ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について 作:バガン
さて。
クラックをひとつ始末できた。だが所詮目の前の石ころを一つどけたに過ぎない。根本的な解決となる情報が必要だ。そう、情報が。
「さあ吐け、今吐け、すぐ吐け!」
「らぴー。」
そのために鎮座しているカサブランカを叩いている。その人数は以前より増えているようにみえる。ラッピーはただ単にみんなの真似をしているだけなんだろうけど。
「エルザさん、エルザさん、どうぞおいでください。」
「だからこっくりさんじゃないんだから。」
「じゃあ、もう一回乗っちゃって?」
「はいはい。」
遊馬が乗り込んでしばらくすると、ゲームPODにメッセージが表示される。
『はいはーい。』
「次は何すればいいのさ?」
『そうだなぁ・・・。』
文字通り藁にも縋るようなほど、情報が不足している。カカシ同然のカサブランカに宿る天の声に導かれるしかないほどに。
「エルザにはクラックの位置とかわかんないの?」
「そもそも、このゲームPODとかは誰が用意したの?」
『それは蟹の味噌汁・・・じゃなくて神のみぞ知るってところだね。』
「どういうこと?」
『私を作った人に聞いてね。』
「誰なんだよソイツは。」
『んー・・・脚本家?』
「名前は?」
『片桐和馬。』
「え?なんだって?」
『キミのパパ君だよ、遊馬くん。』
「初耳なんですけど。」
『詳しくは本人に聞いてね、オヤスミー。』
そりゃあ、確かに作家だと知っていた。けど、こんな身近に関係者がいるとも思わなかったぞ。
「これからどうする?」
「・・・正直気は進まないけど、元の世界に戻ってみようかな、と思う。」
「でも、出待ちされてるんでしょう?」
そこが問題なんだよなぁ・・・と頭を抱える。敵でないという可能性もあるけれど、十中八九厄介ごとに巻き込まれる。既に厄介ごとになら巻き込まれているのだけど。
「でも、話してみれば案外話せる相手かもしれないよ?少なくとも最悪ではないはず。」
「そうだよね・・・よし、いっちょ戻ってみる。」
ここから先は1人でしか行動できない。どんな危険が待っているかもわからない。たとえるなら、ホラーゲームで安全地帯からエネミーの出没する危険地帯へと出ていくような感覚。
「じゃあ、行ってきます。」
「いってらっしゃい。」
「そして、ただいま。」
『おかえり!』
えらく散らかった自分の部屋に戻ってきた。窓の外にはやはり、レベリオンがこちらを覗き込んでいる。
「さっそくだけど、アンタは敵?」
『違う!あなたを保護しに来た!』
「そう、父さんは?」
『既に保護しました!』
階下からは、ドタドタと乱暴に階段を駆け上がってくる音がしている。どうやら特殊部隊の増援が来ているらしい。
「よし、わかった。よくわからんが連れてって。」
『オーケイ!』
レベリオンが手を伸ばしてきたのと同時に、ドアが蹴破られる。悠長に窓を開けている暇はないと直感した遊馬は、窓ガラスを破って外に飛び出す。
「べっ!」
「確保しろ!」
破りたかった。だが現実の壁は思ったよりも厚かった。
『ああもう、なにやってんの!』
反対にレベリオンの腕が窓を突き破って、遊馬の腰を摘まんで引っ張り出す。
「逃がすな!撃て!」
『飛ばしますよー!』
「ちょ、天地無用!」
背後に受ける銃弾を無視して、レベリオンはバーニアを吹かして飛翔する、が頭が下を向いたまま掴まれている遊馬は生きた心地がしなかった。
ともあれ、見る見るうちに自宅が遠ざかっていくのを見て、少しだけ冷静になる。
「どこへ行くんだ?」
『我々のHQへ。』
「父さんもそこに?」
『ええ。』
レベリオンは受け答えもそこそこに、街を飛び、山を越え、ついには海に出る。日光が波間に反射して、キラキラと輝いて見える。
『HQ、HQ、こちらデルタ1。片桐遊馬を確保しました。』
『こちらHQ、了解した。』
短い通信を行うと、にわかに海面に影が浮かんでくる。細長い、クジラのような大きさの影だ。
「潜水艦?」
『ええ。あれが我々の本部、『ネプチューン』です。』
潜水艦、というよりはもはや戦艦のような大きさである。その潜水艦『ネプチューン』のデッキが開くと、その中にレベリオンは入っていく。
何重もの隔壁を越えて、その先の格納庫でレベリオンが止まると、スタッフたちが機体のメンテナンスにやってくる。
見れば、遊馬を連れてきたレベリオン以外にも、何機かがハンガーに掛かっている。
『降りられます?』
「大丈夫、よっと・・・。」
ボーっと見ていたのを、降りられなくて困っているのかと思われたのか、それに応えるように手にぶら下がって降りる。
と、その遊馬の元にも何人かのスタッフたちが集まってくる。
「ちょ、ちょっと乱暴はナシで!」
「大丈夫、発信機などを持たされていないか確認するだけです。」
「なら、いいけど。」
黙って遊馬はボディチェックを受け入れた。特にやましいことをした覚えはない。
「これは?」
「あ、それ持ってく?」
ゲームPODネクスまで持っていかれるのは困る。ゲームの世界に戻れなくなる。
果たして、今の現実とどっちが『戻る』先として正しいのかはさておくとして。
「それは大丈夫、遊馬にしか使えませんから。」
「ハッ。お返しします。」
「あ、どうも。・・・今のって。」
同じ屋根の下で暮らして、よく知っているはずなのにひどく聞き覚えが無い声がした。
「父さ・・・ん?」
「ああ、遊馬。無事だったか。」
「父さん、だよね?」
遊馬は、確かにこの人が『父親』であると認識している。けれど、その顔のパーツの一部が、遊馬には記憶にないものだった。
「父さん、そんな顔だったっけ?」
「もうちょっと別な言い草とかないか?」
「んー、ごめん。たしかに遠目にはちゃんと父さんの顔に見えてるよ。」
「お前。」
『言われてみれば』とかそんなレベルだ。髪型とか眼鏡とか。気にしないことにした。気にしないってわけにはいかないんだろうけど、ひとまずは気にしないことにした。
「立ち話もなんでしょう?ブリッジへご案内します。」
「えっと、あなたは?」
気が付くと、後ろに女性が立っていた。背は遊馬よりすこし高い程度で、灰色の瞳と栗色の髪、そして白いパイロットスーツに隠しきれないほどのスタイル。
「『シェリル・ランカスター』です。よろしく。」
「ど、どうも。遊馬です。」
「はい、知ってます。」
ぐっ、と差し出された手を握った。女性らしい細くて白い指であったが、その握力は思いの外強かった。