ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について 作:バガン
『クソッ、ちょこまかと!』
「はいはい、鬼さんこちら!」
ガストのブースターによる加速は確かに驚異的だが、射撃に集中するあまり動きがおろそかになっている。
高機動型の機体であるが故、敵の数が少ないと特性を生かしきれない。相手は機体の特性も掴めていないと見える。
それが唯一の抜け目だ。機体のスペック差は、知恵と腕とチームワークで埋められる。
「そこ!」
『くっ・・・当てられただと?!』
シェリルが攪乱し、セシルが撃ち抜く。機体はいつものとは違いこそすれど、戦法に変わりはない。
『こうなったら、ミサイル発射!』
痺れを切らしたガストのパイロットは、虎の子の拡散ビーム発生ミサイルをバラまいてきた。
『避けきれるかーこの弾幕をッ!!』
拡散ビームと、ビームガンにレールキャノンの高密度の弾幕の余波で、残骸となったマスドライバーを完全に破壊しつくす。
「ちょっち、足りなかったね。」
『バカな・・・オレの最大の技だぞ!』
「今ですね。」
『ぐぉおおおおお!!』
回り込んだセシルが撃つ。量産型とはいえ、使っているフォノンライフルのカートリッジは同じなので、武器の威力はそう変わらない。
セシルは、自身の脳内にあった設計図から、敵機のジェネレーターの位置を割り出し、正確に狙い撃った。
爆発、炎上してガストは墜落する。
「やったか?」
「いえ、本体を切り離したようね。まだ来るわ。」
ジェネレーターのエネルギーが逆流して本体にまで伝わる前に、本体が分離するのが見えた。偶然か、はたまたそういう設計だったのか、なんにせよまだ敵は生きている。
そして困ったことに、一撃で仕留めきれなかったことが響いてくる。
『おのれら~このオレをとうとう本気で怒らせてしまったようだな~?』
敵レベリオンにとって、ガストはむしろいい拘束具になってくれていたが、それがたった今無くなった。
「一撃で倒せるんじゃなかったの?」
「計算が狂いました。」
セシルには少々見通しが甘かったらしい。けれど、まだ想定の範囲内だ。爆発に巻き込まれた以上、無傷ではいられないはず。
ガストから分離したのは、カーキグリーンの機体。ビームガンは自前の物だったようで、さらに腰にも2丁マウントしていた。
『死ねやぁ!』
「おっと!」
「プランはそのまま、今度は確実に倒します。」
「了解!」
戦い方は変わらない。が、今度の敵機は小回りが利く。
「くっ、さっきより厄介になってる!」
『生憎オレにはこっちのスタイルの方があってるんでな!そこだァ!』
「おっ!?」
間一髪、シェリル機の足元をビームがかすめた。即座に態勢を立て直すが、その先を読むようにビームが降り注ぐ。
(けど、そこ!)
『じゃなァい!』
「なにっ?!隠し腕!」
腰からアームが延びると、腰にマウントされていたガンも操り、セシル機のライフルを破壊する。
「セシル!」
『仲間の心配とは、けなげな!』
「ちぃっ!」
『そらそら!今度はこちらから行くぞ!』
攻撃手段を失ったセシルから、シェリルへと矛先を向ける。隠し腕で器用にビームガンを操り、4丁の射撃で徐々にシェリルの逃げ場を奪っていく。
「なかなか・・・テクニシャンじゃないの・・・。」
『お前、女か?女の戦士など去れ!』
「逃げられるなら逃げたいもんだけど、舐められっぱなしってのも気にくわない!」
『なら死ね!お前はオレのスコアになれ!』
「うぉっ?!」
シェリルは突然バランスを崩し、その隙を突かれて肩を撃ち抜かれ
ライフルを取り落とした。
「・・・地面に穴が。」
撃たれたことで倒れそうになるが、これをシェリルは神業的機動でバーニアを吹かし、宙返りするようにして空中でバランスを取り戻す。冷静になって地面を見て見れば、敵のビームよって地面に穴が開いていたのがわかった。シェリルはこれに躓いたというわけだ。
「シェリル!」
『すっこんでいろ!』
敵機はスケートのように滑りながらスピンし、4丁のビームガンを乱射する。
「ちーっ!なんて潤沢な攻撃!貧乏なウチとは全然違う!」
「それはあなたがしょっちゅう壊すからでしょう?」
悲しいかな、高級機と量産型ではやはりスペックに差がありすぎる。
『さあ、もう逆転の目は無いぞ。』
「逆転?そもそも追い込まれてすらいないっての。」
『既に現実が見えていないとは、愚かな!』
勿論、シェリルだってそれがわからないほどの馬鹿ではない。しかし、空にキラリと光る星が見えた時、シェリルの口角がにんまりと上がった。
