マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート南凪チャート   作:みみずくやしき

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パート9 バイバイ、また明日 前編

 

 団地を放浪するRTA、はーじまるよー。

 

 前回、ななか組長から興味深い話を聞けました。『神浜大東団地』に魔女と魔法少女がいるという話です。

 

 

 つまり、失敗してはいけないイベントその2『バイバイ、また明日 ~神浜大東団地の記憶~』の開始です。西の魔法少女だと迂闊に大東区に行けないのでここでも南凪の生徒であることが幸いします。

 このイベントに成功することで『散花愁章』が発生するようになりますが、『伊吹(いぶき) れいら』、『桑水(くみ) せいか』、『相野(あいの) みと』の三人、通称団地組を魔法少女にするためにはきちんと手順を踏んでクリアしないといけません。せいかは高確率で魔法少女になっているので実質二人ですが。

 

 アザレアでは初手BAD END突入未遂という失態をお見せしましたが、今回はチャート通りの華麗で迅速な攻略を披露できるかと思います。

 

 大東区出身以外でこのイベントに参加するには、偶然団地組と出会って信頼度を高めるというのがよく使われるルートですね。

 ですが、ななか組長との信頼度が一定値以上だとファミレスでの会合時に神浜大東団地の話を聞けることがあります。これでもフラグが立つのでOKです。だから、ななかと出会う必要があったんですね(メガトンダンチ)。

 

 

 ところで……おう観鳥さん! この団地知ってる?

 

「あの団地? 少し前に失踪事件が起きて最近物騒らしいけど……行くなら付いてくよ」

 

 観鳥さんにも確認したので間違いありません。

 ありがたいですが今回は観鳥さんはお休みです。大東出身で南凪という微妙な立ち位置なので純南凪の帆秋ちゃんが乗り込みます。

 

 ちなみにななか組長は団地の魔法少女から『手出し無用』と言われたそうです。他にも『ここは私の家』、『ここは私の大切な場所』と言うぐらいにはその意志が強いみたいですね。

 知らねーよ、そんなのとばかりに無視して行きましょう。

 

 

 

 わぁ、これが神浜大東団地ですかー。色んな棟(全60棟)がありますねー。こんなに建ってるとは思わなかったぁ。

 ここは居住施設で、向こうに、商業施設があるんだ。後で、そこへ行こうよ。

 

 

 

「いいですけど、急にどうしたんですか? お友達でもいるんですか?」

 

 いくら華の女子高生とはいえ一人で放浪していたら怪しまれます。

 そこで先日出会っておいたひみかちゃんを誘っています。二人で敵意はないですよアピールを団地中にガンガン見せつけてやりましょう。その後なら一人で大丈夫です。

 

 このイベントの成功条件は団地を根城にする魔女を仕留めることです。クリアするだけならすぐに終わりますが、きちんと進めないとやはりワルプルギスの夜を倒せない可能性が出てきてしまいます。

 いつものごとく難易度ノーマルまでなら勝手に進みますが、ハードだと余計な行動をしてくれることが多いです。でもハードで走る方が楽しいので僕もう難易度はこれですね(マゾ)。

 

 

 とりあえず今日のところは団地を回りつつ団地組の表札と12棟の5階を確認しておきます。部屋割りなどは固定です。まさか固定の番号を忘れるような走者はおらんやろ……。

 

 10号棟305号室、ヨシ!

 12棟5階ヨシ!

 25号棟502号室、ヨシ!

 31号棟……401……402……403でしたね。ヨシ!

 

 確認終了! ではここでひみかちゃんとは一旦お別れです。かなり怪訝な顔をされますが問題ありません。

 ありがとな、頑張りや料理。

 

 

 ところで、なぜ一人になったかと言うと今からする話を聞かれたくないからです。誰と話すかと言いますと……オラ出てこいや!

