ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について   作:バガン

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第51話

 「ふぅ・・・。」

 

 再び、ゲームの世界から現実へ帰ってくる。今度はどう世界は変わっただろうか。部屋を出たところでシェリルたちと合流して、司令室に戻る。

 

 「よくやってくれたね。今世界中にアンテナを伸ばしているところだ。直に見つかり、我々はそこへ向かう事だろう。それまでは皆休息をとっていてくれ。」

 「了解。」

 

 現状遊馬にやれることはすべてやった。あとは寝て待つだけだが、その前にうず高く積まれたラッピーグッズをどうにかしたい。

 

 そのために元の持ち主であるセシルの部屋にまで持ってきたのだ。シェリルと共に。別に頼んだわけでもなく着いてきてくれた。

 

 「ほら、自分の物なんだから、自分の部屋で管理しなよ!」

 「・・・わかりました。」

 

 ダンボール箱二つに満載されたグッズをセシルの部屋に持ち込んだ。

 

 セシルの部屋に入った遊馬は少し驚いた。ラッピー好きだというのに、ラッピーグッズがひとつも置いていない。あの少し汚れたぬいぐるみはどこにやったんだろうか?

 

 「へー、セシルの部屋って初めて見たけど、意外と何もないのね。」

 「そこにおいてください。」

 「あっ、はい。」

 

 これまた部屋の隅に箱は置かれ、セシルはそれを気にするようなそぶりも見せない。そこに違和感を感じた。

 

 「セシルさん、ラッピー好きなんですか?」

 「・・・いえ、別に。」

 「こんなにグッズ持ってて好きじゃないってことはないだろ?」

 「『私は』別にそんなに好きでもないですよ。このグッズも、私の物ではないですし。」

 「え、じゃあ誰の?」

 「司令のです。」

 「「えっ?!」」

 

 いやいや嘘だろう?あのいい年したおっさん・・・いや、年齢や外見で趣味を決めつけるのはよくないことだろう。

 

 「じゃあ、なんで司令の私物の置かれた部屋を管理してたんだ?」

 「それは・・・どうでもいいことでしょう?」

 「お前の精神衛生のためにあるって聞いたから。」

 「なっ、誰から?」

 「司令から。」

 「言うのか。」

 

 シェリルの口には戸を立てられないらしい。彼女に秘密を打ち明けるのはやめたほうがいいだろう。

 

 「ぐぬぬ・・・。」

 「意外と可愛いもの好きなんだなーって、思ったんだけど、好きじゃないの?」

 「・・・あまり人の心の中に入ってこないでください。」

 「そっか、ごめん。」

 「もう要件は済みましたか?」

 

 そして暗に出ていくように指示される。なにやらワケアリのようだが、彼女の言う通り人の心に入り込むのはマナー違反というものだろう。険悪な雰囲気のままに追い出される前に、自分たちの足で出ていくとする。

 

 「さて・・・これからどうしたい、遊馬君?」

 「そうですね・・・そういえば父さんはどこに行ったんでしょう?」

 「和馬氏?大体司令の傍にいるけど、そうじゃなければ部屋かな?」

 「どこかわかります?」

 「司令の部屋の近くだよ。」

 

 こっちこっちとまた案内される。遊馬同様か、それ以上のVIPな和馬の部屋も特別だ。

 

 「僕もそんな部屋が欲しかったかな。」

 「いいじゃんいいじゃん、ご近所さん同士仲良くしようよ?」

 「うん・・・。」

 

 部屋に文句があるわけではなく、近すぎることに問題があると言いたいのだけれど。司令の部屋は艦の上の方、対して遊馬たちは居住区画に一緒。健全な青少年としては、年頃の女子たちとすぐそばの部屋というのは、すごく気まずい。嬉しいけど。

 

 「さーて、和馬氏の部屋はここ。あっちが司令の。」

 「ありがとう、シェリルさん。」

 「ふーん、さん付けなんてしなくていいんだけどね。試しに『お姉ちゃん』って呼んでごらん?」

 「えぇっ?」

 「あはは、冗談ジョーダン!それじゃ、親子水入らずに話しておいで。」

 

 じゃねっ♪とシェリルは来た道を引き返していった。なんというか、距離が近すぎる一番の要因はシェリルにあると思う。すごく気まずい。

 

 (・・・けど、ちょっとイイにおいしたな。)

