君が好き   作:不思議ちゃん

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 宿によくある謎空間に置かれているイスに座り、部屋を見回す。

 つい先ほどまで騒いでいたのが嘘かのようにしんと静まり返り、皆寝ている。

 

 朝から変な格好で集まろうとしていたり、東京着いたら着いたでアイドルショップやらを見回ったりと精神的にも肉体的にも疲れる一日であった。

 

 缶コーヒーをあおり、窓越しに月が浮かぶ空を見上げる。

 

「…………散歩でも行くかな」

 

 疲れてはいるが、自身のペースで歩く分なら問題ないだろう。

 夜風に当たりながらボーッと歩くのも悪くない。

 

 さて、と。立ち上がろうとした時。

 

「なら、私も連れてってくれる?」

 

 さっき見た時は全員寝ていたはずなのに、そこにはヨハネが立っていた。

 月明かりもあり、自分で言うだけあって美少女だ。

 不覚にも見とれてしまった。

 

「なによ。私の顔に何かついてる?」

「……いんや。何でもないよ。明日に響くし、寝なくていいの?」

「夜こそ堕天使である私が過ごすに相応しい時間。今、目覚めたと言っても過言ではないわ」

「そう、なら座ったら? 明日に響くし散歩はやめよう」

「…………そう」

 

 対面のイスを勧めたら意外にも大人しく腰掛ける。

 夜の街に繰り出したいと思っていたのだけれど、案外明日のライブのことを考えてるのかもしれない。

 

「何か飲む?」

「コーヒーブラックで」

「寝れなくなるから水ね」

「優は飲んでるのに?」

「応援するけど僕がライブ出るわけじゃないから」

「ま、いいわ」

 

 僕からペットボトルを受け取ったヨハネは水を一口飲み。

 

「優、あんた私と……ううん。Aqoursのメンバーともそう。二人きりになろうとしないわよね?」

「そうかな?」

「私は顔合わせしてから日が浅いけれど、何となくそんな気がしたのよ。さっきの散歩だってそう。納得できるそれっぽい事を言って避けてる……と思う」

 

 途中までは自信ありげに話していたが、確かな証拠がないためか、最後は自信なさげであった。

 ヨハネが言ったことは間違ってないのだが、それをわざわざ教える気はない。

 

 それにしても、本当にこの子はよく周りを見ている。

 頭の回転も早いし、運動神経だって悪くない。

 全てを厨二で打ち消してる感があるけれども、人によってはそれすら魅力だ。

 現に僕がそうなわけだし。

 

「別にそんな事無いと思うけど」

「そう、ならいいわ。仮にそうだったとしても何かあるわけでも無いし」

 

 もとより僕が正直に認めるとも思っていないのだろう。

 あっさりと引き下がっていった。

 

 水を半分ほど飲んだヨハネは寝るのか、イスから立ち上がって布団へと向かう。

 

「ねえ」

「ん?」

 

 僕に背を向けたままであるためどのような表情をしているのか分からないけれども、ヨハネにとって何か大事な事を話そうとしているのは伝わってくる。

 

「私はあんたのこと、それなりに認めているわ。あまり話したこともないけれど、私が勝手にそう思うほどの不思議な何かがあるような気がするの」

 

 そこで一度区切ったヨハネは一呼吸おき、続きを口にする。

 

「あんたは私のリトルデーモンなんだから。何か悩んでるなら相談しなさいよ! ……おやすみ!」

 

 最後はまくしたてるように言い切り、布団へと潜っていった。

 髪からのぞいて見えた耳が真っ赤だったため、恥ずかしい事を言っている自覚があったのだろう。

 

 微笑ましくはあるのだが、何故それ程までに好感度が高いのか引っかかる。

 ヨハネ自身が言っている通り、それほど会話をしたことがあるわけでもない。

 

 質問といい、最後に言い残した事といい、僕が何かを抱えてる事は気付いているのだろう。

 

「…………」

 

 僕は人の機微を察することが出来るほど鋭いとは思っていない。

 ヨハネだけじゃなく、他の子たちだってそうだ。

 だからここで考えていても答えなんて出ないのだが、後回しにしても大丈夫な問題なのかと考えたら悩ましいところ。

 

 けど結局はどうしようもない事に変わりはないのだから、後回しにする他ない。

 障子を閉め、空き缶……は明日捨てるか。

 

「…………?」

 

 曜が寝てる向き変わっている気がするけど、起きてる様子はないし、寝相か。

 一番端の、皆とは少し離れた布団へ入り込み目を瞑る。

 

 …………明日の彼女たちに幸あれ。




恋愛は梨子のピアノコンクールから本格化していきます

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