ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について   作:バガン

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第270話

 「動かすのが久しぶりすぎてちょっと不安だな。」

 

 レバー類も妙にこなれている感があって、手応えの記憶よりもよく滑る。よくよく使い込まれているようだった。心なしか内装も増えているように見える。

 

 「バージョンアップしてるんだね。」

 『まあね』

 「一体何回負けてるのか。」

 『ほぼ毎回かな』

 『強敵続きだったからね』

 

 どこの世界でも苦労するのは変わらないか。拭え切れない汚れや傷が激戦を物語っている・・・というか、コックピットにこんなものがあるということは致命傷じゃないのか。

 

 『ちなみに今こっちはラスダン前のうろうろタイム中』

 「一番楽しい時間じゃないか。」

 『しっかり戦力を蓄えておかないと苦戦必至だしね』

 「ラスボスは一体誰なの?」

 『君自身の目で確かめてくれ』

 「見えないんだっつーの。」

 

 遊馬にとっては命と世界がかかったこの事態も、本筋の遊馬にとってはほんの寄り道のひとつでしかないのかと思うと泣けてくる。でも、逆に考えればそんな大変なことにもう関与しなくていいのならラッキーなのかもしれない。

 

 『そろそろクラックの反応の周辺だよ』

 「おっと、もうか。車と徒歩だとあんなに時間かかってたけど、さすがダークリリィならあっという間だな。」

 

 次元の裂け目、すなわち霧の発生源も近い。マッハで空を飛んでいれば、地上を這うしかできないクリーチャーと出くわすこともない。

 

 「まあ怪獣もいるんだけど。」

 『熱感センサーに反応アリ』

 『人かな?』

 

 と、山中に人の気配を感じてスピードを緩め、赤外線センサーを起動する。

 

 「自衛隊かもしれない。」 

 『寄ってくの?』

 「放ってはおけないし・・・。」

 『ゲームPODには時間制限あるってわかってる?』

 

 高度を少し下げたところで思い出した。こっちの世界のゲームPODネクスは普通のものだ。バッテリーも不可思議な力で動いているわけではなく、残量の概念がある。

 

 『残酷かもしれないけど、先を急いで元を断った方がいい』

 「そ、そうか・・・そうだな。」

 『でも少しぐらい様子を見ていってもいいんじゃありません?』

 「そう?」

 

 センサーをズームインしてよく見れば、なにやら火の手が上がっているように見える。

 

 「生体反応は?」

 『ない』

 『襲われたのか』

 「けど、水に弱いってことは解ってるはずだから、自衛隊が負けるとも思えないんだけど・・・。」

 

 つまり自衛隊では対処できないような何かに襲われたという事だ。

 

 「うっ・・・。」

 『どした?』

 「なんか・・・肩がうずく。」

 

 違和感を感じた左肩に手を添える。一週間も前にクリーチャーから喰らった一撃の傷跡がうずくようだった。

 

 「おっと、ここって気密性は大丈夫だよね?」

 『そうでないと宇宙に出られないよ』

 「なら安心かな・・・いてて。」

 

 霧に触れなければ傷口の孔が拡がることは無いはずだった。が、痛みが今になってじわりじわりと感覚を支配してきていた。


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