ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について 作:バガン
それからしばらくセンサーに目を配りつつ飛び続けていた。
『ディメンションセンサーに反応あり、ここが震源だ』
「ああ、見えてる。」
それははっきりと遊馬の目に映っていた。開きっぱなしの冷蔵庫の中から冷気があふれ出してきているかのように、空中に開いた穴から霧がもうもうとあふれ出してきている。
その穴の向こうには、赤や黄色で彩られた水面のような異様な光景が見えた。まさに異次元、異界と呼ぶにふさわしいありさまだった。
「で、これをどうしたらいいの?」
『トラクタービームで縫合手術だ』
『ビームで空間を歪めて、穴を小さくする』
「牽引免許持ってないんですけど。」
『牽引機材を使うなら免許いらないよ』
「どうやって出すの?」
『左手のレバーを操作して』
「OK。」
レバーを回すと、ダークリリィのバックパックのアンテナが伸びてビーム発振器になる。コックピットの上部に備え付けられたゴーグル状の照準器を目の高さに合わせる。
「これならゲームより簡単だな。」
『ならお手本を見せていただこうか』
「あいよ。」
機体を空中で固定しながら手は別の事をするというのは一見難しそうなことだが、そこは超テクノロジーのロボットということだけありオートバランサーが働いてくれる。だからゲームよりも簡単と言った。
波のようなビームがアンテナから発せられると、ぐにゃりと空間が歪む。粘土で作った輪を押し広げるようにして、穴を塞いでいく。
「こんなもんでいいかな?」
『うん、十分だろう、次はクロノバインダーの出番だ』
「モンドの出番?」
『いや、クロノバインダーも作ってあるんだ』
「すごい。」
『時空修復弾だ、グレネードランチャーから4号弾を選んで』
左足に備え付けられたランチャーのターレットを回して、弾丸を選択する。ガチャガチャと機械をいじっていると、まるでフィギュアにいろんなポーズをとらせて遊んでいるような気分になってくる。
『貴重だからしっかり狙え』
「OK・・・シュート!」
ボシュッ!と勢いよく飛び出した弾丸が、軽い山なりの軌道を描いて穴の前で破裂する。瞬間、星の瞬きような閃光が走り、次第に異彩を放っていた空間が塗りつぶされていくようだった。
「これで終わり?」
『終わり、おつかれさま』
「意外とあっけないんだ。」
ともあれ、未曽有の危機は今防がれた。大げさかもしれないが、世界は救われたのだった。
『遊馬、聞こえてる?』
「おっ、凛世?聞こえてるよ。部屋にいるんだよね?」
『うん、今繋げてもらってん。終わってんな。』
「うん、今から帰るよ。」
『そう・・・待っとるで。』
ホッ、と遊馬も胸を撫でおろした。アドレナリンが切れてきたら、また肩や足がうずきだしてきていた。
「そうだ、この傷はどうしたもんかな。」
『それについては、家に戻ってから話すよ』
「戻るかなこれ・・・。」
『ペイントツールで塗りつぶせばOK』
「塗り絵か何かか。」
ともあれ、霧の発生源は消えた。あとは霧そのものをなんとかするだけだ。