マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート南凪チャート   作:みみずくやしき

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正義と真実、神浜最後の逆転 後編

 佐倉さんとゆまちゃん、帆奈ちゃんがその場を離れて、中央の証言台に棒島さんが立った。

 観鳥さんとしても、こうも簡単に彼女をもう一度引き出せるとは思っていなかった。誰しも少しは疑念を抱いていたんだろうか。流れるように進んでいったんだ。

 

 ただ、呼び出された本人は納得していないようだ。表情からして不満や怒りといった感情ではなく、疑問のほうが大きいみたいだけど。

 

「ど、どうして私が証言するんですか? 彼女が言ってたじゃないですか、『二人の魔法少女を吹き飛ばすのを見た』って……庇っていたのは驚きましたけど、もう確定じゃないですか。それになにを言えば……」

「キミに聞きたいのは単純なことだよ。なにを見たのかを証言してくれないかな。最初の証言の時は結界から出た後の話だったからね」

「……わかりました。それぐらいなら」

 

 今、観鳥さんたちがやらないといけないのは、推測を真実にすり合わせることだ。

 

 佐倉さんが犯行を否定しても、ゆまちゃんのハンマーが二人を吹き飛ばすのを見たと言った。傍からしたらもう確定してしまっている状況だ。それでも、ゆまちゃんはやっていないと佐倉さんは証言している。圧倒的不利なのは変わらなくて、妄言と取られてもおかしくない。

 

 でも、ここで止まるわけにはいかないんだ。ゆまちゃんがやったんじゃない。他の可能性がある限り、たとえ迷惑がられても観鳥さんは真実を追い求める。

 

 はっきり言おう。観鳥さんは、棒島さんが真犯人だと思っている。

 

 おそらくはこうだ。

 棒島さんは『なんらかの理由』で被害者二人を殺害し、『なんらかの方法』でゆまちゃんがやったように見せかけた。そして水徳湯を出た後に、水徳商店街で噂を広めた。

 確認できる事実を持って、この『なんらか』の部分を明らかにしないといけない。その取っ掛かりとしての証言だ。 

 

 しかし、口を開いたのは棒島さんではなく、十七夜さんだった。

 

「聞くのはそれでいいのか? 彼女には既に『心を繋げる力』を使っている。それで見えたのは十咎が見た状況に被告を加えただけだ。その後も発言通りに動いていたぞ」

「なッ……!?」

 

 そんなの聞いていないと抗議の視線を向けると、無言で資料を指さされた。あった。

 らしくないミスだ。事前に確認する時間がなかったのと、さっきは関係ない部分だと見逃したのが原因か。

 

 取っ掛かりを封じられて、代わりになにを聞けばいい。結界に入る前を聞いたところで仕方がなく、出た後は聞いている。目撃した佐倉さんがどこに行ったかなんて聞いても意味がないんだ。

 

 また帆秋さんに時間を稼いでもらえないだろうか。その思いで横を見ると、どういうわけか、緑色の羽根帽子が見えた。

 

「――止まれ」

 

 何度も感じた魔力の波長が空間を流れてどこかに作用する。

 間違いない。『停止』だ。どうして今使ったんだ。

 

「私たちの質問は変えないわ」

「でも、帆秋さん」

「いいの。桜子、続けて」

「│わかりました。それでは証人……証人?│」

「あ、はいはい私ね」

 

 ……なんだ。様子が、おかしい。

 

 棒島さんはさっきまでおどおどとしていた。なぜ証言台に立たないといけないかと、疑問に思っていたはずだ。それが今や、怒りの感情を隠しきれていない。肘をついて気怠そうに返事をしている。まさしく、豹変してしまった。

 

「まさか、今の『停止』は……」

「ぐにゃっとした感覚があったから使ってみたんだけど、正解だったみたい」

 

 『停止』を持つ帆秋さんは、棒島さんにかかっている魔法に気づいていたらしい。小さな声で観鳥さんだけに教えてくれた。効果を止めたことで持続が切れるタイプだったらしく、今はもう感じないんだとか。変貌の理由はそれだろう。

 

 それでわかった。

 棒島さんはみとちゃんの『心を繋げる力』でも証言通りの現場が現れて、十七夜さんの『読心』でも嘘はついていないと判断されていた。心を読み取るこれらの魔法をかいくぐることは至難の業で、ほぼ不可能と言っていいだろう。だからずっと信じられてきたし、証拠になっている。

 

 ただ、一つ。これら全ての前提を覆すものがある。

 

 ……そう、固有魔法だ。

 

 心を読む魔法は、『停止』で自分の精神を止めたら通じない。同じく、帆奈ちゃんが宿していた『暗示』だって対策になる。記憶を封じたらみとちゃんでも完璧には読み取れなくなるって証明されているんだ。

 十七夜さんは言っていた。『自分相手に嘘をつくなら心の底まで嘘をつけ』って。それはつまり、心の底から間違っていたら――思い込んでいたら、見破れないってことなんだ。

 

 そこから導き出されるのは、思い込みや勘違いを意図的に引き起こす『幻惑』系の魔法。

 ともすれば、かかっていたそれこそが、彼女の固有魔法だ。

 

「なんだ、見えたじゃないか」

「なにが?」

「まあここは任せて。――証言の前に、弁護側から言いたいことがある!」

「│許可しますか?│」

「構わんぞ。自分も今の『停止』が気になるのでな」

 

 無言の棒島さんの鋭い視線が突き刺さる。はてさて、気づいているのか。

 

「さっき帆秋さんが止めたのは……おっと、わかりやすく『停止』についてから話すよ。この魔法は――」

 

 まずは、わざわざ長々と説明を始める。

 

 この間に向かい側にいる十七夜さんに念話を送った。棒島さんに『読心』を使って固有魔法のことを読み取って、ってね。

 意図に気づいてくれた彼女は、さりげなく魔法の効果範囲に近づいて発動させたようだ。すぐに念話が返ってきた。

 

(今まではかすりもしなかったものが読めたぞ。彼女が自分で認識している魔法は『自己暗示』。他人にもかけられるようだが、自分と同じく近くにいないと使えないらしい。かける相手が多いほど扱いが難しくなるそうで、視覚や聴覚にも作用する幻覚を作り出せるようだ)

(やっぱり)

 

 固有魔法について話せば、勝手に自分の魔法のことが心の表層に浮かび上がってくるだろう。見事に十七夜さんが読み取ってくれた。

 裏付けは取れた。攻める。

 

「十七夜さんの『読心』の結果を新たに証拠として提出する」

「自分も問題ない。念話で送るからデータ化してくれ」

「│……わかった│」

「内容は観鳥さんが読むよ」

 

 まったくウワサというのは便利なもので、観鳥さんたちの前に桜色の紙が具現化した。それにはついさっき読み取った内容が書かれている。法廷を作ったのと同じ要領だ。

 読み上げるたびに棒島さんの表情が少しずつ変わっていく。キツく睨んでくるけど、それじゃ効果の答え合わせをしてるようなものだよ。

 

「――つまり、止めたのは棒島さんにかかっていた魔法。幻惑系のそれ、今は効果が切れてるんじゃないのかな」

「え? そんなわけ――あ……ッ!?」

「貴様、なぜ『もう少しでバレなかったのに』と考えた?」

「……そ、それがなに……! あなたたちが勝手に言ってるだけでしょ!?」

「確かにな。『読心』の結果は自分にしかわからん。捏造したと疑われもするだろう」

「だから、‟確認できる事実”と証拠を持って、結論を出す。そうだろう、帆秋さん」

「ええ。あなたを中心に、あの日のことを一から考えてみましょう」

 

