ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について 作:バガン
「この星もまもなく消えてしまう・・・。」
そう、オービタルリングの遥か上、もぎ取ったレーザー砲に自身のエネルギーを注ぎ込みながら呟く。その言葉には、一切の未練も惜しさも感じられない、ただこれから起こることを淡々と表しているだけだった。
宇宙の魔王バミューダは、生れ落ちた時より『渦』の中にいた。しかし同時に、自分がいる場所が『中心』ではないともわかっていた。
自分はリープの星の兄弟星で生まれた。他者より秀でていて、若くして星の王となった。だが、それだけで自身の内に溢れる『闇』を抑えることは出来なかった。そうして星が滅ぶまで時間はかからなかった。
そして、仇敵たるリープがやってきた。いくつもの星をも巻き込んだ死闘の末、自身はブラックホールへと封印された。
その封印から解放され、この銀河の辺境の星にリープの子を追って現在に至るのだが、1つ気づいたことがある。
今言ったこと以外の記憶が、自分には無い。単純に覚えていないというわけではない。本当に『それ以外の記憶』がない。幼少期はどんな食事をしていたのか。あるいは、星の王となった時、周囲にはどんなニンゲンがいたのか。またあるいは、封印されていた間自分は何を考えていたのか。
そして自分はなぜこの星にいるのか。いや、この『宇宙』と言うべきか。ありていに言えば、この宇宙は隔絶されていると言っていい。少なくとも、この宇宙にリープの星はない。それどころか、あのリープの子と、その仲間以外に生命を感じられない。
そこでひとつしまったなと思った。その辺りを問いただす前に全員殺してしまったとあっては、情報源の一つを自分で潰してしまった。
そうして、そんな行動を起こしたこと自体が、不思議でならない。
話が逸れた。とにかく、自分の知らぬところで、因果めいた力が及んでいると、どうしてだろうか考えられてしまう。人並外れた叡智と力を持っているが故か、あるいは事象の地平の裏側を見たが故なのか。
おそらく、これは『呪い』だろう。生まれ持った『運命』に付随する、『呪い』。
・・・そういえば、先ほど『渦』について述べたが、あのリープの子はその渦の中心に近い存在だと、なんとなく感じ取った。そしてその仲間たちもまた・・・。やはり殺してしまったことが悔やまれる。
「らぴぃいいいいいいいいいいいいい!!!!」
と思ったが、あの一番しぶとかった小動物がやってきた。どういうわけだか生きていたようだ。これは僥倖と見るべきか。
いや、おそらくだが自分はここで負ける『運命』だろう。それを直観できてしまい、さらに受け入れられてしまうのは『渦』が見えるからだろう。やれやれだ。
あの小動物はいま、まさに、大渦の『中心』にいるのが見える。
「行けーラッピー!!」
アストロノーツとなってブースターを吹かすラッピーの、その後を追うようにキャロケットに乗ったパーティメンバーたちが応援する。
「らっぴぃいい!!」
「フン!」
ここからはラッピーの独壇場だ。ラッピ-のゲームの最終面には、あるひとつの特色がある。
それは、最終面のみ『シューティングゲーム』になるというお約束だ。ラッピーは手に持ったキャノンを乱射しながら、バミューダの放ったブラックホールを高速バレルロールで躱していく。
「いいぞー!その調子だ!」
作戦はただ一つ、最接近して、レイの遺したアイテムを使う、それだけ。
「やれやれ、何をしたいのかさっぱりわからんな。」
バミューダは様々な弾幕を張って接近を妨害してくる。しかし、その様子はどこかしらけ気味だ。
「らぴっ!らぴ!!」
その弾幕の間を縫うように、ラッピーは飛行する。それがバミューダの心にどう作用したのか、弾幕に緩急をつけてくるようになった。
「ほう、やるもんだな。」
「らっぴ!」
ブラックホール弾に続いて黒色光線を放ってくるが、ラッピーはスピードを緩めない。
「これは面白い遊び相手だな。これならどうだ?」
「りぴ・・・!」
バミューダは重力波を放ってきた。一切の隙間が無く、回避不可能の攻撃にラッピーは被弾する。1のダメージ!
