ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について 作:バガン
『マスドライバーに動きあり。』
「やはりか。フォノンスナイパーライフルで撃つ。」
『待て!まだヤツらだと確認したわけでは・・・。』
「このご時世、こそこそと旧遺物なんか使うのはヤツら以外にありえん。」
『なにかの間違いかもしれないんだぞ!』
「間違いの一つがなんだ。今ここで逃すことの方が間違いだ!」
『待て!撃つな!』
トリガーに添えられた指に力が入り、返ってくるのはたしかな手応え。
「ライトとはいえ、警備にレベリオンなんか持ち出す方が過剰防衛だ。ここで何か重要なことやっていますと、言っているようなものだ。」
また1つ、いや2つキルスコアを伸ばしたことを確信するが、そのカウントは却下される。
「ほう・・・。」
避けた、か・・・この地平線を無理やり押し上げた、高高度による超長距離狙撃を。
「新兵や馬の骨の動きではないな・・・面白い。この俺手ずから『抹殺』してやろう!」
自身を制止しようとする声を断つと、狙撃アームを解除して巡行モードに切り替える。1発撃つのに3分ものチャージがかかる狙撃銃など、接近戦では物干し竿ほど役にも立たない。
バーニアを吹かして、獲物を目指して空を切り裂く。目標、八卦島ロケット基地。
『・・・傾いてる。』
『マズい!パティ!』
『発射シークエンス中止・・・無理!!』
『了解、手動で調整する。』
支柱を破壊され、マスドライバーの先端は傾き始める。大急ぎでシャトルは自動航行から手動に切り替える。だがみるみるうちに傾きは強まっていく。
「発射まで、10・・・9・・・」
『セシル!支えるよ!』
『嘘!わかった!』
突然の襲撃に呆気にとられる間もなく、壊れた支柱にライトレベリオンが潜り込む。
「3・・・2・・・1・・・!」
「行けるか・・・!」
一瞬のうちに第一宇宙速度を突破したシャトルが、レールの上を駆け抜けて、空を撃ち抜く。
「行ったか・・・。」
『ネプチューン!頭下げろ!』
「レーダーに敵性反応!」
「やむを得んか・・・緊急潜航!2人は敵を押さえろ!」
『了解!』
「敵はおそらく『アーマーギア』だ、気をつけろ!」
「アーマーギア?」
ネプチューンは海中に身を隠す。同じ攻撃に狙われれば、ネプチューンは即、波の枕に抱かれることとなる。
「アーマーギアってなに?」
「レベリオン用の拡張武装、いわば鎧だ。敵はおそらく、長距離狙撃用の装備で狙っていたんだ。」
「という事は、敵はレベリオン?」
それも簡易量産型では歯牙にもかけられないであろう、最新鋭機だ。
「待って、じゃあ2人は置き去り?!」
「遊馬、それ以上言うな。」
「けど?!そんな・・・。」
相対したとして、勝ち目は絶望的だ。それは誰もがわかっている。
思わず遊馬は、ゲームPODネクスを取り出して、おもむろにスイッチを入れた。
「みんな!」
「おう、おかえり。今度は何だ?」
「実は・・・。」
困った時こそ、仲間を頼る。ゲームの世界の保健室で、今まであったことを説明する。
「なるほどな。だからこっちに来たと。」
「そう、なにか方法無いかな?」
「無いでしょ。」
「ええ・・・。もうちょっと真剣に悩んでよ。」
意外というか存外にもドライな返事をされた。
「だって、そっちの話はお前の現実だろう?俺達が直接俺達なにかできるわけでもなし。」
「そんな・・・エルザ!雄二!」
「無理だ。」
「何もできないわ。」
藁にもすがる・・・決してこの2人は藁なんかじゃないが、だからこそ頼りたかった。
「でも、2人は英雄なんでしょ?」
「英雄なんて、後の時代が作った像に過ぎない。」
「最終的に流されたしね、私たちは。」
お茶を飲みながら、自嘲気味に遠い目で2人が言うのを、遊馬は受け入れられなかった。
「でも・・・でもなんか!」
「あのな、俺達には無理だと言っているだけで、なにも諦めろとは言ってないぞ。」
「けど、僕は現実では無力で・・・。」
「なら信じろよ。俺達を信じたように、お前の『仲間』を。」
さすがモンド、かっこいいことをいう。だが煎餅を齧りながら言われては様にならない。
「・・・わかった。」
「ええ、私達はこうしてのんびりして待ってますから。」
「あれ?こっちは時間経ってる?」
「ああ、お前がいない時間が増えたな。」
「何かの影響か・・・まあいいや。」
まあいいやで済ませていい変化でもないかもしれないが、とにかく今はまあいいやで済ませていい。今はここにいるべきではない。
「・・・。」
「何かあったか?」
「いいや、何も出来なかった。」
現実の、ネプチューンの司令室に戻ってくる。数秒前と何一つ変わっていない。
「敵機、まもなく八卦島に到達!」
「対空砲、迎撃準備!艦の撤退まで時間稼ぎだ!」
冷静に指示を下すクリス司令を見て、遊馬も思うところあった。それを察したのか、クリス司令は遊馬に語りかけてきた。
「あの2人の事を、心配してくれているんだな。」
「ええ・・・シェリルはもう友達ですから。」
「そうか。なら信じよう、君の友達を、我々のエースパイロットたちを。」
まるで、すべてを見守る父のように力強く、信頼のある言葉だった。
「・・・本当の父さんのことはどう思う?」
「ちょっと黙ってて。」
「ガーン。」