ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について   作:バガン

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第166話

 黒より出でて、黒に染めしもの。

 

 氷獄より目覚めた【我】は、見下ろされていた。透明なガラスの向こうから注がれる眼差しには、好奇心、切望。

 

 隣には常に羽をもつ【蟲】が蠢いていた。

 

 ガラスから持ち出された我を掴んだ手は震えていた。歓喜に狂乱に。

 

 そして私を見下ろす目は、欲望、奇異、そして悪意に変わった。

 

 やがてその場所からも我は連れ出された。解放の時が来た。

 

 我は蟲に乗せられて空を舞い、我を見下ろしていたものたちを【食】していく。

 

 やがて、蟲たちも同じように【食】を始めた。しかし我と決定的に異なることを始めた。

 

 我は【ひとつ】。故に【増える】こともない。だが蟲たちは子孫を残し始めた。

 

 そして生まれた子孫の蟲たちにも、【我】がいた。

 

 蟲と共に増えた我も、我と同じ性質を持ち、そして子孫の蟲はまた子孫を遺した。

 

 【我】は【我々】になり、蟲もまた我々の一部となっていった。

 

 多く集まり繋がりあった我々は、いつしかひとつの巨大な脳となり、知能をもたらした。

 

 我々は大勢でありながら、個でもある。

 

 【ここ】はどこだ?

 

 その巨大な脳髄が脈動し、今の状況を計算する。我が眠っていた氷の大地でも、ガラスの世界ともここは違う。

 

 【我】は増えながらも、見下ろしていたものたち・・・【ヒト】は減っていくばかり。ガラスの世界から連れ出された時は、もっと集まってきていたというのに、【ここ】にはそれがない。

 

 【ここ】はあの氷の大地やガラスの世界と同じだ。【外】とは隔離された閉じた場所。どこにも繋がっていない。何も入ってこない。

 

 ああ、ああ、外へ、外へ。あの温かな空気に触れたい。かつていた星の欠片に乗って、この星に来る前の時のように。

 

 ああ、ああ、我の耳元で悪魔が囁く。

 

 『天を目指せ』と。

 

 天を衝く塔の先に、この世界の出口はある。そう誰かが囁くのだ。

 

 あるいはそれは空耳だったのかもしれない。あるいはそれは発達し過ぎた頭脳が導き出した結論だったのかもしれない。あるいはそれは生物的な勘だったのかもしれない。

 

 だがそんなことはどうでもよかった。この世界のヒトを食いつくした我の向かう先は決まった。

 

 ところが、なにやら殺し損ねたヒトがいるではないか。

 

 そいつは、おそらくこの星とも異なる技術で作られた機械の中を操っている。

 

 気に入らないのは、その色だ。我々の蟲の黒とは違う、宇宙を駆ける流星のように輝いて見える。

 

 そしてそいつは火を吹いて我々を殺してまわっている。

 

 我々も、1つに戻る時だ。


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