人が死ぬことも監禁エンドもありませんので
なぜ観に来られないのか問い詰められたりしたが、知り合いと会うことになったとだけ答えてあとはスルーしていれば。
納得いかないながらも渋々引き下がっていった。
そしていま現在、コンビニでアイスなどを買ったりして駐車場で寛いでいたのだが。
「千歌ちゃん、一回だけ試してみない?」
「へっ? でもら優くんが変な癖になるって」
「一回だけなら試してみればいいよ。場所が変わってできる場合もあるし」
「ほら、優くんもこう言ってるし」
優くんは曜ちゃんにだけ優しいから不公平だよ、とブツブツ言いながらも千歌は立ち位置につき、準備できたとこちらを見て頷く。
そして曲が流れ始め、今まで失敗していたところにさしかかり。
「──できたっ!」
「うんっ! やったね!」
失敗することなく終わり、千歌と曜は手をとって喜び、一年生らも凄いと手を叩いている。
「曜はそれで満足なの?」
コンビニを後にし、今は曜と二人きりとなっていた。
だから前置きとかなく直球で聞いていく。
「やっぱり、優くんには分かっちゃうか」
「幼馴染だからね。ずっと一緒に居たんだ。そりゃ分かるよ」
曜は少し悲しそうに微笑むだけで何も言ってこなかった。
「あいたっ」
少し腹が立ったのでデコピンをする。
額を抑えながら上目遣いにこちらを見てくる曜に、くすりと笑みが漏れる。
「曜の幼馴染、僕以外にもいるでしょ?」
「千歌ちゃん……が、どうかしたの?」
成功した時に果南が居なかったからだろう。
少し迷っていたが、千歌の名前だけを出した。
「僕でも気が付いたんだから、一緒に踊ってた千歌が気付かないわけないよね」
「でも、千歌ちゃん喜んでたし……」
それを聞いた僕はきっと今、ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべているだろう。
「あっ! 優くん、意地悪の時の顔してる!」
何を企んでるのか聞かれ続けたが、僕はずっとニヤニヤと笑っているだけだった。
☆☆☆
翌日、僕は朝から新幹線に乗って東京へと来ていた。
あまり物欲がなく、お小遣いやお年玉を貯めていたからいいのだが、最近の交通費が馬鹿にならない。
そういえば寝た後に曜から連絡が来ていた。
梨子と電話をした後、千歌がやってきてダンスを二人のものとして完成させたこと。
こうなる事が分かっていて、意地悪な笑みを浮かべていたのかといった問い詰めまで。
「待たせたかしら?」
「いんや、あんまり」
返事を送った後、もう一度読み返して笑っていると声をかけられる。
そちらに目を向ければ、ここ数年で美しさがさらに際立ってきた真姫が立っていた。
「久し振りね」
「うん。今日はありがとね。無理聞いてもらって」
「別に大した事じゃないわよ。……それより、変わったわね」
僕を真っ直ぐ見てそう問いかけてくる真姫に微笑んで返す。
少し顔を赤くしてそっぽを向いてしまうが、その横顔の笑みはなんだか喜んでいるように見える。
「あまり深くは聞かないんだね」
「何があっても優がμ'sの十人目である事に変わりは無いんだもの。彼女さえ勝手に作らなければ後は十分よ」
最後の部分に少し引っかかりを覚えるが、今の僕にとって嬉しいことを言ってくれる。
それに後から恥ずかしくなってきたのか、赤かった顔がさらに真っ赤となっていた。
「そろそろ向かおうか」
「え、ええ。もういい時間だものね」
ここで下手に突っつくと真姫は拗ねてしまうので引き際が肝心だ。
本人もそれを分かっているからか、僕に合わせてくれる。
けど、そろそろ向かわないと本番前の梨子に会う事ができない。
エールを送るためにも少し急ぎ気味でピアノコンクールの会場へと向かうのだった。