ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について   作:バガン

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第29話

 「この星もまもなく消えてしまう・・・。」

 

 そう、オービタルリングの遥か上、もぎ取ったレーザー砲に自身のエネルギーを注ぎ込みながら呟く。その言葉には、一切の未練も惜しさも感じられない、ただこれから起こることを淡々と表しているだけだった。

 

 宇宙の魔王バミューダは、生れ落ちた時より『渦』の中にいた。しかし同時に、自分がいる場所が『中心』ではないともわかっていた。

 

 自分はリープの星の兄弟星で生まれた。他者より秀でていて、若くして星の王となった。だが、それだけで自身の内に溢れる『闇』を抑えることは出来なかった。そうして星が滅ぶまで時間はかからなかった。

 

 そして、仇敵たるリープがやってきた。いくつもの星をも巻き込んだ死闘の末、自身はブラックホールへと封印された。

 

 その封印から解放され、この銀河の辺境の星にリープの子を追って現在に至るのだが、1つ気づいたことがある。

 

 今言ったこと以外の記憶が、自分には無い。単純に覚えていないというわけではない。本当に『それ以外の記憶』がない。幼少期はどんな食事をしていたのか。あるいは、星の王となった時、周囲にはどんなニンゲンがいたのか。またあるいは、封印されていた間自分は何を考えていたのか。

 

 そして自分はなぜこの星にいるのか。いや、この『宇宙』と言うべきか。ありていに言えば、この宇宙は隔絶されていると言っていい。少なくとも、この宇宙にリープの星はない。それどころか、あのリープの子と、その仲間以外に生命を感じられない。

 

 そこでひとつしまったなと思った。その辺りを問いただす前に全員殺してしまったとあっては、情報源の一つを自分で潰してしまった。

 

 そうして、そんな行動を起こしたこと自体が、不思議でならない。

 

 話が逸れた。とにかく、自分の知らぬところで、因果めいた力が及んでいると、どうしてだろうか考えられてしまう。人並外れた叡智と力を持っているが故か、あるいは事象の地平の裏側を見たが故なのか。

 

 おそらく、これは『呪い』だろう。生まれ持った『運命』に付随する、『呪い』。

 

 ・・・そういえば、先ほど『渦』について述べたが、あのリープの子はその渦の中心に近い存在だと、なんとなく感じ取った。そしてその仲間たちもまた・・・。やはり殺してしまったことが悔やまれる。

 

 「らぴぃいいいいいいいいいいいいい!!!!」

 

 と思ったが、あの一番しぶとかった小動物がやってきた。どういうわけだか生きていたようだ。これは僥倖と見るべきか。

 

 いや、おそらくだが自分はここで負ける『運命』だろう。それを直観できてしまい、さらに受け入れられてしまうのは『渦』が見えるからだろう。やれやれだ。

 

 あの小動物はいま、まさに、大渦の『中心』にいるのが見える。

 

 「行けーラッピー!!」

 

 アストロノーツとなってブースターを吹かすラッピーの、その後を追うようにキャロケットに乗ったパーティメンバーたちが応援する。

 

 「らっぴぃいい!!」

 「フン!」

 

 ここからはラッピーの独壇場だ。ラッピ-のゲームの最終面には、あるひとつの特色がある。

 

 それは、最終面のみ『シューティングゲーム』になるというお約束だ。ラッピーは手に持ったキャノンを乱射しながら、バミューダの放ったブラックホールを高速バレルロールで躱していく。

 

 「いいぞー!その調子だ!」

 

 作戦はただ一つ、最接近して、レイの遺したアイテムを使う、それだけ。

 

 「やれやれ、何をしたいのかさっぱりわからんな。」

 

 バミューダは様々な弾幕を張って接近を妨害してくる。しかし、その様子はどこかしらけ気味だ。

 

 「らぴっ!らぴ!!」

 

 その弾幕の間を縫うように、ラッピーは飛行する。それがバミューダの心にどう作用したのか、弾幕に緩急をつけてくるようになった。

 

 「ほう、やるもんだな。」

 「らっぴ!」

 

 ブラックホール弾に続いて黒色光線を放ってくるが、ラッピーはスピードを緩めない。

 

 「これは面白い遊び相手だな。これならどうだ?」

 「りぴ・・・!」

 

 バミューダは重力波を放ってきた。一切の隙間が無く、回避不可能の攻撃にラッピーは被弾する。1のダメージ!