 

「呼んだかい、くれは。この団地にキミが来るなんていつぶりだろうね。用もなく東に来ると厄介ごとに巻き込まれることを知らないわけじゃないだろう?」

 

 この白タヌキは契約しそうな子を虎視眈々と狙っているので必ずいます。呼べば来るのでこうして呼び出しましょう。

 

 今回のイベントですが、最大の目的は『相野 みと』に魔法少女になってもらうことです。というかこの先のことを考えると絶対に彼女が必要なので、他の全てを犠牲にしてでも彼女だけは確実に正規の願いで魔法少女にします。逆ほむらちゃんです。

 そのためにも今回ばかりはこの白いハクビシンをお供にして行動しなければなりません。コイツと協力するのは癪ですが共同戦線といきましょう。どうせあと少しで見納めです。

 

「無視しなかったと思えば協力してほしいだなんて、本当にキミはよくわからないよ。確かに魔法少女がいることはボクにとって有益だし、この団地にとっても悪い話じゃない。わかった、今回は協力しよう」

 

 おう話は終わりじゃ帰れ!

 

 これでこちらが姿を現せないときに代わりに働かせることができます。

 といってもコイツは元々契約させようと勝手に動くので度々情報を持って来させれば大体はそれで十分です。だってこの白いオコジョ、みとちゃんを喧嘩中の二人のところに誘導したりするんだぜ? あったま来た……(憤怒)。

 

 

 先ほども言いましたがクリアするだけなら簡単です。しかし、三人を魔法少女にして生存させるとなると話が違ってきます。

 

 一番厄介なのは、これは三人の関係性の問題なので変に手出しできないことです。キュゥべえ式でわざとピンチに陥るまで待って契約させても意味がありません。

 

 通常プレイだと難しい場面ですね。三人を魔法少女にして共に運命を背負ってもらうか、せいかの望み通りに二人にはこの世界を知らないでもらうか。魔法少女がどういうものか知っていたら更に判断に迷うかと思います。

 

 ですがRTAなので魔法少女になってもらいます(ド畜生)。

 

 なにはともあれ明日から情報収集を開始しましょう。内部の確認は済みました。あとは団地組を尾行して状況確認に努めます。確実にいるであろう登校時、下校時が狙い目です。

 帆秋ちゃんの出席日数は犠牲になったのだ。魔法少女の因縁……その犠牲にな。

 

 

 

 

 

 おはよーございまーす!

 

 帆秋ちゃんは良い子なので学校に行くフリはします。なんでいつもより早く家を出て駅に向かってるんでしょうね(すっとぼけ)。

 

 昨日ぶりの団地です。早速団地内で張り込みを……すでに一人いますね。あの赤い髪は『伊吹 れいら』です。ちょうどいいタイミングなのでその辺に隠れてましょう。

 

「あ、せいかー! おはよー!」

「――わーっ!」

「うわぁっ! もう、みと! びっくりさせないでよー!」

 

 三人は、どういう集まりなんだっけ? 友達ィ……。

 青担当の『桑水 せいか』、ターゲットの緑担当『相野 みと』が合流しましたね。せいかの指輪も見えました。

 

 この様子だと変に進行していたり遅れたりしているということはないみたいです。正規の手順で行けそうですね。このイベントはある程度進行速度を自分で変えられますが、必要ないかもしれません。

 

 登校時はここまででいいでしょう。学校にいる間の情報はキュゥべえから仕入れます。

 それではこれから大東区から新西区までという長い距離を登校する三人を、木陰から見守りつつ優しい目で眺めてましょう。行きました? 行きましたね。

 

 

 これで三人の存在を認識することができました。

 しかし帆秋ちゃんは組長から団地に魔女と魔法少女がいるという話しか聞いていません。三人の情報は盗み聞きした名前しか知らないという有様です。

 

 というわけで仕入れましょう。当然みとちゃんについてです。名字は『相野』という表札を確認してるのでもう知っています(不審者)。

 

 仕入れ先は同じ『神浜市立大附属学校』の生徒が定石です。もしもーしかえでちゃん? 相野みとって子知ってる?

 

「ふゆぅ……朝からどうしたの? ……ちょっと不思議な子って噂を聞いたよ。あんまり良い話じゃなかったからそれ以上聞かなかったけど……」

 

 もっと詳しく知っている時もあればまったく知らない時もあるのでこれは……普通だな!