 まず、なぜ水徳湯へ棒島さんが立ち寄ったか。

 これは魔女の反応を感知したからで、本人も認めている。現場にいたことは間違いないのだから認めざるをえないわけだ。

 

「だからなによ。さっき言ったでしょ? 『二人の魔法少女を吹き飛ばすのを見た』って言ってるなら、あの子に決まりじゃない」

「ゆまちゃんは使い魔と戦っていた。だったら、キミの魔法で使い魔の姿を被害者二人に変えて、あたかも吹き飛ばしたように見させることもできたはずだ」

「はあ? 私が来たのはその後。近づなきゃいけないって言ったのはあなたでしょ。それに、どこに私がいた証拠があるの」

「いた証拠があればいいのね」

 

 帆秋さんの言う通り、提出してやろう。

 いなかった証拠を出すのは難しくても、()()()()なら用意できるじゃないか。

 

 切り札を使うのは、今だ。

 

「桜子さん、みとちゃんを呼んで。『心を繋げる力』で佐倉さんと一緒に吹き飛ばした瞬間に入って、()()()()()()を確認するんだ。そこにいる彼女と同じかどうかを」

 

 佐倉さんは他の魔法少女の反応を感じたと証言していた。魔力パターンによる探知は過去には適用できない。それは間違いない。

 だったら、記憶の中という過去であり、現在で用いればいいだけだ。あの空間の中ではそういう干渉もできる。棒島さんの心の中ではなく、佐倉さんかゆまちゃんの心の中であれば途中で妨害も入らないだろう。つくづく、とんでもない魔法だよ。

 

 どういう意味か理解できてない棒島さんをよそに、傍聴席から来たみとちゃんが佐倉さんとゆまちゃんの二人と手を繋いだ。三人が目を閉じて、魔法が発動する。固唾を飲んで見守ること数分。この間にできることはない。ただ、待つだけだ。

 そして三人は同時に目を開けて、棒島さんを見た。

 

「みと、やっぱり?」

「うん……魔力パターン、同じだった」

「あたしも確認した。くそ、ちゃんと覚えておけばこんな面倒事にならなかったのに」

「ゆまも……」

 

 さらに十七夜さんに三人の心を読んでもらって判定しても同様。

 これでほぼ間違いなく、ゆまちゃんが吹き飛ばした瞬間に棒島さんが近くにいたことがわかった。ということは。

 

「あの場で幻惑系の魔法を使えたのは彼女だけ。見せかけたのは彼女に決まりだね」

「いや、佐倉君もそのような魔法は使えるぞ」

「……十七夜さん?」

「帆秋を助けにミラーズに行った時の話だが、佐倉君は分身した。実体があったが、あれは同系統の魔法だろう。彼女にしかできなかったというのは通らん」

「あー……そういやそうだ……見せるんじゃなかった」

 

 ……なんだって。そんなの聞いてないぞ。

 十七夜さんも十七夜さんだ。このタイミングでそんな重要な話をするのか。今の展開は、棒島さんだけが幻惑系の魔法を持っていることを前提に話している。それがよりにもよって、佐倉さんも同じ魔法を持っていただなんて……! 

 

 さっき十七夜さんが読んだ心の内容や状況が示していても、これでは絶対じゃない。掴めそうで掴めない答えに、ぎり、と歯嚙みした。

 

「あは、あはははは! さっきまでの威勢はどうしたのよ! 結局、その子でも見せかけられるんじゃない!」

「杏子がそんなこと――」

「証拠、あるの?」

「ぐっ……」

 

 まずい……ここで蒸し返されると、また噂が広がり始める。

 佐倉さんでも行えたという可能性が生まれてしまったんだ。これじゃ、佐倉さんが犯行をゆまちゃんに押し付けたなんて悪意に満ちた解釈ができてしまう。

 

「そうよ、魔力パターンが同じだからなに? 肝心の私が殺害した証拠がどこにあるの? 動機は? それに私が持ってるっていう『自己暗示』。それ、他人が私にかけている可能性もあるでしょ? 今だってこの場の誰かにかかってるのかもしれないのよ!」  

 

 ……動機は、まだわからない。殺害した証拠もだ。見せかけたのが彼女であるという推測から成り立った証明に綻びが見え始めた。

 

 この状況で一番避けるべきは、佐倉さんしか幻惑系の魔法を使えなかったという結論に持ち込まれること。せめて『自己暗示』が彼女の魔法であることを確定できないと事態はより悪い方向へ転がっていく。

 考えろ、観鳥令。彼女しかいないタイミングで使われた場面はなかったのか……!

 

 水徳湯に向かうまでと出た後はダメだ。事件前と事件後、そこで使ってどうする。この魔法によって噂を流したのでも、外じゃ彼女一人に絞れず、証明する手段がない。

 

 結局は結界の中で起きたこと。水徳湯自体で考えないと。 

 あそこには佐倉さんとゆまちゃん、被害者の二人、棒島さん、ももこさんたちの四グループが入った。見せかけたのが棒島さんであれば、当然、殺害はそれ以前の話。入った順番としては、被害者と犯人が最初で、佐倉さんが次、ももこさんが最後だろう。

 

 彼女しかいないと言えるタイミングは佐倉さんが入る前だ。でも、その状況を知ることができない。物証だって結界ごと消えている。

 

 あまりにも情報が足りなすぎる。被害者二人についてもそう。観鳥さんたちは、名前は知っていても顔を知らないんだ。みとちゃんの魔法は捜査に多用していて大忙しだったし、さすがに記憶の中にカメラは持ち込めないから撮ってきてもらうのも無理だった。

 

 なにか別の方向から考えられないかと資料を漁っていると、横から帆秋さんの声がした。

 

「ICレコーダー、貸して」

「みたまさんの証言ぐらいしか入ってないけど、それでも?」

「モチロンよ」

 

 持ち歩いているICレコーダーは私物で、証拠品や資料じゃない。今なくても困らないし、すぐに渡した。それに流れる音声は既にこの法廷で何度も聞いた話だ。資料にも書かれている。今さら目新しいことなんてない。

 

「│令、証拠はある?│」

 

 だから決定的な情報はなくて、進行しようとする桜子さんに答えられない。認めればこれ以上の発言ができなくなる。

 これはどうやら棒島さんもわかっているようで、ふんぞり返っていた。

 

「残念だったね弁護士さん。私を追い詰めるには証拠がないじゃない。全部憶測でしょ。オ・ク・ソ・ク!」

 

 悔しいけどその通りだ。あんな自白してるような口ぶりでも、憶測と言われちゃ返す言葉がない。

 なのに――

 

「それはどうかしら」

「え?」

 

 音声を聞いていたはずの帆秋さんは、よどみなく言い切って、真っ直ぐに棒島さんを見つめていた。一切の心配も不安もなく、ただただ真っ直ぐ。

 

「いい? 遺体は、遺体じゃない。その証拠を示すの」

 

 ……はは、諦めが悪いのは相変わらず。いっつもそうだ。観鳥さんが足を止めても、無理やり引きずろうとするんだから。

 おかげで気づけた。まだ、可能性はある。

 

 ああ、そうだ。

 

 観鳥さんたちはまだ“真実”を諦めちゃいない。

 証拠がなくちゃ、誰にも信じてもらえない。それは痛いほどわかってる。だったらさ、つきつけてやろうじゃないか……! 決定的な証拠を!

