マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート南凪チャート   作:みみずくやしき

79 / 141
ふゆぅ服と冬のブロッサム

 

 神浜市はとっても平和だった。

 うーん、魔女とは戦ってたからちょっと変かな。ふゆぅ……。

 

 でも、この空気は嘘じゃない。ワルプルギスの夜との戦いとか、ミラーズの騒動みたいな大変なことがあったなんて信じられない穏やかさだったんだ。

 

 この新西中央駅もそう。みんな日常を過ごしている。

 私もその端っこで一部分になって、待ち合わせをしていた。

 

 こうしてる理由はちょっと前のブロッサムの出来事が原因だったの。

 いつにも増して神妙な顔をしたくれはさんが、私の両肩を掴んで「お願いがあるの」って言ったんだ。もう、まるで告白でもしそうなほど真剣にまっすぐだったから、ちょっと慌てちゃった。

 

 もちろん変なことじゃなくて、アルバイトのシフトを頼まれただけだけど。

 このみちゃんが出てるときにはいるのに珍しいなぁ……なんて思いはしても、断る理由もないし、行きたかった爬虫類展に連れて行ってくれるって言うから頷いた。その約束が今日なんだ。

 

「ふゆぅ、寒い……時間、まだあるなぁ」 

 

 はーって吐く息が白い。ワクワクして早く着きすぎちゃったかも。

 夜の間に雨が降ってたみたいで、お日様は出てるんだけどまだ寒い。気温上がらないんだっけ。冬の格好にして良かったなぁ。

 

 駅の出口に向かって歩く人たちを壁際から見ながらあったかい帽子をいじっていると、自然と考えごとをしていた。

 

 レナちゃんとは手を繋いで手袋を買いに行ったっけ。

 ももこちゃん、万々歳で冬限定メニューを頼んだら熱々の石焼麻婆豆腐が出てきたって言ってたなぁ。

 初めに思い出すのはいつもの二人。そこにれんちゃんやみとちゃんとか、他にも同じ神浜市立大附属の魔法少女の子と話したことを思い出して――ふと、"くれはさん"と呼んでることに気がついた。

 

「くれはさん、かぁ」

 

 あの不思議な人と知り合いになって、いつからそう呼んでるんだっけ。

 初めて出会った時は違ったよね。かりんちゃんがまだ怪盗をやっていた頃は、名前を教えてもらっても知らない人だからって名字で呼ぶようにしてたのは間違いない。冷たそうでちょっと怖かったから。

 

 それからブロッサムで一緒にアルバイトするようになって、見た目のクールな姿以外も知るようになってからは大丈夫になったんだ。

 

 だって自信満々に花の名前を間違えたり、お会計の桁をうっかり3つ増やしたり、真面目にやってるんだけど抜けてるところとかを見ると、どんくさい私を見てるみたいで応援したくなったんだもん。

 

 呼び方を変えようとは思っていたけど、タイミングを逃しちゃってたのかも。せっかく仲良くなったのに令さんのことで大変だったから、あたふたしちゃってたんだろうな。

 

 なんて考えていると、向かい側の人の流れに気がついた。

 

「あれ、なんかざわざわしてる……」

 

 元から人の話し声とか靴音はあったけど、そういうのじゃない。どこか一か所に向けられてる。

 

「うわぁ、綺麗……撮影かな?」

「見て、三人ともモデルさんだよ!」

「もしかして有名人!?」

 

 そう、テレビの有名人さんが見つかったときみたいなの!

 

 レナちゃんみたいにアイドルを四六時中追いかけてるわけじゃないけど、私だって気になる。

 人混みの中をなんとか進んでいくと、確かに"三人"が歩いてきているのが見えた。

 

 それは――

 

「あら、かえでじゃない」

 

 冬なのに、なぜか肩出しセーターのやちよさん。寒くないのかな。

 

「偶然にもまたこの阿見莉愛の美しさを知る方が。まあ? 当然ですけども!」

 

 品の良い服装に身を包んだリタイア様――じゃない、莉愛さん。なぜかサングラスをしてる。

 ということは、残りの一人はもちろん。

 

「お待たせ」

 

