ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について   作:バガン

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第42話

 「・・・帰ってきたはいいけど・・・お腹すいたな・・・。」

 

 ベッドの上に寝転がって呻く。とにかく外へ出ない限り自体は好転も暗転もしない。

 

 「おーい、誰かー?出してくださいよー。」

 

 再びドアをノックするが、依然反応は無し。せめて外の様子を覗うために耳をそばだてる。

 

 「・・・。」

 

 ひたすら自分の心臓の鼓動だけが聞こえてくる。そうして何分間続けていただろうか?あるいはまだ数十秒しか経っていなかったのかもしれない。ただ嫌な時間が永遠にも感じられた。

 

 「うぉっ?!」

 

 そしてそれは唐突に終わりを告げる。耳を張り付けていたドアが急に開いて遊馬は外へと倒れ込んだ。

 

 「おっ。」

 「とと、びっくりした。」

 「こっちもよ。まさかいきなり倒れ込んでくるなんて。」

 

 肩を支えられてなんとか態勢を取り戻した。その手の主、シェリルは先ほどまで纏っていたパイロットスーツとは違う制服を着崩している。

 

 「それで ゲームをしていたようだったけど何か進展はあった?」

 「何故知っているの?」

 「監視カメラがあるのに気づいてなかったの?」

 

 ほら、あれ。と指差しされた先にを見るが、全然気づかなかった。

 

 「まあ、何があったかよりも先に食事よね。」

 「ずっと腹ペコだったんですけど、なんで閉じ込められていたのですか?」

 「ごめんごめん、勝手に出歩かれても困るからってね。」 

 

 だからって鍵までかける?しかも監視までしていたということは、信用されていないという事だろうか。

 

 「何が食べたい?なんでもあるよ?」

 「カレーライスとコーヒー。」

 

 食堂に案内され、好きなものを注文する。カレーはなかなかおいしい。コーヒーもインスタントっぽいが食後にはちょうどいい。まともに味わったのは、モンドのマズいラーメン以来になる。

 

 「いい天気ね。後で甲板に出てみない?」

 「あーうん、そっすね。」

 

 現在、本艦は潜伏状態を解除して海面に顔を出している。島影も何も見えない水平線の映像が、食堂のモニターに表示されている。

 

 食器を返却してまた廊下を歩く。時折スタッフたちとすれ違い、シャエリルには軽く会釈をするが遊馬には何もない。まあ当然だろうな、と遊馬はシェリルの背中を見つめる。

 

 パイロットスーツの時はタイツのようにパッツパツだったが、制服には幾分余裕があるらしい。が、それでも胸のボタンは締めきれていない。スカートも短く改造しているらしい。パイロットスーツの時とは違って、イケイケなギャルという印象を受ける。

 

 「今日はいい風が吹いてるわね。」

 「ちょっと強いですね。」

 「フライトするにはちょうどいいわね。飛んでみない?」

 「結構です。」

 

 生身でのフライトは欠航にさせていただきたく。

 

 「私ね、元戦闘機パイロットなの。空飛ぶの好きなのよ。」

 「へぇ。ではなぜヘイヴンに?」

 「自由に空を飛ばせてくれるって言うから。その割には海に潜ってばかりだから、騙されてるかな?」

 「僕も実質拉致されてると思ってるので、多分そうかと。」 

 「言うじゃない、あなた面白いわね。」

 

 「それに、今は飛行機よりも、レベリオンの時代だしね。安全で、低燃費だし。飛行機は飛ばすにはリスクが大きすぎるって。だから肩身が狭かったっていうのもあるわ。」

 

 単機で大気圏を突破できる出力を出せるのは火星製のものに限るが、地球製のレベリオンでも戦闘機は全く及ばない。需要が全くないわけではないが、それでもシェアを奪われていると言っていい。

 

 「また飛行機に乗りたいとか思わないんですか?」

 「そうねー、でもレベリオンに慣れ過ぎて腕がなまってるかもしれないわ。」

 

 否定的な言葉は並べても、決して否定はしなかった。

 

 「・・・風が強くなってきたね。中に戻ろうか。」

 「はい。」

 「他にも紹介したい人とかいるし・・・そうだな、指令室にいるかな。」

 

 にわかに冷たい風が吹いてきた。風上からは暗い雲が流れてきているのが見える。そこから逃れるように2人は艦内に戻る。

 

 「あっ、いた。」

 「ん?あぁ、ちょうどよかった。この子はパトリシア、私の後輩。」

 「どうも、遊馬です。」

 「こちらこそ!って、そうじゃなくてシェリルさん!勝手に連れ出しちゃいけないって言われてたじゃないですか!指令が呼んでますよ!」

 「はいはい、今行くところだから。」

 「珍しく自分から動いたと思ったら、こんなに道草食って!」

 「朝食は食べないと元気でないと思って。それに気分転換も。」

 「それはそうですけど・・・。」

 

 僕は室内飼いの犬か何かなのか。

 

 犬に例えるなら、このパトリシアは元気な子犬といったところだ。赤毛のショートツインテールを跳ねさせる、小柄な少女と言ったところだ。レベリオンのパイロットの資質としては、小柄な方が有利なんだろう。しかし一体何歳なんだろうか。高校生、いや中学生にしか見えない。

 

 「そういえば、レベリオンのパイロットなんですよね?パトリシアさんも。」

 「ええ、勿論。」

 「全部で何人いるんですか?」

 「5人だよ。」

 「たった5人?」

 「ちっちっ、選び抜かれた5人だよ。」

 「件の、イングリッドとどっちが強い?」

 

 ざわっ、とその場にいる全員、通りがかったスタッフも含めての、視線が遊馬に集まる。何かマズいこと言ってしまったか?

 

 「うん、まあ・・・ね。」

 「その『まあ』は・・・まあいいや、忘れてください。」

 「残念ですが、イングリッドとカサブランカMk.Ⅱには勝てません。私たち全員が束になってかかっても。」

 

 そんなにか。

 

 「そもそも機体のスペック差が大きすぎるし。腕前はそこまで差はないかな?」

 

 シェリルはそう言うが、その場の全員が目を伏せている。

 

 「そ、それよりも指令室行きましょうか。」

 「そうですね!ほら先輩も!」

 「本当だぞ?対等なタイマンなら絶対負けないっての!」

 

 英雄の子ということだけが、彼女を特別たらしめているわけではないようだ。

 

 そして、決してうぬぼれではないが、戦いのキーは僕が握っていると遊馬は予見した。


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