マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート南凪チャート 作:みみずくやしき
走り出してからすぐ、私は人目のつかない裏路地に移動した。
変身してないとはいえ、魔法少女の全力で走れば異様な光景になる。こんなところで時間を食うわけにも騒ぎになることも避けたかった。
だというのに。
「待って、真里愛を探すなら私も行く」
帆秋くれはは、そんなことを一切構わず、表通りをひとっ走りして追いついてきたのだった。
"こいつは……"と、文句のひとつでも言ってやりたいものの、仮面を外すわけにはいかないし状況が状況だ。いちいち言ってられない。勝手に付いてくるならついてくればいいし、増えたところで私がやることはなにも変わらない。
普通はこの広い神浜で一人を探すなんて無理だけど、癪ではあるものの予言の通りだとしたら絞り込める。昨日の内に通り魔事件の情報から魔女の行動範囲内は調べてあるし、このどこかに結界があるはずなんだ。
ソウルジェムが感じる魔力の波を辿ることしばらく。見つかったのは、どこかのビルの屋上だった。
(でもこの魔力パターン……魔女じゃない、魔法少女の……)
反応があることの安堵と、少しの恐怖。足を止めるには至らない感情を心に押し込めて、飛び乗れそうな場所を探して屋上まで跳んでいく。
「――っ」
見えた景色に、息を呑んだ。
真里愛さんが変身したままの状態で倒れている。白い衣装がところどころ破れていて、血が出ていた。
「紗枝ちゃん……? 大丈夫よ、傷はそんなに深くないわ……」
足音で気づいたのかそう言うと、私が駆け寄る前に身体を起こして地面にぺたりと座る。深くなくとも、このままで大丈夫なわけがない。
自分の不甲斐なさに歯ぎしりをしたくなる。なにやってるのよ桐野紗枝。結局、予言の通りになってるじゃない。こんなんじゃ、なにも解決できない……!
……こんな顔を見せるわけにはいかない。怒りを心の底に押し込んで、本心からの心配顔を向けた。
「すぐ調整屋さんに連れて行きますから。ここからだとちょっとかかっちゃいますけど」
「いいえ、ちょっと待って。くれはちゃんも、そのまま聞いて」
真里愛さんの息は乱れておらず、声色は普段のものに近い。心配ながらも、いつに間にか上ってきたくれはさんと顔を見合わせると、少しだけ聞いてみることにした。
「紗枝ちゃん、隠してることあるわよね」
「なっ……」
いきなりのことにたじろいだ。
まさか口から出たのは自分に関することと思うわけがない。ましてや、こんな状況で私を気にかけるなんて。
けれども、彼女が冗談で言っているはずがないとも私にはわかっていた。
「なんですか、いきなり」
「今の紗枝ちゃん、とても難しい顔をしているわ。心配なの」
「そんなことないですよ、わたしのことより今は」
「どうしても明かせないのなら、それでいいの。でもね、私はあなたの力になりたい。今の状態じゃ、なにを言ってるのかと思われるかもだけど……」
……なにか、バレるようなことをした?
そんなわけない。違和感を抱かれた理由はいち早く来れたことだと思う。今日、私が離れた場所でボランティアに行っていることを知っているし、そもそも行っていないということが選択肢から抜ければ、当然にすぐに来れた理由が不明になる。
別に、問い詰めようとしてるわけじゃない。
なにかしら疑問を抱いても、私に対する不信感じゃない。
じゃあ、なんだ?
