ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について   作:バガン

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第22話

 「戦闘終了・・・っと。」

 「結構手強い相手だったね。」

 「うん、ラッピー、レイ、大丈夫?」

 「らぴ!」 

 「らぴ。」

 

 一番活躍したのはこの二人だろう。ねぎらいの言葉をかける。

 

 「しかし、なんで急に敵が現れたんだろう?」 

 「急にも何も、いつだって急にでてくるじゃねえか。」

 「そうじゃなくて、敵の反応は無かったのにって。もしかして、中ボスだから固定エンカウントだったのかな。」

 

 ゲームPODのランプは緑を示している。

 

 「結構ダメージを受けたから、一回回復に戻るのもいいと思うけど、とりあえずこの先になにがあるのかだけは調べておきたい。」

 「異議なし。」

 「右に同じ。」

 「まあ、いいだろう。」

 「らぴ!」

 「らぴ。」

 

 しばし息を整えてから、再び通路の先を行く。

 

 「でも、レイもすごい強かったんだね。まあ、そういう話は聞いてたけど。」

 「そうだね、ノベルゲームだから戦闘とか本当は無いはずなんだけど・・・。」

 「同じノベルゲームなのに戦闘力ほぼゼロな人が約1名。」

 「むきー!」

 

 まあ所詮は文章なので、どれだけ風呂敷を広げることも出来る。やろうと思えば、レイ1人だけで地球を滅ぼすのだって容易いことなのだから。

 

 「えーっと、レイのスキルは敵の動きを止める『サイコキネシス』と、防御貫通効果のある『サイコレーザー』、と・・・。」

 「そうだ、さっきの戦闘でスキルポイントもらったんじゃないの?」

 「そうだね、さーて誰に割り振るか・・・。」

 「当然、わたくしでしょう?約束しましたわ!」

 「おおう、そうだったね・・・けど、ちょっとレイのスキルも気になるかなーって・・・。」

 「わたくしもスキルが欲しいんですの!」

 「どうどう。見るだけだから、ね?」

 「らぴ?」

 

 美鈴が詰め寄ってくるのを、トビーが抑えてくれた。

 

 「どれどれ・・・回復スキルの『サイコヒール』に、ランダムでスキルが発動する『星の祈り』・・・超能力者とは名ばかりで、実際のところ魔法使いっぽいな。」

 「わたくしだって色んなスキルが使えるはずですわ!」

 「わかってるわかってるって・・・。そういえば、ラッピーのもよく見てなかったな。」

 

 美鈴のスキルは、DEX上昇の応援と回復の看護のスキルを取るとして、もうひとつくらい誰かのをとれる。

 

 「そういえばラッピーのスキルも気になるところだけど。」

 

 ちゃっちゃっと見て回ると、ひとつ面白いものを見つける。

 

 「あっ、『スイーツバスケット』があるな。アイテムじゃなくてスキルとしてあるのか。」

 「なにそれ?」

 「取るとランダムで変身するんだけど、このゲームでは『ランダムにアイテムを取得する』らしい。これも面白いな。」

 

 現状アイテムはカツカツで困っている。無償でひとつ手に入るのは利が大きい。

 

 「よし、じゃあこれもとっちゃおう。ラッピー、さっそく使ってみてくれ。」

 「らぴ?りっぴ!」

 

 ラッピーの頭上に、お菓子の詰め込まれたバスケットが出現し、それが弾けると、ひとつのアイテムがラッピーの頭に落ちてくる。

 

 「らっぴ。」

 「なにこれ、栄養ドリンク?」

 「『パワーDEシャカリキ』か。効果は・・・ワンナップ。」

 「ワンナップ?」

 

 要は体力がゼロになった味方を回復させられる。つまり体力がゼロになっても即死するというわけではないということだ。

 

 「これはちょっと貴重品だな。」

 「使う機会が来ないことを祈るけど。」

 「らぴ!」

 「よすよす、いいもの出してくれたね。」

 

 撫でられたラッピーは嬉しそうに跳ねた。

 

 「ここは・・・。」

 「外に出たのか。」

 

 通路を抜け、階段を上がった先にあったのは見慣れた校舎の壁。プール脇のポンプ室の外のようだ。

 

