ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について 作:バガン
第1話
「こ、ここは一体?」
僕、平凡な高校生片桐遊馬(かたぎりあすま)!昨日は確かいつも通りにベッドで寝ていたはずだったけど・・・。
素朴な疑問が口を通して出たのは、目覚めたらいたこの場所が明らかに自分の部屋ではないという事だけではない。。まず目に飛び込んできたのは、真っ白でフワフワの動く毛玉。
「ぴょん?」
「『月ウサギのラッピー』だ・・・。」
「なにを見ていますの?」
「『おじょボク』の西園寺美鈴?!『タイムライダー』のムラサメ・モンドもいる!」
「やかましいやつだな。」
どれも、僕の好きなゲームの登場キャラクターたちばかりだ。
そう、ゲームのキャラクターたち。それが今、目の前で動いて、声を発している。それも僕に向けて。非常に驚いて、そして感動している。思わず声が裏返るほどハイになっている。
「というか美鈴なんて立ち絵しかなかったのに!動いてる!」
「立ち絵?」
「まあアニメでは動いてたけど。ところで、この状況は一体何故?ゲームの世界に入ってしまったとか、そういうの?」
「お前は一体何を言ってるんだ?ここは俺の世界・・・でもないわな、どう見ても。」
「そう、モンドならまさしくそう言うだろうね。コスプレイヤー?」
「誰がコスプレか。」
サイバーパンクの世界を舞台に、時間を駆け抜ける戦士のモンドの格好は、コスプレ人気も高い。でも、目の前にいるモンドがコスプレイヤーのようには見えない。なにせ右手の義手からレーザーキャノンが飛び出しているから。
「まあまあ、物騒な物は仕舞いなよ。ボクたちもいきなりここに連れてこられて混乱してるんだよ。喧嘩は無しにしよ、ね?」
「チッ・・・。」
露骨に舌打ちしながら、モンドは武器をしまう。彼を窘めたのは、赤いパーカーの青年。
「『レッドパーカー』のトビー・ホランド?」
「へぇ、ボクのことも知ってるんだ。ボクって結構有名人?サインほしい?」
「そりゃもう、世界的に有名なヒーローだし。」
一見人の好さそうなだけのこの青年トビーは、法で裁けぬ悪を追いかけ、追い詰め、打ちのめす、よいこの味方のコミックヒーロー、レッドパーカーなのだ。サインはいらないけど。
「ところで、キミはやけにボクたちについて詳しいみたいだけど、何者なんだい?」
「何者って言うほどでもないよ。僕はただの高校生だし・・・。」
「Oh,ジャパニーズハイスクール。ヤオイってやつだね。」
「えらく偏った知識だな。」
レッドパーカーのデザインは、年代によって微妙に変わっている。この格好はたしか2000年代のものだったろうか。前に少しだけ昔の作品をネットで読んだことはあり、現在も連載は続いているけれど、今はどんな事件が起こっているかは知らない。
「付き合いきれん。俺は勝手に行動させてもらう。」
「待ちなよ、モンド?って言ったっけ?単独行動は死亡フラグってよく言われてるよ?」
「ここに留まることが正解だとは思えん。」
ここと呼ばれた部屋、一見すると学校の教室(僕の通っている学校のものではない。)の戸を開けた時、変化が起きた。
「!?」
「なんですの?!」
「バクバクター?!」
「らぴ?」
見るからに健康に悪そうな色をしたカップケーキが飛んでくる。普通のカップケーキと違うのは、顔がついているという点。ラッピーのゲームに出てくる敵キャラの『カプケー』だ。一見するとおいしそうだけど食べるとお腹を壊す。バイキンがついているからだ。
「敵か・・・。」
多少ファンシーながらも、敵とみてモンドは身構える。ところがそのモンスターもふよふよと浮いているだけで何もしてこない。
「なぜ、攻撃してこない?」
「そういうモンドさんこそ、攻撃しませんの?」
「・・・なぜか体が動かんのだ。」
「RPGみたいに行動順があるのかな?」
「もう訳が分かりませんの!」
トビーに目配せしてみるが、ふるふると首を振るだけ。わめいている美鈴も多分違う。となると残るは・・・。
「ラッピーの手番か?」
「ぴる?」
「状況がよくわかってなさそうだ。」
「よっし、行けラッピー!」
「らぴ!らっぴぃいいい!」
「あ、待った!」
机を足場に、ピョンピョンと高速で跳ねるラッピーだったが、カプケーにぶつかられて止まってしまう。
「ラッピーはアイテムを集めないとロクに攻撃できないんだよ!」
「えー!じゃあ今は弱いじゃん!」
「らっぴぃ・・・。」
ふっとばされてラッピーは足元に戻ってくる。時に勇敢だけれど、ラッピーは基本的に弱いのだ。
「とにかく、ラッピーは自爆してターンを終えた。次は誰?」
『クモモー!』
「ぐはぁっ!」
「どうやら、モンスターの手番のようだね。」
「知ってる。」
カプケーは、一番近いモンドに体当たりをぶちかました。ふわふわな見た目に反して重い衝撃がモンドを襲うが、モンドはなんとかその場に踏みとどまる。
「次は?」
「わ、わたくしのようですわね・・・。」
「よし、行けミスズ!」
「荒事はノーセンキューですの!パスですわ!」
おじょボクは恋愛アドベンチャーゲームだし、原作の美鈴にも戦闘描写なんて当然ない。箸より重いものを持ったことがないという箱入り娘にはそりゃ無理な話だろう。