――ああ、そうだ。これは、単なるお節介だ。
真里愛さんは、こうやって優しくしてくれる。自分の身よりも他人を案じて、助けようとしてくれる。彼女の人となりを知っていれば、打算もなにもない善心だってわかってしまう。
……だからって、頼れるわけがないでしょ。
「いいえ、気のせいですよ。行きましょう」
「れいらを呼ぶわ。彼女なら治療できるし、強い。私たちはその間に魔女を追いましょう。真里愛がケガするような魔女を放っておけないわ」
くれはさんはすいすいとスマホで電話をかける。
その行為に、また仮面を外しそうになった。私が捨てたものを持っているようで、八つ当たりじみた怒りが湧いた。
私だって、手数が増えたほうが便利だってのはわかってる。頼らないことと、ひとりで突っ走ることは違う。
だけど、わかっていても、他人を信じられない。信じることは甘えだ。それで今までの関係を失ったことを思いだせ。仮面を被らなければ、また失う。
キリキリと燻る怒りは己に向けられて、ますますと締めつける。
いつもこの程度のことは流せるのに、どうして無視できないのか。
そんな時、背後から
「そうよ、頼ったほうがいい」
「……ミラーズのコピー」
「そっか、くれはさんならそう思うよね。私のことはそんな気にしなくていいよ。伝えたら行くから」
もう一人の私はそう言うけれど、どうして姿を見せたのか。不審がられるに決まってるじゃない。ほら、真里愛さんもくれはさんも警戒してるし、仮にも私ならそんな簡単なことに気づかないわけない。
いや……そうしてまで、しないといけなかった?
予想が当たってるとでも言うかのように、私の声で「メール、家族から来てるんじゃない?」と声をかけてくる。
異様な様子にすぐに確認すると『商店街のゲリラライブにみんなで行きます』って、ずいぶん気楽な――
「ま、さか……!」
「そこが最後の場所。ね、言ったでしょ。まずくれはさんが刺されて、次に真里愛さんが結界で怪我を負う。ここまではもう起きてる。だったら、次も起こる。家族がみんな死ぬって」
正直に言って、未来のことを知っていると言うもう一人の私は魔女の類であって、誘導しようとしているのだと疑う心はあった。
だけど、起きるはずがないとも言えなかった。
一回目も二回目も当てられて三回目は起きないなんて楽観的な思考ができるはずない。嘘だと断言して本当に起きたら悔やんでも悔やみきれず、私を動かす原動力と意味を失うことになる。
あるいは、私の心を変える言葉であると同時に、"彼女"にとっては計り知れない意味を持つ言葉だったんだろう。
ぞわっと恐怖を感じるほどの悪寒。
刃物が突き付けられたかのごとく刺さる鋭さ。
それは威圧感から来るもので、くれはさんから発せられていた。
「家族はどこにいるのッ!」
いつもの真顔が激しく歪んでいる。学校で見せるちょっと抜けてる姿なんてどこにもない剣幕に、おずおずとしか言葉が出なかった。
「商店街でご当地アイドルがライブするからって、そこに……」
「そのアイドルの名前は!?」
「えっ……ふ……ふ、みの?」
「待ってて!」
くれはさんは勢いを維持したままスマホでまた誰かに連絡すると、こちらの状況を乱暴なまでに簡潔に伝える。向こう側も想定外の様子だったのか電話口からは「は、はいですぅ!?」と上ずった声が響いていた。
「沙優希には伝えた。近くの知り合いにも。私も全速力で行くわ」
視線の先にある青みがかった黒は焦燥に駆られながらも、その根本を明確に突きつけて来る。
それは、あの目だ。あの時と、同じだ。
「……なんで」
握る拳に力が入る。唇を噛む。
白状する。
私は、帆秋くれはが嫌いだった。
度の過ぎたお金持ちで、世間のことなんてなにも知らないで、苦労を知らないような振舞いが大嫌いだった。それこそ、私が魔法少女になる前からずっと。変わってしまう前も、利用できる価値はあるからって利用してやるつもりで近づいたんだ。
「なんでよ……」