 「なーんだ、すぐそこに入り口があったんじゃないか。」

 「ということは、あのカニは施設の入り口を守るボスだったのかな?僕らは出口の方から入ったんだ。」 

 「かもしれないね。」

 

 すぐ外には花畑もある。レイもそちらの方を指差す。

 

 「らぴ。」

 「あっちか。」

 「花畑に入るのか。」

 

 花畑には未だ一度も入ったことが無い。敵がいるのかもわからない。よってここいらで一旦切り上げて回復に戻るのがいいだろう。

 

 「ってレイ、1人で行くと危ないよ!」

 「らぴ!」

 「ラッピーまで・・・しょうがない、追おう。」

 「まあ、ダメージ受けたと言ってもほんの1/10だし、大丈夫だよねモンド?よし大丈夫。」

 「おい。」

 

 足の踏み場もないほどに生い茂るクロユリをかき分けながら、レイとラッピーは進んでいく。花に触れる度、強い香りが発散され、花びらが散る。少しの罪悪感を感じながら、遊馬たちも轍を追っていく。

 

 そうしてしばらく走り続けると、突然レイは足を止め、その背中に追い付いた。レイは、前を見つめているが、その表情には驚きの色が初めて見えた。

 

 「こ、これは?」

 「み、ミステリーサークルだ!」

 

 レイの見つめる先にあったのは、踏みつぶされた花で描かれた幾何学模様。UFO発着の痕跡と言われるミステリーサークルである。

 

 これがここにあるっていうことは、すなわちここに宇宙船があったということ・・・。

 

 「らぴのらぴが、ここで途絶えている・・・。」

 「と、言うことは・・・。」

 

 宇宙船は、飛んで行ってしまったということか。

 

 「らぴ!」

 「レイ!大丈夫?!」

 

 その事実に、レイは崩れ落ちた。

 

 「どうすんだよ、これ。」

 「・・・とりあえず、保健室に戻ろうか。」

 

 まさかレイをこの場に置いていくわけにはいかない。気絶したレイはモンドが抱えている。しかし、本当に困ったことになった。

 

 「宇宙船がどこかへ行ってしまったのなら、クエストは失敗か?」

 「モンド、デリカシーないよ。」

 

 だが、誰もがそう思っている。目的が達せられない以上、クエスト失敗としか言いようがない。

 

 いやしかし、それはどうだろうか?あくまで宇宙船の発見は、目的の一つでしかない。

 

 「結末が用意されているわけじゃないのかも。」

 「どういうこと?」

 「決まったエンディングがあるわけじゃなくて、結末は僕たち自身が作るってこと。」

 

 要は、マルチエンディングの枠をさらに広げたようなもの。

 

 「よくわかんないが、こいつを仲間に入れるってことか?」

 「そうなってくれると、嬉しいんだけどな・・・。」

 

 レイの超能力は戦力として申し分ない。

 

 「らぴ・・・。」

 「でも、そうだよな。それじゃあレイが可哀そうだもんな。」

 

 ラッピーが悲しそうな顔を見せたので、遊馬は自分で自分の頬を叩いた。

 

 そんなことは、遊馬の我儘だ。レイの気持ちは、きっとラッピーのほうがよくわかっているに違いない。

 

 月に照らされて伸びた影も、しょんぼりとしているようだった。

 

 ひとまずは、レイを保健室のベッドのひとつに寝かせた。息をしているのかもよくわからないほどに静かだ。

 

 「これからどうする?」

 「とりあえず、レイが目覚めるまではやることないかな・・・。」

 

 このままメインクエストを進めてもいいのだが、それはそれで後味が悪い。やはり、この件をクリアするまでは先に進まないでおこう。

 

 「らぴ・・・。」

 「ラッピーはレイのそばにいてあげなよ。」

 「らぴ!」

 

 心配そうな表情を浮かべていたラッピーは、レイの枕元に移動する。

 

 「色々歩き回って疲れちゃったね。」

 「ダメージも受けたし。」

 「・・・あんまり眠れないけど。」

 「じゃあ、自由時間にしよう。」

 

 少し休んだ遊馬は起き出して、ゲームPODを手に外に出た。もう少しでこっちのゲームもクリアできるし、どこか落ち着ける場所で根詰めよう。

 

 「落ち着ける場所・・・あそこに行ってみようか。」

 

 階段を下りて地下施設へ足を運ぶ。そこには白いロボットが佇んでいる。

 

