ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について 作:バガン
「・・・ぴ・・・。」
「んんっ・・・。」
「らぴ・・・。」
「んん?」
「らぴ!」
「おわっ!?」
目覚めは強烈なものだった。ラッピーのサマーソルトキックが、遊馬の座席を蹴り上げ、遊馬のおでこは天井にぶつかった、
「いってぇ・・・なんだ?」
「らぴ!」
「って、ラッピー外に出ちゃダメじゃないか!」
「らぴ!らぴ!」
「ん?」
少しだけ休むつもりだった遊馬は、いつの間にか眠っていたようだった。外はすっかり暗くなっており、リニアレールを照らす照明だけが外を照らし、空は今にも雨が降り出しそうだった。
しかし、夜だと?リニアに乗った時はまだ夕方だったし、夜までには終点には到着するはずだった。ひょっとして寝すごして折り返し列車にそのまま乗ってしまったのか?嫌な予感が背筋を走る。
「けど、誰もいないぞ?」
だがそれ以上に違和感を感じたのは、同じ車両に人影や人の気配がまるでないことだった。道理でラッピーが動き出しても全く騒ぎにならないわけだ。今の状況には不気味すぎるだけだが。ひょっとして回送列車なのか?と勘繰りたくなる。
「ともかく、誰かいないか探さないと・・・。」
「らぴ!」
「ラッピーは・・・一応仕舞っておこうか。」
「らぴぃいいいいいい!!」
せっかくリュックから解放されたというのに申し訳ないが、もう少しだけ我慢していてもらおう。
さて、遊馬のいるのは16両編成もあるラ・ムゥ行き列車の前から3両目、3号車の自由席車両。大別して5号車から12号車がグリーン席などの上級席車両、13から先はまた自由席だ。乗降口にある案内板を見たから間違いない。しかも、上級車両は2階建てだという。満席ならなかなかの乗客数となるだろう。これで人っ子一人もいないという事はおかしい。
「・・・とりあえず、前の車両の方を見に行こうか。」
探索にはまず行き止まりを調べる。ダンジョンの歩き方の基本だ。途中でモンスターにでも遭遇しなければいいが。
2号車のドアに手をかけ、3号車から一歩出たところでまた違和感を感じた。空気が妙にひんやりとしている。エアコンのかけすぎか?とひとまずは置いておくこととして、2号車の中を歩く。
「ん?荷物が置きっぱなしになってるな・・・。」
相変わらず人の姿はないが、人がいた痕跡はある。それもひとつやふたつではなく、今さっきまでそこにいたように、カバンがそこかしこに置き去りにされている。
いよいよもって異常性が浮き出てきた。回送車にこんなに荷物が置き去りにされるものか。まるで人間だけが消えたかのようだ。
「一体何が・・・?」
しばし左右に気を配っていると、足元に空き缶が転がっているのに目が付いた。先ほどまで誰かが飲んでいたのか、ジュースの缶のようだ。
コツン、とつま先が当たって回転して転がっていくのを一瞥し、遊馬はひとまず先頭車両へ向かうことを再開した。
「ん?」
ブブ・・・と、耳をそばだてるような不快な音が一瞬聞こえた。遊馬は背後を振り返るが、何もいない。先ほど蹴飛ばした空き缶以外には、目につくようなものはない。
何か嫌な予感がしつつも、確認せずにはいられなかった。遊馬は歩を戻すと、空き缶を拾い上げる。持ち上げた感触から、空っぽだと思った中身に何かが入っていると直感した。
「うぉっ?!」
それは直感した時点で捨てるべきで、中身を覗こうなんて考えるのはよしたほうがよかった。そのアルミ缶の飲み口から、なにかが飛び出して遊馬の眼前にまで迫った。
反射的に慌てて缶を投げ捨てると、それは壁にぶつかって軽い音を響かせた。だが音源はもう一つあった。
「ハエ・・・虫?」
ブブブブブブ・・・と奇怪な羽音を立てながら、黒いハエかアブのような虫が、空間を飛び回っていた。しばしあたりを旋回すると、虫はどこかの隙間から出ていったのか、羽音は聞こえなくなった。
「・・・なんだったんだ、一体?」
ふと、遊馬はこれと似たような状況のゲームを思い出していた。同時に、非常に嫌な予感が、回送車に乗ってしまったことよりも悪い予感がしてきた。
無言でゲームPODネクスを取り出し、皆に通信を入れようとした。
「・・・通じねえ。」
「らぴ?」
「ああ、ラッピーだけでもいてくれて嬉しいよ。」
この日本語の話せない友達が、この上なく頼りに思える時が来るとは。ともあれ、最悪の事態を想定するにせよ、もっと情報をあつめることとした。