 これでバレても『行動が気になって魔女に操られているかもしれないと思った』という一般人に通用しないガバガバ言い訳が使えるようになります。まあダメでも適当に誤魔化せば大丈夫やろ……(慢心)。

 

 では下校までにこの団地で起きたという『失踪事件』について調べます。図書館とかでいいでしょう。登校とか……なさらないんですか? え、そんなん関係ないっしょ。

 

 

 

 

 たのもー……(マナーを守る利用者の鑑)。

 

 確認するのは事件の新聞記事と団地自治会のホームページです。スマホで調べられることもありますが効率化のために纏めて調べちゃいましょう。

 

 報道されている内容では父親、母親、子供一人が忽然と消えたということがわかります。

 この子供ですが、自治会のホームページに映っている動画が掲載されています。報道用に編集されたものではなくこちらを確認しましょう。

 

 動画の内容は団地でのお祭りですね。その子は子供代表で開会の挨拶をしています。

 所々騒音で聞き取りにくいですが……『ここは私の家』、『ここは私の大切な場所』という言葉が聞こえます。あれー、おかしいねー最近ななか組長から聞いたね。

 

 お前ひょっとして……団地のことが好きなのか?(見当違い)

 

 所詮聞いただけなので帆秋ちゃんではここまでが限界です。組長から聞いた魔法少女=失踪した子供まで発想が及ばないので話題に出せません。そういう子がいたと知っただけでいいです。

 

 では下校の時間まで学生らしく勉強してましょう。補習でロスったら笑えません。

 

 

 

 三人が帰ったとアイツから報告を受けたので、談笑する三人を監視しているわけですがここからは運が絡みます。進行速度を変えられる(ここを変えられるとは言っていない)。

 

 具体的に言うと、せいかが団地内の使い魔と戦ってくれるタイミングを待ちます。使い魔と戦った後のせいかをれいらかみとちゃんが見かけることが次の段階に進む鍵です。魔女を操れるような固有魔法なら加速できるんだけどなー俺もなー。

 

 今度は下校後のタイミングだけでいいので、放課後になったら速攻ここに来ます。

 ただただ監視を続ける姿を流し続けるのも退屈だと思うので、みなさまの〜ため〜に〜。

 

 

 

 

 

 特に用意してないのでお待ちください(反逆)。

 

 

 

 

 

 

「……あ……!」

「どうしたの?」

 

 あ、やっと……使い魔が来たんやなって……。

 そそくさとみとちゃんを置いて商店街に向かうせいかを追います。この辺の曲がり角を曲がりまして……おっと彼女が魔女の口づけを受けた不審者に待ち伏せされていますね。不埒な奴め、許せん! 正義の刃、覚悟しろ!

 

 ちなみに使い魔との戦闘ですが、せいかを戦力としてカウントしてはいけません。彼女はまだグリーフシードを使ったことすらない超初心者です。とっとと帆秋ちゃんが倒してしまいましょう。

 

「……誰!?」

 

 帆秋くれは……(デケデケデケ)。

 放っておくとせいかがピンチになる危険性がありますが、この鍛え上げた攻撃力があれば使い魔ごとき真っ二つで即勝利です。

 

「…………」

 

 剣呑な目を向けてきますが大丈夫です。三人組の青担当ですが某このはと違って彼女はただ人見知りなだけです。

 この団地に魔法少女がいるって聞いて来た者ですけどー! 君が、その魔法少女だね? という感じで、ななか組長から聞いた魔法少女をせいかだと勘違いしておきましょう。

 

「……か、関わらないで! この団地は私だけで守るから……!」

 

 (信頼度が)低い低い。(嫌われてる様子が)見えるぜ。

 彼女は魔法少女の世界をれいらとみとちゃんに知られたくないため、他の魔法少女が近づいたりするとこうなります。

 

 向こうから去っていきそうな雰囲気ですが、しかしながら今行かせるわけには行きません。念話でキュゥべえに二人の位置を報告させつつ、無理やり会話を引き延ばしてタイミングを合わせます。無理そうなら取り止めますが、今回は行けそうです。

 会話終わり! 君もう帰っていいよ!

 行きましたね。ヘイ白タヌキ! 様子はどうだい!