「あっ、次ボクか。よーし、レッドパーカーの強さをみせてやる!」
「よーしがんばれー!」
教室の端から、トビーは一足飛びにカプケーに向かう。が、その空中で突如固まってしまう。
「あ、あれ?なんか急に動けなく・・・。」
「まさか、移動距離の概念もあるのか?」
「そんなぁ・・・。」
「ふん、そのまま空中で固まっていろ。俺がケリをつけてやる。」
次はモンドの番だ。義手がビカビカと光り、武器の一つのレーザーガンが出現する。
「こいつで吹き飛ばしてやる・・・って、あれ?」
「武器を装備した時点でターン終了したのかな。」
「なんだと?!」
「最初から装備しておけばこうはならなかったろうに。」
「『仕舞え』と言ったのはどいつだ!」
「ボクです。」
ともかく、これで全員に手番が回ってきた、という事は。
「やっと僕の番か・・・。」
「よしがんばれ!」
「でも、僕はゲームキャラクターじゃないから、戦闘も何もできないよ。」
「つっかえねえの。」
「何か、アイテムとか持ってないの?それこそラッピーを強化できるような。」
「ない・・・ん、なんだこれ?」
ズボンのポケットに、なにか大きめの機械が入っていた。取り出してみると、中央にはモニターがついて、両端にボタンのあるゲーム機だった。
「『ゲームPODネクス』?これまたレトロなハードが・・・。」
もう10年以上前のハードだ。今では主流になっているタッチスクリーンもついていないし、電源は単三電池だ。
「起動はするかな?」
「そんなにのんびりしてていいんですの?」
「ターンを渡さない限り攻撃もしてこないし、大丈夫でしょう。」
「この状態で固定されてるのなかなか恥ずかしいんですけど?」
「もうちょっと耐えてて。」
こと、ゲームの話題となる片桐遊馬は目がない。レトロゲームだって履修範囲だし、なによりゲームPODネクスには良ゲーも多い。
「あれ、この画面は・・・。」
「なに?見えない。」
タイトルもなにもなく画面に3Dマップが映されるが、その状況はまさに今目の前で起こっている風景そのままなのだ。ステージ端にモンドとモンスターがいて、教室の端にはラッピーと美鈴が、中央あたりにはトビーがいる。しかし、画面の自分がいるべき場所に、自分はいない。
「そうか、僕は駒じゃなくて、プレイヤーとしてみんなに指示を飛ばせばいいのか。」
ターンプレイヤーを表すウィンドウには、ラッピーの名前が表示されている。
「となると、今は僕のターンじゃなくて、一巡してラッピーに戻ってきてるのかな?ラッピーは?」
「ぴぃ・・・。」
「すっかり萎縮しちゃってますわね。」
「お前が変な指示飛ばすからだぞパントマイム。」
「仕方ないじゃないか!知らなかったんだから!」
ラッピーは行動の選択をしない。
「何も出来ないか。ここはラッピーもなにもさせない。」
「ぴぴっ。」
「気にするなよ。変身アイテムがないんじゃしょうがない。」
次、再びカプケーのターン。
「また俺か!くそっ!」
「モンドにダメージ!体力のステータスはどこだ?」
リアルタイムで戦闘は続いているが、カチャカチャとボタンを押してウインドウを開いたり閉じたりする。
「うわっ、モンドめっちゃいっぱいアイテムがあるな。ほとんど武器だけど。」
「次、わたくしは何をすればよいでしょうか?」
「うーん・・・あっ、美鈴は『ビスケット』を持ってるじゃないか。それを誰かに使ってあげれば?」
「回復アイテムか!」
「説明文を見ると『ライフを1回復する』と書いてある。」
「たった1ぃ?!」
「元々ラッピーのゲームの回復アイテムだから。」
月ウサギのラッピーは横スクロールアクションゲームで、体力は最大6。1点のライフは大きいのだ。
「じゃあ、ラッピーどうぞ。」
「ぴょん!」
「次、トビーの番!」
「よし!今度こそ・・・また途中で止まった。」
「つっかえねえの!」
「てへへ。」
「次、モンドのターン!」
「やっとか、これで吹き飛ばしてやる!ファイヤ!」
『グポォオオオオオ!』
モンドの右手のガンから炎が奔り、カプケーを焼き尽くす。
『戦闘終了』
「よし、勝った!」
「お、終わりましたのね・・・。」
緊張の糸が切れるように、全員の硬直が解除される。戦闘から解放されたというわけだ。
「ふんっ、ふざけた見た目のやつが、手こずらせてくれた。」
「一番ダメージ受けてたのキミだろ。」
「次に焼かれたいのはお前か?」
「ストップストップ!やっと戦闘が終わったんだから、喧嘩はナシ!」
苛立っているモンドを止める。戦闘が終わったからと言って、この状況そのものは解決していない。果たしてこれからどうするか。
「そのゲーム機には何か表示されてないのかい?」
「特には・・・そういえば、カセットは何が入ってるんだろ?」
いったん電源を落として、背中に刺さっているソフトを確認する。
「ダーク・・・リリィ?」
「黒百合、ですの?」
「それって、外に見えてるアレか。」
「らぴ?」
廊下側の窓を見下ろしながら、モンドは言う。全員が寄ってみれば、一目瞭然。
「すごく・・・ブキミだね。」
「花言葉は、『復讐』、『呪い』。」
復讐の花畑が、眼下に広がり、そのどれもがうつむくように花を咲かせている。その様が、この閉鎖された世界そのものを表していると言ってもいい。