ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について   作:バガン

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最終回

「んっ・・・おっ・・・?もうこんな時間か。」

 

 元の木阿弥って言葉がある。戦国のその昔木阿弥ってヤツがいて、そいつはある武将の影武者をしていた。ところがそのお役御免となった途端、追い出されて『木阿弥』に戻ったというのが語源だそうな。

 

 つまり何が言いたいかって言うと、今の遊馬はその木阿弥だっていうことだ。この世は万物流転、かつての引きこもり高校生も、たった数年で無精ひげを生やした冴えないおっさんに変わり果てた。ピチピチで色白だったお肌もシワとシミが増えた。手入れを怠っていたツケである。

 

 「昨日も結構飲んだからなぁ・・・たーっく。」

 

 愚痴りながらも朝の用意を始めた遊馬はトーストにかぶりつきながらテレビをつける。咀嚼を続けながらぼんやりとした目で見るニュース番組にはまだ空にはオービタルリングは浮かんでいないし、世間は火星まで開拓しにいくつもりもないらしい。ついでにアイドルをやってるイングリッドもいない。

 

 ゲームの戦士なんて泡のごとき夢幻。本当にただの夢だったのならばどんなによかったことか。だが遊馬の記憶の中には確かに存在している。もう少しで理想の世界が・・・いや、叶わない願いを見せるから夢なのか。

 

 「いかんいかん、まだ寝ぼけてら。」

 

 と、出来ることならずっと夢を見ていたいが寝ても覚めても腹は減るし、飯を食えばクソを垂れるし、口を開けば絶えず不満が出る。そういう現し世に住んでいる以上、生きていかねばならない。

 

 なぜか?遺伝子はともかくミームは遺さねばならないから。

 

 「さっ、明日が締め切りだし気合い入れてかかるか。」

 

 目も冴えるような熱々のコーヒーを流し込むと机のパソコンに体を向ける。キーボードをカタカタと鳴らすと、頭の中にしかない物語を紡いでいく。

 

 結局高校を中退した遊馬は作家になった。いささか癪だが、あの親父と同じ道を志すようになっていた。あれだけ嫌っていた父の存在だが、そのコネは大いに役に立った。まだ見習いの身だが、今度一本書いて持っていけば読んでくれるという。それだけで非常に恵まれていると言っていい。

 

 当初は平行世界の自分自身を真似て動画配信者になろうかとも思ったが、どうしても食指が伸びなかった。理由は単純、こっちの遊馬はそこまで社交的ではなかったから。少なくとも今は人に見せられるような顔のコンディションをしていない。

 

 もっとも、人との繋がりが必要になってくるというのはどんな職業でも同じだが。作家活動を続ける傍ら、アルバイトで四苦八苦している。

 

 「ふーん・・・なんかイマイチ。」

 

 ふと、キーボードを叩く手が止まった。どうにもこうにも、物語の方向性が暗く暗く傾きがちだった。暗くする、というか悲劇的にすればとりあえずドラマチックっぽく見えるからついつい多用してしまっているのだと分析はできている。

 

 こうしてつくづく思うのが、なんだかんだあの親父はうまくやっていたんだなと。自分の書きたいように書き、ついでに自分のことを曲がりなりにも養ってくれていたのだから。本当の本当に癪だが、感謝しなければならない。

 

 その自意識過剰な才能が1ミリでも遺伝してくれていたならなおよかったのだが。ともかく、今日中にそれらしい形にまで持っていきたい。

 

 「主人公は・・・平凡な存在で・・・でもヒーローに憧れてて・・・。」

 

 ああ、主人公の基本的な設定すら纏まっていない。大筋を反芻しては何か違うと取り消す。平凡な人間なぞ、強く逞しく無敵なヒーロー像とはかけ離れている。

 

 『ヒーローには誰もがなることが出来て、どこにでもいる。けど一人だけではヒーローにはなれない。』

 