 この二人に並んでモデルなんて言われるのは、くれはさんだよね。

 そんな彼女の姿を見たら、思わず「わぁ……」なんて声が出ちゃった。コートはやっぱり緑だけど、他は黒でまとめていてシックな色合いで綺麗なんだ。ブーツも手袋も高そうで、持ってるバッグはフランスの高級ブランドの物(莉愛さんが教えてくれたの)。なのに着られてる感じはしなくて、大人の女性ってイメージが湧いた。

 

 あともうひとつ、気になることがあった。

 

「あの、それ」

「伊達よ」

 

 指でクイっと、アンダーリムの眼鏡が持ち上げられる。よくある動作だけどくれはさんがやると知的なイメージがする。イメージだけだけど。

 同じように思っていたのか、やちよさんが柔らかい視線を向けた。

 

「驚くわよね。急に眼鏡してるものだから、私も聞いたのよ」

「帆奈がくれたの」

「いつの間にかお金を貯めていたそうでプレゼントしたそうですわ。可愛いところありますわよね」

 

 それで納得がいった。だからフレームが紫なんだ。あの人も紫だもんね。

 

「でもやちよ、私に聞いた時慌ててなかった」

「いいのよ。なんともないのなら杞憂だから」

「ならいいけど」

「……うーん?」

 

 慌てるって、くれはさんがドッペルを使って大変だった時期みたいな感じかな。ももこちゃんとかみたまさんはなにか聞いてたらしいけど、私たちが詳しいことを聞く前に解決しちゃってたらしい。

 マギウスのことで大変だったとはいえ蚊帳の外だから、レナちゃんなんて「前みたいに少しはレナに頼りなさいよね」とか言ってた。ミラーズの騒動の時もさらわれたってだけしか知らないし、私たちにももっと教えてくれてもいいのにね。絶対協力するもん。

 

 でも、無事に済んだならそれが一番だよ。

 気持ちを切り替えて、別の聞きたいことを口にした。

 

「三人はなんで一緒に? やちよさんは偶然だってわかるけど……」

 

 だって、やちよさんが手に持ってるバッグからネギがはみ出ている。どう見てもスーパー帰りに駅を通っただけだよね。

 

「莉愛も偶然よ。調整屋に行くんだって」

「ええ。帆秋さんと会ったと思ったらこうして……ふふ、ふ……やちよちゃんと一緒に歩いちゃった……」

「良かったわね」

「なっ、なんのことかしら!?」

 

 莉愛さんも莉愛さんでたまに素が出るよね。くれはさんと仲が良いのもわかる気がする。

 そういう風に三人とも色々と変なところはあるけれど、やっぱりみんな綺麗だなぁ。モデルさんだもんね。

 

 そんなやちよさんと莉愛さんとは別れて、私たち二人だけに。

 

 電車に乗るために移ったホームには人がまばらで、ちょっと安心した。

 だって、さっきの注目の集め方すごかったもん。あれを見たら隣に立つのはちょっと気が引けちゃう。

 

「似合ってて可愛いわ。髪型、変えてるのね」

「ふみゃう!?」

 

 なのに、突然そんなことを真顔で言うものだからびっくりした。

 そういえばこの恰好見せたことがなかったっけ。

 

 くれはさんはね、意外とちゃんと見てる。このみちゃんが少し髪を切ったとか、アクセサリーを付けたとか、シャンプーを変えたとかすぐわかっちゃうんだよ。小さな変化に気づいてくれるって喜んでたのを覚えてる。最後のはちょっと気持ち悪いと思うけどなぁ。

 だから、そういうやりとりができる高校生って、やっぱり大人だなぁって思ったんだ。ももこちゃんも高校生なのにね。

 

 でもでも、いざ自分がその立場になってみると恥ずかしいな。嘘がつけない人だから、お世辞じゃないってわかっちゃうもん。

 そうやってあわあわとしていると、つるっと足が滑った。

 

「ふみゃうみゃう!?」

 

 落ちたお尻がちょっと痛い。転んじゃうなんて地面がまだ濡れてたのかな。

 するとくれはさんは自分が汚れるかもしれないのに気にもせず、しゃかんで私の顔をじっと見た。

 

「大丈夫? 手を」

 

 差し伸べられた手よりも先にあったのは、変わらないのに優しい目。

 

