から捜査、帰ったら同じ状況で聞けなかったのよ」

「……優しさが裏目に出てるなぁ。どうする? 誰も見てないし、憶測になるけど主張する?」

「大丈夫、私に任せて」

 

 それで次に帆秋さんが要求したのは、佐倉さんを証言台へ立たせることだった。

 裁判の流れはこっちが決めることじゃないとは、今さら言うことじゃないだろう。ちょうど十七夜さんも同じことを考えていたようで、要求はそのまま通った。

 

 毬子ちゃんと入れ替わりで今度は佐倉さんが法廷の真ん中へ。この状況下でも彼女はいつも通りの様子で、余裕があるように見える。

 

「で、あたしはなにを喋ればいいんだ? ショーゲンってヤツ」

「先ほどのおはぎの発言についてと、水徳商店街を一人で散策したことについてだ。君は取り調べの時に『確かに言った』と認めただろう」

「……あー、そうだったそうだった」

 

 コン、と木槌が鳴る。

 それが合図となって、佐倉さんが話し始めた。

 

「事件当日、あたしは昼前に水徳商店街に行った。ゆまと一緒にね。それで、和菓子屋でおはぎを買っていったんだ。くれはが言ってた通り、甘いものは好きだしテンション上がってたんだよ。別におかしい話じゃないだろ? 勘違いされてたのは驚いたけどさ」

「では、その後に水徳湯へ行ったんだな?」

「そうそう。でも、和菓子屋からは一人だった。“一人で散策してた”っていうのはここからの話だったんだ。とにかく、これはあたしがやった。認めてるんだ。もういいでしょ」

 

 と、言うと口を閉じてしまった。これ以上話すつもりはないらしい。

 

 頑なな言葉に、今になって思い出したことがあった。調整屋で佐倉さんと会った時に、ゆまちゃんはどうしたかという問いに彼女は言ったんだ。

 

『急になんだよ。帆奈が連れ帰った。今頃家にいるんじゃねえの』

 

 これにはなにか違和感がある。

 

 ここまで来ればわかる。間違いなく、佐倉さんは嘘を吐いている。十七夜さんやみとちゃんの魔法を拒否している本当の理由はこっちだろう。

 そこまでして隠しているのはおそらく、一緒に行動していたはずのゆまちゃんの存在だ。

 

 厄介なのは、商店街にいた誰かからゆまちゃんがいたと証言を得ても『一人で散策する前だった』と言われたら追究が難しくなってしまうこと。

 

 だから、『なぜ隠すのか』。その理由を解き明かさないといけない。

 一つは思い当たることはある。だけど、それを認めてしまえば、佐倉さんが無罪でも望んだ結果にはならない。……いいや、それが真実ならば暴く必要がある。

 

 観鳥さんが尋問をしようとすると、遮るように帆秋さんが口を開いた。

 

「杏子、あなた……ゆまを庇ってるでしょ」

 

 いきなり核心を突いてきた。

 まだ水徳湯には二人で行ったという証明の段階なのに、一気に先に飛んでいる。動線で悩んでいた観鳥さんすら置き去っていった。

 

「……へえ、どうしてそう思う?」

「それしか考えられない」

「じゃあ証拠を見せてみなよ。あたしがやってない証明、できるんだろ?」

「この裁判の期限を定めたのはあなたでしょう。それほどまでに急いで、結果を求めることに理由がある……」

 

 帆秋さんはもう全て見えているというのか。

 理由として考えられるのは、早く裁判を終わらせて探られないようにすることだけど……もしくは、神浜を出る口実が欲しいとか……こっちはないか。

 

 はたしてなにを言うのか。十七夜さんも桜子さんも帆秋さんを見つめている。だというのに、まだもったいぶって言わない。

 

「で、帆秋。それはなんだ」

「……それは」

「│弁護人│」

「そ、それは……」

 

 やっぱり、目が泳いでいた。

 またハッタリだ。つくづくこういう立場は向いてないらしい。

 

「代わりに答えるよ。探られたくなかったんじゃないかな」

「それは被告以外がやった根拠にはならないだろう」

「ぐ……」

 

 これじゃダメか。もうちょっとマシな証拠がないと。

 

「帆秋さん、悪いんだけどもう少し時間を稼いで」

「任せなさい」

 

 何度もハッタリを使ってるからさすがに不安だ。既にあたふたしている。

 それでも今は任せるしかない。手元の資料をもう一度見直して、どうにか場を繋げるんだ。

 

