ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について   作:バガン

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第30話

 彼女とは、一緒に居た時間は非常に短かった。彼女の全てを理解していたとは、とても言えない。

 

 「それでも彼女は私たちの・・・友達でした。」

 

 オービタルリングの、宇宙港の一角を借りて、遊馬たちの会合が行われている。

 

 「ヤツに奪われていたこの船を今、君に返そう。」

 

 そこは、彼女があれほど望んでいた宇宙船の中。中央のガラステーブルのような端末に触れれば、プラネタリウムのプロジェクターのように星図が投影され、目的地まで運んでくれる。

 

 しかし、その機能はもはや意味をなさない。持ち主たるレイ・リープは、もうこの世には・・・。せめて、唯一残されたこのイヤーカフだけでもあるべき場所へと戻そう。

 

 「らぴ・・・。」

 「う・・・ひぐっ・・・。」

 

 ガラステーブルに彼女の遺品を置いたとたん、遊馬の心の奥底から熱を帯びた感情が込み上げてきた。

 

 「僕が・・・僕が・・・現実を見ていなかったせいで・・・ごめん・・・ごめんね・・・。」

 「遊馬さん・・・。」

 

 遊馬は、手をついて謝った。その様を見ても、誰も何も言わな。いや誰も声を掛けられない。

 

 「アスマ・・・、キミだけが悪いわけじゃない。ボクらには確かに何かできたかもしれない。けど、現実に無理だったんだよ。ボクらがやるにも、彼女一人が背負うにも、あまりにも大きすぎた。」

 

 レイが命を懸けたからこそ、今がある。ベストではなくとも、ベターなエンディングが。本当に敵は強大過ぎた。

 

 「クラックが、見える。」

 

 そっぽを向いて目を閉じていたモンドが、そう言い放った。

 

 「何の話?」

 「クラックだ。俺の世界に現れた、時空連続体に開いた裂け目。それが、この衛星の先に見える。ヤツはその先から現れたのかもしれない。」

 

 地球から3万5千km離れる、オービタルリングよりもさらに上。地球より10万kmの地点には、ケーブルを張り、維持するための重し『カウンターウェイト』が存在する。ちょうどその辺りに、星雲のごとく妖しい光を放つ時空の裂け目があるのだという。

 

 「あそこが、様々な宇宙とこの世界を繋げているのだろう。」

 「だから?」

 「・・・仮にヤツが勝っていたら、レイの宇宙だけでなく、様々な宇宙にヤツの魔の手が伸びていてたことだろう。」

 

 いわゆる、並行世界の危機というやつだった。それを未然に防ぐことが出来ていた。誰からも感謝されることはないだろうけど。

 

 「つまりだ・・・レイの死は無駄なんかじゃない。レイはあらゆる宇宙と並行世界を救ってくれた。」

 

 そこまで一気に捲し立てると、ふぅと息を吐いてモンドは目を伏せた。

 

 「すまん、こういうのはガラじゃないとわかってはいるが、それしか俺には言えん。」

 

 モンドなりの労りと慰めの言葉だったのであろう。それ以上はモンドも何も言わなくなった。

 

 「みんな、もうお別れはいいかな?」

 「ええ・・・。」

 「じゃあ、送り出してあげようか。」

 

 全員が船から降り、最後の見送りの準備に移る。

 

 目の前には、ステルスを解かれて白い翼のようなフォルムを見せている。

 

 「じゃあ、出棺だ。」

 「・・・さようなら、レイ。」

 

 トビーは自前のハーモニカを取り出して賛美歌を贈ると、跡のメンバーは白い翼の箱舟を宇宙へと押し出す。

 

 ふわり、と軽い感触でもって見送りに応え、空気遮断シールドを突き抜けた彼女の魂を乗せた白い翼の箱舟は、宇宙を羽ばたく鳥となった。

 

 

 

 【QUEST CLEAR】

 

 ランク:B 『宙に羽ばたく』

 

 

 

 ゲームPODの画面にそんな表示が出るが、未だ心は宇宙へ飛んで行った鳥に向けられている。

 