 ……このみちゃん、ずっとこういう気分なんだなぁ。

 普段は頼りにならなくても、時々こうしてお姉さんな部分が見える。それがカッコいいんだ。

 

 立ち上がって隣で電車を待つ。

 そうして、今日のもう一つの目的を口にした。

 

「あっ、あのね、聞きたいことがあるの!」

「なにかしら」

 

 みとちゃんたちと会って思いついたことでもあり、このみちゃんのことを考えて言おうとしたことでもある。

 だってそれは、とっても大切だから。

 

「くれはさんの誕生日っていつなのかなって――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お日様が傾いてだんだんと冷えてくる頃、並んでいた最後のお客さんがお買い物を終えてブロッサムから出ていく。ピークが過ぎてやっと一息つけるぐらいの人の多さで、店長のおばさんが事情で出かけてるのもあって大変でした。

 

「ふぅ、かこちゃん、お疲れさま」

 

 でもこのみちゃんはすごく元気で、本当にこのお店のことが好きなんだなって、よくわかったんです。

 

 ちょっと落ち着くと、昨日のことを思い出す。

 帰り道に偶然、爬虫類展に行っていたかえでちゃんと出会ったこと。まだ興奮冷めやらぬ様子で私に爬虫類展での出来事を教えてくれて……そうだ、それをこのみちゃんにも伝えようしてたんだ。

 

「その、かえでちゃんとくれはさんが爬虫類展に行ったって話を聞いたけど、聞き――」

「う、うん! 聞きたいな!」

 

 きゅ、急接近……! 

 

 話の内容は特別なものじゃないのに、どんなだったかを伝えると嬉しそうに頷いてくれる。くれはさんはワニが気になってたらしくてずーっと見てたって話、そんなに気になるのかな。本当にそれだけなのに。

 

 けれども、当然のように疑問よりも納得が上回る。魔法少女の私たちにはなんでもない日常が大事なんです。今までの二人を見ていたらその思いは特に強く湧き出てきて、私も話す口が止まりませんでした。

 

「あとは……伊達眼鏡してたって言ってたよ」

「ど、どんなだったかな!?」

 

 ぐいっと近づいて、ふんすと興味津々な感じでそう聞かれる。なんだかキラキラしてて、ワクワクしてるのが私にもわかってしまうぐらいの様子。

 私にはその様子に見覚えがあって、深い納得と共に想いを再確認する。

 

 そう、お花と同じなんです。

 

 このみちゃんは普段は落ち着いてるし、優しいお姉さんみたいな感じなんですが、本当に花が大好きなのかたまに変な行動になり始める。

 花選びに困ってる人がいたら手伝ってあげたり良いことはあるんですが、誰かが花の話をしていたら見知らぬ人でも自然に会話に入っていったり、『花裂け女』なんて都市伝説が出来ちゃう原因になっちゃったり……そういうところってなんだか、くれはさんに似てますよね。

 

「いつもと違う雰囲気だったらしいの。キリっとしてコートが似合ってたみたいで、みんなに注目されてたって……あと、かえでちゃんは転んじゃったみたいで、くれはさんに起こしてもらったって聞いたよ」

 

 と言ったら、ふふんって感じにこのみちゃんは自身満々に話し出した。

 

「そこも良いところのひとつなんだよ」

 

 これは……今度はお花の説明をし出す時と同じ雰囲気……!

 私が危惧したのはこれ。変な行動にはちょっとした難点があって、一度説明を始めるとどんどん止まらなくなっちゃうんです!

 

「みんなを助けるために動けるって、すごく良いことだと思うの。もちろん、やりすぎはいけないけど、今のくれはさんは――」

「あ、こ、このみちゃん! お客さんだよ!」

「えっ!? そ、そうだよね。よーし、お花の良いところを伝えられるように……」

 

 ちょうど店の前に人影があったおかげで助かりました。店員としての対応は完璧だから、お客さんの前ならば普段通りになるんです。

 ……そう、思っていました。私の判断は間違ってはいなかったはずなんです。もしななかさんがいたとしても、同じことを考えていたと思います。

 

 お店の扉が開いて姿を見せたのがかえでちゃんと――くれはさんでなければ。

 

「な……なんで!?」

 

