ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について 作:バガン
さて。
「今度はこっちの道を行こう。」
「今度は大丈夫なんだろうな?」
「今度は大丈夫!多分。」
ブリッジに戻ってきた一行は続いて中央のブロックへと移動する。
「これは・・・。」
先ほどまで見ていた下層と違って、中心に近い上層の内装は見るからに違った。
「なんか豪華。」
「内装がしっかりしてるね。」
無機質だった下層とは異なり、幾何学模様のような装飾が施された壁、床が目についた。それにどうやら、それらの材質もひときわ頑丈なようだった。
「ふーん、どうやらこのフラクタル模様が、ハニカム構造としての役割も持っているみたいだ。」
「文字通りの、上層階級向けの部屋ってことか。」
つまり上と下で貴賤が分かれている。やはり、中心部・上層部に近づくほど、重要なものがあるようだ。
「そもそも、アダムというものはかつての古代火星人の生き残りで、それも上層階級の者たちだけが生き残った者だった。だから、こんな貴族的思想が艦にも表れてるのかも。」
「ヒトの姿を捨てた搾りカスが、いっちょ前に人間のフリなんかしてるのか。」
「搾りカスって・・・。」
まあ連中はカスみたいなやつらであることに違いない。肉体を失った電脳の塊であるアダムは、寄生虫となんら変わらないのだから。
閑話休題。
艦の中心部分に近づくごとに、フラクタル構造が目立つようになっていく。
「それにしても、ここの構造はエンピツの芯みたいだね。」
「エンピツ?」
「中心部分に行くほど硬くなっていってる。ほら、エンピツの芯みたいでしょ?あるいはバナナの皮といったほうが通じる?」
「それは俺がゴリラだとでも言いたいのか?」
「いやいや、ゴリラの方がきっと頭いいし温厚だよ。」
モンドは無言でレーザーキャノンの撃った。が、その流れ弾に当たった壁は傷一つついていなくて二度ビックリだ。
「寄生虫・・・芯・・・まさか。」
「おっ、ミスズも気づいた?」
「なんの話?」
「この艦、『注射器』なんじゃないですの?」
「注射器?エンピツじゃなくてか?」
砂地に釘をまっすぐ落とせば、先端は深く埋まる。同じように、この艦が地球へ落下すれば、芯の部分は地球の地殻にめり込む。
「そしてめり込んだ先端から、地球の地底へ侵入する。」
「それがアダムの本当の計画だったのか?」
「可能性はあると思う。地底全部を見張ることは人類には出来っこないし、地熱エネルギーを使えば長期戦にだって耐えられる。」
「アダム地下帝国ってことか。」
それももう潰えた過去の話なのだが。多分真相はこうなんだろう。
「で、それでなにがわかるんだ?」
「中心部はとにかく頑丈に作られている。それこそ、大気圏の摩擦熱にも耐えられるぐらいに。そんなものが、レーザーで焼き壊せると思う?」
「まさか・・・。」
「遊馬さんの現実でも、『芯』だけは生き残っている可能性がありますわ。」
ゾッとする話だ。アダムの後継者どころか、本体がまだ生き残っている可能性が浮上してきた。艦の残骸が見つかったとなると、なおのことである。
今なおどこかで活動を続けているのなら、エヴァリアンどころの話ではない。いや、そのエヴァリアンこそ、名前を変えただけのアダムの可能性も・・・。
「ややこしくて頭が痛くなってきた。」
「頭抱えてる暇もないぞ。この艦の所在を突き止めさせる方法を探さなければ。」
「注射器の中身が入っていた部分、この芯の底部なら何か見つかるかも。」
無重力の回廊を奥へ奥へと抜けていく。
「ここか・・・。」
「これは・・・ドーム?」
行き着いた先で、ガラス張りの温室のようなドームが見えてきた。中に見えるのは、青々と生い茂る樹。
「植物・・・のようだが?」
樹に見えるが、その葉、幹、枝全てに金属の光沢がある。
「この金属、記憶媒体のようだね。」
「メモリー?」
「『電子頭脳』・・・この温室が頭蓋骨で、樹は電子頭脳なんだ。」
あるいは『鉄の樹』とでも呼べばいいのか、これが火星の生命の意識を統合し、繋いだものだ。
「火星人は、植物型生命体だったのか?」
「最終的にこの姿になることを選んだんだろう。進化で得た形質じゃない、この姿に改造したんだ。この鉄の樹なら、火星の環境でも生きていられたんだ。」
そして何千何万何億という時が過ぎて、新たな『肉体』がやってきた。というところだろう。
『じゃあ待って、私たちが戦ってた相手って?』
「カサブランカが戦っていたのは、この艦のブリッジでしょう?」
あくまでブリッジはブリッジ、頭脳は頭脳。だとすると、ブリッジで戦っていたと思っていたマザーブレインは、艦をコントロールするだけの一部分でしかなかった。
『そんな・・・私たちの戦いが、無意味なものだったと・・・?』
あー、続編あるあるだな、と遊馬は思った。前作で命懸けで戦ったのが、続編では無意味だったことが判明するというの。続き物としてのサガだけど前作の主人公の頑張りを無碍にするのはいただけない。それだけでなく、視聴者の顰蹙ももれなく買ってしまう。
こんな脚本を書いたのは誰だ!と文句も言いたくなるが、それは遊馬の父親だった。後で文句を言ってこよう。
「そもそも、お前の親父さんだったら全部のネタ知ってるんじゃないのか?」
「そうですわ。聞いてみればわかるんじゃないですの?」
「今度聞いてみる。」
だが、どれぐらい設定を覚えているのか怪しいものもある。自分で書いた物語だろうに。
「とにかく、ここなら発信機になる電波の発生源になるものもあるだろう。それを探そう。」
お互いの世界に直接的に干渉できない以上、こうやってオブジェクトをいじることで、世界そのものを変化させるしかない。最初っからビーコンを持ってこれれば楽だったのだけれど。
「あったよ、通信機!」
「でかした!」
ともあれ、これでクエストクリアだ。通信機の端末らしいものを見つけて、それを談話室と同じようにカサブランカが動かす。
『うん、ここはまだ動きそう。あとは、どんな周波数にするかだけど・・・。』
「それは・・・向こうで聞いてくるよ。あらかじめしろしめした波長なら、傍受される心配もないだろうし。」
「OK、任せた。」
やっとクエストクリアが見えてきた。ひたすらお使いシナリオみたいにいったりきたりするのも、グダグダするのも、単調でつまらないものだ。
こんなシナリオを書いたやつはボツにされるべきだ。遊馬は父の顔を思い浮かべながら『ゲームをやめる』を頭の中で選択した。
グダグダしすぎぃ!