 

 「フハハハハ!どうしたどうした、そんなものか?」

 「らぴっ・・・りぴぴぴぴぴぴ!!」

 

 「がんばれ!もう少しだ!」

 

 あと少し、あと少しで有効射程に入る。しかし、なおも回避不可能の攻撃が続く。そしてついに・・・。

 

 「らっぴ・・・。」

 「あっ、変身が・・・。」

 

 解けてしまった。ブースターを喪い、失速するラッピー。

 

 「フン、やはりこの程度か。」

 

 よくやったと褒めてやりたいところだが、生憎とバミューダはそういう言葉を知らない。では代わりに、最上の一撃でもって葬ってやろう。

 

 「さあ、記念すべきブラックホール砲の、その第一射をその身に刻むがいい。」

 

 地球を狙っていた砲身が、ラッピーの方へ向くと撓むに撓んだエネルギーを解放させる。

 

 「うぉおおおお!押せぇええええ!!」

 「ラッピー!」

 

 「・・・らぴ!」

 

 力を失ったラッピーの背を、キャロケットが押す。ロケットの推力を得たラッピーはぐんぐんと加速していく。

 

 「はっ、全員仲良く、今度こそ死んでヴァルハラへ逝け!」

 

 真っ黒のエネルギーが、巨大なパラボラより放たれる。

 

 「今だ!」

 「レイ、君の力を!!」

 

 遊馬は、プレイヤーのスキルでラッピーにアイテムを使用する。掲げるのは、レイの遺した『宇宙食』。

 

 「ハッ、今更そんなものが何になるというのか!」

 

 「それは、お前が知らないだけだ!」

 

 ケースから取り出されたのは、小さなトゲの生えたような小粒の砂糖菓子。

 

 「レイにとってはただの『宇宙食』でも、日本人には『コンペイトウ』って名前があるんだ!」

 

 「それが、どうしたというのだ!」

 

 

 「らぴ!」

 

 ラッピーには、これが大好物だ。30粒も食べた日には、大興奮待ったなしだ!

 

 「『ムテキフィーバーノバ』!!!!」

 

 白い毛玉のラッピーの体が、金色のメタリックスパイクに変わり、スピードをぐんぐん上げていく!

 

 「なんだと!?」

 

 「らぴぴぴぴぴぴぴ、らっぴぃいいいいい!!!」

 

 ブラックホール砲の波を切り裂いて、黄金の流星は漆黒の宇宙を駆ける。

 

 「おのれ!小癪な!!」

 

 バミューダはバリアを張る。それは事象の地平そのものであり、3次元の物体には干渉することすらできずに、微塵に消しとぶという恐ろしいものであった。

 

 「らっぴぃ!!」

 

 「なん・・・だと・・・?!」

 

 だが、そんなもの『無敵』には何の意味も持たなかった。

 

 ラッピーの突撃は、一瞬のうちにバミューダの体と、レーザー砲を同時に貫いた。

 

 「こんな・・・まさか・・・リープの星を滅ぼす願いすら叶えられずに・・・この・・・俺がぁあああああああ!!!」

 

 ラッピーの貫いた孔から、ブラックホールのエネルギーが溢れ出し、メキメキとバミューダの体と、レーザー砲の残骸を内側へ折り込んでいく。

 

 「うぉおおおおお!巻き込まれるぞ!」

 

 ずんずんと闇の穴が、道連れにせんとキャロケットを飲み込もうと拡大していくが、金色の流星がそれを遮る。

 

 「ラッピー!」

 「らぴぴぴぴぴぴぴぴぴゅい!」

 

 ブラックホールの周囲をラッピーが飛びまわり、跡に残る光の軌跡が輪となってブラックホールを包んでいく。

 

 そうして光の幕にブラックホールが見えなくなると、空気の抜けた風船のようにしぼんでいき、最後にはパッと花火のように破裂した。

 

 「終わった・・・のか・・・。」

 「らぴ!」

 「ラッピー・・・お疲れ様。」

 「こんなに至近距離で超新星爆発が見られるなんてね。」

 

 ラッピーの起こしたスーパーノバのかけら、その一粒一粒はまた新たなコンペイトウとなるのだった。

 

 「いや、まだ終わってない。」

 「そうだね、まだ、最後の仕上げが、弔いが残ってる・・・。」

 

 キャロケットは、半壊したオービタルリングに舵を切る。


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