 なんて声が出てしまってもしょうがない。タイミングが良すぎるというか、悪い……のでしょうか。

 いつも通りの顔には話に出てきた伊達眼鏡があって、様子からすると見せに来たようでした。

 

「あ、眼鏡してる。これだったんだ」

「気に入ったの。知的に見えるらしいわ」

「どうしても見せたいって言ってたもん。私も気になったから来ちゃった」

 

 「どうかしら」ってクイって眼鏡を上げる動作は不思議と様になっていて、よく似合っていました。今日も大人っぽい服装をしているのもあってますます印象が違うんですが、なんというか……自慢したがる子供のような、小さい子の雰囲気も感じてしまったんです。

 

 今だって、このみちゃんの笑顔や接し方はどちらかと言うと小さい子を相手にするようなもの。そうじゃない時もあるんですが、今日のこのみちゃんは大人のお姉さん……って感じみたいです。

 

 そうして眺めていると、不意にくれはさんが私を見た。

 

「そういえば、かこ」

「は、はい……?」

「私には敬語なの」

「そういえばそうだよね。私やかえでちゃんと出会った頃も敬語だったけど……うん、くれはさんにも普通に話しても――あ、私もさん付けだね」

「私もさん付けだけど、敬語は使ってないなぁ」

 

 言われてみて、かえでちゃんやこのみちゃんには敬語を使ってないのに、くれはさんには使っていることに自分でも気づきました。

 

「う、うーん……なんでかって聞かれると困るんですけど、ななかさんやこのはさんと同じなんです。くれはちゃんなんて呼び方も似合わなさそうで」

「別にくれはちゃんでもいいわよ」

「えっ、ええ?」

「いいわよ」

 

 圧が……圧が強いです……。

 言われてもいきなりは難しくて、私がどうしようか迷っていると、このみちゃんが微笑みながら口を開きました。

 

「でもね、くれはさんはくれはさんだよ。そのままが一番似合ってると思うな」  

「ならそれで」

 

 どうやら納得してくれたみたいで、それからは普通のくれはさんみたい。

 こういう行動をしてるとまるで妹みたいな人だなぁって思ったり。私よりも年上なのに、変ですよね。このみちゃんはこういう気分なのかな。手のかかるところが良く見えたり……。

 

「そうそう、昨日の服着てたらね、二人で並んで歩いたらきっと似合うと思うなぁ……あ、このみちゃんってお散歩してるよね? どうかな、一緒に行ってみたり」

「散歩好きなのね」 

「うん! お散歩もそうだけど、もう少しあたたかくなったら日向ぼっこしたり、楽しいよ。あんまり良さをわかってくれる人は少ないんだけど……」

「ふゆっ、わかるよ。私のおばあちゃんも毎日お散歩してるし、日向ぼっこも長風呂も好きだから」

 

 か……かえでちゃん、今のはちょっと……。

 案の定、このみちゃんは凄い顔でショックを受けていた。

 

「お、おば……!?」

「あっ、そ、その、良さはわかってるって言いたかったの!」

「フォローになってないよ!? うぅ……まだ高校生なのに~!」

 

 こうなってしまっては私も苦笑いするしかなくて……どうしようかと慌てていると、くれはさんが前に出たんです。

 

「でも好きよ」

「えっ、好き?」

「好き」

「うふふ、そっかぁ……!」

 

 今度はなにか勘違いされてませんか!?

 くれはさんは良い人なんですけど、言葉が足りなかったりするので……!

 

 

 

 ……なんてことがありながらも、いつも通りのブロッサムの時間は流れて行きました。

 一緒に悩んで、一緒に頑張って、みんなにお花を好きになってもらいたくて……。

 

 こうやっていると、このみちゃんと出会った頃を思い出します。

 まだくれはさんと出会っていなかった頃、みんな魔法少女だったことに驚いたり、お花のバースデーケーキを作ったりしてたんです。私たちは誕生日ではなかったものの、このみちゃんからゼラニウムの花を貰って、それがとっても嬉しくて。

 

 だからか、私は自然とその言葉を口にしていました。

 

 

「あの、くれはさんのお誕生日っていつですか? みんなでお祝いしたいんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふっふ、化学部によく来たな。まあ座れ」

 

