悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「ヌォオオオオオオオッ!!!」
まだ月が夜空を照らしていた頃。
革命軍の戦士達は、一人の怪物を相手に戦っていた。
その怪物の名は、六鬼将序列一位『闘神将』アルデバラン・クリスタル。
帝国最強の騎士と謳われた男。
そんな怪物が咆哮を上げながら剣を振るう。
その一撃で凄まじい衝撃波が発生し、大地を抉り、天を裂き、多くの戦士達を吹き飛ばして殺した。
「ハァアアアアアアアッ!!!」
しかし、その怪物に真っ向から立ち向かえる者もいる。
その筆頭は、砲身の付いた巨大な槍を振り回す筋肉の塊のような大男。
革命軍特級戦士最強の男、バック。
バックが槍をアルデバランに向けて突き出し、その先端を爆発させて攻撃する。
打撃に魔術の力を上乗せした一撃。
だが、アルデバランはそれをいとも容易く盾で防いだ。
ダメージを与えるどころか、アルデバランを一歩後退させる事すら叶わない。
しかし、それで諦める革命軍ではない。
「ミストッ!」
「『七星ノ矢』!」
特級戦士の弓使いにしてバックの妻であるミストが、バックの後ろから魔力の矢を放った。
弧を描いて飛翔する七本の矢が、バックを避けてアルデバランのみを正確に狙う。
「小賢しい!」
だが、その程度で崩れる相手ではない。
アルデバランは右手に持った剣を縦に一閃する。
それだけで、その剣が纏った衝撃波が近くにいたバックを吹き飛ばし、七本の矢全てを掻き消して見せた。
「『風魔刀』!」
「『
しかし、革命軍は攻撃を止めない。
刀使いキリカの風を纏った斬撃と、鎖使いリアンの打撃がアルデバランに迫る。
剣を振り切った直後の隙を狙っての攻撃。
「ふんッ!」
無論、その程度の奇襲がアルデバランに通じる筈もない。
アルデバランは盾を持った左手を裏拳のように振るい、その衝撃波で二人を吹き飛ばした。
『ウォオオオオオオオッ!!!』
だが、今度は元エメラルド公爵騎士団所属の騎士達がアルデバランに襲いかかる。
吹き飛ばし、斬り殺し、叩き潰し、圧倒的な力の差を見せつけても尚、彼らは諦める事なく立ち向かい続けてくる。
それに加えて、
「━━━━━━━━━━━━━!!!」
地面から生えた無数の植物が、革命軍を避け、アルデバランのみを何度も狙ってくる。
その植物は、全てが龍の形となっていた。
姿形を真似ただけの偽物と侮る事はできない。
魔術の力はイメージに大きく左右される。
超級の魔術師プロキオンの成れの果てであるワールドトレントの攻撃も同じだ。
一度バラバラにされ、大きく弱体化した姿である龍の群れですら、一体一体が並みのドラゴンと同等の力を持っていると言っていい。
そんな無数の龍がアギトを開き、アルデバランを喰らい殺さんと迫り来る。
その内の何体かは口の中に魔力を溜め、擬似ブレスの包囲射撃を繰り出して来た。
悪夢のような光景。
だが、あまりにも相手が悪い。
本物の悪夢は龍の群れなどではなく、それと対峙しているこの男の方なのだから。
「鬱陶しいッ!」
アルデバランが革命軍の精鋭達と龍の群れに感じる感情は、苛立ちだ。
恐怖などなく、脅威にすら感じていない。
それもそうたろう。
何せ、これだけの戦力で波状攻撃を仕掛け続けているというのに、アルデバランには未だ
「ハァアアッ!」
アルデバランが、戦いながら剣に膨大な魔力を纏わせる。
帝国最高峰であるセレナやノクスすらも上回る圧倒的な魔力。
圧倒的な暴力。
それを無双の怪力によって振り下ろし、地面に叩きつけた。
「『轟魔神動剣』!」
衝撃波が吹き荒れる。
アルデバランを中心に全方向へと放たれた極大の衝撃波。
それはキロメートル単位の巨大なクレーターを大地に刻み、至近距離に居た者達を跡形もなく消滅させ、離れた者達にすら大きなダメージを与えた。
死屍累々の様相で倒れる戦士達。
その前に、未だ無傷で立ち塞がる怪物。
これを本物の悪夢と呼ばずして何と呼ぶ。
「つ、強すぎる……」
誰かが呟いた。
それは多くの戦士達の代弁だったのかもしれない。
今、彼らの心には弱気という名の悪魔が忍び寄っている。
今まで、この常闇の国を変える為に死力を尽くしてきた。
革命軍の戦士達は言うまでもなく、かつてのリーダーであるリヒトに恩義や尊敬の念を持つ者ばかりをプロキオンが集めた元エメラルド公爵騎士団の意志も、彼らに負けない程に強い。
その強い意志を支えに、これまで数多の苦境を乗り越えてきた戦士達。
絶体絶命の窮地にまで追いやられ、そんな中で奇跡的に掴んだ千載一遇のチャンス。
強大すぎる帝国を打倒できるかもしれない最後のチャンス。
そこに立ち塞がったのが、自分達が死力を尽くしても傷一つ付けられない化け物だ。
それは弱気にもなる。
勝てないんじゃないかという思いに支配されても不思議ではない。
弱気という名の悪魔が心にヒビを入れていき、その意志を砕いて心を折ろうとする。
(マズイ!)