 今遊馬の考えているヒーロー像というのは、一人でなんでもできてしまうような人間だ。

 

 『平凡』であるがゆえに、ヒーローという『特別』に憧れる。まるで今の自分のことのようだ。ゲームの世界ではまさしく無敵だった・・・。

 

 けれどそこから一歩外に出てしまえば、平凡でつまらないだけの自分がいた。

 

 『そう、いつかは巣から羽ばたかなければならない。』

 

 なぜ人はゲームや、空想の世界に憧れるのか?そこには自分にないものがあるからだ。現実で銃を持ってもガンマンにはなれないし、聖剣を抜いて騎士になることもできやしない。

 

 だから人は空想の世界に思いを馳せる。あれやこれが欲しいわけではない、ただその世界に行ければ・・・今いるこことは別の場所に行ければそれでいいんだ。

 

 『自分の殻に引きこもりのままじゃ、羽ばたく方法もわからなくなりますわ。』

 

 結局、ヒーローには誰でもなることが出来るが、誰にもなることはできない。

 

 もしも今でもヒーローになれる権利があるなら、きっと遊馬はそれを享受していたことだろう。その機会はもうないけれど。

 

 「はぁ・・・ダメだ頭が回らない。」

 

 机の上にも床にも栄養ドリンクの瓶や空いたお酒の缶、その他ゴミが散らばっている。気分転換に掃除を始めた。

 

 「えーっと、これは・・・もう捨てるか。こっちは・・・いる。」

 

 部屋の一角を占有していたゲームソフトの棚には埃がつもり、長らくコントローラーを握ることも無くなっていた。それよりもやるべきことがあるから、時間を無駄にはできないから。

 

 「あっ、こいつは・・・。」

 

 いくつかの小物を棚に仕舞いこんでいると、引き出しのひとつから懐かしいものを見つけた。ゲームPODネクスだ。試しにスイッチを入れてみるが反応がない。電池が入っていないようだ。

 

 夢から覚めたあの日、なにもかもを失ったことを何度も確認したものだ。今見ても背面には何も挿さってはいない。

 

 さて、こいつは捨てるか捨てないか。まだスキか、それともキライか。

 

 『僕たちのことはキライになっても、これからもゲームのことだけはキライにならないでやってあげてね。』

 

 あんなことがあったんだぞ。忌避するようになって当たり前だろう。けど捨てるに捨てられない。

 

 遊馬は過去の遺産を元の棚に戻した。あの日以来、新しくゲームを買うことも、ゲームに関する情報を集めることも無くなっていた。

 

 かつての仲間たちは、今どうしているんだろうか?掃除を切り上げてパソコンの前にまた座る。

 

 まずモンドから。『タイムライダー』最新作では、モンドの娘か息子が主人公だ。モンドは遺伝子よりも大事なものを遺せたようだ。

 

 トビーこと『レッドパーカー』は、原作コミックが映画にもなって世界中で大ヒットし、センセーションを巻き起こした。これについては遊馬も耳に入っていた。

 

 『おじょボク』のリメイクや続編が発売されて今もシリーズが続いていて、美鈴はその物語の中でも重要なポジションに納まっている。

 

 ラッピーは言わずもがな。今日もおいしいお菓子をかじっている。

 

 みんななんやかんや上手くやっているようだ。こう、同窓会で久しぶりにあった同級生が成功しているのを見ている気分になる。そのとき湧き上がる感情がどのようなものかは推して知るべし。

 

 『界拓機士カサブランカ』については相変わらず何の音沙汰もない。これから再評価されるときがくるやもしれないが、少なくとも今はまだ。

 

 カサブランカと混ざった現実世界の人々・・・ヘイヴンの仲間たちについてはもっと知る由もない。平行世界の同一人物というやつがこの世界にもいるのか、それとも影も形もないか・・・それも調べようがない。

 

 さあさ、ノスタルジーに浸るのもこれまでにして。現実を生きるとしよう。少し気分転換が出来たし、今度こそマトモな物語が・・・

 