 翌日、私は南凪自由学園に訪れていた。

 ひなのさんは今日は化学イベントの準備があるらしく1日ここにいるらしい。部外者だけど、どうしても知りたいことがあって入れてもらったんだ。

 

「……で、このみ。そもそもなにしに来たんだ? アイツじゃあるまいし、他の学校に来る用事なんてそうそうないだろ。急ぎの話か?」

「それは……」

 

 理由はブロッサムでの会話にある。

 

『あの、くれはさんのお誕生日っていつですか? みんなでお祝いしたいんです』

『誕生日……別に――』

 

 と、そこでお客さんが来て中断した。

 だけど一瞬だけ見せたその陰りは、頭上の太陽が隠れたかのようにはっきりと感じ取れたんだ。

 

「くれはさんの誕生日って知ってますか?」

「誕生日ぃ……? いや、アタシは知らんが……近いのか?」

「私も知らないんですけど、くれはさんはなんだか避けてるみたいで、その理由を知りたいんです」

 

 私にできることは少ない。だけど、少しでも力になれるのならできることをしたい。そう思って、観鳥さんよりもくれはさんとの付き合いが長いひなのさんに頼ったんだ。

 

 だけどひなのさんにもわからないのか頭を悩ませて苦い顔をする。悪いことしちゃったかもしれない。

 「メロンの賞味期限か?」とか「意味不明なスケジュールか?」といくつか予想を立てているも、全部違う気がして答えは出ない。くれはさんはちょっとした約束も守るし、そういった約束事もかなり大切にしている。それが自分の誕生日ともなれば確実に行う気がした。

 

「だとしたら……昔のアイツに理由があるかもなぁ」

「昔って……」

「令とも会う前だよ。ずっと南凪だからな、魔法少女になる前から一応知ってはいた」

 

 ひなのさんが話してくれたのは、私たちのほとんどが知らない姿だった。

 

 まだ観鳥さんとも出会ってなかった頃のくれはさんは、学校では高嶺の花として有名だったらしい。

 誰とも話さず、特別親しい友人もいなくて放課後はすぐに帰宅する姿は孤独なようでも、本人はさみしさなんて感じさせなかったから、あの見た目とクールな雰囲気が相まってむしろ人気だったんだって。驚くことに成績だって悪くなかったそうだ。

 

「アタシも話には聞いてたが、今思えばボロが出てなかったんだろうな。黙ってれば完璧な美少女にしか見えないだろ」

「でも成績も悪くなかったんですよね? いつも勉強会に呼ばれてもギリギリなのに」

「ああ……まだ、家族も生きてた頃だからな」

 

 ある時から成績が悪くなり始めて、いつもの無表情が時折険しくなっていた……そう聞いて、早く帰る理由も成績の理由もわかってしまった。一緒にいられる時間を優先してたんだ。なんでも、家族はみんな頭も良かったとか。手伝ってもらってたに違いない。

 

 魔法少女のくれはさんと偶然出会ったのは、それからだったらしい。

 

「誕生日ともなれば家族に祝ってもらってたはずだろ? なにか思うところがあるんだろう」

「そうですよね、くれはさん、家族のこと大好きだから」

 

 くれはさんがお客さんとして来るとき、決まって買っていく花がある。

 

 それは赤色と桃色のゼラニウム。それと白のガーベラ。

 自宅では二種類の花が綺麗に飾られていて、気に入っているのがよくわかるんだ。

 

『姉さんと妹が好きだったの』

 

 そう、私がずっと見ていたからか答えてくれたことがある。家族への愛をはっきりと示す行為がとっても彼女らしくて、嬉しくなった。それを私が見ていることも。

 

 くれはさんのお誕生日を祝っても、きっと過去の幸せが覆い被さるんだろう。もういないことを強く思い出してしまうのかもしれない。二度と掴めない影を見せてしまうのは、とても……残酷だ。

 

 ぎゅっと手を握る。私にできることはないのかな。

 隣に立っていられるわけじゃなく、引っ張ることもできない私にできること。

 

「……そうだ、アイツに言われてたことがあったんだ」

 

 ひなのさんは座っていた椅子から立ち上がると、窓際に向かって歩いていく。そして青い空を見上げると、少しの間を置いてそれを言った。

 

