「なんだか優くんには未来が見えてるんじゃないかって、たまに思うんだ」
途中、唐突に曜がそのような事を口にしたが、すぐにそんな事あるはず無いのにね。と付け加えて笑っていた。
「でも、私たちをどこかへ導いてくれようとしている」
それだけはちゃんと伝わっているよ。
最後まで言葉にしなくても目を見てなんとなく、そう言いたいような気がした。
「内浦が好きで、学校が好きで。千歌ちゃんやAqoursのみんなが好きで…………優くんが好き」
足を止めた僕より一歩前に出た曜が振り向く。
「他も大事。だけど全部の好きを合わせても優くんの好きが大きいの」
僕の頰へと手を当て、親指で唇をなぞり。
「んっ」
舌を入れてくることはなかったが、触れている唇は何かを味わうように動かしている。
数秒か、数十秒か。
短くない時間をキスして満足したのか、曜は僕から離れていく。
「優くん、好き。…………優くんはこんな事する私のこと、嫌い?」
「嫌いじゃ無いよ」
「うん。嬉しい。……またね、優くん」
手を振って別れ、歩いていく曜の背中を見つめる。
曜は少し狡い聞き方をした。
でも、曜にとっては僕から嫌われている事が何より嫌なのかもしれない。
仮に好きかと聞かれていれば、僕は好きだと答えていた。
だがそれは恋愛感情での好きじゃない。
なら恋愛感情でみたらどうなのかと聞かれれば。
僕はその答えが分からないでいた。
☆☆☆
学校で正式に統廃合が決まったことを伝えられ。
入学説明会のポスターを回収している時に聞こえてきた話が千歌の中でぐるぐると回っていた。
「私たちがとっくになんとかしてる、かぁ……」
「綺麗な夕焼けね」
砂浜で黄昏ている千歌を見つけた梨子がやってきて声をかける。
「こうなったのはもちろん残念だけど、ここまで頑張ってこれて良かったなって思ってる」
チラリと一度見ただけで反応がない千歌の事は気にせず、砂浜をしっかり踏みしめるように歩を進めながら話を続けていく。
「東京とは違って、こんな小さな海辺の町の私たちが良くやってこれたなって。きっと優くんの力も大きいんだろうけど」
「…………それ、本気で言ってる?」
ここまで頑張ってこれて良かった。
良くやってこれた。
もう満足だと言わんばかりのセリフに、千歌は手に力がこもる。
「本気で言っているんだったら私、梨子ちゃんのこと軽蔑する」
千歌はまだ自身の気持ちに気付いていないが、梨子からは千歌がどうしたいのか分かっていた。
だからこそ先ほどのセリフなわけだが、もしそうだね、なんて事を言おうものなら梨子は千歌のことを引っ叩いていただろう。
「がおーっ! ビーッ、どっかーん! 普通怪獣リコッピーだぞ! リコちゃんビーム!」
「…………ふふっ」
「こんな感じだったっけ。私と千歌ちゃんが会った頃の」
「……うん」
いきなりの事でどうかしたのかと驚くが、それは会った頃に千歌が梨子へとやった事だと気付いて笑みが漏れる。
「幼馴染だっていう男の子といきなり顔合わせさせられた時は驚いたし、一年生がAqoursに入って、その男の子──優くんがマネージャーになって」
「うん」
「三年生が加わって、ゼロを1にできて」
「うん」
「これからだって時なのに、これでいいなんて思ってない。思えるわけがない」
声にだんだんと力が入っていくのに気付き、千歌は顔を上げて梨子を見る。
「私だってAqoursのメンバーよ。みんなとこれから一緒に歌っていこう。そのために曲もいっぱい作ろうって思ってた。みんなと優くん、十人で話し合って、今より良いものを作っていって……」
「梨子ちゃん……」
目に涙を溜める梨子から目を逸らした千歌は膝の間へと顔をうずめる。
「でも、どうすればいいか分からないよ……。どうすればいいの……」