ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について 作:バガン
さて。ヘイヴンに戻ってきたところで、ひとつ動きがあった。
「あれセシル、そのダンボールは何?」
「グッズを片づけてしまおうと思いまして。」
「え、捨てちゃうの?」
「ええ。」
聞き捨てならない話が聞こえてきたので遊馬も廊下に顔を出すと、ちょうどセシルがダンボールを抱えているところだった。
人は生きていくうえで、いろんな物を捨てていく。そのきっかけのひとつに、時間がある。
赤ちゃんから幼稚園、幼稚園から学校、学生から社会人へとランクアップしていくにつれて、いらない物、必要でなくなった物、好きじゃなくなった物も出てくる。『捨てる』という行為はなんらおかしなことではない。残酷ではあるかもしれないけど。
「なに、捨てちゃうの?」
「はい。もういらないなって思って。」
「どうして?お母さんの品なんでしょ?」
「それはそうなんですけど、私にはいらないかなって・・・。いります?」
さりとて遊馬もそんなにいらないかもしれない。
「・・・もらっとく。」
けど捨てるのは何かもったいないと、遊馬はそれを受け取ってしまった。
さて、一旦はセシルの部屋に置くことが出来たグッズの山が、結局戻ってきて元の木阿弥だ。遊馬もダンボール箱を開けることなく、また元の位置に戻してしまった。
こうして部屋には物が溢れていくことになる。今は少ないけど、今度で駆けたらゲームをいくつか持ってくることになるし、ちょっと考えないといけない。
「でも、どうして今になって捨てようと思ったの?」
「私自身に思い入れがあるわけでもないですし、それに子供のやるものですし、卒業かなって。」
「現実をナイフのように突きつけるのはやめて。」
「ナイフだって正しく使えば便利なのに。」
ナイフを使えば手でちぎるよりも綺麗に切り分けることが出来る。人生の節目節目で、キッチリ決断をすませることが出来れば、後腐れなく前へ進めるというわけだ。
「未練とか無いの?」
「無いわけではないですが・・・私にはラッピーに対して思い入れが無いので。」
「じゃあ、このカセットも貰っていいね?もう4面ぐらいまでクリアしたけど。」
「いいですよ。元はそれがきっかけですし。」
「あ、なんか悪かったかな・・・。」
「いいんです、むしろ踏ん切りがつきました。」
変な形で背中を押してしまったかな。
「ところで、遊馬はセシルに話があるんじゃなかったっけ?」
「え?今言う?」
「なんですか?」
「えーっと・・・今ちょうどタイミングが悪すぎる気がするけど。アッピーのことをおすすめしようとしてたんだけど。」
「ちょうど今間に合ってますね。」
「だよねー、でもなあ。」
今さっき断捨離したばかりのものを勧めるわけにもいかない。さりとてラッピーに対してなんの感情移入もしていないというのを見ると、なんとかしたいという気持ちが出てくる。
「なら無理に勧めることもないんじゃない?行き過ぎると余計に嫌いになっちゃうよ?」
「そうですね、ハッキリ言ってあんまりですし。」
「ぐっ・・・そうか、迷惑だったかな。ごめんなさい。」
「じゃああれ、あのぬいぐるみも捨てちゃうの?」
「あれは・・・残しておきます。」
別にラッピーに対して思い入れが無いというだけで、あのぬいぐるみに対しては別に愛着がある。それでいいだろう。
「じゃあ、ラッピー以外を勧めてみたら?セシルってどういうゲームが好きなの?」
「ゲーム・・・頭を使うのは得意ですが、そのリソースを実戦のために使いますので。」
「だろうね。ひとつ、軍師として兵を動かすシミュレーションゲームとかはどう?」
「シミュレーションですか・・・。」
様々な兵種を選別して、好きに配置して様々な手で攻略できる自由度がウリな『トロフィーウォーズ』とかをオススメするが。
「それもまた今度で。そろそろ出発の準備が整う時間です。」
「あれ、もうそんな時間?」
「そうよ、準備してないのはあなただけ。」
「ごめんごめん、すぐ支度するから。じゃ、遊馬。この任務が終わったら・・・わかってるよね?」
「うん。また。」
シェリルは投げキッスをして去っていく。
「・・・一体あなたのなにが、彼女をあんなに『その気』にさせているんでしょうか?」
「それは僕が知りたい。」
生憎セシルの疑問に答えることはできなかった。セシルもまた、答えが返ってくると思っていなかった。
「しいて言うなら、一緒に遊んで楽しいってこととかかな?あと年下好きだとも。」
「私も年下のはずなんですが・・・。」
「シェリルともっと仲良くしたいんですか?」
「まあ、ね。なにか一緒に遊べるゲームとかありますか?」
少なくとも双六ゲームはオススメしない。あれには友情を崩壊させうる、人間の黒い一面を露出させる要素が多様に含まれている。
「その辺もまた吟味して探してみるよ。」
「期待してますね。」
「・・・二人協力プレイだとアレが楽しいんだけどな。」
「アレとは?」
「『月ウサギのラッピー スイーツバスケット』。」
ハードを移し替えること、据え置き機の『スーパートロフィー』における一本。ラッピーゲームの中でも名作中の名作と言えるのがこの『スイーツバスケット』だ。その名の通り、様々なゲームがこの一本に集約されており、協力、対戦、おひとり様でもとことん楽しめる。バグでデータがよく消えるのはご愛敬。
「また、ラッピーですか。」
「うん、難易度も易しめだし、これは本当にゲーム初心者にもオススメなんだ。」
「そこまで言うのなら、それを探してきてくれますか?あ、勿論無理のない範囲内でですが。」
「OK、家にあるから、今度出かけた時に取りに行く。」
もとよりそのつもりだった。
「くれぐれも後をつけられないように、気を付けて。」
「危険度で言えば、そっちの方こそ。気を付けて。」
「ええ、策は講じてあれど、それでも100%完璧とは言えませんが。」
「信じてるから、2人のことも、みんなのことも。」
「ありがとうございます。」
遊馬には信じて待つしか出来ない。さしあたって、どんなゲームを持ってくるか考えを巡らせておくか。