 

「相談は終わったか? あまり長引かせることもできないぞ」

「問題ないよ。証拠は最初からあったんだから」

「くらえッ! これが証拠よ!」

「投げるな」

 

 高速で投げられた資料を十七夜さんが片手でキャッチした。あれは帆秋さんの分だから別にいい。

 それよりも、だ。

 

「これは……十咎の目撃証言の資料だが……」

「ある一つの可能性を考えてないのさ。ゆまちゃんが吹き飛ばしたのが使い魔を変化させたものだったら――ももこさんたちが見た遺体も、使い魔の可能性がある!」

「│あっ……!│」

 

 ついさっき、十七夜さんが言ったじゃないか。『彼女には既に『心を繋げる力』を使っている。それで見えたのは十咎が見た状況に被告を加えただけだ』って。

 

 再度みとちゃんが心を繋げる力を使ったことで、佐倉さんの記憶の魔力パターンと棒島さんの証言に食い違いが生まれている。

 なら、心の中に食い違いがないとどうして言える。魔法を解除した今、もう一度棒島さんの記憶に入れば、ももこさんの見た光景に佐倉さんが加わっていたことなんてことはないはずだ。

 

 だいたい、佐倉さんが見たのは最深部。ももこさんたちが見たのは――最深部じゃない。二か所に遺体があるのはおかしい。最深部のが幻覚じゃないと仮定したら、ももこさんたちが見たのはなんだったのかという疑問が生じる。棒島さんが二つの場所で見たと言ったのもおかしくなるんだ。どっちを主張しても追い詰めることができる。

 

 もっとも、主張するのは両方とも幻覚だったということ。

 これを告げれば、棒島さんは反論する。

 

「バ、バカバカしい。幻覚だって証拠は!?」

「あるって言ったよ。キミの隠蔽には、大きなミスがあった」

 

 見るべきはソウルジェムでも傷跡でもない。衣装だ。

 ……ここは、帆秋さんに倣って傍聴席に呼び掛けてみようかな。あの三人組の一人、観鳥さんと似た髪色で髪型の人にね。

 

「ももこさん、どうして倒れているのが魔法少女だと思ったの?」

「え、アタシ!? ……そりゃ、服が独特だし、ソウルジェムまであるし……」

「だけど、ソウルジェムは割れていた。そうだよね?」

「う、うん……それが……?」

「――やはりか……!」

 

 ベテランの十七夜さんは気づいたらしい。傍聴席でもやちよさんがはっとした表情をした。

 まあ、あんまり知りたくもないことだけどさ。観鳥さん、白羽根だったから色々と情報を持ってるんだよね。

 

「死亡した魔法少女は、変身が解ける。ソウルジェムが砕けているのに魔法少女の衣装なのはおかしいんだ!」

「う、うぐぐ……ぐぐ、ぐぐぐぐぐぐ!」

 

 驚きと失敗を自覚した感情が混ざりあった表情。実にシャッターチャンスじゃないか。

 どうやらソウルジェムが砕けたら死ぬということは知っていても、変身が解けることまでは知らなかったらしい。だからあの二人は魔法少女の衣装のまま。つまりは、幻覚だったんだ。おそらく、そのまま放置していたら使い魔に戻っていただろう。結界ごと消えたのが発覚を邪魔していた。

 

「だけど、そこに私がいたなんてわからな――」

「キミの魔法、使うには近距離にいないといけないんだよね」

「ぐぅ!」

 

 逃げ道は塞ぐ。そのつもりで言うと、棒島さんも理解したようだった。

 証明は明日の予備日にでもみとちゃんの魔法で心に潜って魔力パターンを調べればいいだけだ。幻覚が確定して、佐倉さんがいなくて、引き起こせるのが彼女しかいないとなれば、『自己暗示』を持つのは彼女になる。同様に、ゆまちゃんが吹き飛ばした場面でも『自己暗示』の波長を調べれば判明するだろう。

 

 またも法廷がざわめく。口々に聞こえるのは「今まで嘘を吐いてたってこと?」とか「幻覚だったのね……」なんて疑いが晴れていく声だ。

 

「│静粛に! ……棒島乃子、新たに証言しますか?│」

 

 これでも否定を続けるのなら明日にもつれ込むだろう。二つとも幻覚なら本当の遺体はどこにあったのかや、殺害した瞬間、動機がまだわかっていないんだ。まだ抵抗はできる。気を抜くわけにはいかない。

 

 けれども、棒島さんは首を横に振った。 

 

「私が、やった……アイツら、襲ってきたから返り討ちにしたの……遺体は衝撃で落下していったから知らない……」

「君が自供したか。だが、なぜ隠蔽工作を?」

「引っ越してきたばかりでも、友達が住んでるから神浜の東のことは知ってた。私が東に住んでるから、殺したくて殺したわけじゃないなんて誰も信じてくれないと思って……」

 

 口調は同じでも弱々しく思える言葉は、まるで昔の観鳥さんを見ているようだった。

 思い出すのは、友人がイジメに加担する場面を撮ってしまったあの日のこと。東西の関係を押し付けられた出来事だ。帆秋さんが手を差し伸べてくれなければ、きっとなにかが変わってた日。

 

 タイミングや論理的なおかしさ、そんな些細な違いで大衆は納得しない。彼女もどこかでわかったんだろう。引っ越してきたばかりと言っても、それが嘘だと思われて他の東の住人のように扱われると。

 苦味が広がったのは、十七夜さんも同じのはずだ。彼女はもう変身を解いていたのだから。

 

「……そうか。ともかく桜子君、今回の法廷は佐倉君の裁判だ。判決を」

「│わかった│」

 

 なにはともあれ、これで決着だ。犯人は棒島さんだと最初から決まっていたんだ。それを暴いて、無罪を勝ち取った。噂を確実な真実で打ち消すことができるんだ。

 

 

 本当に、そうか?

 

 

 観鳥さんの直感が叫んでいる。まだ違う。この先になにかがあるんじゃないかと、うるさいほどに響いている。

 

 これでは佐倉さんの位置に棒島さんが来ただけだ。自供があるとはいえ、彼女がやった瞬間を見た者はいないだろう。確定してしまっていいのか。

 それに、さっきから一言も喋らない帆秋さんは、佐倉さんが身内だから助けたのか? 

 

 ……いいや、違う。彼女は、()()()()()()

 

「待って、まだ終わってない」

「│……くれは、犯人は自供して、弁護側は無罪を勝ち取れる。止める要素はないと思うけど│」

 

 その信頼の通りに、帆秋さんは告げた。

 

「あるわ。だって、犯人なんていないもの」

 

 あまりにも素っ気なく言った言葉に、法廷が揺れた。

 誰もが信じられないという目で帆秋さんを見つめる。それは自供した棒島さんでさえ同じ。観鳥さんも、帆秋さんと長いこと付き合ってなきゃもっと驚いていた。

 でも、そういう人なんだよ。

 

「今示すわよ。彼女も無実であるという証拠を」

 

 そして、両手で弁護側の机を力強く叩いて、宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「万々歳の大盛りサービスは、魔法少女限定なのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

「│くれは……│」

 

 驚いた顔は、揃いも揃って呆気にとられた顔になった。

 帆秋さんがつきつけたチラシに視線が集まる。赤と黄色が目に痛いほど目立つ万々歳のものだ。みたまさんのサインが入っているのを見るに、調整屋にあったものだろう。

 

「│静粛に。弁護人、どういうつもり?│」

「帆秋、さすがに脈絡がなさすぎる」

「そーだよ! 確かにサービスだけど! うちのアレは普通盛り!」

「ちょ、ちょっと鶴乃ちゃん……そこじゃないよ……」

 

 桜子さんに十七夜さん、傍聴席にいるみかづき荘の人たちの反応が普通だ。観鳥さんだって、随分と突拍子のないことを言い出したと思ってる。

 けど、今の帆秋さんはまったく目が泳いでいない。『停止』だって使われてない。ある確信を持って今の発言をしたんだ。

 