だってのに、いつの間にか気を許してた。彼女は放課後の集まりにはいなかったけど、真里愛さんたちと同じく素の私を見せるほどには。
そうだ。他人を頼っても、裏切られる。
だから頼らない。頼っちゃいけない。
コネを作って利用してやるなんてこと。それが頼ることだってわかっている自己矛盾を抱えていても、変えられない。
だって、本当に困っている人に救いの手は伸ばされないでしょう。
自分の不利益になることをわざわざしない。私だって、自分に利があるからボランティアをしてたもの。手の届く範疇、自分に迷惑がかからない程度なら助けてもいいと思っていても、ある一線を踏み越えたら手を引いてしまう。
高校生になって分別のついた今ならわかる。なにもおかしなことじゃない。それが普通なんだ。
なのに。
「なんでそこまで、他人を気にかけられるの!? 頼れるの!? あなたには関係ない人間でしょう!?」
だから、あらゆる他人を頼ってまで、彼女が私を助ける理由を聞きたかった。
「あなたが悲しむ顔を見たくないから」
「……はぁ? 私が、悲しむ?」
「家族を失うなんて、絶対にダメよ。別に許可しなくてもいいわ。私はあなたを助ける。あんな悲しみはなくていい。予言の通りになんてさせない。させるものか……!」
だんだんと強くなっていく語調は自らに言い聞かせるようでもあり、返答を許さず圧倒する。それがいつもの彼女との明確な違いで、本心を見たようだ。
もう一人の私もきっと同じ感情を抱いている。持ち続けていた疑問が確かな納得となると、仮面を被ることを忘れてビルの屋上から飛び跳ねていく彼女を見つめていた。
「……ね? くれはちゃんも同じなのよ。誰かを助けたくて、ああやって手を伸ばしてるの。だけど――」
「危なっかしい、ですよね」
本当、バカだよね私。見捨てられるわけないのに。
◇
くれはさんを追いかけて水徳商店街につくと、既に幾人かと話している姿が見えた。
「おー、くれっち! ここは任せといて! 操られてる人が来たらあーしらが止めとく!」
「えみりんの言うとーり! あたしらの人数なら大丈夫っ! ねっ、れんちゃん!」
「ぁ……は、はい、向こうには明日香さんとささらさんもいますから……」
と言う彼女たちは、この一角で『エミリーのお悩み相談所』を開いている子たちだ。商店街では有名で、私も話ぐらいは聞いたことある。彼女たちも魔法少女らしい。
……って、商店街?
思考が多少は冷静になって気づいた。途中で抜け出してきちゃったけど、ゴミ拾いのボランティアをしていたのもここだ。つまりは戻ってきている。
証明するように、ひなのさんとゆうなさんがこちらに歩いて来ていた。
「紗枝、こっちは心配ないからな。ボランティアの件も良い感じに言っといた」
「結界に行かれるのでしょう? くれはさんのこと、よろしくお願いいたしますわ」
一切の裏のないとても頼りになる言葉で、心があたたかくなる。
そうよ。この人たちは――
「……ありがとう」
謝罪ではなく感謝を伝えて、またも駆け出したくれはさんを追いかける。
彼女はまるで結界の場所を知ってるかのように一直線に向かって行き、飛び込んだのを確認すると私も続けて突入した。
でも、いくらなんでも速すぎる。
どれだけ彼女の琴線に触れたのか。いくら傷を受けようと気にせず、迫る使い魔さえ無視して先に行こうとしてる。さすがにそれじゃマズい。
「ああ、もう!」
振りかざしたのは私の武器である仮面だ。
比喩とか心持ちじゃなく、文字通りのそれから撃てる光線で使い魔の行く手を塞ぐ。それと同時に、彼女も私が来たことに気づいたようだった。
「ひとりで行かないでね、わたしなら遠距離からサポートできるから」
「この使い魔、硬いわ。戦っていたら先に進めない」
「そんなわけ――」
ないでしょ、と視線を向けると、光線を当てた使い魔は衝撃で揺れただけで、何事もなかったかのようにむくりと立ち上がっていた。傷がないわけじゃないけど、これじゃ倒すのに時間がかかる。ったく、こっちは急いでるってのに……!
