ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について   作:バガン

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第145話

 列車の中との違いと言えば、道が広いということ。また、明かりが灯っていない中を歩く必要がある。

 

 「うっ、この腐臭は・・・やはりやつらがいるようだな。」

 

 非常灯のわずかな明かりに、かつてヒトだったモノの姿が見え隠れする。かつては清潔に、チリひとつないほどに清掃されていた廊下や壁には、赤黒いシミがこびりついて異臭を放っている。

 

 その周囲をうろつく、人型のハエの化け物。呻き声のような、あるいは羽音のような耳障りで不快な音が、一寸先も見えない闇の中で存在を告げている。

 

 「最短ルートはこっち・・・だけど、どこも同じようなもんだろうな、この分じゃあ。」

 

 とっくにヒトの文明など崩壊してしまったかのような、惨憺たる有様だ。『急がば回れ』という言葉もあるが、もうここは何もかも遅すぎた、とっくに手遅れの世界。じゃあさっさと最短ルートで通り抜けてしまおう。

 

 「アシュリー、手を離さないで。」

 「うん。」

 

 やつらは光に反応し、非常灯の下にたむろしている。混沌の中で、あたかも救いの手を求めているようにも見える。この状況ではライトをつけて進むことはできない。

 

 『フシュゥウウウウウ・・・』

 『クルルルルルルルル・・・』

 

 これが武闘派なキャラクターであれば戦って突破するという手段も取れただろう。そしてそうであったならよかったなと思う。何体いるかはわからないが、数体はいるとみていい。目を凝らし、わずかな光を感じ取りながら慎重に進む方が吉だ。

 

 (いい、すり足だ。)

 (わかった。)

 

 抜き足差し足、スティックをほんの少しだけ倒すような感覚で、音を立てずに歩く。

 

 『グルルルルルルルル・・・』

 

 (うんっ?!)

 

 非常灯に群がるゼバブたちの斜め後ろに迫った時、ガリガリと壁に爪を立てていた一体が振り返ってくる。

 

 『シュゥウウウウウ・・・』

 

 こちらを認識できているような様子はない。だが、その一体は非常灯の明かりの元を離れ、ぐちゃぐちゃと足音を立てながら暗がりの方へと消えていった。

 

 そんなゼバブとは反対に、遊馬たちは暗がりの中に立ち止まる。離れていったやつが戻ってくる様子はない。

 

 どうするか、このまま忍び足で暗がりを進んでいくか、それとも戻ってくるのを確認するまで待つか。

 

 おそらくこのまま進むとなれば、ステルスゲームのように暗がりの中で音を頼りに接近を察知して進む必要があるだろう。

 

 (いや、行けるか?)

 

 明かりの下にいるのは、見える限り2体だけ。内の一体はゴルフクラブでステルスキルすることが出来る。暗闇に消えていったもう一体がいつ戻ってくるかはわからないが、今のうちなら1対1に持ち込める。

 

 暗闇の中でストレスたっぷりに歩くのと、どっちがいいかと言われると、こっちの手段でゴリ押ししたくなった。

 

 (アシュリー、ちょっと下がってて。)

 (うん、気を付けて・・・。)

 

 アシュリーを来た道に戻らせると、遊馬はゴルフクラブを握りしめてじりじりと詰める。

 

 あと3m・・・2m・・・1m・・・時折踏むと不快な感触が返ってくる物体を踏みつけるが、かまわずに近づいていく。

 

 (そーっれ!!!!)

 

 遊馬のフルスイングが、ゼバブの一体の頭を粉々に打ち砕き、鈍い衝撃音と共に破片をまき散らした。

 

 『キシャアアアアアアア!』

 

 (もう遅い!)

 

 異変を察知したもう一体が、爪を振りかざして仲間がいたあたりを探って空を切る。もう一発、遊馬は肩に力を込めて振り抜いて殴打する。

 

 「おっ死ね!おっ死ねっ!」

 

 倒れ伏したゼバブを、そのまま連続で殴りつけるとじきに動かなくなった。つくづく人間を殴るようには作られていないなと、力を籠めすぎて痛くなった肩を押さえながらごちる。

 

 少し息をひそめるが、他に向かってくるような敵の気配はない。念には念をと、懐中電灯を点けて確認するが、血みどろの中で動くものは何もない。

 

 「よし・・・アシュリー、もう大丈夫だ。」

 「アスマ、上!」

 「上?」

 

 気づくのが一歩遅かった。天井を見上げようとする遊馬の眼前には黒い影が覆いかぶさってきた。

 

 「ぐっ!しまった!」

 

 暗闇に消えていった一匹が、頭に羽を生やして戻ってきやがった。進化して飛行能力まで得たそいつは、遊馬を押さえつける。

 

 『ギシャアアアアアアアア!!』

 

 「くそっ、力が入らない!」

 「アスマ!」

 「らぴ!」

 「わっ!」

 

 即座に腰から銃を抜こうとするが、暴れまわる4本の腕によって弾き飛ばされ、その行く先を目で追えば、新たに現れたゼバブに苦戦するラッピーの姿が見えた。

 

 『ブジャアアアア!』

 

 「うおっ!?」

 

 獲物を抑え込んだゼバブは、消化酵素の含まれた唾液を吹きかけてくる。すんでのところで顔をそらして躱すが、髪や皮膚がじゅわじゅわと炭酸のように泡立っていくのを悪臭と共に感じる。

 

 「ぐっ、この・・・!」

 

 万事休す、このまま反撃が出来ないまま溶かされて殺されるのか。

 

 『ギュウウウウウウ!!』

 

 「うぇっ、キモチワルっ!」

 

 そんな絶望的なビジョンとゼバブの頭は、発砲音と共に消し飛んでいく力を失ってへたり込むゼバブを押しのけて立ち上がる。

 

 「今のは・・・アシュリー?」

 「ふぅ・・・うぅ・・・。」

 

 硝煙立ち上る銃口は、プルプルと震えていた。

 

 「らぴらぴ!」

 「ラッピー、無事か?無事だな・・・。」

 

 その一瞬のマズルフラッシュに気を取られたゼバブは、ラッピーのキックを喰らって粉砕される。

 

 「アシュリー・・・キミが・・・。」

 

 目の前で銃を握る少女の姿が、遊馬の脳内でフラッシュバックする。それは、見知らぬ記憶。

 

 「父親を撃ったのは、アシュリーだった・・・?」

 

 それは、プレイしていないはずのデッドソイル5番目のルートで語られる真相。遊馬の中にあるはずの無い記憶だった。

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