「観鳥、思い出して。事件が起きた日……喫茶店で万々歳の話、聞かなかった?」

「それは――」

 

『万々歳、本当に50点だったね』

『大盛りサービスしてくれても、胃もたれがね……』

 

 ……聞いた。

 その話し声を、確かに耳にした。

 

「じゃあ、あの場にいたのは魔法少女だったって……あ――それが!」

「観鳥が言う通り。あの二人は、私たちと同じ喫茶店にいたの。当日、みたまは被害者の二人を調整していた。つまり、調整屋にいた。そして、『自由に持って行ってください』と書かれて放置されているこのチラシがあれば、大盛りにしてくれる。持っていってもおかしくないし、あの量よ。減ったのに気づかなくても仕方がないわ」

 

 そういえば、みたまさんが言っていた。

 

『私服だったわ。わたしもわざわざ、どこの学校かなんて聞くようなことしないし、世間話の中にもわかるようなことはなかったわねぇ。参京区に行くとは言ってたけど、それは水徳湯のことだろうし……』

 

 これは、水徳湯じゃない……! 

 だって、万々歳があるのも参京区。彼女たちは本当は調整屋から万々歳、水徳商店街、喫茶店と移動していたんだ。

 

「│……? でも、特に変わらないと思うけど│」

「いや、変わるぞ……! その時間、喫茶店にいたのなら!」

「ええ。そもそも私たちはずっと、彼女たちが死んだと思い込んでいたのよ」

 

 犯人がいないとは、そういうことか。死んでなきゃ事件もなにもない。

 空間が一瞬で静まり返って、理解した人から騒ぎ出して、今までで一番にうるさくなった。根底からひっくり返す大逆転なんだ。こうでなくちゃ。

 

「│静粛に! 静粛に! ……くれは、どういうこと│」

「言った通りよ。彼女たちは、生きている」

「バ、バカなことを……私がやったのよ!? ボイラー室の結界で、この手で! 確かに殺してしまった!」

「あなたは知らないかもしれないけど、神浜にはいるでしょう? 魔法少女そっくりで、魔法少女でない、そんな存在が」

「│ミラーズのコピー……!│」

「みたまさんが管理してるから本来は外に出てくることはないけど、帆秋さんが攫われたあの時だけは出ていた。もしもその残りが潜んでいたのなら、ありえるんじゃないかな」

 

 それにコピーなら襲い掛かってきた説明もつく。

 あれらは本物との違いがあるけど、棒島さんは神浜に来たばかり。観鳥さんたちでも知らない魔法少女のコピーは判別できないんだ。もともと見分けが難しいのに、そんな人物に偽者だなどとわかるがはずがない。

 

 あとは証明だ。

 十七夜さんがもう一度変身して、馬上鞭をつきつけた。

 

「それが事実ならば喜ばしく、自分も信じたいが……魔法少女裁判と言えどもここは法廷だ。そして、魔法少女であるからこそ『確認できる事実』が必要だ。わかるな?」

「証拠はあるわ」

「ならば、見せてもらおうか。被害者二人が生きているという証拠を!」

 

 そこで、帆秋さんが目配せした。あるって言ったのはやっぱりハッタリじゃない。被害者二人が実は生存していたことを示す証拠。そんな都合の良い物を、観鳥さんが持っているって目が言っている。

 

 手持ちの資料、ICレコーダー。どれでもない。

 観鳥さんを真に象徴するものは、カメラだ。撮った写真だ。きっと、その中にある。

 もう、あの苦い過去を二度と味わいたくないから、観鳥さんは願ったんじゃないか。『シャッターチャンスを逃さない』という希望を。覚えがなくても、必ず証拠を撮っているはずだ。

 

 プリントアウトした写真を机に散らばせる。すぐにその中の一枚に視線が移った。

 それは保澄ちゃんに許可を貰って喫茶店の外観を撮らせてもらった写真。あの――カメラを向けたら指が勝手に動いた時だ。我ながらよっぽど撮りたかった? 違う。『願い』の効力が発動していたんだ。

 

 窓から店内はあまり覗けない。それでも端のほんの一部分に入り込んでいるこの二人。ありえるとしたらこれしかない。でも――

 

「信じてるわ」

 

 伸ばすのに躊躇した手を追い越して、帆秋さんは写真を手に取った。そして観鳥さんの目を見た。青みがかかった黒色の瞳が、あの日よりも強く、澄んでいた。

 信じてると言われたのなら、観鳥さんだって信じよう。その選択と、自分の腕を。

 

「証拠はこの写真。杏子が捕まったって聞く直前に観鳥が撮ったのよ」

「自分には同じに見えるが……棒島君、確認してくれ――と、急に寄るな。落ち着け、今見せる」

「だ、だって、こ、殺してないかもって……あ、い、生きてる……!」

 

 ……通った。

 

「うむ。あとは八雲に確認を取れば確定か」

 

 本人たちを実際に見たみたまさんが確認すれば、もう間違いない。調整屋で待機している彼女を急遽呼び出して見てもらうと、「この子たちよ」と安堵した表情で教えてくれた。

 なんならまた魔力パターンを確かめたり、聞き込みをしたらいい。顔写真があれば探しやすくなるだろう。必ず、生きていると結果が出るはずだ。

 

 さて。

 

「桜子さん、もういいんじゃない?」

「│うん。……こほん、判決を下す。被告人、佐倉杏子は無罪。棒島乃子への嫌疑も晴れた。めでたしめでたし│」

 

 お祝いのつもりなのか、暖かい風と共に桜の花びらが法廷を舞った。

 帆秋さんと十七夜さんは変身を解いて、いつもの様子。棒島さんはずっと嬉し泣きをしている。傍聴席なんか映画を見たあとみたいに感想を言い合っていて騒がしい。もう木槌を使う必要もないんだ。しばらくは続くだろう。

 

 これで、この裁判も終わり。

 

 棒島さんが殺したと勘違いして。

 幻覚で見せた遺体を本物だと勘違いして。

 記憶を見て確認したみとちゃん、心を読んで把握した十七夜さんの結果まで思い込み。

 それに竜城さんの証言、おはぎの『皆殺し』発言なにやらなにまで……全部勘違いか思い込みだ。

 

 改めて考えてみると、なんだこの複雑すぎる連鎖。よくもまあ、答えに辿り着けたものだ。

 いくら難解でも観鳥さんは真実を知りたかった。十七夜さんは正義を為したかった。帆秋さんは、ただ、彼女でさえも助けたかったんだ。

 

 それでも今回のは強風の綱渡りみたいなものだった。ハッタリと推理がうまくいっただけでいつ崩れてもおかしくない。こんな裁判、二度とゴメンだ。観鳥さんは捜査で写真を撮ってるほうが性にあってるよ。 

 ……ま、素直な感情を言わせてもらえば、観鳥さんの写真が真実への道筋になったのなら、こんなに嬉しいことはないな。

 

「終わったわね。帰ってメロン食べましょう」

「ここで気を抜かなきゃカッコいいままなんだけどなぁ……」

「なにか言った?」

「いいや」

 

 聞こえてなかったのなら、それでいいさ。

 

「はー終わった終わった。だから最初っからくれはに言っておけば良かったのに」

「まさかこんな大事になるとは思ってなかったんだよ。最後に迷惑かけるわけにもいかねーし」

「でも、キョーコはゆまを守ってくれた! やっぱり、ゆまのヒーロー!」

 