苛立つ内心がそのまま表情を形作って、睨み付けていることに気づいた。素の私をくれはさんに見られたかもしれない。……いや。
「今から魔女を倒すまでの"私"、誰にも言わないって約束できる?」
「もちろん」
頷いた姿を見て確信した。
彼女は約束を破らない。必死に守ろうとする。それも、わかってたはずなのにね。
だからこれは、信頼の証。
「あ~~~なんなのよ! こいつら!」
スイッチオフ。
なにより、気に掛けるものがひとつ減る分戦いに集中できるもの。
私は近距離に弱い。
くれはさんは遠距離に弱い。
その弱点を互いにカバーすればより強く。一撃で倒せなくても、同時に二撃を加えれば。
こちらの動きに合わせてくれる彼女との戦闘は非常にやりやすい。それだって、わかっていることだった。
「チッ、後ろ! 隙を作らないで!」
「そっちのほうが好きよ」
「はぁ!? 私は全力でやってるっての!」
ああ、そういえば、こんな言い合いしながら戦ったことも前にあったっけ。
私が願った『学校のみんなが知る私を良家のお嬢様にして』という言葉が、素の私を知る友人関係を断ち切ってしまったというのに、もう一度あの頃にいるようで懐かしく、心強かった。
だけど心持ちだけじゃどうにもならないことがこの世には多い。またも現実が私に襲い掛かってくる。
くれはさんの攻撃は確かに火力が高い。ただし、それは敵が一体の場合に本領が発揮されるのであって、相手が複数になると途端に手数が足りなくなる。あのスピードでカバーするにも限度があるし、使い魔のような的が小さく数が多い相手にはなおさらだ。そもそも彼女、紙かと言いたいほど異常に耐久力がない。纏めてかかられたらマズい。
それは私にも言えること。仮面から撃てる光線は一回に一発で手数が足りず、倒しきれなくて貫通しないと使い勝手が悪い。奥の手もあるにはあるけど……まだ余力を残しておきたい。
追撃を避けるために後ろに下がると、ちょうどそこにはくれはさんがいた。背中合わせに互いの状況を確認すると、私の感情とは裏腹に彼女は至極冷静に思える。おそらくいつもの真顔に戻っているに違いない。
「クソが、数が多すぎる……使い魔だってのに……」
「もう外は暗いし、大丈夫」
「なにを根拠に……」
「来るから」
なにが――と問う前に、急速に近づいてくる魔力反応を捉えた。
速い。くれはさんと同じか、それ以上の速度。結界の入り口方面から一直線に向かって来ている。もうすぐ視界に入るはず……だというのに、最初に見えたのは姿ではなく一閃。使い魔が斬られる一撃だった。
「粛清に来たよ」
なにか、かわいらしい声の、凄いのが来た。
服装は白いのに雰囲気はダークでゴシック。それにコウモリのような髪飾りで吸血鬼のイメージが湧く。右手に持つ赤い剣をくるりと回して構え、左手には短めの青い剣を逆手に構えたどことなくハロウィン感がある魔法少女だ。
「クシュ」
「連絡してくれてありがとう」
この口ぶりからしてまたくれはさんの知り合いらしい。
私がどうこう言う前に、クシュと呼ばれた彼女の口から成り行きが説明された。
「北養区の森で会った後ね、みんなが探してた少女吸血鬼が私なのかもしれないって調整屋でみたまさんに言われて、じゃあ私が原因でケガさせたも同然だから……この魔女は私が倒そうって思ったの」
「治ってるわよ」
「あ、大丈夫、見せる必要はないよ」
こんなところで肌を晒すつもりだったのかとツッコミを入れそうになったけど、そんなことしてる場合じゃない。
それはクシュちゃんも思ってたらしく、「行くよ」と一言言うと使い魔の群れに駆け出して行った。
「やぁぁぁぁっ!」
赤と青の閃光が使い魔を切り裂いていき、立ち止まった時にはすべて倒し切っている。
見た目からはわからないけれど、この手並みは明らかにベテランの魔法少女。こんな人までいたなんて。
「ふわぁ……」