 

(二人がせいかを見たみたいだよ)

 

 お、たまには役に立つなこの白タヌキ。良い感じに進んでますね。

 それでは自分は不埒な不審者を発見されやすい位置に運んでから帰りましょう。

 

 今回はせいかを発見してもらいましたが、今度は特定のタイミング以外は彼女を隠してあげましょう。

 動向に注意しつつ今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 私とせいか、みとの三人はこの団地で出会った幼なじみだ。

 せいかは後から引っ越してきたんだけど、声をかけてすぐに仲良くなった。今では二人とも大切な親友。いつでも一緒なんだ。

 

 だから、私はこの団地が好きだ。思い出の詰まった公園、帰りに歩いた夕暮れの道。二人と出会えて、一緒にいられるこの場所が。

 

 今日もまた、お弁当をカバンに入れて、ゴミを出したらいつもの待ち合わせ場所へ。

 そこで待っていると、すぐに青い髪をした私の友達が見えた。

 

「あ、せいかー! おはよー!」

「――わーっ!」

「うわぁっ! もう、みと! びっくりさせないでよー!」

 

 急な声に振り向くとそこにいたのはみと。いつの間にかこっそり来ていたみたい。みとはいつもマイペースで、想像できない行動をするけど、それが落ち着くんだ。

 

 いつものように揃ったところで歩き出すと、自然と最近この団地で起きていることが話題になった。

 

「自治会長さんが言ってたんだけど、不審者の目撃情報があるんだって。ポスターも貼りだしたみたい」

「それ私も言われたよ。『変な人を見たらすぐ逃げなさい』って!」

「ねー、あそこの陰……」

 

 みとが指差したのは待ち合わせ場所より少し奥にある木。それがどうかしたのかなって、よく見てみるけど別になにもない。せいかも同じようだった。

 

「なにもないけど……」

「……気のせい、かな?」

 

 思えば、みとが抱いた違和感はこれが最初だった。

 その日の帰り道でも少し反応してたし、別の日はせいかが似たようなことを言っていた。私もそれを感じたときから、これは偶然じゃないって信じるようになったんだ。

 

 それから何日か。私はまた違和感を抱いた。そのなにかに悟られないようにそっと背後を見ると、ほんの少しだけ木の陰から白いなにかが見えたんだ。

 ピンと来て思い浮かんだのは、この頃団地の目撃情報で増えてた淡い栗色の髪で青い服の人。ポスターの人相とは違うけど、団地の人じゃないのに毎日のように見るらしいから怪しいんだって。これだけ広い団地の全員を把握してる人なんていないと思うけど……誰も見たことがないって言うのならそうなのかな。

 

 そんな団地の話は意外と広まっているらしい。学校でもクラスメイトにそのことを聞かれたり心配されたりもした。

 

「その不審者がさ、さらう人間を探して歩き回ってるとか……」

「ちょっとやめなよ! れいらはそこに住んでるんだよ?」

「ご、ごめん……でも本当に大丈夫?」

「うん、大丈夫! さっきのも気にしてないから!」

 

 ……なんて、また私の悪い癖だ。気にしてないわけじゃない。良い気分はしなかったのに、波風が立たないように取り繕っちゃった。

 

 考えないようにしてたけど、団地の雰囲気が変わったのは不審者騒ぎよりも前の出来事が原因だった。

 家族全員が揃って忽然と消えた失踪事件。経済的にも普通で取り立てて悪い噂があるわけでもない本当に普通の家。家財道具はそのままだし、家の中が荒らされていたわけでもない。理由も原因もわからない失踪はニュースになって私も取材された。

 

 それからも続く物騒な噂に少し参っていたんだ。断り切れなかった掃除当番の代役を引き受けて帰りが遅くなったのもあって、気分転換に駅前の本屋さんに注文していたお菓子のレシピを取りに行ったときだった。

 

「みと? 偶然だね」

「あ、う、うん!」

 

 ノートを買いに来たらしいみとと、下校のときは一緒に帰れなかったからって並んで団地に帰ることにした。

 夕暮れの団地ではやっぱりまたあの見られているような感覚がしたけど、その方向を見てもなにもない。あるのは遠目に見える商店街の入り口だけで……。

 

「……せいか?」

「そうっぽいね~……用事があるって言って商店街に行っちゃったから、それかも」

 

 遠目だったけど、商店街から出てきた人影がせいかのように見えた。商店街は近隣に大型スーパーが出来てからすっかり寂れてしまっている。特に用事がある店はないと思うけど……。

 結局、せいかのように見えたのは気のせいだと思うことにした。気にはなったけど、わざわざ追求することでもないって思って。

 

 ……でも、その翌日に不審者のポスターに描かれてた人が商店街で保護されたって聞いて、その気持ちはまた浮かび上がってきたんだ。

 その不審者の人は捕まったわけじゃない。目が覚めたらなぜか商店街にいて、しかも最近の記憶がなかったから混乱したみたいで、通りがかった人に助けを求めたところを保護されたんだって。