 

 もんのすっごく悔しいが、遊馬の中の『男』が反応してしまった。あの長い髪がふわりと揺れる度に、鼻と大脳新皮質をくすぐった。

 

 しかし悲しいかな、今の遊馬はただ手玉にとられているだけ。『男』をアピールするには、遊馬はあまりに貧弱、軟弱、脆弱。誇れることと言えばゲームの事だけ。

 

 いや、これこそゲームに例えるべきだろう。今目標が出来たのだ、現実では男らしさを磨いて、シェリルを見返してやる・・・いや、別に悔しいとかそんなわけではなくて・・・。

 

 「青春してるなぁ、うむうむ。」

 「おどりゃクソ親父。」

 

 廊下で悶々としていたところ、父が帰ってきた。なにわかったような顔してやがる。

 

 「話をしよう。そのつもりで来たんだろう?」

 「ああ、色々と聞かなきゃいけないことがある。」

 

 父さんの部屋は・・・、たしかに父さんの部屋だった。家にいた頃と変わらない、作業用の机があって、体を休めるためだけのベッドが置いてある。広い部屋にもかかわらず、ひどくこざっぱりとしている。

 

 「それで、向こうではどんな感じなんだ?」

 「父さんがなんらかの手段を使って、雄二とエルザにゲームを作らせたってことは聞いた。」

 「そうか、その話も聞いたか・・・。」

 

 あまりに抽象的過ぎで、現実離れしたような話だが、その当事者がここにいる。やっと、やっとだ。まるでゲームの謎に生き詰まって攻略サイトを覗いているような気分だが、その程度のズルは許してほしい。情報をろくすっぽよこさないズルをしているのは、そちらの方なのだから。

 

 「・・・父さんが、エヴァリアンに協力していたという話はしたな?」

 「うん、それとどう関係が?」

 「父さんは、カサブランカの続編の脚本を依頼されたんだ。」

 「依頼?誰から?」

 「エヴァリアンにだ。」

 「は?」

 

 そりゃおかしいだろう。エヴァリアンが存在するのは、この現実がカサブランカの世界と融合したせいだ。そして世界が融合したのは、ダークリリィのゲームの中で、クラックによって並行世界が繋がったせいだ。

 

 「順序が逆じゃないか。」

 「そうだ、だから俺はその依頼がエヴァリアンの策謀であるとわからなかった・・・。」

 「どういうこと?」

 「エヴァリアンは、既に並行世界を観測していたんだ。」

 

 つまり、先に手を出してきたのはエヴァリアンの方だった。エヴァリアンは、自分たちの世界を変えうる力を持つ存在を探し出した。

 

 「じゃあなに、父さんには世界を変える力があると?じゃあ、脚本家権限でエヴァリアンなんて消しちゃえばいいじゃない?」

 「消えないんだよ・・・何度消しても、脚本を続けている限りエヴァリアンは消えない。エヴァリアンは、この世界とガッチリ結びついている。だから必要なのは、エヴァリアンを倒すヒーローの方だった。」

 「それがヘイヴン?」

 

 机に向かって、エヴァリアンと戦う存在を書いた。するとどうだ、その通りの存在があらわれたのだ。

 

 「エヴァリアンとも、アダムとも異なる5人の戦士たち、それがカサブランカの続編の最初の構想だった。」

 「雄二とエルザは?」

 「あの2人は・・・俺の中では死んだつもりだったんだが、エヴァリアンは2人を生存させること、その娘がエヴァリアンに協力していることを条件に提示させてきた。」

 「それがイングリッド・・・。」

 「ああ、ちなみに西園寺美鈴と似てるのは、デザイナーがおじょボクでデザインを流用させたせいだ。」

 

 そうだったのか。あっけなく謎が解けてしまった。それにしても、随分自分たちに有利になるように手を回したわけだ

 

 「じゃあ、このゲームPODは一体?」

 「それとお前が最後の切り札だ。」

 「これと、僕が?」

 「そう、そのゲームPODはお前にしか使えない。俺が最初に、そのゲームをプレイできるのが、俺の息子だけに限定したせいでな。」

 「なんで僕に?」

 「それは・・・また今度にしよう。また続きを書かなければならない。話がまた動くぞ。」

 

 ネプチューンも動き出す。ビーコンへ向かって。まだ見ぬ未来に向かって。


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