Re:緋弾のアリア   作:Sinku

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第1話です!


緋弾のアリア
1.


————空から女の子が降ってくると思うか?

 

本来なら映画でしかあり得ないような不思議で特別なプロローグ。

俺はそんな状況に出会ったとき本当の意味での正義の味方として歩み始めたのかもしれない。

 

 

*

 

 

…ピン、ポーン…

 

 

慎ましいドアチャイムの音で、目が覚める。

枕元の携帯に手を伸ばし、時刻を確認すると——朝の7時だった。

 

(いけね、ちょっと寝過ごしちまったな…)

 

本来なら最近始めたばかりの朝の鍛錬の時間である。

まあ、まだ習慣化できてないからしょうがないか。

 

(ってもこんな朝っぱらから、誰だ…?)

 

特に約束もしてないし、朝早くに尋ねてくるような知り合いもいないので、心当たりがない。

その事実に少し傷つきながらも、ゆっくり身体を起こす。

まああると言えばあるが、あいつは確か今合宿中のはずた。

壁に掛けてあるワイシャツとズボンを履き、玄関に向かう。

 

(いや、けどやっぱあいつだよなぁ…)

 

先程のチャイムの慎ましさには覚えがあるため、半ば確信しながらもドアの覗き穴から外を見た。

 

「……ゔ」

 

やっぱりか。そこには俺の幼馴染である星伽白雪が立っていた。

白雪はそわそわしながら、漆塗りのコンパクトを覗きこみ、せっせと前髪や身嗜みを直している。

一通り直した後、納得がいったのかコンパクトを閉じた。

すると、おもむろにすぅーっはぁーっと深呼吸を始める。

何がしたいんだか…全く訳がわからん。

 

(まあ、訳の分からんのはいつもどおりか…)

 

 

——ガチャ。

 

 

「白雪」

 

俺が名前を読むと慌てて深呼吸を辞め、俺に向き直る。

 

「キンちゃん!」

 

何が嬉しいのか俺の姿を見た瞬間にぱぁと顔を明るくし、いつものように呼んできた。

 

「はぁ、その呼び方前に辞めろっていっただろ」

 

この呼び方子どもっぽくてあんま好きじゃないんだよ。

まあ、何度言っても治らないから放置してしてんだけど。

 

「あっ…ご、ごめんね。キンちゃんを見たらつい、あっ、私またキンちゃんをキンちゃんって…ごっ、ごめんね、キンちゃん、あっ、また」

 

キンちゃんキンちゃんと連呼するためゲシュタルト崩壊を起こしそうである。お前は治す気があるのかないのか。

はぁ、と俺が溜息をつくと、口を押さえみるみる顔が蒼白になっていく。

だが慌てながらも立ち姿は凛としており、良家のお嬢様のような印象をいだかせる。

さすがは星伽神社の現職巫女さんだ。相変わらず、絵に描いたような大和撫子だよ。

 

「前にもいったろ。飯とか世話してくれんのは助かるけど、ここは仮にも男子寮だぞ。女子が軽々しくきていい場所じゃない。」

 

そう言うと白雪は両手の指をつんつんし始め、

「あ、でも、その私、昨日から合宿で伊勢神宮に行ってて…キンちゃんのお世話、何にもできなかったから」

 

「そんな頻繁にしにこなくていいって」

 

白雪は一年の頃から飯を作ってきたり、掃除しに来たりと俺の世話をするためによく家に訪れていた。

最初は嫌だったんで、追い払っていたんだが、追い払っても毎日くるわ、泣きそうになるわで、とうの昔に諦めた。

 

(まあ、飯は美味いし、掃除してくれるから助かってはいるんだけどな…)

 

「……で、でも…キンちゃんに会いたかったし、その…すん…すん…ぐす」

 

いかん、このままだとまた変な噂がたっちまう。

只でさえ、男子寮の部屋を女子が尋ねてくる事自体がタブーなんだ。しかも部屋の前で女子を泣かせる姿が見られたら何を言われるかわかったもんじゃない。

それに武偵校教師陣、とくに綴や蘭豹なんかにバレて見ろ。拷問された挙句に蘭豹と戦わされ、ズタボロのまま簀巻にされ海に放り込まれない。

 

「あー、もうわかったわかった!だから泣くなって」

 

目を潤ませ泣きそうになる白雪をみて溜息をつきながらも、自身の身の安全の確保のため、部屋に上げてやることにする。

 

「お…おじゃましますっ」

 

そう言うと90度くらいの深いお辞儀をしてから、玄関に上がる。

 

(俺の部屋に上がるだけなのに、何が嬉しいのやら…)

 

白雪は先程の様子とはうって変わり、心の底から嬉しそうな雰囲気だ。

泣きそうだった顔は笑顔に変わり、俺をチラチラと嬉しそうにみてくる。不思議にも白雪の周囲が桃色になり、花がふわふわと舞っているような幻覚が見える。

よし、藪をつついて蛇を出したくないので、放置しておこう。

そう心に決め、白雪をほっておいてそのままリビングに向かう。だが白雪は俺の後をピッタリとついてきていた。いや、近い近いッ!