 

 いつも通りに三人で集まっていつも通りに他愛ない会話をする。でも、私の心は昨日見たことでいっぱいだった。商店街から出てきたせいか。商店街で見つかった不審者。どうしても偶然で片付けられない。

 けれど聞いても返ってきたのは否定の言葉で。

 

 やっぱり、私はそれ以上聞けなかった。遠慮とは違うけど、嫌な気分にさせたくない癖みたいなもの。家の用事を思い出したって言って去っていくせいかの背中を見るしかできなかった。

 

 

 だから、商店街を直接調べることにしたんだ。

 シャッターが降りた店が多いここは人の目が届かないところが多い。そういうところで不審者が目を覚ましたんじゃないかなって思って、曲がり角を確認しながら歩いてみた。

 

 私だって期待してたわけじゃない。探偵もののドラマでもあるまいし特に見つかるものもなかった。

 けど、せいかのことは気のせいだったって思うようにしてもう帰ろうとしたとき、物を落としたような音が聞こえたんだ。まだ見てなかった角。そこから。

 

 みとが用事があるって聞いたとき、出てきたのは商店街だった。じゃあ今回もひょっとして……。

 

「あの、誰か……いるんですか……?」

「いるわ」

 

 さっと陰から現れたのは綺麗な人だった。スタイルが良くて背もスラッとしてて、南凪の青い制服が淡い栗色の髪に似合って――青? 髪色……?

 

「淡い栗色の髪、青い服……不審者!?」

「……不審者?」

 

 その人は表情を変えずに困るという器用なことをやってのけた。

 もう一人の不審者って絶対この人だ……堂々としすぎてる気がするけど、白いビニール袋を持ってるしやっぱりこの人!

 ……って、思わず言っちゃったけどこの状況……危ないんじゃ……。

 

「違うわ。私は怪しいものじゃないし特に不審でもなんでもない」

 

 ぜ、絶対に嘘だ……目が泳いでる。

 

「すみませーん! その人、本当に不審者じゃないんです! ただこの商店街限定のメロンパンが食べたいとかで通ってるだけなんです! みなさんにも伝えてください!」

「ひみか? そんなに慌ててどうしたの」

「いや慌てますよ! この団地になんか聞き覚えのある見た目の不審者が出没するって話を学校で聞いたから来たんです! すみませんね本当に! 私が連れて帰りますから……ちょ、ちょっと本気で抵抗しないでください! 折れる! 折れます! イタタタ!」

 

 走ってきた大東学院の制服を着たその人は、不審者……あ、不審者じゃないのか。元不審者の人を引っ張って去っていった。

 

「なんだったんだろう……」

 

 確かにあの袋からメロンパンが見えてたけど……じゃあ私が見たのは見間違いだったのかな。

 そうかもしれないと納得して、ふと曲がり角を見るとほんの一瞬だけ今度は青い髪と見知った顔が見えた。

 

「……せいか?」

 

 気のせい……じゃない。

 

 

 

 

 

 いつものように三人で集まったけど、感じたことのない空気の重さだった。

 

「……せいか。昨日ね、私……商店街でせいかを見たんだ」

 

 そう告げると、せいかの顔が歪んだ。人見知りなせいかが他人に見せる表情に近いそれは拒絶の意思を持って私を見ている。

 違うの、私はただ。

 

「あ、あのね! よければ理由を教えて欲しいなって。ポスターの不審者は保護されたけど、もう一人の噂されてた人は商店街にいたし心配なの。……なにか困ったことがあるなら私たちが協力するから」

「勘違いだよ……そんなところに私はいなかった……だから、別になんでもないの! 協力なんて必要ない!」

「そっか……」

「せ、せいか……怒ってるの? れいらもなにか言ってよ……ねえ、れいらってば! やめて、やめてよ……!」

 

 泣き出したみとを前に、私とせいかは沈黙するしかなかった。

 この後どうやって帰ったかの記憶はない。この出来事が私たちの間に明確な溝を作ってしまったのかもしれなくて頭がいっぱいだったから。

 

 

 やっぱり、せいかはなにかを隠している。あの反応は普通じゃない。

 でも、三人の関係がだんだんと壊れていくみたいで怖い。聞いても聞かなくても止められそうにないなら、どうしたら……。

 