 そんな風にちょっかいを出してくる帆奈ちゃんや、帆秋さんに話しかける佐倉さんとゆまちゃんの姿を見つつ、資料を片付けて帰り支度をしていると、元気な茶髪の魔法少女が駆け寄ってきた。底抜けに明るい笑顔だ。

 

「終わり良ければすべて良し、まさしく、万々歳の結果だったね! そう、万・々・歳! 祝勝会はウチでやろうよ!」

「いいわよ。鶴乃のおかげみたいなものだし」

「やったー! 団体さんだー!!」

「観鳥も来るわよね。杏子たちの分と一緒に私が払うから」

 

 なんて、真顔なのにキラキラした表情で見つめられちゃ、断れるわけないじゃないか。

 

 後片付けもそこそこに、都合のつく魔法少女たちは万々歳へ。

 普段から50点とか散々な言われようでもそこそこファンはいるようで、噂を聞きつけた人も加わり、店に入る頃には思っていたよりも大所帯になっていた。あのチラシが宣伝になったらしい。おかげで次々に注文されるラーメンや炒飯で大繁盛。これはこれでスクープだ。撮っておこう。

 

「これだよこれ、この炒飯! やっぱ万々歳はこうでなくちゃあな! よし、食べてくぞ!」

「食べる!」

「佐倉さんたち結構量あるけど……帆秋さん、財布は?」

 

 真顔を青ざめさせて、首を横に振った。

 帆奈ちゃんが言うにはパンケーキの痛みがまだ消えてないらしい。なんのことやらわからないけど、観鳥さんの分は自分で支払うことにした。普通のラーメンでも今の帆秋さんにとっては相当重いだろうから。

 

 ラーメンを一口食べると、いつも通り。そこは変わらないんだな。

 さて、こうして食事している間に周囲に耳をすませるのは観鳥さんの悪い癖だろうけど、記者という生き物は情報に飢えている。どうしても耳に入ってしまうんだ。

 

「おい鶴乃ー! これどこだー!」

「あっちのテーブル! さなちゃんこれ持ってて!」

「は、はい!」

 

 ういちゃんを除いたみかづき荘の人たちは総出で対応に追われている。それでもいろはちゃんややちよさんがなんだか嬉しそうなのは、やっぱり万々歳に人がたくさん来たからだろう。

 

「でも、灯花ちゃんはどうして桜子さんのところにいたの?」

「僕が頼んだんだ。ちゃんと裁判長をこなせているかを確認して欲しかったんだよ」

「ねむは車椅子だからバレちゃうしねー」

 

 元上司たちの会話は、どこか子供じみていた。子供なんだけどね。

 にしても万々歳の味は油っぽくて濃いんだけど、入院が長かった彼女たちには大丈夫なんだろうか。

 

「へえ、あの被害者の人たち見つかったの?」

「写真を衣美里さんに送ったら伝手で探してくれたようです。私たちの捜査も無駄ではなかったようですね!」

 

 美凪さんと竜城さんの話は、ついさっきのこと。顔写真が出てきたものだから水徳商店街を中心に呼び掛けたら意外とあっさり証言が出てきた。

 

 その被害者の二人は、やっぱり市外の魔法少女だった。

 事件の前日に水徳寺に泊まっていたようで、当日の夕方には帰っていったらしい。どういうわけか今日また水徳寺にやってきていたのを目撃した魔法少女からの連絡で判明したことだ。

 

 自分たちが死んだ扱いになっていて相当驚いたそうだけど、市外にいたから神浜で騒ぎになっても名乗り出なかったんだ。元マギウスの翼が多い東の子たちがまったく知らないのなら元羽根でもないんだろう。なんて思って、箸を動かした。

 

 麺が、つるりと滑り落ちた。 

 

 ……。

 

「観鳥?」

 

 ……なにか、おかしくないか。

 

 ミラーズのコピーは、帆秋さんが攫われた時に外に出ていた。それがボイラー室の結界に入り込んだという推理をしたんだ。

 

 だったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 コピーするにも型を取らなきゃいけないんだ。間違いない。

 羽根でもない市外の魔法少女が偶然にもミラーズに入った? 見滝原の子たちのように、神浜を観光や魔女の狩場として利用しているのならいいけど、どうにもきな臭い。もしかすると、最近見かけるようになった魔法少女は新たに契約したのではなく、自動浄化システムを――

 

「ねえ、観鳥報はいいの?」

「……あ」

 

 マズい。事件に気を取られてすっかり忘れていた。もう掲示の日が近いじゃないか。

 

 考えすぎるのも観鳥さんの癖だ。杞憂だろう。

 さっきまでのことを放り出して、どうにか記事を書けないかとまた頭を悩ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件当日と同じく澄み渡る空の下、観鳥さんはもう一度門をくぐった。

 今日は予備日だった三連休の最後。観鳥報のネタを仕入れに、本来の目的だった南凪の不審者の密着取材を再開するわけだ。

 

 「せいぜい頑張りなよ~」なんて言う帆奈ちゃんは、このはさんのメロンアイスに対抗すべく料理の腕を磨くらしい。ウォールナッツに行ってたのはそのためだったようだ。佐倉さんとゆまちゃんも試作品を食べられると喜んでいた。

 

「じゃあもう一度お願いするよ」

「任せなさい」

 

 こうして始まった密着取材は、実にとてつもないものだった。

 まさか、ね。神浜を縦横無尽に動き回るなんて、思ってなかったんだ。

 

 新西区では、真っ先にブロッサムに立ち寄って、このみさん、秋野ちゃん、夏目ちゃんとバイトのシフトの話をしていた。万々歳での消費が財布に大打撃を与えたようで、増やせないかという相談だ。まず消費を減らしたほうが良いと全員に言われたのはご愛嬌。

 

 次の場所に向かう直前に、このみさんが観鳥さんに言ったのは「頑張ってね」なんて言葉だった。どうにも余裕がある。これはなにかあったに違いない。

 

 続く参京区では、またも水徳商店街に立ち寄った。

 今度は『エミリーのお悩み相談所』。観鳥さんも来たことがあるここは、いつものように賑わっている。マイペースな“エミリー先生”に、振り回される志伸ちゃん。綾野ちゃんに五十鈴ちゃんまでいる。勉強会でもあったのかな。

 

 にしても、ななかさん……おっと、最近の彼女を見ていると常盤ちゃんと呼んでも良さそうだ。彼女は別に勉強会を強制してないのに、どうして帆秋さんはなんだかんだ言っても毎回来るのやら。途中すれ違ったこのはさんが言うには、「“お話”が怖いんじゃないかしら」だって。

 

 散策をしていると時間が過ぎるのも早いもので、お昼は北養区のウォールナッツで食べることに。今日の分のお金はあるらしい。

 店に入ると胡桃ちゃんが引きつった笑いを浮かべたけど、ちゃんとお客として来たことを確認すると普通の対応に戻った。やれやれ、普段どれだけ迷惑をかけてるんだか。

 

 しかし、ここの料理はどれも絶品だけどオムライスは格別だ。ふわふわの卵は一度食べたら忘れられない。ちょうど来ていたれいらちゃんたち三人組も喜んでいた。ああ、でもみとちゃん。その、「くれはさんね、前にたくさんケーキを食べさせてくれたんだ」って話はあまりしないほうがいい。さらに不審者に思われる。せいかちゃんも賛同しないでほしい。

 

 午後になって向かったのは中央区。これは観鳥さんの提案でもあった。帆秋さん、半分は化学部で、もう半分ぐらいは新聞部だからね。部活動だよ。

 目的は中央図書館。無事だったここは、ローカル新聞のバックナンバーに報道写真展の目録なんかもあって参考になるのさ。桜子さんはデータベースに入れたらすぐに覚えてくれるから、そこまでじゃないにしても帆秋さんにも知識を持ってもらいたかったんだけど……頭を通り抜けてしまうみたいだ。先は長い。