 「よっと・・・ふう、なかなか落ち着くなここ。」

 

 そのコックピットへと身を収めると、ゲームPODのスイッチを入れる。展開もいよいよクライマックス、征服された火星基地内部では捕虜にされた人々が反乱を起こし、それと同時に地球防衛軍による奪還作戦が実行されている。

 

 ゲーム的には、捕虜の一定数生存がクリア条件に追加されている。スタート位置の関係上、被害をゼロにすることは不可能なのがもどかしいが、むしろ捕虜を囮にして進んだ方が楽まである。遊馬もそうしている。

 

 「クリアできそう?」」 

 「余裕。って、トビー?」

 「1人でどこか行くから何事かと思って着いてきたんだよ。」

 「心配いらないのに。」

 「ならいいんだけどね。」

 

 余計な気を使わせてしまった。ランプは緑を示しているから敵とは遭遇しないと思ったのだけれど。

 

 「でもボスには反応しないんでしょうその危険探知機。」

 「既に行ったところだから平気だと思ったんだけど、確かに考えが足りなかったかも。ごめん。」

 「いいって、取り越し苦労だった。」

 

 特別苦戦することもなく、この面はクリアできた。いよいよ最終面にさしかかる。

 

 「ねえ、カサブランカの物語はどう?」

 「ん?衝撃的な展開だね。」

 「このロボットのことについては、なにか書いてある?」

 「うーん、言っていいのか・・・ネタバレになっちゃうし。」

 「ボクは気にしないし、教えて教えて。」

 「うーん・・・。」

 

 まあ、そんなにもったいぶるようなものでもないか。

 

 「まず、このロボット、カサブランカもそうなんだけど『レベリオン』って名前なんだよね。」

 「ふんふん。」

 「そのレベリオンは、人間に『アダム』のナノマシンが寄生することで改造されて作られるんだ。」

 「つまり、カサブランカも元人間?」

 「そう。で、そのカサブランカになった人間がヒロインの『エルザ』で、雄二の幼馴染でもあったんだ。」

 「それは・・・つらいね。」

 「辛いのはこれから。人類側も、アダムの脅威に対抗するために防衛軍を結成して、レベリオンの開発を始めるんだけど・・・結局アダムの模倣しかできなくて、地球人の改造に着手するんだ、」

 「おっと。」

 「それでも不備があって、地球製レベリオンのサイズが小さすぎて、パイロットも子供でないといけなくなったり。」

 「おっとぉ。」

 「パイロットも神経接続の後遺症で脳に障害を負ったりして、1人、また1人と脱落してくんだ。」

 

 そうして、最終決戦に参加する地球のレベリオンはカサブランカ一機になる。先の火星基地奪還の目的も、生産されたアダムのレベリオンをそっくり戦力に編入するための起死回生の一手なのだ。

 

 「それで、どうなったの?」

 「それはこれからプレイする。」

 「そっか・・・。」

 「ここからどうやってハッピーエンドに持っていくつもりなのか。」

 

 そう、どんなに悲劇的であろうと、所詮はフィクション。アニメの中の出来事なのだ。

 

 「でも、これは現実に起きてることでしょ?現実にキミはカサブランカに乗ってて、カサブランカのゲームをプレイしている。」

 

 ピタ、と遊馬の指が止まる。

 

 「ひとつ、思ってたことがある。」

 「なに?」

 「キミってさ、やっぱりこの世界を、ボクらのことも、所詮はゲームだって思ってるよね?」

 「・・・。」

 

 カサブランカのコックピットからはトビーの顔は見えないが、トビーの視線がグサリと突き刺さる。

 

 「最初にモンドやミスズが言ってたように、ボクたちにとっては少なくともともこれは『現実』。『フィクション』だと思ってるのは、多分キミだけだよ。」

 「それが、なに?」

 「・・・考え方の違いは、方向性の違いだよ。」

 

 遠からず、関係にヒビが入ることとなる。一人で出歩いたということが、なによりの証拠だ。

 

 「元の世界に戻るという点について、ボクたちは本気だよ。あまり軽んじないでほしい。」

 「・・・覚えておく。」

 

 それだけ言って、トビーの気配が消えた。遊馬もゲームの攻略を再開したが、ストーリーがイマイチ入ってこない。ただ淡々とボタンを押し続けていた。


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