 例えば、目撃証言。

 確認されているものの中には見事に佐倉さん一人のものしかない。さっきの理由はもちろんのこと、和菓子屋さんに確認しても、その後に別れたと言っている以上は確証にはならないだろう。

 

 あとゆまちゃんの情報がありそうなのは……噂か。

 流れているのは、やったのは『佐倉という槍使いの赤い魔法少女』で『物凄く狂暴』とか、さっきの『皆殺しにしてやったと言っていた』あたり。他には『遺体は色々と潰れてたらしい』というのもある。主だったのはこんなところだ。やはり見当たらない。

 

 しかし、改めて見ると尾ひれがつきすぎている。神浜とはいえたった一日でここまで変化するものなんだろうか。

 

「――で、なにが問題なのだ」

「だ、だって隠してるのよ。それは……その……イケないのよ!」

「話にならんな」

「│ペナルティを与えます│」

 

 隣でも苦戦している。わかってはいたけど、語彙力がない帆秋さんじゃ煙に巻くことはできそうにない。急がないと。

 他になにかあっただろうか。それとも、噂かどこかに見落としがあったか?

 

 はて、噂、噂とこうも繰り返すと、どうしても頭に浮かぶのは“ウワサ”だ。この場所自体ウワサ結界の中だからより強く想起される。

 

 ……そういえば、これらの噂はどこから来たんだ?

 

 桜子さんが『万年桜のうわさ』をベースとするウワサのように、あらゆる噂にはその原因がある。無から有が生まれないのと同じだ。火のない所に煙は立たぬ。でたらめなものであっても、必ず生まれた理由が存在する。

 事実である以外にも、例えば、さっきのように勘違いとか。あとは帆奈ちゃんがやっていたように誰かを陥れるため――

 

 まさか。

 

「み、観鳥……」

 

 この様子じゃ、さすがに時間稼ぎも限界みたいだ。まだ確証もなにもないけど、頭に浮かんで繋がった考えを言うしかない。

 

「ここからは観鳥さんが言おう。被告が実際には犯行をしていないと、こっちは証明できる」

「それは結局どういうものか、言ってみろ」

「だったらまず前提を変えないと」

 

 資料を手に持って、印象づけるために不敵に笑ってみせた。

 

「佐倉さんはやっていない。そして、庇っているゆまちゃんもやってないんだ」

「……は?」

「│令、どういうこと?│」

 

 佐倉さんはぽかんと口を開けて、桜子さんは口調が裁判長モードから普段のものに戻っていた。驚いてくれたようでなにより。これで観鳥さんのペースに持ち込める。

 

「確認してほしいのは流れている噂だよ。これらは大きく分けると二種類あるんだ。事実と憶測、その二つがね」

 

 『佐倉という槍使いの赤い魔法少女』と『皆殺しにしてやったと言っていた』は事実。前者はこの騒ぎを知っている魔法少女なら聞いたはずで、後者は言うまでもない。

 

 ただ、『物凄く狂暴』と『遺体は色々と潰れてたらしい』は憶測にすぎない。佐倉さんは事件後すぐに調整屋に連れられて、ずっといたんだ。人となりを見て言われたわけじゃない。遺体だってそのものは消えていて、情報を漏らしたわけでもない。

 狂暴は皆殺しからの印象だとしても……『遺体は色々と潰れてたらしい』は、一体どこから来たのか。それが、鍵だ。

 

 このことを伝えると、すぐに十七夜さんの反論が飛んだ。

 

「噂とは人の言伝だろう。狂暴というイメージからどこかで自然に発生して尾ひれがついた可能性は否めない」

「そうかな」

「……なに?」

「槍を使うって言われてるのに“潰れてた”は嚙み合わないんじゃないかな。槍と狂暴のイメージを思い浮かべて、残虐な表現をするのであれば、観鳥さんなら“串刺し”を使うけどね」

 

 だというのに、“潰れてた”を使う意味はなにか。

 噂に関してはこれだけじゃない。最初から存在していたおかしな点を指摘してやればいい。

 

「そもそもさ、伝聞が早すぎるんだ。観鳥さんたちが調整屋に着いた時点で噂は広まっていた。これはちょっと妙じゃないか」

 

 佐倉さんはゆまちゃんを庇っている。もはや間違いない。じゃあ、ゆまちゃんがやったのか? それも違う。

 

「もしも――真犯人がいて、最初はゆまちゃんに罪を着せようとしていたら?」

 