 

 閲覧を終えて外に出ると、「あら、帆秋さん!」なんて声。妙に仲が良い莉愛さんだった。

 するとまあ、彼女と連れ立って歩くことになり、水名区に辿り着く。これも縁、人との繋がりというものか、水名の人たちと帆秋さんは気が合うんだ。……どの辺りかは、想像に任せよう。少なくとも、ゲームセンターで嬉しそうにスロットマシンを回すゆきかさんの要素じゃないと思う。もっとこう、月夜さんのようななにかだろう。

 

 そうして莉愛さんと別れて移動することしばらく。栄区に近くなったあたりで聞こえてきたのは、別の元上司の声だった。不機嫌な様子で「どうして偶然会うワケ!?」って言われても、こっちが知りたいよ。

 どうも帆秋さんはアリナさんにだけは別の感情があるらしく、二人が顔を合わせるとだいたいは喧嘩になる。毎度のことだから、一緒にいたかりんちゃんと協力して引き剥がしてお帰り願うことにした。「また今度なのー!」と元気で大きな声は、まったく心配していない。

 

 この辺りまで来たら行っておきたいのは牧野チャンのメイドカフェだ。彼女はメイド長でまとめる立場だからいつも忙しそうにしてるけれど、観鳥さんたちが顔を見せるとすぐに来てくれた。意外と帆秋さんも訪れているらしく、どこからともなくペンライトを出す。ただ、「今日はステージはないんだよぉ~でもでも、くみと写真撮ろっ?」と言われてなぜか記念写真に。観鳥さんはこういうのに慣れてないけど、二人に言われちゃ仕方ない。大人しく撮られて自分のカメラに観鳥さんが増えた。

 

 また来るよ、とお礼を言って外を歩くと、思い出したのはあの映画撮影だ。工匠区でも撮影したからね。みくらさんたちはどうしてるのかと帆秋さんに質問すると、次の活動実績を考えているそうで、また協力を頼まれるかもしれないんだって。

 

 ……と、南凪区から始まってここまで神浜を巡れば、最後に辿り着くのはもちろん、大東区だ。

 

 夕方になって訪れたのは観鳥さんの家。

 明日は学校だし、本来は帆秋さんが来る予定はなかったんだけど、両親が明日の夕方まで都合でいないと知ると、心配だからと押し掛けてきたんだ。昨日も一昨日も一人だったし、今さらな話だ。泊まりたい口実なんかじゃなくて、本当に心配してるのがわかるのが彼女らしい。

 

 ま、帆秋さんの家に泊まる選択肢もあったのに、わざと言わなかったのは観鳥さんだけどね。

 こうして泊まりに来るのは何度目かだけど、二人っきりなのは始めて。だったら、少しぐらい欲張ってもいいだろう?

 

 夕飯は工匠区に寄った時に買った千秋屋のお惣菜がメイン。料理で良いところを見せようとする帆秋さんには座っててもらった。本人にその気はなくても、万が一にも炊飯器を破壊されたり食器を全滅させられたら困る。お客さんなんだから大人しくしてくれてればいいさ。

 

「私も切るぐらいならできるのに」

「まな板まで切断するって噂の人には触らせられないな。いいからいいから」

 

 実のところ、昼と続けて一緒に食事をするのを楽しみにしていたんだ。だから、食べてくれればそれでいい。

 

 帆秋さんはメロンと名のつくものばっかり食べてるから目立たないけど、随分と上品な食べ方をするし、座る姿勢の良さも相まって育ちがにじみ出ている。ただただ面白いだけの人じゃない。こういう部分を知らしめるべきだ。

 彼女をじっくり見ていると、首をかしげて「食べる?」と言われた。そういうわけじゃないんだけど、言葉に甘えて貰っておく。

 

 お風呂に関しては、毎度のことなんだけど一緒に入ろうと言ってくる。帆秋さんの家みたいに広くないからって遠慮しても、それでもと言い続けて、いつの間にか泊まりに来る時はそれが普通になっていた。

 

 だけど、悪くない。せまいということは、近距離で認識できるということだ。

 

「相変わらず綺麗な髪してるね。ふわふわだ。肌だって真っ白。これ、まったく変化しないんでしょ?」

「桜子が言うにはそうらしいけど」

「ずるいな。世の中から妬まれそうだ」

「でも、私はあなたの髪と健康的な肌がいいわ」

「そういうこと誰彼構わず言ってるんじゃないのー?」

「まさか」

 

 まったく動じてないし、綺麗な瞳は変わらない。

 つまりは、本心だ。わかってたはずなのに、お風呂とは別の熱が頬を染めるのを感じた。

 こういうときは笑い飛ばすのが観鳥さんらしい行動なのかもしれない。だけれども、その本気の顔のまま褒められ続けたら、思わず顔を背けて曖昧な返事をするしかなかった。

 

 どうにか火照りが冷めたのは布団を二つ並べて敷いてからだった。

 普段はベッドだけど、二人じゃいくらなんでも狭い。そういう合理的な理由が一つと、向かい合って話せるのはまるで修学旅行みたいで良いじゃないか。

 

 常夜灯のぼんやりとした明かりに彼女が照らされている。

 今回はなにを話そうか。やはり、今日一日のことだろうか。思ったことをそのまま告げるのもいいかもしれない。

 

「聞いて」

 

 でも、先に口を開いたのは帆秋さんだった。

 

「昨日の裁判と今日のことで思ったの。私は観鳥だわ」

 

 なるほど、わからない。

 指摘する前に、要領を得ない発言だと自分でも気づいたらしい。しばし考えこんで、言葉をまとめてから続きを話し出した。

 

「……私の今は、観鳥がいてくれたからあるの。出会って、一緒に過ごして、別れることもあったけど、あなたの存在が精神を形作ってくれている。それに気づいたのよ。あとはそう……テストの点数とか」

「なにさ、最後の」

「いいじゃない」

 

 それを言うのなら、観鳥さんだってそうだ。

 あの日、まだ観鳥さんが“私”であった頃。路地裏に向かう帆秋さんを偶然見かけて追いかけなければ、きっとこの瞬間はない。離れたこと。戦ったこと。それらすべてに意味がある。

 

 もしも彼女がいなければ――はて、どうだろうね。

 

 結局のところ、マギウスの翼には入っていただろうし、牧野チャンや保澄ちゃん、毬子ちゃんとも会っていただろう。南凪なんだからひなのさんや桜子さんだっている。表面上は意外と変わらないのかもしれない。

 

 違うところがあるとすれば、もう少し自分と他人の境界の輪郭がハッキリしていたはずだ。今さら一人称を戻すこともないけれど、私を私と一歩引いて認識することが多くなっていたのかも。無意識のうち、写真のフレームに収まることのないように。

 

 孤独の幸せというのはある。全員が全員、誰かと手を繋げれば良いというわけではない。予防線を張って自身や他人を守るのも利口な手だ。観鳥さんだって、ゴシップなんてやってることからして嫌われてるし、恨みを持たれてることも多い。壁を持っておくことも正解の一つだろう。

 

 ただ、誰かさんのおかげでちょっとばかり欲張りで、感情的なんだ。

 

 だから、観鳥さんも昔話をしたくなった。

 

「言ったっけ、魔法少女になった理由」

「シャッターチャンスを逃さない、でしょ」

「それは内容じゃないか。過程だよ」

 

 帆秋さんと出会った原因は、病院にお見舞いに行ったからだ。それは、元はと言えば願いの原因となった轢き逃げ事件のためでもある。

 