「……なんか眠そうじゃない?」
「起きたばっかりだからかしら」
「そ、そう……」
私が言えた義理じゃないけど、魔法少女って一癖も二癖もある子が多いよね。
その後のことはわざわざ詳しく語るまでもない。
突破力と殲滅力に優れたクシュちゃんが前に出て、その隣でくれはさんがサポート。私は後衛から二人の攻撃範囲から外れた使い魔を狙い撃つ。繰り返せばあっという間に魔女のいる最奥まで辿り着き、赤青の閃光と炎のカトラス、私の奥の手たる仮面の巨人を召喚しての攻撃がその身を砕いたのだった。
だけど、魔女を倒してもまだ終わりとは言えない。
やっと安心できたのは、商店街に戻って来て気楽にもライブを見ている私の家族を見つけてからだった。両親と上の弟と下の弟、そして妹。全員が元気にしているのを確認すると遂に肩の荷が下りた気がした。
「いやはや、大家族だったんだな」
と、隣に立ったひなのさんが言う。
……そうだ、今の彼女は私に弟妹がいることを知らないんだ。続いて来たくれはさんも、知る理由を失っている。
私の願いは、失敗を消す引き換えに友人をなくすものだった。
真里愛さんも、ひなのさんも、あの子とも、私との思い出はなくなった。友達じゃなく、数多くいる知り合いのひとりになってしまった。
魔法少女になる前、南凪に通ってる社長令嬢の家庭教師のアルバイトをしていた。自らを良家だと偽ったから信頼を得ていたのに、私の失態で迂闊にもバレてしまったんだ。そのお嬢様が悪いわけでも、友人が悪いわけでもない。誤解されるようなことをした私が悪い。
だからこそ誰にも頼れなかった。本気で家族を守るためには、私だけで解決しなきゃって思ってたんだ。
ひなのさんが他の魔法少女に向かって行ったのを確認すると、「ねえ」とくれはさんにだけ聞こえる声で話しかけた。
「……間違ってた。私はひとりで解決しようとしてた。こうやってみんなで協力すれば良かったんだね」
誰かに頼って期待して、勝手に裏切られたような気持ちになりたくない。だから、私が一人で解決できればそれが良い。頼らないリスクもわかってたはずなのに、自分勝手で、子供じみたワガママをしていたにすぎない。
そうだってわかってるのに――そんな私に、彼女は事もなげに言ったんだ。
「でも私は紗枝みたいになりたいわ」
「私みたいに?」
思い当たる節がなくて困惑した。いったいどこにそう思う理由があるのか理解できない。
すると、くれはさんは私をじっと見た。
「頼ってばかりだから頼られるようになりたいのよ。みんなに頼られて、みんなに託されて、解決できる強い人に憧れてる」
とか言って例示し始めた私の行動は、街頭募金の呼びかけをしていた話とか、チラシが足りなくて困ってた時に予備を準備してたとか、日直の仕事を代わりにやったこと。あとクラスで飼ってる金魚の餌当番を代わったとかお年寄りの荷物を運んであげたとか。
いや、全部学校での評判上げのやつじゃないの。
文武両道で性格の良いお嬢様って思われるためにやってたことだ。おかげで頼られてたのは事実だけど……意味わかって言ってるんだろうか。
ああ、でも……この抜けた感じ。そうだよね、こういう人だ。
ちょっとだけ懐かしくなった心はすぐに寂しさに覆い隠される。この感情も私だけのもの。だって目の前のくれはさんは――
「そうだ。あなたのあの喋り方、久しぶりに見たわ」
「は?」
「妹の名前はさゆみだったかしら」
「え?」
「今度良いアルバイト見つけたら教えるわね」
「なに言ってんの?」
なんで、それを知っている。魔法少女になってから会ったのはこの前が初めてだ。教えてるわけがない。
「……まさか、あんた、全部覚えて」
「ええ」
大口を開けて全力で叫びたくなったのを必死で抑えた。
どうして覚えてるわけ!? だったらなんで言わないの!? こいつずーっと真顔だから違いがわかんないのよ! あーもう!
