ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について 作:バガン
エレベーターはやはりグラウンドへと通じていた。暗い地下から一転して、眩しい日差しが目に入ってくる。
「外だ・・・。」
「外に出たというのに、新鮮な空気を感じないな、ここは。」
「花畑にでも行けば少しは違うかもよ?」
「黒い花というのは、どうにも不気味だ。」
ここはゲームの世界。風も吹かなれば、鳥の囁きもない。昼は復讐の花が目を伏せて立ち並び、夜には顔のない月がだけがある。
「ところで、アレはどうしよう?」
「カサブランカ、忘れていたね。」
「なんだか、このまま放置しておくのはかわいそうですわね・・・。」
主を喪った機械の兵が、無残な姿のまま横たわっている。
「下に機材があったし、せめてハンガーに格納してあげようか?」
「出来るんですの?」
「クレーンならボクも運転できるけど。」
「その行為に意味があるのか?」
「ある、と思う。」
現状、イベントも消化してしまってやることがない。つまりヒマなのである。こういう時は一見無駄そうなことをやってみると、案外サブイベントが発生したりもするから、決して無駄にはならないだろう。
そうと決まれば行動は早かった。地下からクレーンを持ち出してカサブランカをリフトに運ぶと、ハンガーに掛けて直立させる。
「こっちの足はどうする?」
「替えのパーツがあれば直してあげられるのかもしれないけど・・・まあ、一緒に置いておいてあげようか。」
モンドは義手の力で千切れた左足を運んでくる。もっとも、元は問い追えば千切ったのもモンドであったが。
「そうえいば、パイロットのあいつは一体どこへ行ったんだろうか。」
「カサブランカのパイロットってことは、あれが『天野川雄二』だったってことだよね?」
「多分、そうだね。」
「多分ってなんだよ。」
「キャラが違い過ぎるから。雄二って、もっと明るい性格だったし、少なくともゲームの中では。」
少なくとも見た目や恰好が違い過ぎる。
「それに、あの人は私たちの事を『来訪者』と呼んでいましたわね。」
「来訪者、それに『希望』とも。」
「希望ね、一体何をさせたかったのか。」
やはり情報が少なすぎる。手掛かりが小出しな上に、自分で推理しなければならないから、攻略難易度が高い。
「ところで、誰かコックピットに入ってみない?」
「遊んでるつもりか?」
「ボクは気になるんだけどな、ロボットって初めて見るし。」
と、トビーは開いた胸に一跳び収まる。
「スタートボタンはどこかな?」
「動くのか?」
「動かしてみる・・・これか?」
「・・・。」
「ダメっぽい、アスマ交代。」
「僕?」
「ゲームやってるならわかるんじゃない?」
トビーはスイッチやレバーをあれこれ弄った挙句、匙をパスした
「そんなこと言われても、僕なんてもっと機械の事なんかわかんないし・・・。」
「そう言いつつ嬉しそうだな。」
「まあ、ね。」
トビーに手を差し伸べられて、コックピットに引き上げられる。
「どれどれ・・・たしか、意思を伝達することで動かせるんだったな。」
「へー、脳波コントロールみたいな?」
「いや、たしかナノマシンで神経を接続してるんだとか書いてあったかな・・・とにかく、僕たちじゃ動かせないと思うな。」
「なーんだ、ちょっとザンネン。」
トビーは興味が失せたのか、カサブランカの肩から降りてしまった。
「でも、こうして乗ってると、なんだか落ち着いてくるな・・・ちょうどいい狭さだし、お菓子を持ち込めばずっとゲームしてられそう。」
と、何気なくゲームPODを取り出してみる。
「ん?なんだこのウィンドウ・・・。」
見覚えのないメッセージが、画面には表示されている。
『ARIGATOU』
(ありがとう・・・?なにが?)
「おーい、そろそろ戻ろうぜ。」
「あ、うん、ちょっと待って。」
これは今までにない反応。皆に伝えるべきだろうと、シートから立ち上がった時、ウィンドウは消えてしまった。
「あれ・・・?」
「どした?」
「いや・・・なんでもない。」
結果、謎が一つ増えた。だが着実に前には進んでいる。