 かつてイジメの現場を見た観鳥さんは証拠がないことでウソツキ呼ばわりされた。ホントのことを言っても誰にも信じてもらえなくて、それで証拠の大切さを実感してカメラを買ってもらった。初めて手にした高揚感は今でも覚えてるよ。

 

 けれども、轢き逃げ事件の現場に居合わせた時、観鳥さんの指は動かず、慌てるばかりで車のナンバーすら覚えられなかった。カメラはあったのに、証拠を押さえられたはずなのに、なにもできなかったんだ。観鳥さんが唯一の目撃者だったってのに警察の人にロクな情報を提供できず、かといって責められることもなく、後悔ばかりが増していった。

 

 それが『シャッターチャンスを逃さない』と願った直接の原因。もう二度と、できたのにできなかったなんて経験はしたくなかった。

 ああ、帆秋さん風に言うならこうかな。手を伸ばせば救えたものを、諦めたくない。そういうこと。

 

 この願いによって、轢き逃げに使われた車を偶然にも写真に捉えた。証拠ができたんだ。実は、魔法少女裁判じゃない本当の裁判で証言だってしたんだよ。おかげで事件は解決。そして――あの病院へのお見舞いに繋がるわけだ。

 

 ……と、話し終えると、帆秋さんはいつにも増して距離を詰めてきた。掛け布団を押しのけて入ってくるものだから高い体温が直に伝わる。

 

「良かった。『願い』が希望でいてくれて」

「それってどういう……いや、そういうことか」

 

 東に生まれたことの苦悩に、魔法少女の辿る運命への不安。それに願った奇跡すら間違いだったなんて思ってしまえば、もう立ち直れない。

 でも、今の観鳥さんにそういう心配はない。生まれは変わらず、運命も未だ変わる途中であれど、辿ってきた道が答えを示している。なにより、目の前に特大の希望があるんだ。責任は取ってもらわないと。

 

 薄暗い中でも今の観鳥さんがどんな顔をしてるかはわかるだろう。帆秋さんの真顔が少し綻んだ。

 

「過去を話してくれたのなら、私も言っておきたいことがあるの。……姉妹の話、聞きたいんでしょ?」

「それはそうだけど、ツラいのならいいよ。自分で見つける」

「いいの、あなたにこそ聞いて欲しい。私が、誰かを助けたいと思う最初を――」

 

 相変わらず強引な彼女の、姉妹を語る話は本当に幸せそうな口調だった。

 

 お姉さんは、帆秋さんが赤ちゃんだった頃から世話を焼いてくれたそうだ。自分だって幼いだろうに、そそっかしく目を離せない妹たちに、ハンカチは持ったかとかちゃんと手は洗ったか聞いたり、時々おやつまで作ってくれたらしい。

 それじゃ、まるで二人目のお母さんじゃないか。甘えさせるだけじゃなく、時には叱ることもあるなんて、人間ができている。お姉さんのおかげで今の帆秋さんの性格があるんだろう。

 

 雰囲気としては、一番似ているのがホオズキ市の奏遥香さんだそうだ。あの人に真里愛さんを足した感じって、どれだけ大人びているのか。二つ上だから、生きていればやちよさんぐらいか。

 

 妹さんのほうは、話を聞く限りは天真爛漫で疲れ知らずの元気っ子。さすがの帆秋さんも彼女の前では自重して助けに回るんだとか。

 昔はよく色んな場所に行くのに付き合わされたらしく、やってやってという声に応えてバルーンアートやマジック、楽器までできるように頑張ったんだって。あの勉強がまったくできなくて演技もダメな帆秋さんが、人に見せられるほどに上達するなんてどれだけ練習したんだろう。それだけ妹のためにしてやりたかったんだ。

 

 手のかかる妹さんは、あやめちゃんの性格をした夏目ちゃんみたいな感じだって帆秋さんは言う。帆秋さんに似た容姿で、それでいて元気いっぱい……うん、まったく想像できない。今度は二つ下だから、観鳥さんと同じか。

 

「聞けば聞くほど不思議な人たちだね。負けず劣らず個性が強い」

「だから、幸せだったの。二人とも私にないものを持っていて、いつだって羨ましかった。あの優しさを持ちたくて、あの元気が恋しかった」

 

 そのどれも昔の自分にはなかったのだと、彼女は言った。

 

 幼児の頃は姉に守ってもらって、小学校になれば妹の頼みを聞いて努力した。中学生になれば、頭の良い二人から勉強を教えてもらっていた。それもまた、姉妹が支えてくれていた話だ。

 聞いているだけでも、相当に愛されていたんだろうとわかる。同等に、愛していたんだ。

 

 帆秋さんのことだから、いつか受けた分を返そうと意気込んで毎日頑張ってたんじゃないかな。きっと、約束までして。

 でも、それは果たせなかったんだ。

 

「姉さんは最期に言ったわ。『幸せに生きて』って。妹も意味合いは同じよ。『私の分まで色んなところに行って楽しんで』……そう言ったわ。最期まで、私を見ていてくれた」

「それだけ大事に思ってたわけだね」

「本当に、大事だった。大切に思ってた……」

 

 常夜灯に輝く水滴が、帆秋さんの頬を流れ落ちた。

 

「……かっこ悪いところ見せたわね」

「いいよ。二人しかいないんだし」

 

 過去を思い出して心が震えることは誰にだってある。いつも真顔でも、本当は優しい彼女ならば特に。

 彼女は気持ちを切り替えるように目を閉じて、強く輝く光を見せた。まるで、もう過去に留まることはないと告げているように。

 

「これが誰かを助けたいと思う最初。初めて人助けをできたのは、あなたと化学部の部室で再会した時だった。だから、私にとってあなたは、その……」

「最初の後輩で、最初に手を取ったかけがえのない存在。覚えてるよ」

 

 あなたが約束を忘れないように、観鳥さんだって心のこもった真実を忘れちゃいない。あの時言ってくれたことを。そして、再び伸ばされた手を受けた時からの気持ちを。

 

 観鳥さんの手を取った帆秋さんは、満足そうにつぶやいた。

 

「ねえ、観鳥。夢ってあるかしら」

「将来の夢とか、そういう話?」

「もちろん」

 

 そう言われると、少し頭を悩ませた。

 真っ先に思い浮かんだのは魔法少女の運命を覆すこと。けど、それは全体の目的というか、為さなければならないことだ。

 

 考えるばかりで言葉を詰まらせた観鳥さんに、帆秋さんは優しく言った。

 

「夢はね、星なのよ」

 

 こういう妙なことを言いだすのは今に始まったことじゃない。

 でも、その意図がなんとなく理解できた。

 

「どんなに真っ暗でも、星明りは進むべき道と方向を示してくれる。いつだって導いてくれるの。……星に手は届かないなんて言うけれど、ヒトはいつしか夜空の星に触れることができる。夢も同じよ」

 

 魔法少女じゃない素の自分。“私”の道を聞いている。

 やっぱり、わかってるだろう。

 

「……カメラかな。こればっかりはずっと続いてるし、譲る気もない。真実を撮る夢は賞を取るとか有名になるとか、そんなわかりやすいものじゃないけど」

「だからこそ、叶う日を見させてほしいの」

「いつになるかわからないよ?」

「いつまでも待ってるわ」

 

 それは、どこまでも未来を夢見たものだった。

 帆秋さんが願ったという『大人になりたくない』という想いのその先。どうやらそこに、観鳥さんはちゃんといるらしい。 

 

 きっと彼女なりの激励だ。いつまでも見守っていてくれる、その心からの約束なんだ。

 まったく、観鳥さんだからいいけどさ、永遠に隣にいてくれるみたいな言い方、勘違いされるよ?