「来た!ここでプランBだ!」
「プランB?聞いてませんよ!」
「言ったでしょ!機体のチェンジだ!」
「・・・!なるほど!」
シェリルが閃いて、セシルは察した。理解が追い付かないのは敵だけだ。シェリルは上空へと飛んでいく。
『何をするつもりかわからんが、隙だらけだ!』
「そうはさせない!」
『バカが!武器も持たずに!』
「レベリオンの戦いは、格闘戦にある!」
無謀にも武器を持たぬ手で敵機に殴り掛かっていた。とても頭の回る戦い方には見えないが、密着してしまえばビームガンは役に立たないし、隠し腕による攻撃は行えない。
『この・・・調子に乗るなよ!』
意外にも敵機も両手のビームガンを迷いなく捨て、セシルの拳を抑える。が、セシルもなんら臆することなく、腕を掴みなおして投げ捨てる。
『おのれェ!もう許さんぞ!』
「それはちょっと遅かったわね。」
『ぬ?』
見れば、上に向かっていたシェリル機が、まっすぐとセシルと敵のいる方向へと落ちてきている。
『ハッ、奇襲攻撃のつもりか、舐めているのか!』
隠し腕のビームガンのいい的、あっという間に狙い撃ちにされてしまい、ライトレベリオンは空中分解する。
『ハッハー!あっけないな!』
「・・・どうかな?」
『ハッ?!』
確かにライトレベリオンは撃墜された。それだというのに、セシルはいたって冷静だった。いや、1%は『してやったり』という嘲笑があったと訂正しておこう。
少し前・・・空の上ではシェリルが、光る星目指して飛翔していた。
「あったあった!ナイス角度だパトリシア!」
近くで見れば、やはりそれは見覚えのある機体だった。群青のカラーリングに星型マーキングを施した自分の愛機だ。
シェリルは攻撃を受けた瞬間、自分の機体をオート操縦で下ろしてもらうようにメッセージを送っておいたのだった。
しかし、のんびりと着陸して乗り換えていては、セシルの身がもたない。
「さて、と・・・やるの久々だし、ちょっち緊張するな。」
まず降下している愛機と乗機が向かい合うように、向きと速度を調整する。次に、決して離れにように手と手を重ねる。バランスを維持しながら、重力と上昇速度が拮抗する点を目指して2機は上昇する。
「ハッチオープン、ううっ、寒っ!」
そして、冷たい風を顔に浴びながら、両機のハッチを空ける。
「・・・来た!今!」
ゼロGの境目、速度と慣性が働かない瞬間、ライトレベリオンのコックピットを蹴って、愛機のハッチの中へと飛び込む。
「っぷっはぁ!緊張したぁ!」
まさに天にも昇るような感覚だったが、今こうして手にはレバーの感触が返ってくる。よく知る機体のクセが、安心感を与えてくれた。
「今までありがとう、さぁ・・・もう一仕事お願い!」
今まで乗っていたライトレベリオンは、地上の目標めがけて落ちていく。
「いたな!」
こちらに気づいた敵は撃ってくるが、その狙いはシェリルではなく、無人となったライトレベリオン。
「セシル!」
「ええ、今!」
『なんだと?!』
敵もこちらの狙いにようやく気付いたが、こちらの方が一歩も二歩も早い。
「チェストォオオオオオオオオ!」
『ぐぉおおおおおおおお!!』
レベリオンの基本は格闘、それを体現するだけの表現力を乗せたパンチを、セシルの抑えた敵に打ち込む。
『まだ・・・まだだぁああああああああ!!』
鈍い音を立てながら転がった敵だったが、特殊鋼カーヴニウムで出来た機体はまだ動ける。隠し腕が片方もげたが、最後の攻勢を仕掛けてくる。
「まだ殴られたいか、愚かな!」
「悪役みたいなセリフね。」
シェリルもまた、バーニアを吹かして追いかけ、格闘戦を行う。
『貴様らぁあああああ!!殺されろぉおおおおお!!』
理性を爆発させた敵は、無我夢中で拳を振り回してくる。それらを難なく制するシェリルと、一進一退の攻防を繰り広げる。
『喰らえぁあああああああ!!』
踏み込んできた敵の攻撃を一歩引くことで躱す。それを待っていたと、ビームガンの銃口を合わせる。
だがその一歩は、シェリルたちの二歩には届かない。
『なんっ・・・・だとっ・・・?!』
撃破された敵の目に映っていたのは、ライフルを構えたセシル機の姿だった。
「・・・終わった?」
「ええ、終わり。援軍が来る前に帰投しましょう。」
おそらく敵機パイロットは死んではいないだろう、けど無暗に命を奪う必要もないと判断した。
「遊馬も見ててくれたかな?私の超ファインプレー!」
「潜航してるから見てないと思うわ。」
「えー、がんばって損した・・・。」