ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について 作:バガン
「あー、遊んだ遊んだ!」
「・・・負けた。」
「そんな気落とさなくいいっしょ?ゲームなんだし。」
「いや、色々となんか悔しい。」
「それはドンマイ。」
まさしく誤算だった。まさかシェリルがこんなに強かな人間だったとは。
「まあ、これでお姉さんの実力はわかってもらえたかな?」
「私も初めて知りました。」
「パトリシアにも見せるの初めてだからね。」
「かくし芸も?」
「あれはよく見せてるかな。」
一体普段どんな遊びをしているのか。普段のノリが遊馬への仕打ちそのものだとしたら・・・想像したいようなしたくないような。
たまにはアナログゲームをするのも楽しい。というか、久しぶりに生身の人間と遊んだ気がする。ずっとデジタルゲームばかりやっていたけれど、こういうのも悪くない。
「さて、もうそろそろ消灯時間だし解散にしようか。」
「消灯時間なんてあったのか。」
「そうですよ、あまり遅くまで起きているとセシル先輩が怒りますよ。」
まるで修学旅行のようだけど、有事とあれば叩き起こされる。いついかなる時でも万全のコンディションを維持できるよう、しっかりと休むのは必要なことだ。戦闘員ではない遊馬にはあまり関係ないことだが、この『家』のルールなら従っておこう。
「それじゃあ、おやすみね遊馬さん。」
「おやすみなさい。」
こうして眠りの挨拶をするのは、ここに来てからは初めてだ。隔離されたままだと、この空気を味わうことも出来なかった。
「遊馬、もう一戦だけ付き合ってくれない?」
「いや、もうおしまいでしょ?」
「お願い♡」
ただシェリルはベッドに腰かけてウインクしてくる。
「・・・一戦だけね。」
「オーケー、種目はババ抜きね。」
山札からジョーカーを一枚だけ抜き取り、半分に分ける。2人でババ抜きをやるからには、カードの大半がが最初に捨てられる。
「私って元戦闘機パイロットだって、前に言ったじゃん。」
「うん。」
「その戦闘機パイロットとしての最後の仕事のことなんだけどね。」
「うん。」
当然、2人しか参加していない以上、ジョーカー以外を引くだけでペアが揃っていく。それを淡々と遊馬もシェリルも捨てていく。
「私ね・・・当時好きな人がいたの。私のチームの隊長だったんだけど。」
「うん。」
「その日ね、その人にプロポーズされちゃったんだ。受ける前にスクランブルかかったんだけど。」
「うん。」
「そしたらさ、そのスクランブルでレベリオンに襲われちゃって、みんな死んじゃった。あっという間すぎて、いつ誰が落とされたなんか考える間も無かったかな。」
まるで、女子高生がヘアゴムでも落とした失敗談を語るかのような口ぶりだった。
「それで生き残ったの私だけになって、でもレベリオンはまだまだ追ってきてて・・・私は空を夢中で逃げ回ってた。戦おうとも思わなかった。」
「1機、2機と相手は増えていって、回り込まれたり、挟み込まれたりしてた。そのうち、相手の嗤う声が聞こえてきてたかな、被害妄想だけど。」
手札と目を伏せて、シェリルは一方的に話し続けた。遊馬は言葉を挟む余地もなく、ただただシェリルの口から語られる過去に衝撃を受けていた。
「それで気が付いたら、滑走路にランディングしてた。」
「一瞬夢でも見てたのかなって思ったけど、すごい汗かいてるし、手と足はすごい震えてるし、本当にあったんだなって嫌でも思い出させられた。」
なんならパンツも濡らしてたし、と茶化して付け加えるが、全然笑えない。シェリルは笑っていたが。
笑ったところで、ババ抜きが再開された。お互いの手札が1枚ずつ減っていき、残りも少なくなる。
「それから、パイロットはやめた。空飛ぶのが怖くなってね。それでもたまに夢に見るんだ。」
「あの時死ねた方がいっそ楽だったかなって、思ったんだけどさ。でも避けながら飛びまわってる間は、『死にたくない』って必死だった。あはっ、矛盾だよね。」
シェリルの残り2枚になった手札を差し出す。
「さあ、引いて。」
「・・・。」
遊馬の手札はあと1枚。右か左か、アタリかハズレか、YesかNoか。
「あーあ・・・また残っちゃった。」
出来ることなら遊馬はこの時間を続けたかったが、悲しくも遊馬の勝負運が高かった。
シェリルは手元に残ったジョーカーを未練もなく捨てると立ち上がって伸びをする。
「話はそれだけ。ワガママ聞いてくれてありがとね。」
遊馬は、揃ってしまったスペードとハートのQを見つめていた。
「・・・あのっ。」
「なに?」
部屋を後にしようとするシェリルの裾を、カードを捨てた指で掴んだ。
「シェリルのことよく知らないし、変な人だと思ってる。」
「そんなに変?」
「変だよ。けど、友達だって思ってる。」
今日だって、こうして一緒に遊んだ仲だし。一緒にいた長さは関係ない。
「・・・死んだほうが良かったとか言わないで。死なれて残されるのは辛いし、死んでくれたおかげで助かったなんてもっと悲しいから。」
レイ、一緒にいた時間は長くなかったけれど、たしかに友達だった大切な仲間。今もその魂は、電脳の宇宙を彷徨っているのだろうか。
「・・・そっか。そうだよね。」
「変なこと言ってごめん。」
「ううん、ありがと。」
遊馬の唇に暖かくて柔らかいものが触れ、それから裾を掴んでいた手に小さな布をすべりこませた。
「これ、勝ちの報酬ね。続きはまた今度・・・おやすみ。」
「おやすみ・・・。」
そのことに遊馬が反応する間もなく、じゃねっとシェリルは部屋を後にしてしまった。
「・・・敵わないなぁ。」
空いている方の指でそっと唇を撫でる。さっきまでそこに触れていたものを想起する。自然と頬も緩んでくる。
「もしもし、そろそろ消灯時間なのですけれど?」
「えっ?ああ、おやすみ・・・なさい。」
ぼーっとしていたら、今度はセシルがそこにいた。慌てて現実に意識を戻す。
いきなり声をかけられて、変な汗かいてしまった。持たされていたハンカチで何気なく汗をぬぐう。
「・・・は?」
「はい?」
その様子を見てセシルに変な顔をされた。特におかしなことをしているつもりはないが・・・。ん?
遊馬は、手に持っているものをもう一度確認してみた。ハンカチにしては、やけにフリルがついているのは気になるが、普通のハンカチ・・・。
「・・・ぁあ?」
結論から言うと、ハンカチだと思ったものは、ハンカチではなかった。それはつい最近見た覚えのある布・・・いや回りくどい言い方を止めると、シェリルのパンティだった。
「えぇ・・・。」
「いや、これは違うんですハイ!」
「はい、近寄らないでください。」
冷徹な目をしたセシルは、冷たく言い放つと部屋を後にしていった。
「違う・・・これは違う・・・。」
遊馬の弁明の声が、むなしく響いた。