 

「じゃあさ、観鳥さんは――っと、もう寝てるし」

 

 気がつけば、既にすやすやと目を閉じていた。

 近づかれたままだから動こうにも動けない。観念してこのまま寝ることにした。

 

 今日は一日歩いていたのだから眠気はすぐに襲ってくる。それでも身を任せることができずに、なかなか寝付けない。

 

 なんと言うべきか、自分で言った夢はいつ叶うのかと疑問に思ったんだ。目指すべき真実の見当もつかないってのに、大きく出たと我ながら呆れたものだ。

 まあ、夢っていうのはそういうものなのかもね。観鳥さんの年からしてみればまだまだこの先長いんだ。気長にやるさ。

 

 

 ああ、だけど。

 

 

 ……もしも。

 

 

 もしも、だ。良いことにも悪いことにも絶対はない。だから、その可能性はある。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()、寂しくなるだろう。意外と泣き虫なんだ。空想できるほど器用でもないんだし、少しでも多く写真を撮っておこうかな。

 

 写真とは一瞬を切り取ったもの。それはある意味で留めておく『停止』と似ている。

 同じく、時が過ぎても今を切り取った写真があるように、実物がなくなっても思い出はずっと残る。鋭く、深く、爪痕として残るものほど長く。

 

 ずっと残せたら良いんだけど、永遠はない。

 だからこそ、今の一瞬を大切に生きるんだ。目の前で眠る、彼女の隣で。 

 

「観鳥……」

 

 寝言のような声でも自分の名前だ。思わず目を開けた。青みがかかった黒色が、そこにあった。

 

「ほとんど言ったことがないけれど、今なら……あなたになら、言えるわ」

 

 数秒、間を置いて。

 

「好きよ」

「なっ、えっ……!」

「……起きてたの」

 

 この時の帆秋さんの表情は――珍しく、今まで見たこともないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくのこと。

 観鳥さんと帆秋さんは、校舎を駆け抜けていた。出来たばかりの観鳥報を抱えて、掲示場所へと人としての全速力で。

 

 途中、何人かの声が聞こえた。

 

「これは速い、はやーい! くれは選手、コーナーを通過! 観鳥選手が追いかけるーッ!!」

「コラーッ! 令、くれは! 廊下は走るなーっ!! めぐる、オマエも実況してる場合か!」

「そうね。元気なのはいいけど、危ないわよね」

「まっ、真里愛……オマエならわかってくれると思ったぞ!」

「│私も手伝う│」

「って、うぉーい! 桜子ーっ! ぬおおおおツッコミが追いつかん!! 誰か、誰かもう一人ぐらいいないのか!」

「あはっ、呼んだ?」

「オマエは混乱させる側だろ!」

 

 ひなのさんには悪いけど、これも仕方のないこと。今張らないとお昼休みに間に合わないんだから。

 勝手に掲示板を借りるのも何度目だろうか。何度も重ねた厚みは慣れた手つきが示している。あっという間に張り終えた。

 

「よし戻ろう。ゆっくりとね。――っと、桜子さん、手伝いに来てくれたの?」

「│もう終わってる?│」

「私の取材結果だもの。頑張ったわ」

「│なるほど。令だからね│」

 

 帆秋さんと桜子さんが並んで会話すると、毎度のことながら話が噛み合ってるんだかわからない。似通っているからそれで通じるそうだけど。

 

 二人の話題となっているように、今回の観鳥報は『南凪の不審者』の特集。歩き回った一日を中心に、知られていない良い姿を詰め込んだ。コーナー化して続けていくつもりの自信作だ。

 メインの写真は悩みに悩んで、結局はメイドカフェで撮ったものにした。記者の自分が入っているのが気にはなるけど、一番彼女らしいのは誰かに囲まれているときだと思うから。

 

 観鳥報をまとめて、写真を見ているうちにわかったことがある。

 

 いつか――そう、いつか。

 

 運命を覆して、星に手が届いたとき。

 誰もが笑って一枚の写真に収まれたとき。 

 

 それこそがきっと、観鳥さんの求めた真実なんだ。

 

 だから、夢が叶うその日まで、生き抜いてみせよう。

 だってさ、これは“約束”なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 途方もない因果を背負っているわけではない。

 

 常軌を逸した固有魔法を持っているわけではない。

 

 トップクラスの魔法少女には追いつけない。

 

 円を作るきっかけの星ではない。

 

 人の上に立つ器ではない。

 

 魔法少女を救う根幹になれるわけではない。

 

 策略を巡らせられるわけではない。

 

 姉が助けなければ、妹に手を引かれなければ、スタートラインにすら立てなかった。

 

 それでも、守りたいものがあるのだから立ち上がる。

 

 人間が持つ原初の感情のため。

 誰にでも、どこにでもある、その想いを宿して。

 

 

「また、会いましょう。約束よ」

 

 




■今回の内容
 観鳥令 魔法少女ストーリー1話『何も知らずにいた頃』(一部分)

■万々歳
 チラシはアニメ版4話に出てくる。
 実際に魔法少女サービスがあるかどうかは演出かもしれないので不明。このレコードにはあります!!

■短縮ポイント
 最初の探偵パートで観鳥さんにみとちゃんの魔法で記憶を見せて、すぐに念入りに写真を調べてもらうと最後の結論に辿り着く。
 こうすると法廷パートを飛ばして無罪を勝ち取ることができるのでうまあじです。皆殺しの噂が残る? なんのこったよ(すっとぼけ)。

■オリジナルモブ
 立ち絵が一色塗りの人たち。重要ではない。
 比嘉栄亜、石屋美毬(ひが + いしや、えい、び = 被害者Aと被害者B。残りは あ + まり)。棒島乃子(ぼうとうのこ = 冒頭の子)。

■くれはちゃん
 観鳥さんと約束した。そういうこと。
 本編の行動がないと記憶が戻らずに帆奈ちゃんは死ぬわ、知り合いは増えないわ、観鳥さんもアレだわでみゃーこ先輩しか残らない。みゃーこ先輩ルート(if)。

■観鳥さん
 リ ア ル ガ バ 発 生 ( 2 回 目 )
 第二部で()()()ちゃんに勝手に因縁が生まれてしまった。

■いろはちゃん
 きっかけを作る星。『みたまの特訓 いろは・やちよ編』か『耳を撫でて彼岸の声』で出てくる言葉。
 言ったのは当然メル。

■なんで星?
 大アルカナにおける『星』の正位置は『希望』。逆位置は『絶望』。まさしく、希望を願い、絶望に抗う魔法少女にピッタリだと思いませんか? ボクは思うです。
 ちなみに星の次は七海先輩のソウルジェムの『月』。その次はみふゆさんの『太陽』です。運命を感じるですね。

■この話
 実質第二部への繋ぎ。

 というわけで、この番外編で投稿を初めてから一年です。
 不定期と言いながらほぼ月一で更新してきましたが、キリも良いタイミングですのでここで一区切りとなります。

 感想や誤字報告をくださっているみなさん、本当にありがとうございました。
 他の走者の方々も、このガバガバチャートより好タイムを出してくれることを信じています。
 もちろん可能性に満ちた新たな走者(別学校チャート・そもそもワルプルギス撃破しないルート)も待ってるぜ。

 第二部も走りたい気持ちでいっぱいですが、なにぶん終わりが見えないとチャートが組めないので……いつか完結する時まで、じゃあな!


 








 一区切り(更新しないとは言っていない)なので、たまに思いついて更新しても許してくれよな!
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