ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について   作:バガン

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第45話

 さて、部屋の様子見もそこそこに、遊馬は格納庫へと連れてこられる。ゲームの中のそれと違うのは、常に慌ただしくスタッフたちが働いているということだ。

 

 「レベリオンって、自動的に修理や整備されるものでもないんだな。」

 「当たり前じゃん。こうしてたくさんの人の手がかかってるんだよ。」

 「さすが、一番手がかけられているだけのことはありますね。」

 「一番働いてるって自負ならあるわよ。」

 

 そのせいか、今もシェリル機の周囲には人が多い。埋まっている弾痕の除去や、ぶつけたマニュピレーターの検査、ワックスの塗り直しなど・・・とにかく暇がないらしい。

 

 格納庫の一角に目をやると槍、ライフルに盾といった装備品が置かれている。それらは人間が持って使えるようなサイズをしていない、当然レベリオン用の装備だ。近づいてみると、鉄とグリスのニオイがツンと鼻を突く。

 

 「あれがフォノンランサーで、あっちがフォノンライフル。」

 「でも、僕を拉致してに来た時は武装してなかったね。」

 「重くなるし、市街地での過剰武装は条約違反になりますから。」

 

 フォノンランサーは先端部に小さな刃がついているだけの簡素な槍だ。だがレベリオンが握れば、刃先から波動のブレードが出現し、物体を空間事切り裂くことが出来るようになる。

 

 フォノンライフルが発射するのはではなく、波動エネルギーの銃弾だ。しぼりを調節すれば、貫通力を高めることも、散弾にすることもできる。ただし弾代が高くつくためにあまり使われていないらしい。埃がすこし積もっている。

 

 あの時追撃してきた武装ヘリ程度、レベリオンなら内蔵武器と格闘だけで倒せてしまう。そして万が一にも撃墜して市街地に被害でも出してしまおうものなら、あっという間にヘイヴンは世間の敵になるというわけだ。世知辛いものだ。

 

 と、そんな風に案内されていたところ、壁に備え付けられた赤いランプが明滅し、警報音が鳴り響く。

 

 「あ、帰ってきたみたいね。」

 

 スタッフたちも白線の外にまで全員下がる。しばらくすると床が左右に開いて、下からエレベーターに乗ってレベリオンが3機海水滴るまま戻ってくる。

 

 それらが自分のハンガーに戻ると、胸のハッチが開いてパイロットたちが下りてくる。

 

 「作業開始ー!」

 

 それを確認してすぐさまスタッフたちも行動を開始する。海水に浸った機体のクリーニングやメンテナンス、非常に地味ながらも大変重要なお仕事だ。

 

 「おかえりなさい、何か収穫あった?」

 「ええ、まあ。これを解析班に回してちょうだい。」

 「疲労困憊。」

 「やっぱり海中は神経使います・・・。」

 

 慣れない水中での作業に皆疲れ果てていた。唯一セシルだけは涼しい顔をしながら、データカードをスタッフに渡す。一方、シェリルはパトリシアの肩をもんでいる。

 

 「アダムのデータを手に入れたわ。解析すれば何かの役に立つかも。」

 「それだけ?もっと他に何か無いの?」

 「船の一部だけじゃあそんなにいいものは見つかりませんよ。プレイヤー様にもっと頑張っていただけたなら話は別ですが。」

 

 じっ・・・と後ろにいた遊馬の方に視線が移る。そんな風に見られても困る。

 

 「わかった、部屋に戻ったらまた続きをするよ。」

 「あ、部屋と言えばセシル、あの部屋片づけてくらないと遊馬が使えないんだけど?」

 「ああ、あの部屋ですか・・・。」

 

 とたんに、セシルの顔に俯きの色が見えた。

 

 「あー、別に僕は気にしてないから・・・そうでなくとも今日は疲れてるでしょ?僕は最低限寝泊まり出来る場所があればいいから。」

 

 ただ遊馬は『気を使ってくれなくていい』という意味で言ったのだけれど、セシルには別の意味に聞こえたらしい。

 

 「いいえ、あなたはVIPなのですから、個室を用意していなかったのはこちらの失態です。すぐに用意します。」

 

 セシルは、1人居住区の方へと行ってしまった。

 

 「って、セシル!先に報告でしょ!」

 「ちょっと血迷い過ぎ。」

 

