ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について   作:バガン

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第52話

 父との話を終え、自室へ戻りしばしの休息をとった遊馬だった。

 

 「はぁ・・・ゲームがしたい・・・。」

 

 この手元にあるゲームPODネクスではない、普通に最新機種のゲーム、そうでなくとも『普通に』プレイできるゲームがしたかった。もっとも、それらは全て家に置いてきてしまっている。窓も開けっぱなしなので、雨風にさらされているかもしれない。

 

 なんならトランプやボードゲームでもいいが、それには対戦相手が必要だ。

 

 「お?トランプ?いいよ。」

 

 それはすぐに見つかった。遊馬の部屋でポーカーを楽しむこととなった。

 

 「でもポーカーするにも何か賭けたほうがスリルがあっていい思うんだけど?」

 「あいにく賭けるものを持ってないので・・・。」

 「そう・・・。」

 

 お互いに山札から5枚ずつとると、まじまじと見つめて役のビジョンを組む。

 

 「2枚チェンジで。」

 「こっちは3枚。」

 「チェックで。」

 「こっちも。」

 

 お互いに役がそろったのでオープン。結果は遊馬が8とQのツーペアで、シェリルが6のワンペア。

 

 「あら、負けちゃった。」

 「やった。」

 「じゃあ・・・そうね・・・ひとつ隠し芸を披露するわ。」

 「へえ、どんな?」

 

 シェリルはすっと立ち上がると、両手を自分のズボンに突っ込みはじめた。

 

 「いい?よーく見ててね?」

 「うん・・・。」

 

 遊馬はその異様な光景に目を奪われつつも、なんだかイヤな予感がしていた。

 

 「おっし、取れた。ジャーン!」

 

 あー、困りますお客様ァー!かくし芸と称して自分のパンツを渡してくる女性など、非常に困る。

 

 「はい、あげる♡」

 「・・・いらない。」

 「なによー、女の子のパンツ欲しくないの?」

 「欲しい、けどいらない。」

 「じゃあ、誰のだったら欲しいの?」

 「誰のでも欲しくない!」

 「そんなこと言ってー、鼻の下伸びてるわよ?」

 「うるさーい!」

 

 そりゃあ、健全な男子学生としては、女の子のパンティーなんて喉から手が出るほど欲しいけど。

 

 「けど会ったばっかりの人のパンツなんて貰っても困惑しかないわ!」

 「おーほー?つまりもうちょっと仲良くなってから貰うつもりだったと?」

 「もうちょっと普通にしてくれたら、もっと仲良くなれたはずなんですけど?」

 「・・・そっか。じゃあ普通にしてる。」 

 

 ~30分後~

 

 「ほれ、脱~げっ!脱~げっ!!」

 「も、もう脱ぐものが無いんですが!」

 「まだ1枚あるじゃないの・・・よいではないか・・・ヨイデハナイカ!」

 

 哀れ遊馬はパンツ1枚にまで身ぐるみ剥がされていた。一方シェリルの方も元々隠しきれていなかったたわわな果実を、シャツの下から見せつけてきている。むしろそれが遊馬の集中力を大いに削っていた。

 

 「普通に接するって言ったじゃないですか!」

 「ポーカーにベットは普通でしょ!」

 

 状況的にはベッドイン直前に近い。むしろパンツ一丁まで文句を言わなかった遊馬にも問題があるが。

 

 「騒がしいですよ先輩!」

 「あら。」

 「まあ・・・。」

 

 最悪だ。妹と後輩(先輩)に嫌なところを見られてしまった。

 

 「・・・お邪魔しました。」

 「待って!助けて!」

 「近寄らないでください。」

 「ショック!」

 

 部屋にやってきたパトリシアの視線は、とても冷たく寒かった。多分パンツしか履いてないせいだろう。一方アリサは赤面して顔を背けていた。

 

 とりあえずこのままではいかんと服を返してもらう。

 

 「姉がすいません・・・。」

 「まったくだよ。」

 「まあまあ、集まってくれたのなら一緒に遊びましょう?」

 「ルールは?」

 「ん・・・テキサスホールデムをやってみたい。」

 「賭けは?」

 「ナシで。」 

 

 人数が増えたので多人数向けのルール、テキサスホールデムのルールを適用することとした。

 

 テキサスホールデム、それは各人2枚の手札を持ち札としてチェンジせずに持ち、場には公開情報のカードを最初は3枚、ゲームがすすむごとに1枚ずつ追加でオープンして置いていく。場のカードは全員が共通して手札にあるものとして扱い、役を作る。どちらかというと対人の心理戦が醍醐味になる。

 

 なお、チップの代わりにラッピーグッズを置いていくこととする。

 

 「来た来た、私は3ラッピー賭ける!」

 「・・・コール。」

 「私もコール。」

 「コールで。」

 「えっ。」

 「先輩、見え見えです。」

 「くっそー!」 

 

 4人でプレイするようになってから、急にシェリルはやかましく騒ぎ始めた。だが、そのおかげで楽しくゲームを楽しめている。

 

 「くぅ・・・お姉さんの私がドベとは・・・。」

 「お姉さんって言っても1つぐらいしか違わないじゃないですか。」

 「えーん、後輩が冷たいよー・・・。」

 「姉さんの自業自得でしょ。」

 「えへへ。」

 

 おどけた役を演じているシェリルが一番楽しそうだ。本質的にはいい人なんだろうけど、どうして遊馬にばかり変な絡み方をするのか。楽しませているつもりなんだろうか。

 

 「さて・・・じゃあそろそろお姉さん本気だしちゃおうかな?」

 「はいはい、次のゲームね。」

 「ドベの私が配るね。」

 

 サッサッと手際よくシェリルはシャッフルし、各人に2枚ずつ、そして場には5枚のカードを配置する。

 

 ♦A ♡3 ♦5 ♦9 ♠9

 

 (おっ・・・?)

