ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について 作:バガン
「あっ、あれは・・・。」
「オービタルリングだ!」
「よく見えませんの!」
「らぴ!」
「ちょっ・・・押すなっての。」
学校を、いや地球を遥か3万6千km見下ろす、衛星軌道上をぐるっと囲うように、鋼鉄の輪が嵌めこまれている。
オービタルリング、そして軌道エレベーター。これもカサブランカに登場する重要な舞台である。手軽に宇宙へと上がる術であると同時に、地球防衛の要塞でもある。
「うぎぎぎ・・・あの大きなパラボラのようなものは?」
「あれは衛星レーザー砲『トールハンマー』。あれで最後はバルアークを破壊したんだ。」
元々は、太陽光を変換して地上へエネルギーを届ける内向きのマイクロウェーブ発振装置であったのを、地球防衛の兵器として外向けに改造されたのだ。
そのスケールの大きさに、皆が言葉を飲んでいた。ロケットとしては大分小ぶりな、ラッピーのニンジンンロケット『キャロケット』は、そのリングの一部分に近づいていく。
「あそこがステーションだな。」
「あそこに駐車できないかな?ラッピー近づいてみて。」
「らぴ!」
エレベーターの到着点であり、シャトル発着場のある宇宙港もある。そのひとつが開け放たれており、そこからすんなりと侵入することに成功する。
「中は・・・空気あるみたい。」
「空気漏れを遮断するシールドが張ってあるんだね。」
「ここを探すのか?」
「らぴ・・・らぴは近い。」
空気だけでなく、重力もあるらしい。キャロケットをステーションの一か所に停め、ぞろぞろと全員降りる。レイは再び宇宙船の反応を辿って歩き始める。
「ここにも誰もいなさそうだな。」
「敵はいるみたいだけど、多分ザコだね。」
「それにしても、こんな施設が上空にあったなんて・・・。」
「いずれはメインクエストで来ることになったのかもしれないね。今回はその先駆けってことで。」
「ここにはどんなエピソードがあるんだい?」
「そうだな・・・序盤では火星から帰還したカサブランカが敵と認識されて攻撃されたり、中盤ではアダムに占拠されて要塞にされたり・・・。」
「あんまりいいイメージが無いのね。」
作中の経過時間としては、序盤はアダムによって占拠されたオービタルリングにカサブランカが単身特攻するシーンで終わり、その次の回にはもう地球製レベリオンが開発され、訓練学校編がスタートする。
結局カサブランカの単身特攻ではアダムを追い返すことはかなわず、訓練学校編のフィナーレで奪還されるまで、オービタルリングはアダムの手に落ちたまま。描写的にはオービタルリングは敵である期間の方が長い。
「つまり・・・ここは敵の基地?」
「いや、レーザー砲があるころには味方になってるから。」
敵ではないのだけれど、絶対的な味方でもない。バルアークをカサブランカもろともレーザー砲で焼いたのも、ゆくゆくはカサブランカの存在が邪魔になるから始末してしまおうという考えであった。
そう考えると、ラストシーンのどこか誰も知らない場所で、雄二とエルザが二人っきりで暮らしていくのは、アダムに利用され、人類に利用され、そして大人に利用され続けた2人にとって幸せなことだったのかもしれない。
閑話休題。とにかくここでは戦闘が予想される。未探索の場所が多いという事は、アイテムが落ちているということでもあるわけで。
「とりあえず探索だな。」
「おー!」
国際的な基地というだけあって施設は非常に広大で、セントラルスクエアにはお店も立ち並んでいる。いずれも無人だが。そんなところからお金も払わずに物を持って行っていいものだろうかという良心が、無きにしも非ずだ。
「後で請求されないといいけど。」
「そもそも、軍事基地になったのならお店とか元々開いてないんじゃないですの?」
「軍人相手なら自販機があれば十分だしな。」
モンドの指差した先では、宇宙食のプロテインバーやゼリーの他、ハンバーガーなんかが売っている。
「うーん・・・。」
「トビー、食べたいの?」
「いや、お金持ってないし。」
「お金と言えば・・・このメダルしか持ってないよね。」
保健室の花瓶から見つけたメダルを取り出して見せる。結局これの使い道も判らない。
「他には、武器とか落ちてないかな?」
「そんなもの落ちてたら苦労しない。」
「あったよ、溶接機!」
「でかした!って、工具じゃないか。」
「工具だって武器になるよ。レッドパーカーの手にかかればね。」
トビーは機械工学にも優れている。さっきも金属探知機を作っていたし、トビーの持っている装備の大半はトビー自身の自作なのだ。
「ワイヤーガン以外にも持ってたのか。」
「まあね。」
「他には何があるんですの?」
「ちっちっ、手品師はタネを明かさないものだよ。」
そういえば、トビーのプロフィールについてはあまり話をしていない。・・・本人が止めることが多くて話す機会がなかっただけだが。
「これと・・・そうだな、ジャンクパーツに使えるものがあるかもしれない。」
「戦闘アンドロイドからドロップしたアイテムね。」
「ふっふーん、いいねェ。創作のイメージがムクムク湧いてくるねェ。」
「なら、タイムライダーのドクとどっちが腕がいいか、お手並み拝見とさせてもらおうか。」
「ぜひ話してみたいな、異世界の知識ってのも興味あるよ。」
トビーが嬉々として、その腕前を振るっている間、一同はしばし休憩することとなった。
「かーんせい♪溶接機の出力リミッターを外して、プラズマカッターが出来た!」
「危ないから振り回すな。」
「そのレーザーカノンもボクの手にかかれば、もっと強力にできるんだけどなァ?」
「遠慮しておく。」
トビーの提案をモンドはにべもなく断った。
「らぴ。」
「そうだった、早く宇宙船を追おうか。」
「そうだ、このカッターはアスマに渡しておくよ。」
「いいの?」
「キミほぼ丸腰じゃないか。ボクはこっちのレンチもあるし。」
「らぴ・・・。」
「ほらほら、レイさんがご機嫌ナナメですわよ。」
遊馬はプラズマカッターを装備した。接合するための機械が、切断するための機械に生まれ変わるとは、彼も思わなかっただろう。
「もういいか?こっち。」
「どんどん上の方に行くようだな。」
「上って、指令室があるんじゃないかな。」
「やはり、宇宙船には誰かが乗っていたんだろうね。」
その誰かにも、もうすぐ会える。可能性としては、敵対する確率が高いので、気を引き締めて行くに越したことはない。
「・・・。」
「アスマ、何考えてるか当ててあげようか?」
「言ってみ。」
「レイの宇宙船を使えたという事は、高確率でレイと同族の宇宙人、もしくはレイと同じ世界の存在に違いない、と。」
そうだ。エルザのメッセージにあった、『キャスト以外の人間』。これから出会う相手がそうかもしれない。
「らぴ。」
「ここか?」
「もっと上。けど・・・。」
レイは口籠る。
「この先に、『何か』いる。」
「敵、ってことか・・・。」
「よし、全員得物をチェックしろ。セオリー通り、俺が前に出る。・・・行くぞ。」
モンドは扉に手をかけた。