「フハハハハ!どうしたどうした、そんなものか?」
「らぴっ・・・りぴぴぴぴぴぴ!!」
「がんばれ!もう少しだ!」
あと少し、あと少しで有効射程に入る。しかし、なおも回避不可能の攻撃が続く。そしてついに・・・。
「らっぴ・・・。」
「あっ、変身が・・・。」
解けてしまった。ブースターを喪い、失速するラッピー。
「フン、やはりこの程度か。」
よくやったと褒めてやりたいところだが、生憎とバミューダはそういう言葉を知らない。では代わりに、最上の一撃でもって葬ってやろう。
「さあ、記念すべきブラックホール砲の、その第一射をその身に刻むがいい。」
地球を狙っていた砲身が、ラッピーの方へ向くと撓むに撓んだエネルギーを解放させる。
「うぉおおおお!押せぇええええ!!」
「ラッピー!」
「・・・らぴ!」
力を失ったラッピーの背を、キャロケットが押す。ロケットの推力を得たラッピーはぐんぐんと加速していく。
「はっ、全員仲良く、今度こそ死んでヴァルハラへ逝け!」
真っ黒のエネルギーが、巨大なパラボラより放たれる。
「今だ!」
「レイ、君の力を!!」
遊馬は、プレイヤーのスキルでラッピーにアイテムを使用する。掲げるのは、レイの遺した『宇宙食』。
「ハッ、今更そんなものが何になるというのか!」
「それは、お前が知らないだけだ!」
ケースから取り出されたのは、小さなトゲの生えたような小粒の砂糖菓子。
「レイにとってはただの『宇宙食』でも、日本人には『コンペイトウ』って名前があるんだ!」
「それが、どうしたというのだ!」
「らぴ!」
ラッピーには、これが大好物だ。30粒も食べた日には、大興奮待ったなしだ!
「『ムテキフィーバーノバ』!!!!」
白い毛玉のラッピーの体が、金色のメタリックスパイクに変わり、スピードをぐんぐん上げていく!
「なんだと!?」
「らぴぴぴぴぴぴぴ、らっぴぃいいいいい!!!」
ブラックホール砲の波を切り裂いて、黄金の流星は漆黒の宇宙を駆ける。
「おのれ!小癪な!!」
バミューダはバリアを張る。それは事象の地平そのものであり、3次元の物体には干渉することすらできずに、微塵に消しとぶという恐ろしいものであった。
「らっぴぃ!!」
「なん・・・だと・・・?!」
だが、そんなもの『無敵』には何の意味も持たなかった。
ラッピーの突撃は、一瞬のうちにバミューダの体と、レーザー砲を同時に貫いた。
「こんな・・・まさか・・・リープの星を滅ぼす願いすら叶えられずに・・・この・・・俺がぁあああああああ!!!」
ラッピーの貫いた孔から、ブラックホールのエネルギーが溢れ出し、メキメキとバミューダの体と、レーザー砲の残骸を内側へ折り込んでいく。
「うぉおおおおお!巻き込まれるぞ!」
ずんずんと闇の穴が、道連れにせんとキャロケットを飲み込もうと拡大していくが、金色の流星がそれを遮る。
「ラッピー!」
「らぴぴぴぴぴぴぴぴぴゅい!」
ブラックホールの周囲をラッピーが飛びまわり、跡に残る光の軌跡が輪となってブラックホールを包んでいく。
そうして光の幕にブラックホールが見えなくなると、空気の抜けた風船のようにしぼんでいき、最後にはパッと花火のように破裂した。
「終わった・・・のか・・・。」
「らぴ!」
「ラッピー・・・お疲れ様。」
「こんなに至近距離で超新星爆発が見られるなんてね。」
ラッピーの起こしたスーパーノバのかけら、その一粒一粒はまた新たなコンペイトウとなるのだった。
「いや、まだ終わってない。」
「そうだね、まだ、最後の仕上げが、弔いが残ってる・・・。」
キャロケットは、半壊したオービタルリングに舵を切る。