ダークリリィ:ゲーマーの僕が有名ゲームキャラたちと同じ空間に詰め込まれた件について   作:バガン

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第72話

 さて。ヘイヴンに戻ってきたところで、ひとつ動きがあった。

 

 「あれセシル、そのダンボールは何?」

 「グッズを片づけてしまおうと思いまして。」

 「え、捨てちゃうの?」

 「ええ。」

 

 聞き捨てならない話が聞こえてきたので遊馬も廊下に顔を出すと、ちょうどセシルがダンボールを抱えているところだった。

 

 人は生きていくうえで、いろんな物を捨てていく。そのきっかけのひとつに、時間がある。

 

 赤ちゃんから幼稚園、幼稚園から学校、学生から社会人へとランクアップしていくにつれて、いらない物、必要でなくなった物、好きじゃなくなった物も出てくる。『捨てる』という行為はなんらおかしなことではない。残酷ではあるかもしれないけど。

 

 「なに、捨てちゃうの?」

 「はい。もういらないなって思って。」

 「どうして?お母さんの品なんでしょ?」

 「それはそうなんですけど、私にはいらないかなって・・・。いります?」

 

 さりとて遊馬もそんなにいらないかもしれない。

 

 「・・・もらっとく。」

 

 けど捨てるのは何かもったいないと、遊馬はそれを受け取ってしまった。

 

 さて、一旦はセシルの部屋に置くことが出来たグッズの山が、結局戻ってきて元の木阿弥だ。遊馬もダンボール箱を開けることなく、また元の位置に戻してしまった。

 

 こうして部屋には物が溢れていくことになる。今は少ないけど、今度で駆けたらゲームをいくつか持ってくることになるし、ちょっと考えないといけない。

 

 「でも、どうして今になって捨てようと思ったの?」

 「私自身に思い入れがあるわけでもないですし、それに子供のやるものですし、卒業かなって。」

 「現実をナイフのように突きつけるのはやめて。」

 「ナイフだって正しく使えば便利なのに。」

 

 ナイフを使えば手でちぎるよりも綺麗に切り分けることが出来る。人生の節目節目で、キッチリ決断をすませることが出来れば、後腐れなく前へ進めるというわけだ。

 

 「未練とか無いの?」

 「無いわけではないですが・・・私にはラッピーに対して思い入れが無いので。」

 「じゃあ、このカセットも貰っていいね?もう4面ぐらいまでクリアしたけど。」

 「いいですよ。元はそれがきっかけですし。」

 「あ、なんか悪かったかな・・・。」

 「いいんです、むしろ踏ん切りがつきました。」

 

 変な形で背中を押してしまったかな。

 

 「ところで、遊馬はセシルに話があるんじゃなかったっけ?」

 「え?今言う?」

 「なんですか?」

 「えーっと・・・今ちょうどタイミングが悪すぎる気がするけど。アッピーのことをおすすめしようとしてたんだけど。」

 「ちょうど今間に合ってますね。」

 「だよねー、でもなあ。」

 

 今さっき断捨離したばかりのものを勧めるわけにもいかない。さりとてラッピーに対してなんの感情移入もしていないというのを見ると、なんとかしたいという気持ちが出てくる。

 

 「なら無理に勧めることもないんじゃない?行き過ぎると余計に嫌いになっちゃうよ?」

 「そうですね、ハッキリ言ってあんまりですし。」

 「ぐっ・・・そうか、迷惑だったかな。ごめんなさい。」

 「じゃああれ、あのぬいぐるみも捨てちゃうの?」

 「あれは・・・残しておきます。」

 

 別にラッピーに対して思い入れが無いというだけで、あのぬいぐるみに対しては別に愛着がある。それでいいだろう。

 

 「じゃあ、ラッピー以外を勧めてみたら?セシルってどういうゲームが好きなの?」

 「ゲーム・・・頭を使うのは得意ですが、そのリソースを実戦のために使いますので。」

 「だろうね。ひとつ、軍師として兵を動かすシミュレーションゲームとかはどう?」

 「シミュレーションですか・・・。」

 

 様々な兵種を選別して、好きに配置して様々な手で攻略できる自由度がウリな『トロフィーウォーズ』とかをオススメするが。

 

 「それもまた今度で。そろそろ出発の準備が整う時間です。」

 「あれ、もうそんな時間?」

 「そうよ、準備してないのはあなただけ。」

 「ごめんごめん、すぐ支度するから。じゃ、遊馬。この任務が終わったら・・・わかってるよね?」

 「うん。また。」

 

 シェリルは投げキッスをして去っていく。

 

 「・・・一体あなたのなにが、彼女をあんなに『その気』にさせているんでしょうか?」

 「それは僕が知りたい。」

 

 生憎セシルの疑問に答えることはできなかった。セシルもまた、答えが返ってくると思っていなかった。

 

 「しいて言うなら、一緒に遊んで楽しいってこととかかな?あと年下好きだとも。」

 「私も年下のはずなんですが・・・。」

 「シェリルともっと仲良くしたいんですか?」

 「まあ、ね。なにか一緒に遊べるゲームとかありますか?」

 

 少なくとも双六ゲームはオススメしない。あれには友情を崩壊させうる、人間の黒い一面を露出させる要素が多様に含まれている。

 

 「その辺もまた吟味して探してみるよ。」

 「期待してますね。」

 「・・・二人協力プレイだとアレが楽しいんだけどな。」

 「アレとは?」

 「『月ウサギのラッピー スイーツバスケット』。」

 

 ハードを移し替えること、据え置き機の『スーパートロフィー』における一本。ラッピーゲームの中でも名作中の名作と言えるのがこの『スイーツバスケット』だ。その名の通り、様々なゲームがこの一本に集約されており、協力、対戦、おひとり様でもとことん楽しめる。バグでデータがよく消えるのはご愛敬。

 

 「また、ラッピーですか。」

 「うん、難易度も易しめだし、これは本当にゲーム初心者にもオススメなんだ。」

 「そこまで言うのなら、それを探してきてくれますか?あ、勿論無理のない範囲内でですが。」

 「OK、家にあるから、今度出かけた時に取りに行く。」

 

 もとよりそのつもりだった。

 

 「くれぐれも後をつけられないように、気を付けて。」

 「危険度で言えば、そっちの方こそ。気を付けて。」

 「ええ、策は講じてあれど、それでも100%完璧とは言えませんが。」

 「信じてるから、2人のことも、みんなのことも。」

 「ありがとうございます。」

 

 遊馬には信じて待つしか出来ない。さしあたって、どんなゲームを持ってくるか考えを巡らせておくか。


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