バックは、戦士達の士気が落ちている事を肌で感じ取った。
そんな弱腰でアルデバランに勝てる筈がない。
なんとかしなければならない。
だが、バック自身も先程の攻撃でかなりのダメージを受けている。
最低限の回復ですら少し時間がかかる状況。
それではダメなのだ。
弱気というものは、一度呑まれると士気の回復が難しい。
そして、そんな隙を目の前の化け物が見逃してくれる訳がない。
詰み。
そんな言葉がバックの脳裏を過った。
過ってしまった。
だが、その時。
「やぁあああッ!!!」
「ぬっ!?」
一人の少女が、上空からアルデバランに強襲をかける。
大技を放った直後、ほんの一瞬アルデバランの動きが止まった完璧なタイミング。
彼女は、六鬼将という化け物の事を、革命軍の中で誰よりもよく知っている人物だった。
かつて、たった一人で六鬼将三人に挑んだ少女。
そこで彼らの力を嫌という程思い知った少女。
だからこそ、その経験を今に活かす事ができる。
とんでもない格上相手でも臆せず立ち向かう事ができる。
失敗を成功の母とする事ができる。
その少女は、ルルは、アルデバランが放った衝撃波の嵐を完璧に突き破る事に成功した。
如何に六鬼将と言えども、使う魔術が他の連中と根本的に違う訳ではない。
威力も精密さも段違いだが、それは未知の技などではなく、既知の技の延長線。
加えて、アルデバランの技には特に見覚えがあった。
次元が違うとはいえ、元となっている魔術自体は革命軍にとって最も慣れ親しんだ魔術なのだから。
だからこそ、ルルにはあの衝撃波の弱点がわかる。
あれは広範囲に拡散する攻撃故に、場所によって魔力の濃淡があるのだ。
魔力が濃い場所は威力も高く、薄い場所は威力も低い。
しかも、アルデバランが多くの戦士達に囲まれるという気の散る状況で、なおかつ苛立ちと共に放った魔術だったからか、その分制御が甘く、魔力の濃淡もハッキリと現れていた。
それでも一流の魔術師ですら対処できないレベルだったが、魔力制御にかけてはアルデバラン以上の化け物だったセレナと何度も相対したルルならば見切れる!
そして、広範囲攻撃魔術を突き破る方法は確立されている。
今の魔術に1000の魔力が使われていたとしても、あれだけの広範囲にバラまけば、自分に当たる部分の魔力はせいぜい30~50程度。
更に、魔力の薄い部分ならば10~15くらいだろう。
ならば、こちらは攻撃に20の魔力を使えば貫ける。
かつて、まだ弱かった頃のアルバがセレナに対して使い、失敗した技術の進化系だ。
あの時は通じなかった弱者の知恵。
だが、ルルはそれを成功させて見せた。
あの受け間違えば即死の攻撃を前に、威力の弱い部分に攻撃を叩き込んで突き破り、そこに身体をねじ込んで前進した。
魔力をなんとなくでしか感知できない平民の身で、怪物アルデバランへの攻撃のチャンスをもぎ取ったのだ!
「『魔刃一閃』!」
「ッ!」
ルルのナイフが宙を走る。
それを、アルデバランは避けた。
迎撃も防御も間に合わなかったからだ。
そして、ルルの攻撃を避け切れず、アルデバランの頬に一筋の傷が刻まれた。
それは、ほんの僅かなかすり傷。
戦闘に支障など一切きたさず、回復魔術どころか素の生命力だけでも数分で治ってしまいそうな、小さな小さなダメージ。
だが、無敵に思えたアルデバランに傷を付けたのだ。
それは、決して小さくない変化を戦場にもたらした。
「いつまでも寝てんじゃないわよッ!」
ルルが叫ぶ。
その声が、その一喝が、戦士達の心を奮い立たせた。
そうだ、あれは無敵の化け物ではない。
攻撃が当たればちゃんと傷を負う、ダメージを積み重ねればいつかは倒せる普通の生物なのだ。
ならば、倒せぬ道理はない。
それに、あんな年端も行かぬ少女が勇気を振り絞り、怪物に立ち向かっているのだ。
ここで立たねば戦士ではない。
『オオオオオオオオッ!!!』
戦士達が雄叫びを上げ、ルルに続いて再びアルデバランに向かって行く。
今ここに、革命軍の士気は回復した。
(ルル、感謝するぞ)
バックは、この流れを作ってくれた少女に感謝を捧げ、自らも手早く回復を終えて戦線に復帰した。
まだ、彼らの戦いは終わらない。
そんな彼らを、特に先頭に立つルルの姿を見て。
「腹立たしい……!」
アルデバランは憤怒の表情を浮かべていた。