けど、まあ……言葉が足らないのも、彼女らしい……かな、うん……。
なんて思うと仮面は外れていて、自然と笑みがこぼれた。
かつての夕暮れの空き教室は帰ってこないけれども、全てを諦めてしまうには早すぎると強く思えたんだ。
なにより、くれはさんってお嬢様だもの。魔法少女も素の私も隠す必要なく取り入れるなんて、成り上がるのにピッタリじゃない? ……なんてね。
◆
予言なんて知らないRTA、はーじまーるよー。
前回、葉月からの電話で予言の対象が真里愛さんであると判明しました。
居場所は事前に紗枝ちゃんが調べといてくれるので、追いかけるだけでいいです。下手に二手に分かれると見つかりません。
怪我するだけならタイム短縮のためにスルーすればいいのですが、この予言の厄介なところは、怪我をする(退場しないとは言っていない)なので、じゃあ平気っすねとスルーするとリセの目に遭います。悪辣で笑っちゃうんすよね。
「この辺りに反応があるんだけど……」
まずうちさぁ、屋上あんだけど……着地してかない?
「真里愛さん!」
「紗枝ちゃん……? 大丈夫よ、傷はそんなに深くないわ……」
ウォアアアアアアア!! あっぶねぇ!
運がデレてくれたおかげでリセを免れました。真里愛さんに退場されると栄総合学園行くとき困るんだよ!
このまま送り返してもいいですが、帰り道に魔女に遭遇して退場パターン(1敗)もあるのでちゃんと迎えを寄越しましょう。回復もできる子だとなお良いですね。ハロハロー? れいら戻ってきて?
「そうよ、頼ったほうがいい」
第二の予言が終了するともう一人の紗枝ちゃんが来てくれて警告してくれます。
実は彼女、レナちゃんの『変身』などの固有魔法、ミラーズのコピー、魔女の罠、ウワサの影響といった数々の事件の原因は一切関係なく、正体はミラーズを通してこの世界に来た平行世界の未来の紗枝ちゃんです。なんなんだよミラーズって……。
家族大好きな彼女はどうにか過去を変えようと果敢にもミラーズに飛び込み、こうして今の紗枝ちゃんに予言と称して未来のことを教えてくれるんですね。
まあ変わるのはこの世界で、未来紗枝ちゃんがいた世界は変わらないんですけど。
理由としては『未来紗枝ちゃんが過去に飛ぶ理由』が確定してしまってるので、未来紗枝ちゃんにはどうあがいても自分の世界を変えられないとかそんな感じです。パラレルワールドとかよくわがんにゃいけどね。難しい話はやめましょうよ!
そんなことよりイベントが進行したので現在魔女結界に向けて猛ダッシュ中です。
最後の予言は必ずさゆさゆの商店街ライブになるので結界の位置も決まっています。ビルを飛び跳ねて行くんだよ!
しかし悲しいお知らせ。このイベントの魔女結界、レベルが高すぎてくれはちゃんでは歯が立ちません。そこそこ育ってる紗枝ちゃんでもギリです。ハードモードってのはな、誰でもこうなるんや。イベントに巻き込まれたキャラがお助けに来てくれる救済要素もありますが、生半可な力では返り討ちだぜ。
そこておもむろにジャンプスマホ。歩きスマホはダメよ。
そろそろ日も暮れて来たので今回の助っ人に連絡しましょう。つよつよ魔法少女クシュちゃんです。この時間じゃ起きてるかわからない? 出るまでモーニングなイブニングコールをかけまくるだけなんだよなぁ(イタ電)。
なお、偶然クシュちゃんが引っかからなかった場合は、本来のチャート通り塁ちゃんを連れてくるつもりでした。紗枝ちゃんの交友関係が増えすぎても誰が予言の対象になってるかは死相を見ればわかりますし便利です。
はい商店街で説明! 結界突入! くれはちゃんが勝てないのを確認!
「ひとりで行かないでね、わたしなら遠距離からサポートできるから」
あっそっすかぁ!?
ここは大人しく待ちます。下手に突っ込んでも負けるだけなのでギリギリまで進行するだけに留めておくのが良いでしょう。
にしても本当に攻撃通らなくて笑っちゃうんすよね。敗北の色が濃いすか?
くれはちゃんはタイムの都合上そもそものレベルが低いので、攻撃特化型にすることでダメージを通す戦法なのですが……さすがに第二部ともなると限界が見えてきます。そのため強化イベントを踏んでいかないと無理です。
「粛清に来たよ」
来た、来た、来たなぁ!?