 

「はあ…。んで、今日はどうしたんだ?」

 

そう言いながら、リビングの座卓の脇にどっかりと腰を下ろす。

 

「えっと、そっ、その…これ!」

 

白雪はふわりと俺の隣に正座すると、抱えていた和布の包みを卓におろし、俺に差し出してくる。

近いって、もう少し離れてくんないかな。

かなり近い距離に座られため、舞った髪から白桃のような白雪の香りが俺の鼻に入ってきた。

 

(うっ…)

 

その匂いに顔を顰め、鼻呼吸を停止し匂いをシャットアウト。

即座に口呼吸に切り替え、白雪スメルの進行を阻止する。

傍にいる俺がそんな状態とはつゆ知らず、差し出してきた包みを白雪は丁寧解いていく。

包みの中にはなんとも高級そうな漆塗りの重箱があった。

そのまま俺に箸を渡し、旅館の女将のような手つきで蒔絵つきのフタをパカリと開く。そこには所狭しと詰め込まれ、食欲をダイレクトに刺激する料理の数々があった。

ふんわり柔らかそうな玉子焼き、向きが揃ってあるエビの甘辛煮、脂がのって肉厚な銀鮭、西条柿といった豪華食材と白く光るごはんが輝きながら並んでいる。いかん、朝飯がまだだから腹が減ってきた。

それに正直めちゃくちゃ美味そうだぞ。コンビニ弁当しか食べてなかったので余計美味そうに見える。

 

「いや、けどこれいつも作ってくれる飯より豪華じゃないか…作るの大変だったんじゃないか?」

 

いつも白雪が作ってくれる飯の5割増し位には気合いが入っているように見えた。

まあ明らかに使われてる食材も高級なやつばっかだしな。

 

「う、ううん、そんなことないよ。けど、その、キンちゃん、ずっとコンビニのお弁当しか食べてないんじゃないかなって…そう思ったら心配になっちゃって…」

 

「……。」

 

図星であったため何も言えなくなる。

まあ実際のところコンビニ弁当ばっかで飽きてたところだ。

ここは有難く頂こう。白雪の飯旨いし。

幸せそうに頰を緩め何も言わず見てくる白雪の視線に耐えながらも、米粒一つも残さずに完食する。やっぱ白雪の飯は美味いな。ただ何も言わずに視線を向けるのはやめてくれませんかね?そんなことを思ってたらふと罪悪感を感じた。

 

(あー、そうだ、最近礼の一つもいってなかったな…)

白雪が押しかけてきているとは言え、助かっているのは事実だ。礼は言っとかないとな。

 

「あー、白雪、ご馳走さま。美味かったよ。それといつもありがとな。」

 

白雪に向き直りながら、そう言った。

そう言うと白雪はキョトンとした顔をし、動きを停止した。

数秒後、再起動を果たすと

 

「えっ。あ、っその、キンちゃんもありがとう…ありがとうございますっ」

 

そう三つ指をつきながら、言ってきた。

 

「いや、何でお前がありがとうなんだよ。助かってるのはこっちだからな」

 

そうぶっきら棒に返す。礼を言って恥ずかしくなり俺はそっぽを向いた。

 

「てか、その体制やめろ。土下座してる風にしか見えないぞ」

 

流石にそこまでされると嫌になってくる。

そう言うと白雪はいそいそと顔を上げた。

 

「だって、だって、キンちゃんが食べてくれて、美味しかったって。それにお礼を言ってくれたから…」

 

白雪は本当に嬉しいそうな笑顔を浮かべており、何故か体をモジモジしながら蚊の鳴くような小さな声でそう言った。

その白雪を見て呆れていると、たゆんたゆんと白雪がモジモジするごとに揺れる胸が目に入ってしまった。

人間の目は動いているものを反射的に目で追う。そのため意識した訳ではないが俺の目は抗い虚しく、白雪の大きな胸に吸い寄せられる。

 

(い、いかんっ!)

 

慌てて目をそらすが先程の光景が頭から離れない。揺れる胸、胸元が少し緩んでいたのかそこから覗く深い谷間と黒いレースの下着。

 

(ダメだダメだダメだダメだっ!)

