ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について   作:バガン

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第28話

 「うっ・・・。」

 

 体が重い。ダメージを受けている。

 

 あれは・・・あれこそが夢だったのだろうか?夢だとしてもなかなか意味が分からなかった。カサブランカのシナリオが歴史としてあって、カサブランカMk.Ⅱなんてものがあって、それに何故か美鈴がアイドルをやっていて、そしてなぜか家が襲撃された。

 

 ウチには強盗に入られるようなお金や高価な物はない。築20年でなかなかボロボロだったのが、さらにロボットとの戦いでめちゃくちゃにされていた。

 

 そして、何故美鈴がいたのか。名前は美鈴ではなくイングリッド・天野川だったが、あの顔つきや髪は間違いなく西園寺美鈴だった。僕のいた現実ともカサブランカとも全く関係が無いはずなのに、なぜいる。

 

 なにより、遊馬の現実と、カサブランカの物語が混ざったかのような・・・。これが一番意味不明だ。本当に夢のような話だった。

 

 まあ今はそんなことよりもだ。僕たちは、オービタルリングはどうなった?たしかバミューダはレーザー砲を貰っていくと言っていたが・・・。レイは?他の全員は気絶しているのか、ピクリとも動かない。

 

 体を動かせているのは遊馬だけだった。なんとか体を起こして、ゲームPODネクスを見る。ステータスを確認すると、全員のHPがゼロになっている。遊馬のアヴァターも同様にHPがゼロだが、今動けているのはプレイヤーとしての権限のおかげのようだ。

 

 しかし、そのステータス表示の中にレイはいない。もしや、いやそんなまさか・・・。藁にも縋る思いで、あたりを見回す。さっきまでバミューダの立っていた辺りの場所もよく探す。

 

 「あ、ああ・・・!?」

 

 しかして、見つかった。見つけてしまった。白い羽のような機械、レイが耳に掛けていたアンテナ、その残骸を遊馬は拾い上げた。

 

 「そんな・・・レイ・・・。」

 

 頭をブン殴られたような衝撃が響き、脳が理解することを拒む。

 

 けれど、今わかった。これは紛れもない『現実』だと。この胸を貫くような哀しみ、心を引き裂くような痛みは『本物』だ。手に乗っているものの重さと、わずかに残った体温が伝えてくる。

 

 遊馬には、この哀しみに憶えがあった。あの時だけの『一度きり』の『一瞬』だったはずだった。

 

 「くっそぉおおおおおお・・・ううう・・・。」

 

 そして遊馬には、この無力感にも憶えがあった。あの時は、たしか自分がその場にいてやれたら、自分にも何かが出来ればと思っていたっけ。

 

 けど、それがどうだ。いざ目の前にして、自分は何をしていた?怯え、竦み、現実を見ようとしなかった。その結果がこれだ。

 

 自分は、決して諦めてはいけない『プレイヤー』だったのだ。

 

 そしてプレイヤーは、どんなに辛い展開でもボタンを押さなければならない。

 

 レイの遺したアイテムが、遊馬のインベントリに入ってくる。それを見てまた泣いた。

 

 入ってる、インベントリに、『地球の観察レポート』。

 

 しかし、それを確認する間もなく、異変は起こる。

 

 「おっ・・・なんの揺れ?!」

 

 揺れるはずのない宇宙が、金切り声を伴って震える。それは断続的であったり、時には逆方向に捻じ曲げられるように。

 

 そんな異変がしばらく続くと、ついに決定的な何かが破断するかのように、大震動が遊馬を襲う。

 

 「今のは・・・まさか!?」

 「Show must go onだよ。」

 「トビー!みんな起きたの?!無事?」

 「無事では・・・ありませんわ。」

 

 イベントの進行に合わせてみんな目を覚ました。が、体力は依然ゼロのまま。戦うことはできない。

 

 「一体、何が起こっている?」

 「ヤツが、バミューダがレーザー砲を奪ったんだ。物理的に。」

 「取り外したってこと?」

 「もっと強引にもぎ取ったんだ。そういうヤツなんだ。」

 「となると、悪党のやることのお決まりに乗っとれば、次は・・・。」

 「うん、地球を攻撃するつもりだ。」

 

 それも、わざわざ奪ったレーザー砲を使って。そんなことしなくても、自身のブラックホールの力を使えばいとも簡単に地球の一つや二つを消し去ることも出来ただろう。けれど、それじゃあツマラない。地球人の作った兵器で、地球を滅ぼす、そんなことを愉しみとしているのだ。

 

 「なんとかして止めないと!」

 「どうやって?」

 「誰が?」

 「とりあえず復活アイテムはひとつだけある。」

 

 ラッピーがスキルで出した『パワーDEシャカリキ』、これでワンナップすれば復活できる。 

 

 しかし、正面から克ち合っても勝負にすらならないというのは証明済み。なにか秘策が無ければ。

 

 「何か使えるアイテムが・・・ない。」

 「本当に?」

 「本当にない。」

 

 レイが遺したアイテムも、地球のレポートの他には『宇宙食』しかない。ラッピーがもう一度『アストロノーツ』になれるが、それも効かなかった。

 

 「そうだ、ラッピーならどんな攻撃も1ダメージに抑えられる。」

 

 そういえば一番最後まで生き残っていたのはラッピーだった。が、それだけでは押し切れない。

 

 「どうする・・・レーザー砲をどうにかしてブチ当てるか?」

 

 本来なら、レイが命懸けで再封印するという展開だったのに、肝心のレイがやられてしまっては・・・。既に手詰まりだ。

 

 「らぴ・・・!」

 「ラッピー・・・。」

 

 だがラッピーはやる気だ。

 

 「わかった、ラッピーが戦ってくれ。」

 「いいの?」

 「ラッピーがやるって言っている。」

 「らぴ!」

 

 らぴ語でも何が言いたいか、誰にでもわかった。

 

 「よし、ラッピー、回復だ!」

 

 『ラッピーはよみがえった!』

 

 あとは、この宇宙食を使ってもう一度『アストロノーツ』に変身させる。

 

 その時、初めて気づいた。一発逆転の秘策、勝ち筋が。それもとびっきりの。


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