 「帰ろうか、地上へ。」

 「うん・・・。」

 

 思えば、まだ冒険の途中だった。これはあくまでサブクエストでしかない。この大いなる寄り道で得た物は何か、失った物は何か。

 

 少なくとも、手元に残ったのはレイの地球観察レポートだけだ。せめてこれだけはと、遊馬が我儘を言って手元に残させてもらった。

 

 言葉も少なく、キャロケットに乗り込んで地球へと舞い戻る。

 

 「ちょっと、来い。」

 「モンド?」

 

 宇宙へと飛び立った時と同様に、花畑へと着陸したところで、モンドが1人先に歩き始めた。

 

 「食え。」

 

 行先は食堂だった。そこでモンドはいつかと同じように、ラーメンを作って振舞った。

 

 「・・・・ん、ンマイよ。」

 「おいしい・・・ですわね。」

 「そうか。」

 

 ラッピーも黙って食べきった。

 

 「わざとマズく作ったつもりだったんだがな。そうか、ウマいか。」

 「ごめん、本当のことを言うと、そんなにおいしくはない・・・かな?」

 「ええ、前よりヒドイ気がしますわ・・・。」

 「なら、笑えよ。」

 「はは、ははは・・・。」

 

 ひどく掠れた笑い声が出た。

 

 「うん、マズいな。自分で作っておいて感心するほどに。」

 

 モンドも自分の分を食べて呻く。

 

 「こんなもん、好き好んで食うのはエイリアンぐらいのもんだ。」

 

 「もう一回食わせてやりたかった。」

 

 箸を置いて、一言呟く。

 

 「ご馳走様。」

 「ごちそうさまでした。」

 

 しばらくして、全員が完食した。

 

 「これから、どうする?」

 「・・・。」

 「アスマ?」

 「ひとつ、いいかな?」

 

 全員の視線が遊馬に集まり、少したじろぐが、意を決して遊馬は打ち明ける。

 

 「僕・・・今いるこの世界が、ゲームだって、所詮はゲームだって思ってた。」

 

 ズキリ、と視線が突き刺さるが、遊馬は構わず言葉を続ける。

 

 「正直言うと今でも、そう思ってる。ゲームPODにはそう書いてあるし、バトルがどうとか、スキルがどうとか、そういう風にしか思えないし。」

 

 ゴト・・・とゲームPODネクスをテーブルの上に置く。にわかに叩き壊してみたいという思いに駆られるが、それも置いておくとして。

 

 「でも、今わかった。この気持ちは紛れもなく僕の中で生まれたものだ。ゲームか現実かどうかなんて関係ない。まぎれもなく僕は、ここで生きてるんだって。」

 

 今起きているのか、それとも寝ているのかは、起きてみるまで分からない。

 

 ゲームは『現実』で『プレイ』しているものだから。ゲームも現実も、同じ時間の上にある。

 

 「だから、うまく言えないけど、僕はこの『現実』を全力で『プレイ』する。」

 

 それが僕の、ゲーマー宣言。

 

 「・・・いんじゃない?アスマが本気なら。」

 

 トビー、いつも背中を押してくれる。でも時にはブレーキもかけてくれる。

 

 「それがお前が、自分で考えて決めたことなんなら、俺は何も言わん。」

 

 モンド、頼りになる男。強くても、同時に優しくもある。

 

 「らぴ!」

 

 ラッピー、カワイイ顔して一番強力なやつ。何を言いたいのかは、言われなくたってわかる。

 

 「私にも・・・出来ることってあるでしょうか?」

 「じゃあ、今度はミスズが見つける番だね。」

 「・・・僕が思うに、美鈴はとても重要な存在だと思う。」

 「根拠は?」

 「・・・また言いづらい話なんだけどね。」

 

 よし、隠し事はやめよう。今まで黙っていたことは正直に言う。美鈴がまだ自分の目標を見つけられていないなら、今度は僕が助けるんだ。

 

 だって、共に生きてる仲間なんだから。


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