「ダメ?」
「今でも地方予選は十分通じるはず。リスクを負う必要ある?」
「ただ決勝に行くだけじゃ無理なんだよ。地方予選のライブが期日前最後のライブになるんだから」
一週間で二人もみんなに追いついたのはいいんだが、毎回梨子が恍惚な表情で僕を見てくる。
その度にヨハネから聞いたことを思い出すのだが……。
それは置いといて。
現在、果南と地方予選で披露する振り付けで揉めていた。
三年生がスクールアイドルをやっていたときに作っていた振り付けが良いのでそれをやろうと言ったはいいものの、過去にマリーが怪我しているため、果南が首を縦に振らない。
「だからって一人に負担をかけるわけにはいかないよ!」
それじゃあなんでこの振り付けを考えた。
そう反射的に言ってしまいそうになるが、グッと抑え込み。
色々と言いたい気持ちをため息に変えて吐き出し、千歌を見る。
「どうする?」
「へっ?」
「やるか、やらないか。決めて欲しい。これをやる事になるのは千歌だから」
「千歌。無理してやらなくていいんだよ」
僕と果南。
左右から僕らに詰め寄られ、目をあっちこっちに動かす千歌。
「ゆ、優くんは……私に出来ると思う?」
「出来ないことを無理強いさせたりはしないよ」
「そっか」
えへへ、と嬉しそうに微笑んだ千歌は果南へと向き直る。
「果南ちゃん。私ね、みんなと違って普通だし、何もないと思ってたの。……でも、色んなことがあって、今までやってきて。私にも何かあるんじゃないかなって」
「……千歌」
「だから私、やりたい!」
真っ直ぐな目でやる気を伝えられ、果南が折れた。
「千歌がやるっていうなら諦めるよ。でも、出来るの?」
「出来るの? 優くん」
「……練習すればね」
「怪我をしないこと。振り付けの合わせもあるから、明日までに出来るようなってないと変えるからね」
「うん! やるよ!」
勝手に返事をするな。
果南も三日は余裕があるはずなのに一日とは言ってくれる。
でも、運動神経がそこまで悪いわけじゃないし、出来ないわけじゃないから大丈夫か。
きちんと体の動かし方さえ教えれば問題ない。
一日とか言いつつ、翌朝の日の出前に出来るかの確認に来るあたり意地が悪いと思う。
一度、怪我させてるからトラウマがあるのも分かるが、果南がそこまで臆病になるとは思えなかった。
体の動かし方を教えても出来るようになったのはつい先ほどだ。
夜通し眠らずやっていたため、若干テンションがおかしくなっている気がする。
そもそもなぜ砂浜で練習しているのだろうか。
足を砂に取られるうえに本番は床だ。
みんなが見守る中、無事に成功させた千歌を眺めながらそのような事をつらつらと考えていた。
「おーい」
「優くん?」
「寝てるずらか?」
「…………ん?」
気付けば日も少し高くなり、みんなが僕を囲んでいた。
どうやら寝ていたらしい。
「……千歌、風呂と布団貸して」
「うん、それはいいけど、大丈夫?」
「ただ眠いだけだから……。ああ、みんなも今日一日は休みにしよう」
重い体をなんとか動かして立ち上がるけども、眠気ですぐに倒れそうだ。
目を覚ました時、夕日が部屋の中を照らしていた。
千歌の部屋のベッドで寝ていたらしいのだが、シャワーを浴びて叔父さんの服を着たところまでは覚えているのけど……。
はて、どうしてここで寝ているのだろうか。
なんだか口の周りもべたついているし、顔を洗いたい。
「あ、優くんおはよう!」
今度は寝すぎと軽度の脱水で体が重い。
立ち上がろうとした時、襖を開けて千歌が入ってくる。
話を聞けばさっきまでみんなも寝ていたらしい。
見送って戻ってきたところだと。
そう言われてみれば布団がいくつか敷かれていた。
「そういえば、梨子ちゃんが忘れ物を取りに一回戻ったんだけど、何忘れてったのかな?」
「いや、俺に聞かれても分かんないんだが」
「それもそっか」
あはは、と笑う千歌から視線を外し、ベタつく口の周りを指で触れる。
…………まさかね。