 

一度意識してしまうと思考が完全にそちらに向いてしまう。

————-ジワリ

体の芯に血が集まるような独特の感覚がしてきた。

 

(落ち着けキンジ、そうだ、素数を数えるんだッ!)

 

俺はその感覚をやり過ごすために頭の中に素数を浮かべ念仏のように唱え続ける。

そのかいあって、なんとか、なんとか瀬戸際でやり過ごすことができた。ふう、どうやらセーフだったみたいだな。

昔よりは慣れてきたとは言え、あのモードには所構わずなりたくないからな…。

俺が1人で戦っている時に、白雪は既に重箱を片付け終えていた。

イスにかけてあった武偵高の学ランを持ってきてくれて、羽織らせようとしてくる。わざわざ受け取るのもアレなので、有難くそのまま羽織る。

ニコニコ笑みを浮かべる白雪を横目に棚に置いてある自身の武装を取りに行く。

棚には俺の愛銃であるベレッタとバタフライ・ナイフ。ベレッタはベルトのホルスターに仕舞いこむ。

バタフライ・ナイフを手にとると、俺は感慨深い気持ちになった。

 

(兄さん…)

 

この緋色のバタフライ・ナイフは俺の兄、遠山キンイチ兄さんの形見だ。

あの事件後、船がサルベージ出来ない海底深くまで沈んでしまったため、兄の亡骸は見つけることができなかった。

だがこのナイフだけは海面に漂う船の残骸に引っかかっており、見つけることができた。

 

(兄さん、俺も2年になったよ。兄さんのような立派な武偵になって、遠山家の義を、俺も正義の味方として背負っていくよ。だから…天国で見守っててくれ。)

 

心の中でそう呟き、バタフライ・ナイフをポケットに収める。

準備が終わり白雪に向き直ると、何故かほっぺに手を当てうっとりしていた。

 

「…キンちゃん。かっこいい。やっぱり先祖代々の『正義の味方』って感じだよ」

 

正義の味方か、以前の俺なら否定していたんだろうな。

そう、心の中で苦笑する。

 

「…ありがとな。」

 

そう言うと、さらにうっとりしていた。

おい、また身体を揺らすんじゃない。

が、何か重要なことを思い出したのか、心配するような顔つきになり、俺に向き直った。

 

「その、キンちゃん、『武偵殺し』には気をつけてね」

 

(『武偵殺し』…?)

何のことか分からない俺を見て白雪が補足する。

「ほら、あの、年明けに周知メールが出てた連続殺人事件のこと」

 

ん?あ、あー、そいやそんなやつもいたな。

爆弾で標的の自由を奪い、マシンガン付きのドローンで追い回して、海に突き落とすっていう手口のやつだ。

確か犯人が捕まったって聞いて興味が失せた事件だな。

 

「あれはもう逮捕されたんじゃなかったか?」

 

そう言うと、白雪は目を伏せながら

 

「そうなんだけど…模倣犯とかでるかもしれないし。今朝の占いでキンちゃんに女難の相が出てたから、私、心配で…。」

 

女難な相か…。もう既に当たったようなもんだな。朝から白雪きたし。

 

「心配すんなよ。それにそんなことになっても何とかしてみせるさ。俺が信じられないか?」

 

大概白雪はこういうと納得してくれる。

そう言うと俺の目論見通り、安心した顔になった。

まあ、模倣犯ぐらいにやられるような柔な鍛え方してないしな。

そんな奴らにやられちまったら兄さんたちに笑われちまう。

 

「あー、俺はPCメールを確認してから出る。白雪は先に行っててくれ。」

 

朝からずっと一緒にいたため、少々気疲れしてしまった。

なので少しでも自分の時間が欲しいためにそう言う。

普段なら一緒に登校したがる筈だが、白雪は生徒会長であるため早めに向こうに行き準備する必要がある。今日なら大丈夫なはずだ。

 

「あ、うん。わかったよ。えっと、後でメールとか…。その、くれたら嬉しいですっ」

 

白雪はそう言いながら、ぺこりと。

深くお辞儀をした後に部屋を出て行った。

よしっ、これで少しはゆっくりできるぞ。

そのままメールを確認し、時間が余ったので武装の手入れをし始めたらつい熱中してしまった。

慌てて時計を見ると時刻は8時。

 

(やっちまったか…。これは自転車で行くしかないな…)

 

バスの出発は5分前のため流石に間に合わない。自転車で向かうのはめんどくさいがしょうがない。行かなければ蘭豹たちにボコられるし。

自転車でも余裕があるから大丈夫だろ。

PCを落とし、そのまま急ぎ足で駐留場へ向かった。

 

 

 

 

———この後空から女の子が降ってくるとは知らず




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