千歌がきちんと決めたことから、みんなの意識が変わったのか。
日を追うごとに目を見張るほど精度が上がっていった。
気持ちだけじゃ世の中どうしようもないが、気持ちと実力が合わさった時、こうまでなるのかと感動を覚える。
「明日は地方予選本番だし、疲労残さないようここら辺でやめとこうか」
ストレッチと、通しで三回ほど踊って今日は終わりにした。
みんなまだ体を動かしたそうにしていたが、それは明日まで取っているよう伝える。
部室でミーティングを行い、解散。
……したはいいのだが。
「久し振りに優くんを感じている気がするよ」
残った部室で曜から抱きしめられていた。
時折、キスも求めてくるのは今まで我慢していた分を取り戻しているように感じる。
「ねえ、優くん」
「ん?」
「今までのお詫びも含めて、なんでもしてくれる約束、覚えてる?」
「覚えてるけど」
0票からやる気を持ち直し、僕がマネージャーとして加わった日。
曜とそんな約束をした。
「あの約束、廃校かそうじゃないか、決まったあと伝えるね」
「ああ」
満足そうに頷いた曜はまたねと言って帰っていった。
僕も最後に戸締りして帰ろうかと思っていたが、変な疲れを感じてイスに座り背を預ける。
「……帰ったんじゃ?」
曜が出ていった方とは反対、体育館へと通じるドアが開いてヨハネが入ってくる。
「ちょっとした忘れ物よ」
カバンをテーブルへ置き、自然な動作で僕の膝に対面で腰掛ける。
肩に置かれた手が震えていた。
「ありのままを受け入れてくれた優が。ありのままでいいと言ってくれたAqoursが。この学校に通う日常が、私は好き」
「ヨハネ……」
「…………無くならないわよね?」
不安そうな顔を見て、僕はヨハネを思わず抱きしめた。
ハグはストレスを軽減する効果があると聞いている。
それを除いても、なんだかこのままでは壊れてしまいそうな気がして──。
「初めて優から抱きしめてくれた」
ヨハネの顔は見えないが、笑っていることだけは分かった。
離れようにもしっかりと抱きしめられているため、それも叶わない。
「優、さっきまでのは別に演技でもなんでもない、本当のことよ。でも、今はそれ以上に優から抱きしめてくれたことが嬉しいだけ」
マーキングするかのように首元へ甘く噛み付いてくる。
歯というよりは唇で挟むような感じであり、慣れない刺激に体が反応してしまう。
「汗、かいていたのね。少ししょっぱいわ」
「汚いからやめた方がいい」
「別に汚いとは思わないわよ」
首筋をなぞるよう舌を這わせるヨハネに、僕はされるがままだった。
「この堕天使ヨハネ。明日のライブ、今までで一番いいのを見せてあげるわ」
最後にキスをして満足したのか、そう宣言してヨハネは帰っていった。
さらに疲れが酷くなった僕はテーブルへと突っ伏す。
少しだけ、このまま寝てしまおう。