「明日の昼、海浜公園に来てほしい……だったか。うん、そうだな」

「え、でも昨日はそんなこと……」

「いいから行っとけ行っとけ、な?」

 

 う、うーん……? なにか隠してるような、強引なような。

 背後にある気遣いが見え隠れしてることは言わずに素直に頷くと、ひなのさんは満足したように笑った。

 

 その好意の先にあるものは一体なんなんだろう。

 くれはさんが直接言わない理由……ううん、言えなかった? 嘘がつけないんだし、言ったらバレてしまうとかかも。

 

 思い当たるものはないけれど、悪いものじゃないはずという確信だけはあった。あの頃のような自分を捨て去ってしまう彼女じゃないんだから、どんなものであろうと私は受け入れたい。それが彼女の本心ならなおさらだ。

 

 ひとつの覚悟にも似た信念を今度こそ落とさないようにしっかりと持って、普段通りの日常を過ごして次の日を待った。

 

 ……なんて、しっかりできたらな。

 本当はね、どきどきしてたの。ひなのさんにも「明日だぞ?」と言われちゃったぐらいには顔に出ていたかもしれない。

 

 くれはさんは、そこでなにを言うんだろう。

 今、なにを考えてるんだろう。

 そこには私がいるのかもしれないと思うと、感情が揺れた。

 

 結局、平静にはちょっと遠い状態のまま夜が明ける。

 少し寝不足気味の顔を見せて大丈夫かな。なにか変じゃないかな。そんな思いを抱えて、南凪区の海浜公園に足を踏み入れた。

 

「……綺麗だなぁ」 

 

 流れる風は冷たいけれど同時に爽やかでもあり、空に浮かぶ太陽は確かな熱を与えてくれる。

 ブロッサムの出張販売でも来たことがあるけれど、いっそう景色がキラキラと輝いて見えた。きっと、あの頃よりも前に踏み出せている。そんな気がする。

 

 彼女がいたのは、ちょうどその出張販売をしたあたりだった。

 

「このみ」

 

 今日は伊達眼鏡をしていない。素のくれはさんだ。やっぱり今日も真顔で、余裕を持って待っていたみたい。

 もう少し近づこうと前に出ると、「少し後ろを向いていて」と声がかかる。疑問に思いつつも言われた通りに待っていたらすぐに「いいわよ」と言われた。数分もかかってないと思う。

 

「じゃあ振り向くね?」

「ええ」

 

 いったいなにがあるんだろう。ワクワクとちょっぴりの不安が背中を押して、彼女が持っているものを確かに視界に入れさせる。

 

 それは、大きな花束だった。

 

 色とりどりの花に統一性はないけれども、固有種のナギハマクサが含まれている。

 それはまるでみんなの中にいるくれはさんを象徴しているみたいで、思わず微笑んでしまう。

 

 そして、なによりも。

 

「わぁ……!」

 

 驚きと微笑ましさの奥底から、心臓の鼓動と嬉しさが溢れ出す。

 こうやって大切な人から大きな花束を貰うのは――夢だったんだ。

 

 小さな子供のころ、転んで泣いていた私の髪に、ブロッサムのおばさんは花を挿してくれた。たったそれだけのことかと思われるかもだけど、とっても嬉しくて、花を貰うことがどんなことが理解したんだ。

 

 花は生まれてから死ぬまでその命で人を彩ってくれる。

 その魅力を多くの人に伝えられて繋げていけたら……そう思って、今がある。やっぱり、間違ってなかった。こんなに幸せな気持ちになれることが、間違いなはずがない。

 

「ありがとう……本当に、嬉しいな……」

「なら、良かった。ブロッサムのおばさんが良いものを選んでくれたの。きっと喜んでくれるって言ってたわ」

 

 もう、おばさんも協力してたなんて。サプライズが好きなんだから。

 

「でも、どうして? こんなに特別なもの、なにかの記念なのかな」

「……渡すタイミング、わからなくて。クリスマスのとき、私の身勝手さであなたを悲しませたでしょう。お詫びになるかはわからないけれど」

 

 そっか、だからひなのさんは日時を指定したんだ。私とくれはさんの両方が良くなるようにって。

 けれども少し思うところがある。だから、花束にはまだ手を伸ばせない。

 

「でもね、聞きたいのは"ごめんなさい"じゃないな」

 

