ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について   作:バガン

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第35話

 シェリルが先導し、その後を遊馬と、遊馬の父・和馬が続く。

 

 「ところで、なんで父さん?がここにいるの?」

 「ハテナマークをつけるのをやめろ。」

 

 思うに、そのヒゲが悪い。変装でもしてるのかってぐらい印象が違い過ぎる。

 

 

 「俺が何故ここにいるかって話も、ブリッジでまとめてしよう。その方がいい。」

 「そもそも、ここってどこの組織の船なの?アメリカ?ロシア?」

 「そのどちらでもない。」

 「我々は、国家間の垣根を越えて、世界を侵食する悪意と戦う私立兵団。」

 

 父さんの言葉にシェリルが続いた。そして、ブリッジの扉が開かれる。

 

 「ようこそ、『ヘイヴン』へ。」

 

 上から下まで、バッと一糸乱れぬ敬礼で迎え入れられる。その中央に立つ、スーツ姿の男性。

 

 「よく来てくれた。レベリオンでのフライトはどうだったかな?」

 「まだ酔ってます。」

 「そうか、だが早々に慣れてくるだろう。」

 「あなたがここの司令官?」

 「いかにも、私がヘイヴンの司令官『クリス・ロジャーズ』だ。よろしくな。」

 

 気さくにクリス司令は手を伸ばしてくるのを、遊馬も悪手で応える。

 

 「さて、急に呼び出されて驚いているだろうが、聞いてほしい。事態は我々の世界に関わる。」

 「我々の世界・・・。」

 

 もう変わっちゃってるんだけどな。この人たちは、『ダークリリィ』の登場人物なんだろうか。

 

 「さて、まずはこの世界の裏で暗躍する、アダムに次ぐ敵を説明しよう。」

 「アダムに次ぐ敵?」

 

 ブリッジの一角で、椅子に腰を据えてゆっくりと話を聞くこととなった。全天周囲モニターによって、あたかも外の風景にいるかのように見せてくれているのは、気を使ってくれての事だろう。

 

 「17年前、人類はアダムを撃退することに成功した。その影には『1人』の英雄の尊い犠牲があった・・・知っているね?」

 「はい、まあ一応は・・・。」

 

 考えるまでもなく、英雄とは雄二のことだろう。

 

 「だが、世界が危機を脱した途端、今度は人間同士での争いが始まった。核兵器が、レベリオンに代わっただけだった。」

 「なるほど・・・。」

 「それも、ほんの2年前までのことだ。」 

 「2年前?」

 「2年前、オービタルリングより我々を頭上から狙い続けていた衛星砲『トールハンマー』が『バミューダ』なるテロ組織によって占拠された事件があった。」

 「バミューダ?」

 

 テロ組織、というからには団体なのだろう。究極の個人であった、あのバミューダ本人ではないはずだが・・・。

 

 「かつて世界を救った兵器が、またも人類に牙を剥いた・・・そんな時、新たな英雄が現れた。」

 「新たな英雄?」

 

 そんな危機的状況をひっくり返したのなら、まさしく英雄だろう。

 

 「その名は、『イングリッド・天野川』。先の英雄、天野川雄二の娘だ。」

 

 おまけにネームバリューも十分というわけだ。これで人気にならない方がおかしい。

 

 「彼女は瞬く間に時の人となり、平和の象徴となった。・・・というのが表向きの話だ。」

 

 そこまで話したところで、クリスはお茶を一口啜った。続いて遊馬もティーカップをとる。

 

 「では、裏の話をしよう。」

 「裏?」

 「表には、必ず裏がある。大きな光ほど、大きな影が出来るものだ。」

 

 お茶請けのクッキーを手に取り、裏返して見せる。裏にはチョコがぬってある。

 

 「都合がいいとは思わないか?突然全人類共通の脅威が現れ、それを取り除く英雄の颯爽とした登場。その御旗の元にすべてが丸く収まる世界。」

 「確かに。まるで台本が用意されていたかのような。」

 「そう、まさにそうだよ。全ては舞台の上の出来事で、人類は観客にしか過ぎなかった。」

 

 クリス司令の声に熱が帯びてくる。

 

 「その脚本家の名は、『エヴァリアン』。『アダムを継ぐもの』だ。」

 

 「エヴァリアン?」

 「アダムに関わるものが、トールハンマーによって全てが滅んだわけではない。アダム製のレベリオンにも、生き残りがいた。」

 

 火星基地奪還による、捕虜救出。捕虜とは、アダムによって改造されたレベリオンたちのこと。それらはアダムとの最終決戦にも投入されたのだが、当然生き残った者たちがいた。

 

 「その生き残ったレベリオンたちは、次は自分たちが標的にされると思い姿を隠した。15年もの間な。」

 

 バルアークと運命を共にしたカサブランカの姿を見て、火星出身のレベリオンたちは恐れおののき、そして怒りを覚えた。レベリオンとなってしまった我々には、地球に住む権利すら与えてくれないのだと。

 

 しかし、彼らも元は地球人。地球を攻撃しようという気にはならない。

 

 「だから、世界を裏からジワジワと支配していくことにしたのだ。」

 「・・・そして、2年前動き出した。」

 「おそらく、衛星砲を占拠したテロリストもマッチポンプだろう。」

 (多分違うんだと思うけど。)

 

 この世界のバミューダが、遊馬たちの知っているバミューダとイコールではないにしても、何の関連もないということはあり得ないだろう。

 

 事実、ゲームの世界でもバミューダは衛星砲を奪っていた。2年も時間に幅があるのが気になるが、ゲームの世界で起こした事件がなにかしらの影響を及ぼしているのだろう。

 

 「なるほど、なんとなく事情はわかった。けど、どうして僕や父さんが狙われているんですか?」

 「それは、俺が説明しよう。」

 

 黙って後ろで話を聞いていた父さんが、突然話しかけてきた。

 

 「お前ももう知っているだろうが、そのゲームPODは特別なものだ。」

 「誰が作ったの?」

 「誰が作ったかは大した意味はない。必要なのは、そのゲームPODがあれば並行世界へ意識を飛ばすことが出来るということだ。」

 「並行世界?ゲームの世界じゃなくて?」

 「並行世界は並行世界だ。」

 「そう。」

 

 父さんは念を押してきた。

 

 「並行世界で起こったことは、現実でも影響を及ぼすということが観測された。」

 「誰が観測したの?」

 「俺だ。」

 「父さんが?」

 「俺はな・・・エヴァリアンに協力していたんだ。」

 「え?」

 「事情はまた今度話すが、とにかく、その力は本物だった。」

 

 だが、並行世界への干渉の影響は、あまりにも大きすぎた。それこそ、現実が丸ごと書き換わってしまうほどに。そしてエヴァリアンは、その力に増長して行っていると。

 

 「だから、俺はエヴァリアンと手を切った。結果お前を巻き込んでしまった、すまない。」

 「いや・・・うん・・・頭が追い付かない。」

 「だろうな、少し休むといい。」

 

 遊馬もVIPとして、個室が与えられることになった。最小限の机とベッドしかない、なんとも簡素な部屋だが文句は言わない。若干足をもつれさせながら、ベッドに寝転がる。

 

 「おもったよりも・・・大変だぞこれは。」

 

 ゲームPODネクスを取り出すあ、電源を入れる気にならない。少し休むべきだと思い、目を閉じた。


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