やって来ました最後の異端審問官こと入名クシュちゃん。見ててください、頑固な硬い使い魔もあっという間! ギコギコはしません。一度、刃が入ってしまったらスーと刃が下りていってくれるんです。
「いた……魔女!」
「私が前に出るよ」
クシュちゃんが前! 紗枝ちゃんが後ろ! くれはちゃんは適度に避けつつ生き残ることを最優先!
あとは魔女倒すだけなんで紗枝ちゃんの解説でもしときます。
『桐野 紗枝』は光線が出る仮面を武器にする遠距離型魔法少女です。被ったままで出ます。(オプティックブラストじゃ)ないです。貫通したり薙ぎ払ったりできるので弱い使い魔相手なら一掃できるポテンシャルはありますね、ありますあります。
しかし彼女の本領は裏方。固有魔法を使うと他人でも死体でも迫真の演技で演じることができます。その姿に見える認識操作レベルのなりすましゆえ、レナちゃんの『変身』が戦闘向きならこちらは探索向きだぜ。
魔女を倒したら商店街に戻れば『鏡が映すほんとうの私』完! 帰ろうぜ二人共。
本来は商店街で相談所組と紗枝ちゃんが出会いレナちゃんが変身で一芝居したり、さゆさゆのライブに現れる通り魔に対処したりと色々あるのですが、ハードモード特有の変化で短縮されました。くれはちゃんが刺されてくれたおかげで良いですね、ええ。
「ねえ」
おっと紗枝ちゃんとの会話。
信頼度の×が外れてるか確認もしとかないといけませんね。
……ああん? なんか上昇率が高いというか……これは……。
「は?」
は?(困惑)
いやちょっと……冗談はよしてくれ(タメ口)。りおんちゃんの時、『停止』を自分に使用中なら願いの影響すら跳ね除けると言いましたが……こいつたまたま使用中にイベント起こしやがってたな!?
ロスどころか今後の信頼度上げをしなくて済むので短縮にはなりますがちょっと信頼度が上がりすぎ……上がりすぎじゃない? そういう……関係だったのか。
それでも学童保育でアルバイトはするので今回はここまでです。
ご視聴ありがとうございました。
◆
もうあの時間は過ぎた。悲劇は防がれた。
だけど私にはなんの変化もない。過去を変えてもあるべき場所には影響しないとわかっていたけど、少しだけ期待をしていた。
でも、最初から諦めるよりはずっと良い。
「頑張ってね、この世界の私」
この先の未来を私は知らない。きっと平坦な道じゃないだろうけど、そこは私のことだ。家族がいる限り諦めないで立ち向かえるだろう。
「……良かった。くれはさんは元気そうで」
救えるものは救いたくて、欲しいものは全力で掴み取る。不可能だとしても、僅かな可能性に賭けたい……たとえ自分が救われなくても。
それが正しいのか間違っているのか、あなたはきっと答えを導き出せる。
「だから、"彼女"を救えなくても諦めないで。"私"みたいに、どうか覆して。神浜の、みんなの――敵にならないで」
■今回の内容
『鏡が映すほんとうの私』
桐野紗枝 魔法少女ストーリー1話 『私だけが知る結末』(一部分)
■紗枝ちゃん
一人だったり家にいる間は素の喋り方になる。結構口が悪い。
見た目的に物凄く闇属性っぽいが実は火属性。実装前にサポートで使えた特殊なキャラ。
■『停止』くん
りおんちゃんの例からわかる通り、使っていれば『願い』による世界改変ですら影響を無効化する。
なんだお前(素)。
■くれはちゃん
見た目木属性で実は火属性の奴。後日談か番外編のどこかで紗枝ちゃんのMSSを通過、『停止』くんのファインプレーでしっかり記憶に残っていた。
チャートが壊れてんだよなぁ、お前のせいでなぁ!
■紗枝ちゃんの信頼度
低い(利用相手)→ 普通(絆された)→ 低い(全部忘れてると思っていたのでリセット) → ×(お嬢様で取り入る相手なので信頼度が稼げない)→ 高い(全部覚えてた反動)
信頼度のジェットコースター。