 このままじゃいけないってわかってるのに動けない。そんな私の前に現れたのが――

 

「やあ伊吹れいら。キミのその悩みを解決できるかもしれないよ」

「ね、猫……? 喋った?」

「ボクはキュゥべえ。ボクと契約して、魔法少女になってよ!」

 

 キュゥべえと名乗ったその生き物から聞いた話はとても信じられるものじゃなかった。

 この子の言う『魔法少女』になればどんな願いも叶うのだという。そんなおとぎ話みたいな話が現実にあるなんて思えない。

 

 だけど、今は紛れもなく現実でそこにキュゥべえはいる。私の頭には他に思いつく手段なんかなくて、もう少し話を聞いてみてもいいかなって思ってしまった。

 

 私が聞いたのは、そもそも『魔法少女』ってどんなものなのかってこと。教えてくれたのは魔女という怪物と戦わなくちゃいけないとか、他にも神浜には魔法少女がいるっていうこととか。

 その中で気になったのは、魔女の口づけを受けた人は操られて不審な行動をするってことだった。

 

「じゃあ最近の不審者騒ぎって……」

「魔女の仕業だね。キミの友達の桑水せいかが対処したんだ。彼女も魔法少女だよ」

 

 それを聞いて納得できた。不審者の人が記憶を失って保護されたこと、せいかが商店街にいたこと全てに説明がつく。

 

「だとしたら、やっぱりあの人は不審者じゃなくて変な人だったんだ……」

「あの人?」

「南凪の人を見たんだ。あ、キュゥべえちゃんにはわからないかもしれないけど」

「その情報でわかるよ。帆秋くれはだね。彼女も魔法少女さ。この団地に住まう魔女が手強いと睨んで調査に来たって言ってたよ」

 

 あの人も魔法少女だったんだ。変だけどクールな感じで、見たことないけど魔女なんてすぐに倒しちゃいそうな人が手強いって思う相手がここにいるって思うと、少し不安になる。だから確認の意味を込めて聞いた。

 

「その人、強いの?」

「少なくとも桑水せいかよりはね。その彼女が言うんだ。もしせいかが一人で戦うことになったら危険かもしれないね」

「……そうだよね。せいか一人に全部背負わせるなんて……」

 

 この話をしなかったらもう少し考える時間が欲しいと思って日を跨いだかもしれない。でも、聞いてしまった。そんな危ない世界にせいかを一人でいさせるなんてこと、私にはできない。

 

「ねえ、もしせいかと仲直りしたいって願ったら……」

「叶うだろうね。おそらく元の関係に戻れるだろう。それを望むのかい?」

 

 ……それでいいのかな。これは私が直接向き合って話さなきゃいけないんじゃないのかな。

 この選択は『逃避』だ。聞く勇気も聞かない勇気もない、どちらも選べなかった私の弱さだ。だから、仲直りなんて言葉は使えない。私はただこのモヤモヤとした関係を元に戻したいだけなんだから。

 

 考えた末に私が願ったのは『せいかと元通りになりたい』ということ。そういえばせいかはなにを願って魔法少女になったのかな。なんて思いながらその『願い』をキュゥべえに告げる。

 これで元通り。いままでと同じように二人と一緒にいられるんだ。

 

 

 

 でも、そう願ったあと。頭に激痛が走った。

 

「キ、キュゥべえ……なに、これ……!」

「さあ? 元通りになりたいと願った結果だと思うけど」

 

 この時にはもうキュゥべえの言葉も聞こえなかった。

 頭に叩きつけられるみたいに映像と音声が響く。

 

 団地。ザワザワと、話す声。

 

 階段。カツカツと、上る音。

 

 屋上。コツコツと、歩く音。

 

 地面。グチャっと、潰れた音。

 

 

 

 あ、ああ……! 全部……思い出した。

 そっか、私――

 

 

「死んじゃったんだ」

 

 

 




■今回の内容
 『バイバイ、また明日 ~神浜大東団地の記憶~』

■伊吹 れいら
 契約しちゃった魔法少女。ハート担当のフェニックス。
 衣装のスカートはどこ……? ここ……?

■桑水 せいか
 人見知り系魔法少女。ダイヤ担当のマジシャン。
 青春熱血スポ根好き。

■白いアイツ
 こういうときは頼れるアイツ。
 不審者を活用した自慢の営業トークが光る。


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