 誰かに罪を着せられた。そして、佐倉さんは気づいていなかったはずなんだ。

 その証拠にほら、佐倉さんが眉をひそめた。ちょっとズルい手法だけどね。

 

「筋書きはこう。結界内で二人を殺害した犯人は偶然、ゆまちゃんを見た。それで罪を着せようとして、彼女の武器であるハンマーでやったことにしたんだ。‟潰れてた”は信憑性を高めるために犯人が流した最初の噂。でも、佐倉さんが庇ったことで思惑がズレた」

「│間違ってないかもしれない│」

「すごいわ観鳥」

 

 桜子さんと帆秋さんはこう言ってくれてるけど、あの二人は厳しい顔のままだ。

 

「待て。勢いに押されたが、そもそもの千歳君を庇っている証明がないぞ」

「……ああ、そうだよ。まだ信じるには値しない」

 

 そこなんだよねぇ。どうしても思いつかなかったからインパクトのある後の説明を先に持ってきたんだけど、押し切れなかったみたいだ。

 

 それに、賭けは一つ失敗した。

 佐倉さんがゆまちゃんがやった瞬間を見ていたら庇う行為をやめないはず。ももこさんたちみたいに事件後だけを見ていれば信じてくれただろう。想定よりも事態は複雑らしい。

 

「ここは一旦、この裁判の趣旨を思い出してみたらどうだ」

 

 追い打ちをかけるように、十七夜さんが指摘する。

 

「杏子が被害者二人を殺害したかどうかでしょ」

「そうだ。結局のところ、彼女が殺害していないことを示さないと、庇っていることや真犯人とやらにも繋がらない」

 

 く……巻き戻された。

 マズいな。殺害していないことを証明するには、その先のことが重要なのに。

 

「しかし、だ。被告……本当に、君がやったのか?」

「やった」

「頑なだな。君がやった証拠も自供しかないというのに」

 

 まるでこっちの味方のような行為に、帆秋さんが訝しんだ。

 

 別に、それはおかしくない。そりゃあ十七夜さんだって真犯人がいるのなら探し出したいはずだ。だけど、本人がやったと言い張り続けているんだ。有罪であるという考えからではそこで止まってしまって、別の結果に至る手段がない。

 

 あと少しなんだ。佐倉さんに庇っていることを認めさせることができれば……。

 

「│弁護側に動きがありませんが、尋問を終わりにしますか│」

「まだ聞きたいことがあるわ」

「│遅延行為はペナルティ。くれはにわかりやすく言うと、あと一回でレッドカード。退廷。令に続けてもらうことになる│」

「う、うぐ」

「やれやれ、どこの裁判のルールをインプットしたんだか……」

 

 裁判の途中で弁護士が追い出されるなんて、魔法少女裁判は相変わらずめちゃくちゃだ。傍聴席からも「そんなのアリなんですか」とか「私にもわからないわよ」なんて声が聞こえてくる。

 

 ……あれ、その声の出元はみかづき荘の人たちじゃないか。ういちゃんを含めて六人揃っている。彼女たちも来ていたとは、後ろのほうにいて気づかなかった。

 

「│静粛に│」

 

 またざわつき出した法廷に木槌の音が響いた。

 

 しめた。静かになるまでの僅かな時間で突破口がないか考えるんだ。時間稼ぎのための可能性を見つけるだけでもいい。予備日である明日に持ち込ませて先延ばしにする方法もある。

 その手段さえ思いつけばいいだけなんだ。だってのに、こういう時に限って観鳥さんの頭は回らなかった。

 

「│……静粛に│」

 

 今ので二回目。どういうわけかざわつきが収まらず、むしろ強くなっている。

 ざわつきはみかづき荘の人たちのさらに奥、結界の出入り口のあたりから大きくなっているようだ。見える位置まで移動すると、そこには二人の人物がいた。

 

「ねえこれどっから真ん中行くの? 早く言わないと飛び込むよー? いーち、にーい……」

「キョーコ……どこ……」

 

 なんで、帆奈ちゃんとゆまちゃんが。二人は今までずっと帆秋さんの家にいて、顔を見せなかったのに。

 

 この騒ぎの原因は、変身した帆奈ちゃんが杖で傍聴席の人を脅していたからのようだ。本気じゃないはずだけど、知り合い以外には圧が強く見える。

 止めようと他の魔法少女が近寄っていく前に、彼女は痺れを切らした。ゆまちゃんを抱えて大きく跳躍。青空を背景に移動して、勢いよく証言台の上に着地した。ちょうど佐倉さんの目の前だ。

