ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について 作:バガン
『このため彼の遺体を地にゆだねる。土は土に、灰は灰に、塵は塵に』
人間は神に似せて、土より創られた。故に土に還るという。
「そのメカニズムを早めるもの、『ゼバブ』・・・。」
先ほど見たハエのような虫、それがゼバブだ。ただし、正確にはゼバブが運ぶ細菌『EAD』による働きだ。その細菌の寿命はおよそ5日と短く、自己保存能力も持たない、死ぬために生まれてくるようなものだが、一度ゼバブの運搬するカプセルから解き放たれると、すさまじい勢いで有機物を分解し、土に還してしまう。
今遊馬の目の前に広がっている地獄絵図は、その途中のものだ。骨も含めてすでに原型を留めていないが、もうあと1日もしない内に完全に土になってしまうだろう。死体を夏場で放置しても、1週間かかってやっと白骨化すると考えると、すさまじい速度だとご理解いただけるだろうか。
なぜこんな細菌や生物が存在するのかは、クリーチャーに出くわしてから説明するとしよう。どうせ次の車両あたりで出てくるだろうから。武器と呼べるものはこの拾った傘ぐらいなものだが、どうせデッドソイルのゲームの中でも序盤はこんな貧弱な物しか拾えない。銃は強力だが弾がないのでイマイチ信用しきれない。
「さて、上を行くか下を行くか・・・。」
戻ることは出来ず、進むしかできない。5号車からは2階建てだ。上も下もどっちも地獄だろうが・・・下には血だまりが出来上がっており、上の方が比較的綺麗に見える。
が、上はおそらくトラップだと遊馬は判断した。天井を突き破って敵の強襲があるだろう。ゲーム3作目にもそういうシチュエーションがあった。
「よし、行くか・・・。」
ぐちゃぐちゃと不快な音を立て、床に足跡を残しながら進む。
「うっ、暑いな・・・空調が効いてないのか。」
遊馬は額の汗を拭いながらごちる。高速の分解作用に伴って、死体だったものが熱を発しているのだ。分解によって可燃性ガスも発生しており、換気しないと火器も誘爆の危険がある。グリーン車なのでタバコの不始末の心配はないだろうが。
「んっ?」
と、遊馬は進む先に嫌な物を見つけてしまった。座席の肘置きの上に乗った、控えめに言って人間の手『らしきもの』。いっそ『だったもの』だったほうが正気度を減らさずにすんだろうに。
傘をかまえて、ゆっくりと近づいていく。一歩一歩踏み占めるごとに、ぐちゃ・・・ぐちゃ・・・と嫌な音が耳にこびりつく。
十分な距離に近づいたところで、その手を傘でつつく。それはボロリと力なく肘置きから床に落ちる。
つつかれた手が反撃してこなかったので第一関門突破・・・といったところだが、まだ油断は出来ない。まだ『本体』がある。座席の陰になっていて見えないが、おそらくそこに『いる』。
「うっ・・・。」
『それ』の存在は十分に考えられたが、見ないフリをするわけにもいかず、結果直視する羽目になった。
ありていに言えば、人間の死体を『半分』残したモノ。真っ赤な鮮血や組織が、ぐじゅぐじゅに腐食して潰れている。座席に座った姿勢のまま、土に還ろうとしている。
『これはゲームだ』と認識できているからまあよかった。そうでなければ見れば卒倒ものの腐乱死体だ。しかしこれはホラーゲーム、これで終わらないと知っている。傘を構えたまま、ゆっくりと背中を見せないように後ずさりながら前へ進む。
照明が作る遊馬の影が、その腐乱死体に重なった時。もぞもぞとそれは動きだした。まさかこんな状態で生き返ったはずがあるあまい。ぐずぐずの断面から、ビール瓶ほどの大きさのあるウジ虫のようなものが這い出てくる。
「くっ!」
それを確認した途端、遊馬は傘を振りかぶって、ウジ虫を叩き落とす。数回叩きつけたところで、ウジ虫は動かなくなる。
「うっげぇ・・・もうイヤだ。」
これがゼバブの幼体『マゴー』だ。普通のウジ虫同様、動物の死体に卵を産み付けて繁殖するのだが・・・EADの影響で、マゴーは宿主となった生物のDNAを取り込むことで自己進化する性質を持ってしまった。こいつらがデッドソイルのメインクリーチャーと呼べる。
EADは、元は農業の地質改善のために作られたバクテリアだった。だがとあるテロ組織によって、EADのキャリアであるゼバブもろとも持ち去られ、人間を無差別に殺す生物兵器として扱われるようになった。
もっとも、マゴーの出現についてはそのテロ組織にとっても予想外のことだった。普通はEADの作用であっという間に死体が原型を留めなくなってしまうため、マゴーが孵化・成長する可能性は低いと、研究実験段階では断定されていたのだが、EADの活動を阻害する低温下やアルコールの摂取などの要因が重なると、こんな風に中途半端な腐乱死体が残ったりする。おそらくこの死体は、体温の低い老人で、酒も飲んでいたのだろう。迷惑なことだ。(でもアルコール飲むと体温は上がるよなぁ。)
ともあれ、とりあえず一体倒せたところで、決して倒せない相手ではないと気が少し楽になった。ちっとも安心できる状況ではないが。今すぐゲーム機の電源を落としたい。