 そのお花は、そういう意味じゃ受け取れないの。

 きっとくれはさんならわかってくれる――そう思って、言葉を待った。

 

 真顔のまま考えて、悩んで、彼女は口を開く。

 

「やっぱりあなたは、大切なことを思い出させてくれる」

 

 ……ああ。

 

「いつもありがとう。あなたがいてくれるから、私はブロッサムで働くことができた。店長さんも、かえでも、かこも……だからこれは、日常の感謝の気持ちとして受け取って欲しい。私の、大切なあなたに」

 

 私もね、やっぱり、大好きなんだ。

 お姉さんのように頼りになって、妹のように手のかかる、素のあなただからこそ惹かれたの。

 

 お誕生日を祝えなくても、私とあなたが出会った日を祝えたら、この気持ちを伝えられるかな。

 私がお花の大切さを知った日のように、人生の中でとっても大切なんだもの。  

 

 手を伸ばして受け取った花束は、心に確かな重みを乗せた。

 

「嬉しそうで良かった」

「うん、お花はね、笑顔を作ってくれるから」

 

 だから――いつか私にも見せて欲しいな、あなたの笑顔を。

 

「この後やりたいことはある? 私にできることならなんでもする」

「じゃあ、またデートしてくれる?」

「……そ、それは」

「む、前はクールに"いいわよ"って返してくれたのに」

「だって、その、あの時は……」

 

 変わらないけどわかるよ。恥ずかしがってる。ちょっと意地悪だったかなぁ。

 なんて思ってたら……くれはさんが、ほんのりと赤い顔で見つめて言ったんだ。

 

「でもやっぱり……好きよ」

「はぅ……!?」

 

 




■今回の内容
 『楽しい手作りひな祭り』(一部分)
 春名このみ 魔法少女ストーリー 1話『花屋の店員の願い事』(一部分)
 春名このみ 衣装ストーリー 冬服 『このみの日課』 (一部分)
 水波レナ 衣装ストーリー 冬服『36度に包まれれば』(一部分)
 十咎ももこ 衣装ストーリー 冬服『冬限定熱々特別メニュー』(一部分)
 
■楽しい手作りひな祭り
 唐突にこのみちゃんが出てくるログインストーリー。
 花の話題が聞こえて来ただけで初対面の人に話しかけるせいかもびっくりのコミュニケーション能力が見られる。 

■このみちゃん
 着々とヒロインポイントを稼ぐ魔法少女。冬服は可愛いし星5覚醒すると美少女度マシマシ。
 この話を書いた理由の約6割が冬服ストーリーにある。

■かえでちゃん
 レナちゃんに対しては結構毒舌。きっと信頼してる証。
 なのでブロッサムでアルバイトして信頼度を上げたくれはちゃんにも毒を吐いてもらう。

■かこちゃん
 心の声や、両親やフェリシアあやめと話す時はですます口調でなくなる。一人称視点はわかりやすさ重視でですますに。
 なんだかんだでくれはちゃんと会うことが多い。

■冬服くれはちゃん
 水着があるのなら冬服もある。当たり前だよなぁ? 『混沌の一日』で言っていた「服は制服とちょっと」のもの。
 眼鏡をするのは忘れた頃に出てくるほむほむ要素。

■冬服
 やちよさんは年中ノースリーブ。莉愛様は何故かサングラス差分がある。
 となればくれはちゃんも面白要素がある。

■尻もち
 かえでちゃんは軽く"ぽすっ"ぐらい。
 マギレコには"どすん"と効果音がつく魔法少女がいるらしい。

■大きな花束
 『巣立ちは空を見上げて 後編』の「クリスマスのお詫びとしてこのみにプレゼントしようかと思って下見に」の部分。
 このみちゃんの隠しボイスを聞いてみると……。

■くれはちゃんの誕生日
 『さよならさえ言えなかった夕暮れ 中編①』の「そろそろくれはの誕生日も近い。少し照れくさいが、毎年盛大に祝ってくれるのが彼女の楽しみの一つだった」の部分。
 姉妹は誕生日に亡くなったため、その日は来なかった。もう二人はおらず、願いにより歳を取ることもないため、永遠に訪れない。

■平和な神浜市
 平和じゃなくなります。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。