ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について 作:バガン
「こういう、車が大量に停まってるシチュエーションってフィクションでは割と見る気がするな。」
「どんなフィクション?」
「怪獣ものと、ゾンビパニック。」
「どっちも嫌な状況やな。」
つまりここにあるのは怪獣のおもちゃか、ゾンビの出てくる死角のどちらかだ。ゾンビでなくとも物陰に注意しながら遊馬と凛世は渋滞の隙間を進んでいく。
いくつかドアが開きっぱなしの車両もあれば、ドアにカギがかかっているものもあった。
「ところで凛世って死体って見たことある?」
「ちっちゃい頃にひいおじいちゃんお葬式で見たことあるぐらいやな。」
つまり弔われるように正装した遺体か。この先、そんな尊厳も何もないようなモノが落ちているかもしれないと考えるとあまり見せたくはないな。
だがこれだけ多くの車が停まっていながら、そのいずれも無人だ。あるいは道路上に死体が落ちていたりもしない。
(人間の体そのものが消え去ってる?)
時折目に入った車内の様子は、不自然なほどに整然としていた。投げ出された携帯や飲み物の缶、後部座席にはおもちゃなんかも落ちている。
「ん?」
「何か見つけた?」
気が付けば先を行っていた凛世が、地べたを覗き込んで声をあげた。グロい死体でも見てしまったかのような反応とは違う。
「服や。」
「服ぅ?」
凛世の視線の先に落ちていたのは、確かに一般的なシャツだ。それが高速道路のど真ん中に落ちているのは確かに不審だ。道路にたまに手袋とかハンカチとか落ちてることはあるけど、上着やシャツというのはまあ見たことない。
「まだ落ちてるみたいやな。」
見れば、靴下、ズボン、パンツ、その他人間が身に着けるようなアクセサリー類。そういったものが乱雑に、道路や車のボンネットの上などに散乱している。
「ますますわけがわからん。状況にパニックになって服を脱いで走り回ったのか?」
「その状況の方がよっぽど怖いわ。」
一瞬これもまた昔見たような、ジャングル奥地の未開の部族の狂乱の宴のような光景が浮かんだが、さすがにそれはないと断定した。妄想を否定したところで目の前の現実は変わらないが。
気にはなるがとにかく歩みを進めていく。そして進めば進むほどに落ちている物も増えていく。が、相変わらず人体らしきものは欠片も見えない。
「ん、トンネル見えてきたな。」
「ホントだ。」
やがて、2人の前には山の斜面にポッカリと口を開けるトンネルが現れた。照明によって赤褐色に照らされている内部は、本当に生物の口の中のようにも見える。
「ここ、通り抜けたらもう街まですぐやな・・・。」
「ああ、この辺の車は動かないかな。」
先頭の車のドアを触ってみれば、運よく開いていた。エンジンもかかる。ようやく運が向いてきたか。
「凛世、乗って。」
「オッケー!」
助手席に意気揚々と凛世がシートベルトを締めたのを確認すると、ミラーを調整する。
「後ろの景色が確認できるように・・・っと。」
と、ふとここまでして気が付いた。なんでこの車は、このトンネルの少し手前の位置で停まっていたんだ?見たところどこかが壊れていたり、ガソリンが無いわけでもなさそうだ。
「遊馬?」
「いや・・・。なんでもない。」
サイドブレーキを下ろし、パーキングからドライブへ・・・なんでこんなに悠長に停車していたのか?
そして思い出した。ここの反対側の道路を通っていた時、自分たちは崖から落ちたという事。あの時、何かにぶつかっていたという事。
「その何かって・・・?」
「あ、遊馬!」
「何?」
「上や上!」
上?と、前のめりになってフロントガラス越しに確認した。そこには、もう一つのトンネルがあった。いやに赤黒く、脈動している肉壁のようなトンネル。
「やっば。」
「うわぉおお!!」
否、断じて否。それはトンネルではなく、大きな怪物の口がかぶりつこうとしていたのだった。遊馬はアクセルを踏みぬいた。