ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について 作:バガン
彼女とは、一緒に居た時間は非常に短かった。彼女の全てを理解していたとは、とても言えない。
「それでも彼女は私たちの・・・友達でした。」
オービタルリングの、宇宙港の一角を借りて、遊馬たちの会合が行われている。
「ヤツに奪われていたこの船を今、君に返そう。」
そこは、彼女があれほど望んでいた宇宙船の中。中央のガラステーブルのような端末に触れれば、プラネタリウムのプロジェクターのように星図が投影され、目的地まで運んでくれる。
しかし、その機能はもはや意味をなさない。持ち主たるレイ・リープは、もうこの世には・・・。せめて、唯一残されたこのイヤーカフだけでもあるべき場所へと戻そう。
「らぴ・・・。」
「う・・・ひぐっ・・・。」
ガラステーブルに彼女の遺品を置いたとたん、遊馬の心の奥底から熱を帯びた感情が込み上げてきた。
「僕が・・・僕が・・・現実を見ていなかったせいで・・・ごめん・・・ごめんね・・・。」
「遊馬さん・・・。」
遊馬は、手をついて謝った。その様を見ても、誰も何も言わな。いや誰も声を掛けられない。
「アスマ・・・、キミだけが悪いわけじゃない。ボクらには確かに何かできたかもしれない。けど、現実に無理だったんだよ。ボクらがやるにも、彼女一人が背負うにも、あまりにも大きすぎた。」
レイが命を懸けたからこそ、今がある。ベストではなくとも、ベターなエンディングが。本当に敵は強大過ぎた。
「クラックが、見える。」
そっぽを向いて目を閉じていたモンドが、そう言い放った。
「何の話?」
「クラックだ。俺の世界に現れた、時空連続体に開いた裂け目。それが、この衛星の先に見える。ヤツはその先から現れたのかもしれない。」
地球から3万5千km離れる、オービタルリングよりもさらに上。地球より10万kmの地点には、ケーブルを張り、維持するための重し『カウンターウェイト』が存在する。ちょうどその辺りに、星雲のごとく妖しい光を放つ時空の裂け目があるのだという。
「あそこが、様々な宇宙とこの世界を繋げているのだろう。」
「だから?」
「・・・仮にヤツが勝っていたら、レイの宇宙だけでなく、様々な宇宙にヤツの魔の手が伸びていてたことだろう。」
いわゆる、並行世界の危機というやつだった。それを未然に防ぐことが出来ていた。誰からも感謝されることはないだろうけど。
「つまりだ・・・レイの死は無駄なんかじゃない。レイはあらゆる宇宙と並行世界を救ってくれた。」
そこまで一気に捲し立てると、ふぅと息を吐いてモンドは目を伏せた。
「すまん、こういうのはガラじゃないとわかってはいるが、それしか俺には言えん。」
モンドなりの労りと慰めの言葉だったのであろう。それ以上はモンドも何も言わなくなった。
「みんな、もうお別れはいいかな?」
「ええ・・・。」
「じゃあ、送り出してあげようか。」
全員が船から降り、最後の見送りの準備に移る。
目の前には、ステルスを解かれて白い翼のようなフォルムを見せている。
「じゃあ、出棺だ。」
「・・・さようなら、レイ。」
トビーは自前のハーモニカを取り出して賛美歌を贈ると、跡のメンバーは白い翼の箱舟を宇宙へと押し出す。
ふわり、と軽い感触でもって見送りに応え、空気遮断シールドを突き抜けた彼女の魂を乗せた白い翼の箱舟は、宇宙を羽ばたく鳥となった。
【QUEST CLEAR】
ランク:B 『宙に羽ばたく』
ゲームPODの画面にそんな表示が出るが、未だ心は宇宙へ飛んで行った鳥に向けられている。
「帰ろうか、地上へ。」
「うん・・・。」
思えば、まだ冒険の途中だった。これはあくまでサブクエストでしかない。この大いなる寄り道で得た物は何か、失った物は何か。
少なくとも、手元に残ったのはレイの地球観察レポートだけだ。せめてこれだけはと、遊馬が我儘を言って手元に残させてもらった。
言葉も少なく、キャロケットに乗り込んで地球へと舞い戻る。
「ちょっと、来い。」
「モンド?」
宇宙へと飛び立った時と同様に、花畑へと着陸したところで、モンドが1人先に歩き始めた。
「食え。」
行先は食堂だった。そこでモンドはいつかと同じように、ラーメンを作って振舞った。
「・・・・ん、ンマイよ。」
「おいしい・・・ですわね。」
「そうか。」
ラッピーも黙って食べきった。
「わざとマズく作ったつもりだったんだがな。そうか、ウマいか。」
「ごめん、本当のことを言うと、そんなにおいしくはない・・・かな?」
「ええ、前よりヒドイ気がしますわ・・・。」
「なら、笑えよ。」
「はは、ははは・・・。」
ひどく掠れた笑い声が出た。
「うん、マズいな。自分で作っておいて感心するほどに。」
モンドも自分の分を食べて呻く。
「こんなもん、好き好んで食うのはエイリアンぐらいのもんだ。」
「もう一回食わせてやりたかった。」
箸を置いて、一言呟く。
「ご馳走様。」
「ごちそうさまでした。」
しばらくして、全員が完食した。
「これから、どうする?」
「・・・。」
「アスマ?」
「ひとつ、いいかな?」
全員の視線が遊馬に集まり、少したじろぐが、意を決して遊馬は打ち明ける。
「僕・・・今いるこの世界が、ゲームだって、所詮はゲームだって思ってた。」
ズキリ、と視線が突き刺さるが、遊馬は構わず言葉を続ける。
「正直言うと今でも、そう思ってる。ゲームPODにはそう書いてあるし、バトルがどうとか、スキルがどうとか、そういう風にしか思えないし。」
ゴト・・・とゲームPODネクスをテーブルの上に置く。にわかに叩き壊してみたいという思いに駆られるが、それも置いておくとして。
「でも、今わかった。この気持ちは紛れもなく僕の中で生まれたものだ。ゲームか現実かどうかなんて関係ない。まぎれもなく僕は、ここで生きてるんだって。」
今起きているのか、それとも寝ているのかは、起きてみるまで分からない。
ゲームは『現実』で『プレイ』しているものだから。ゲームも現実も、同じ時間の上にある。
「だから、うまく言えないけど、僕はこの『現実』を全力で『プレイ』する。」
それが僕の、ゲーマー宣言。
「・・・いんじゃない?アスマが本気なら。」
トビー、いつも背中を押してくれる。でも時にはブレーキもかけてくれる。
「それがお前が、自分で考えて決めたことなんなら、俺は何も言わん。」
モンド、頼りになる男。強くても、同時に優しくもある。
「らぴ!」
ラッピー、カワイイ顔して一番強力なやつ。何を言いたいのかは、言われなくたってわかる。
「私にも・・・出来ることってあるでしょうか?」
「じゃあ、今度はミスズが見つける番だね。」
「・・・僕が思うに、美鈴はとても重要な存在だと思う。」
「根拠は?」
「・・・また言いづらい話なんだけどね。」
よし、隠し事はやめよう。今まで黙っていたことは正直に言う。美鈴がまだ自分の目標を見つけられていないなら、今度は僕が助けるんだ。
だって、共に生きてる仲間なんだから。