 

 遊馬の手札には、クラブの2と4が入ってきた。場のカードと合わせれば1~5のストレートが作れる。9が二枚場に出ているが、ストレートならスリーカードよりは強い。

 

 「時計回りで、ベットは遊馬からね。」

 「ここは・・・2ラッピー賭けよう。」

 「コールです。」

 

 次にアリサが迷いなくコールした。

 

 「なら・・・私はレイズ、3ラッピー。」

 「攻めるわねパトリシア。」

 「さあ、先輩はどうします?」

 「私?私はね・・・。」

 

 もったいぶるようにシェリルは目を伏せる。

 

 「5ラッピーよ。」

 「なにィ?!」

 

 ドドン、と自信満々にラッピー人形を5体出してきた。

 

 「さ、遊馬。乗るか、反るか?」

 「ぐ、グム~・・・。」

 

 先ほどまでのバレバレなブラフとは明らかに違う。だが非常に自信のある一手だった。

 

 冷静に考えてみよう。場のカードを合わせてストレートに勝てるのは、ダイヤの2枚と組み合わせたフラッシュ。A・3・5を2枚、あるいはそれらのうち1枚と9を組み合わせたフルハウス。9を2枚のフォーカードだ。

 

 そして・・・いやらしいことに、いや半分不可抗力で一瞬シェリルの手札が見えていた。それはスペードの4だった。ダイヤではないのでフラッシュではなく、A・3・5ではないのでフルハウスでもなく、フォーカードでもない。

 

 ということは最低でもワンペア以上スリーカード未満、ならば、勝てる可能性は高い。

 

 だが、懸念事項はもうひとつあった。

 

 (もしや、イカサマ?)

 

 カードを切ったのはシェリルだった。ズボンを履いたままパンティだけを脱ぐ手先の技があればそれも可能・・・いや、イカサマとパンティは関係ないか。

 

 (・・・Aのツーペアで、ハッタリのレイズと見た。)

 

 「コールで。」

 「おー、男らしいね、ヘッヘッヘッ・・・。」

 

 遊馬がラッピー人形を追加したところを、シェリルはいやらしく笑う。

 

 「うーん・・・私は降りる、かな。」

 

 自信気にコールしていたアリサは、嫌なものを感じたのかダウンした。

 

 「・・・レイズ、6ラッピー。」

 「なっ、なにィイイイイイイイ?!」

 

 しかしパトリシアはさらに攻めてきた。しまった、シェリルにばかり気をとられて、この自称後輩(先輩)の役満の可能性を見落としていた。

 

 (これもブラフ・・・?しかしこの状況で臆せずさらに上乗せするとは、本当に強い手を持っている可能性が高い・・・。)

 

 遊馬のストレートは、ダイヤの残り10枚の内の2枚のフラッシュに負ける。ツーペアよりも可能性が大きい気がする。

 

 「コールで。」

 「ぐぬぬ・・・。」

 

 そしてシェリルもコールした。遊馬にできるのは、降りるか、臆さず進むか。

 

 「どうする?降りる?賭ける?」

 「ぐぅうううううう・・・。」

 

 パトリシアがツーペアでレイズしたとは考えにくいが、逆に言えばパトリシアもストレートの可能性がある・・・。その場合。ベットは山分けになるが、降りたら全部持っていかれる。

 

 「・・・コール!」

 「よろしい、ショウダウンね。」

 

 結局遊馬は乗った。

 

 「遊馬は?」

 「ストレート、クラブの2と4。」

 「同じくストレート、ハートの2とダイヤの4。」

 

 危なかった。まさか片方がダイヤだったとは。だがこれで引き分け、ベッドが折半される。

 

 「じゃ、フォーカードで私の勝ちね。」

 「「・・・は?」」

 

 まったく同じタイミングで、全く同じ素っ頓狂な声が出た。

 

 「は?え?」

 「ごめんあそばせ、私の総取りね。」

 「お、ちょっと待った!」

 「なに?」

 

 そして2人とも全く同じ言葉を吐きそうになったのを、これまた2人とも飲み込んだ。

 

 「おんやおんや~?ふたりともどうしたのかしら~?まるで『見てはいけないものを見てしまった』みたいな顔しちゃって。」

 「「・・・!」」

 

 遊馬とパトリシアは目を合わせた。

 

 「・・・シェリルの手札、片方はスペードの4じゃなかったの?」

 「同じく、片方はスペードの2じゃなかった?」

 「ナンノコトカナ?」

 「危なかった・・・。」

 

 一方、アリサはダイヤの2とハートの4のカードを見つめていた。

 

 やられた。やはりイカサマはあったのだ。全員がストレートの役になったのも、遊馬とパトリシアにはシェリルの手札が一瞬見えたのも、すべて手のひらの上のことだったのだ。

 

 「どう?ちょっとはお姉さんを見直したかしら?」

 「・・・参りました。」

 「うむうむ、よろひいよろひい。」

 

 この後、何度戦ってもシェリルには全員一度も勝てなかった。脱衣ポーカーだったら全員すっぱ剥かれていたことだろう。


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