 「書けない!」

 

 まあそう上手くいくものでもない。とにかく、凡人も凡人の遊馬はあがくしかない。目を凝らし、脳症を絞り、出てくる言葉をひたすらに打ち込んでいる。寝食も惜しんで書き続けていてもあっという間に日は暮れ、無為に時間は過ぎていく。

 

 

 

 翌日。出来上がった原稿を見直しながら遊馬は目をこする。細かい誤字や脱字はないはずだ。抜けているものと言えば、主人公の『動機』ぐらいなものか。

 

 「平凡な主人公はヒーローを目指す・・・なぜ?」

 

 また根本的な話だ。なぜ戦う?なぜ守る?なぜ生きる?なにもわからないまま戦うのはただ空しいだけ。

 

 なにより、人を突き動かす感情や動機というのはキャラクターや物語の『リアリティ』にも関わってくる。なにせ、彼らも空想の中とはいえ『生きている』のだから。

 

 人は誰も神様(クリエイター)の操り人形ではない。世界に生かされているのではなく、人が生きて世界が廻る。

 

 「・・・その法則を守るために戦うとか、どうだろう?」

 

 平凡であるがゆえに、平凡を望む。ある日、世界の法則に気づいた主人公は、その法則が脅かされるていることを発見し・・・。

 

 「『脅威』をそういう風に書き換えれば・・・うん、なんとかなるかも。」

 

 原稿を持っていく時間までまだ少々暇がある。全力で修正と訂正を行えば何とかなるかもしれない。いや、そうしなければならない。

 

 「でーきたできた♪」

 

 徹夜のおかげでなんだか変なテンションになってきたが、おかげでいいものが書けた気がしている。もうこれ行こう。さっそく原稿を持っていこう。

 

 「あっ、ヒゲ剃らないといけないか。」

 

 鏡を見たとき、キュウとお腹も鳴いた。生きていれば腹も減るし、体も汚れる。そんな当たり前のことに今気づいた。

 

 「たまには、おいしいものでも作りたいな・・・帰りに何か材料を買ってこよう。」

 

 少しだけ、世界に色が取り戻されてきたような気がした。我ながらなんとも単純な性格をしていると少し恥ずかしくなった。

 

 「一仕事終わったし、ゲームも買おうかな。」

 

 そして生きていればあれもこれもと欲が出てくる。その欲望を満たすにはまたお金を稼がねばならなくて、金は天下の回り物というわけだ。

 

 「・・・そうか、こうして世界を廻していけばいいのか。」

 

 自分はとてもヒーローとは呼べないちっぽけな人間だけど、それでも誰かを楽しませたりはできる。そういう仕事に就こうとしている。

 

 「ヒーローは誰でもなれる・・・か。」

 

 ただ生きること、それだけでも大変なことだ。でも生きてるだけでヒーローになれる。そう思えば楽勝かもしれない。

 

 『人生』というゲームは、思い方次第でクソゲーにも神ゲーにもなる。どうせ同じ時間をかけてやるなら神ゲーをやりたい。

 

 僕は遊び尽くす、人生というゲームを。

 

 「・・・っとこんなところか。」

 

 印刷した原稿に、ボールペンで少し書き足す。『生きているって素晴らしい』と自分の言葉で。

 

 「さあ、行こう。」

 

 玄関を開けて、外の世界へ飛び出す。




 これにてダークリリィ完結です。完結まで書いたのはこれが初めてなので、本当にぬわ疲れました。ここまでこれたのも今まで応援してくださった皆さんのおかげです。ほかの作品を書くときもまた応援よろしくお願いします。

 本当は原稿を持って行った先でシェリルと再会するというシーンを描こうと思いましたが、少々助長になるかなと思いカットしました。

 遊馬が自分で歩いていく物語なので、もうこの続きを書くことはありません。いままでありがとうございました!
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