 

「てめっ、ほとぼりが冷めるまで家に置いとけって聞いただろ!」

「はぁ~? 直接聞いてないし、勝手に言ってただけでしょ」

「……帆秋さん、あれどういうこと?」

「聞いてない……」

 

 自宅での出来事なのに、帆秋さんは蚊帳の外だったらしい。少ししょんぼりとしていた。

 その帆奈ちゃんは佐倉さんと言い合いを始めてしまったし、ゆまちゃんは佐倉さんにくっついている。……混沌としてきたぞ。

 

 ちらりと裁判長の席を見ると、ひときわ大きい木槌が現れていた。

 

「│静粛に!│」

 

 それが振り下ろされると、壁が砕けるような大きな音が法廷中に響いた。振動で結界内が揺れる。帆奈ちゃんなんてバランスを崩して地面に落ちた。

 

 桜子さんがこんな力技に出るなんて思わなかった。意外な一面……と言うよりも、裁判長席の陰に隠れた元マギウスが原因だと思う。大方、「驚かせてあげたらどうかにゃー」なんて言ったんだろう。なんであんなところにいるんだ。

 

「おガキ様は後で仕置きだな。……話を戻すぞ」

「杏子がやったかやってないかよね。やってないわ」

「ならば証拠が必要だろう」

 

 話を戻すと言った通り、ここまではさっきの繰り返し。佐倉さんが認めてくれないと先へと繋がらない。観鳥さんたちだけじゃここ止まりだろう。

 

 でも、形勢は逆転したんだ。

 

「キョーコは優しいんだもん……犯人なんかじゃないもん……」

「もとから無理があったんだって。魔法少女相手に隠し通すのは無理無理。ゆまもこう言ってるんだし」

 

 裁判前になにを話したかは知らないけれど、この二人がいてくれれば強力な助っ人になる。それでも認めてくれなければ――なんて心配はしなくてよさそうだ。

 佐倉さんは考えるそぶりを見せたあと、まずは帆奈ちゃんを見て、次にゆまちゃんのほうを向いた。そして、最後に見たのは帆秋さんだ。

 

「……くれは……今度こそ証明、できるんだよな?」

「当たり前よ。正義が真実なんじゃない。真実が正しいの。だったら、答えに手が届く。約束するわ」

「へえ、アンタが約束ね」

 

 ……約束。

 ずっと頼りない弁護を続けてきたけど、あの人がその言葉を持ち出したのなら。人となりを知っていれば、信じられるはず。

 

「あー! 演技なんて終わりだ終わり! あたしはやってねぇ! ゆまもだ!」

 

 そう、大声で叫んだ。

 

「│被告、証言を変えるということですか│」

「そういうこと。ちゃんと聞いててくれ」

 

 法廷が静かになる。誰もが証言の内容に耳を傾けた。

 

「水徳湯の結界には二人で入った。んで、最深部で魔女と戦ってたんだけど……後ろのほうで使い魔と戦わせてたゆまのハンマーが二人の魔法少女を吹き飛ばすのを見たんだ。その前から他の魔法少女の反応はあったから、多分そいつらだろうって思って、ゆまには先に帰って帆奈に匿ってもらえって言った。あとは目撃証言の通りだよ」

 

 ……あまりにも確定的すぎる。けど、これで動線は通った。

 

 見たのが最深部というのが気になるけど、存在した魔力反応に、ゆまちゃんがハンマーを持っていたのを目撃できたこと。

 そして、佐倉さんが捕まったと情報が流れる前、ゆまちゃんを犯人に仕立て上げようと噂を流せた人物はたった一人に絞られる。

 

 帆秋さんは尋問をするまでもなく、高らかに告げた。

 

「棒島乃子、彼女をもう一度証言台へ立たせなさい」

 

 




■今回の内容
 ないです。
 あ、ない。

■あやか
 やるときはちゃんとやる魔法少女。
 魔法少女衣装のまま証言台に立っても違和感なさそう(小並感)。

■杏子ちゃん
 ちゃんとアルバイトをしたお金で買っていたので証拠が残っていた。
 被告人! 弁護士を信じて最初からちゃんと証言してください!!

■おガキ様
 せっかくなので傍聴に来ていた。
 灯花ちゃんは別に悪くないにゃー。

■観鳥さん関連
 詳しくは次回。




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。