 パトリシアは、シェリルの腕を除けてセシルの後を追う。リーシャンは呆れたようにその背中を見送った。

 

 「少年、部屋が空いてないのか?」

 「え、ええ。監獄しか入れる場所が無いのは大分悲しいですね、自分で言っておいてなんですけど・・・。」

 「ふむ・・・たしかに一部屋が本当なら空き部屋だ。」

 「あれってなんか理由があるの?」

 

 シーッ!リーシャンは口元に指を立てて話を鎮める。

 

 「それは、いつかきっと語られる時が来るだろう・・・さらば。」

 

 何やら謎めいたことを言い残して、リーシャンもまた去っていった。

 

 「それで、報告は誰がするんだろう?」

 「代わりにやっておいてあげようか。」

 

 

 「と、いうわけで、かくかくしかじかで。」

 「これこれうまうまということか。わかった、解析班を待とうか。」

 

 以上、報告完了。

 

 「ところで、部屋は満足してもらえたかな?」

 「それがですね司令、・・・。」

 「もうこの展開いいよ。なんか訳ありなんだってのはよぉ~~~~~~~~くわかったから!」

 

 まるでこれから突入するダンジョンにはワナが仕掛けられているという情報だけを延々と繰り返されてるような感覚だ。存在ばかりを提示されたところで結局引っかかるんだから対処方法を教えてほしい。

 

 気にはしないといったが、気にしない方がどだい無理な話だ。どうせこの手の話にはお約束な、先に逝った想い人や先輩のことが忘れられないとかそんなんだろ?

 

 「実は誰もが知っている秘密なのだが、あの部屋は実は・・・。」

 「実は?」

 「セシルのラッピーグッズ置き場なんだよ。」

 

 ずこー!と拍子抜ける。

 

 「上手く隠されてはいるが、クローゼットやベッドの下にはラッピーグッズが山のようにある。」

 「へー、知らなかった。」

 「彼女のメンタルケアのために必要なことだったが、誰にも言わない秘密だよ?」

 「はーい。」

 

 つまり、遊馬にとってのゲームが、セシルにとってのラッピーなのだ。気持ちはわかる。

 

 「司令、お待たせいたしました。皆さんお揃いで何を?」

 「なんでもない。部屋の片づけは済んだかね?」

 「はい、もうOKです。」

 「よろしい。」

 

 どうやら、部屋を空けてくれたらしい。監獄を提案してくるシェリルよりもずっと大人な対応だ。

 

 「じゃあ、さっそく部屋に移動して続きをプレイしてきますね。」

 「ああ、助かるよ。吉報を待っているよ。」

 「こちらへどうぞ、部屋までご案内します。」

 

 一度案内されたので道はわかるのだが、それでもセシルの案内のもと遊馬は新しい自室へ足を運ぶ。

 

 「ここです。」

 「へえ・・・。」

 

 確かに積まれていた本や、ぬいぐるみは片付けられており、掃除もされているようだった。

 

 「ここにあったラッピーのぬいぐるみは?」

 「は?」

 「ああ、うん。なんでもないです。ゆっくりさせてもらいます、ありがとうございます。」

 「いえ・・・では。」

 

 一瞬セシルの顔色が変わったが、すぐに元のクールな表情に戻ると部屋を後にした。

 

 ようやく一人になれた。ベッドに横になると、何の気なしにベッドの下を覗く。

 

 そこには果たして何もなかった。クローゼットの中も開けてみたが、空のハンガーがプラプラと揺れているだけだった。クローゼットがあったところで、生憎掛ける服もない。

 

 そういえば着替えとかどうしようか。衣食住足りて礼節を知るというが、まだ未完成なわけだ。ま、その辺のことは後にして、今はゲームの続きをしよう。

 

 「ん?」

 

 勢いよくベッドに腰を下ろすと、何かが崩れるような音が聞こえた気がした。

 

 つづいて聞こえてきたのは、ミシミシという軋み音。なにか嫌な予感がする。立ち上がって音の出どころを探る。

 

 「ぬぉっ!?」

 

 直後、部屋の天井をぶち抜いて白い毛玉の群れが降ってきた。

 

 

 

 「セシル、あのラッピーグッズどこにやったの?」

 「秘密よ、秘密。」

 

 この後、セシルはたんまりとお説教を喰らった。


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