ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について   作:バガン

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 おかしいな、話がどんどんゲームの世界から離れていく。


第36話

 「うーん・・・どれぐらい寝てたろ?」

 

 部屋に備え付けられた時計は、AM11時を指している。昨日拉致もとい保護されたのが10時ごろだと考えると、丸1日は経過したことになるだろうか。

 

 いったんゲームの世界に戻るか、いやそれよりも腹が減った・・・。ルームサービスとか無いんだろうか。とりあえず話を聞きに行こうとドアの前に立つが、外に出られない。

 

 「あれ?開かないの?」

 

 昨日は確か、スタッフに案内されるままに着いてきたが・・・そういえば、カードキーで開けていたような。

 

 あれ、ひょっとして、外からしか開けられないんじゃないだろうか。日本ではそういうのを『牢屋』って言うんだけど、ここの人たちはアメリカ人だったんだろうか。司令官が『クリス』だったし、多分アメリカ人が多いんじゃないかな。

 

 『シェリル』もたしか英語圏の名前だった。クリスとシェリル、たしかそんな名前の登場人物がいるゲームもあったな。たしか『サイリーンの鐘』だったか。鐘の音で蘇ったゾンビであふれかえる街から脱出するサバイバルホラーだった。数多くいるプレイアブルキャラクターのうちの1人がクリスとシェリルだった。

 

 潜水艦と言えば『大提督時代』も忘れられない。海戦をモチーフにしたシミュレーションゲームで、シンプルなようでなかなかハマりこんで戻ってこれなくなるプレイヤーも多数だという。

 

 えーと、それからそうだな・・・海中探索ゲーム『BlueMarine』も最近は人気だ。

 

 「おーい、出してくださいよー。」

 

 現実逃避していても、状況は変わらなかった。このままじゃ飢え死にしてしまう。ドアを叩いてアピールするが、返事が無い。インターホンかなにかがないか探してみるが、それも見当たらない。

 

 「これじゃあ、まんま拉致じゃないか・・・。」

 

 ベッドに戻ってへたり込む。ジタバタしててもうどうにもならない。こここは、一旦思考を切り替えてゲームPODを見る。一応情報は集まったので、一旦会議してもいいかもしれない。

 

 よし、と一息入れて電源を入れる。

 

 

 「おっ・・・ただいま。」

 「おかえり。」

 

 すでに見慣れつつある格納庫に戻ってきた。

 

 「こっちではどれぐらい時間たってた?」

 「時間?まったく経ってないぞ。」

 「いってきますって言って、3秒も経ってないんじゃないかな。」

 「こっちは1日経ったのにな・・・。」

 

 ゲームを再開する地点は、当然最後にプレイしていた地点なのだから、そうおかしい話でもないのかもしれない。

 

 「それで、どんな情報がわかったんだよ?」

 「えっとまずね・・・。」

 

 要点を纏めると、①カサブランカの世界と遊馬の現実は、クラックの影響によって融合した可能性が高い。

 ②このゲームの世界で起きた出来事は、現実においてもなにかしら影響を及ぼす。

 ③エヴァリアンに黒幕がいる。

 

 「って、感じかな。」

 「エヴァリアンの黒幕をどうにかしろと言うのは、俺達には干渉できないな。この世界で出来ることと言えば、これ以上クラックが広がることを抑えるぐらいか。」

 「そして、並行世界のミスズのバックにもエヴァリアンがいると・・・。」

 「並行世界の私・・・。」

 

 という事は・・・。

 

 「ひょっとして、美鈴になら動かせるんじゃない?カサブランカも?」

 「まさか・・・。」

 「ものは試しだ。やってみなよお嬢。」

 「う、うん・・・。」

 

 乗せられるまま、美鈴はカサブランカに乗り込む。

 

 「けど、アスマもちょっと動かしてなかった?」

 「あれはどっちかと言うと、エルザが動かしてた感じかな・・・。」

 「どうだ?」

 「スイッチが多くてわからないですわ!」

 「らぴ?」

 

 そもそも、壊れた足もまだ直していない。ちょっと焦ったかとも思ったが、そこへラッピーも入ってくる。

 

 「らぴ!」

 「これ、ですの?」

 「らぴ、らぴ!」

 

 ラッピーはロケットの操縦も出来るし、意外と機械に強いのかもしれない。ラッピーの言うままに、美鈴が計器をいじる。

 

 「お?」

 

 ガコン、と何か稼働音がした。かと思う音、カサブランカのコックピットハッチが閉まる。

 

 『ジェネレーター、稼働。損傷個所のバイパス回路接続、修復剤投入開始・・・。』

 

 「動いてる、動いてるよ!」

 

 『らぴ!』

 

 それからはもう早かった。美鈴が何をせずとも、血液のように機体内部を循環するナノマシンが破損した足を繋いでいく。

 

 「よし、こっちのエレベーターまで歩いてみて!」

 

 「歩く?どうやって?」

 『フットペダルを交互に踏めばいいわ。』

 「あなた・・・エルザさん?」

 『そうよ、お嬢さん。私がサポートするから、やってみなさい。』

 「は、はい!」

 

 カサブランカを実質動かしているのはエルザの意思で、人間は反射神経と判断力と感性を提供しているに過ぎない。

 

 「うご、うごいてる!すごい!」

 『興奮しすぎて舌噛まないようにね。」

 「らぴ!」

 

 けれど、美鈴の純粋な驚きや興奮を感じ取ったエルザも、実に楽しそうに応える。

 

 「よーし、ストップ!!」

 「エレベーター上げるよ!」

 

 興奮しているのは美鈴だけでなく、外にいる遊馬たちも慌ただしくリフトの操作盤を叩く。

 

 ゆっくりと上がっていく様子を、美鈴が物珍しそうにキョロキョロと首を振れば、カサブランカの頭も連動して動き、緊張からかレバーを握る手に力が入ると、カサブランカも手を握ったり開いたりする。

 

 「外だ!」

 

 カサブランカは、再び地上に立った。動かない太陽がその姿を照らし、影がスッと伸びる。

 

 「うっひょー!!かっこいいぞー!」

 「興奮しすぎだろ。」

 「そういうモンドこそ、顔が笑ってるよ。」

 「ふっ。」

 

 興奮している遊馬たちを、美鈴は少し高い目線から見下ろしている。

 

 「私・・・こんなことが出来たんですね。」

 

 レバーから手を放し、胸の前で指を組んではぁと息を吐く。その動作すらトレースしそうなほど、カサブランカのモーショントレーサーは鋭敏だ。

 

 『不安?』

 「ええ・・・けど、すっごくワクワクしてますわ。」

 『うんうん、女の子は元気でないとね。』

 

 「なんかポーズ取れる?」

 

 『ほら、やってみ。』

 「ええ。」

 

 美鈴はレバーを握り直し、手を上に掲げる。指で輪を作ると、太陽を囲む。

 

 日輪が、白百合の開花を祝福する。

 

 

 「・・・ついに動き始めたか。」

 

 「!?」

 「あいつは・・・。」

 

 『雄二・・・。』

 

 カサブランカの影から、ぬっと黒衣の男が姿を現した。

 

 「これは・・・。」

 「またひと悶着、かな?」


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