悪の帝国に忠誠を ~最愛の人の為に、私は悪に染まる事にした~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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勇者と皇帝

「バ、バカな!? 賊がここまで侵入して来るだと!?」

「セレナ様が敗れたというのか!?」

「落ち着け! 敵は一人! しかも相当の手負いだ! 団長が前線に出ているとはいえ、我らエリート揃いの近衛騎士団がこんな奴に負ける筈が……」

「『光騎剣(シャインブレード)』!」

『ギャアアアアアアア!?』

 

 城内に残っていた騎士達を蹴散らし、城の最上部を目指す。

 迷う事はない。

 事前にプロキオンさんから城の見取り図を渡されたっていうのもあるけど、それ以上に、目的地から途方もない魔力反応を感じているからだ。

 

 そして、俺は遂に最終決戦の舞台に辿り着いた。

 巨大な扉を蹴り破り、押し入ったのは、黒を基調としたデザインの大広間。

 部屋の奥に数段の階段があり、その上に荘厳な雰囲気の玉座がある。

 その玉座に、一人の男が座っていた。

 あのセレナですら比較にならない圧倒的な魔力を纏った男。

 目の前に立っただけで潰されそうな重圧を放つ化け物。

 

 俺は確信した。

 こいつこそが革命軍の最終標的。

 帝国の頂点。

 ブラックダイヤ帝国皇帝、アビス・フォン・ブラックダイヤであると。

 

「よくぞ来た、リヒトの息子よ。我が親愛なる血族よ」

 

 玉座に座ったまま、皇帝は俺に話しかける。

 その口調は、気味の悪い事にとても親しげだ。

 口にはうっすらと笑みすら浮かべ、敵意なんて微塵も感じさせない。

 ……不気味だ

 こいつが何を考えてるのか、さっぱりわからない。

 俺は警戒しながら剣を構えた。

 

「そう身構えるな……と言っても無理な話か。こう見えて、私は本当に心からお前を歓迎しているのだがな。理解されないのは悲しい事だ」

「……どういうつもりだ」

 

 あまりにも意味不明すぎて、俺は思わずそんな事を口走ってしまった。

 俺を歓迎する?

 セレナやノクスを倒し、多くの騎士を倒して、こいつの首を取りに来た俺を歓迎だと?

 訳がわからない。

 

「そう不思議がる事はあるまい。私は優秀な者が好きだ。才能ある者が好きだ。そして、お前はあのノクスとセレナが二人がかりで挑んだにも関わらず、それを単騎にて退けた類い稀なる戦士。あの二人は私が特に目をかけていた二人でな。それを上回る才能を示したお前を私が歓迎しない訳がないだろう?」

 

 なるほど、よくわかった。

 なんて言うとでも思ったのか?

 確かに、皇帝の言葉は一見筋が通ってるように聞こえなくもない。

 でも、違う。

 違うんだ。

 そんな訳がない。

 こいつの言葉には、最も大切な部分が欠落してるのだから。

 

「お前は……なんとも思わないのか?」

「ん? なんの事だ?」

 

 なんの事、だと?

 そんなの決まってる!

 

「そのセレナとノクスは死んだんだぞ!? 目をかけていた二人じゃないのか!? 特にノクスはお前の息子だろう!? なのに、そんな二人を殺した相手を、お前はなんで笑顔で歓迎できるんだ!?」

 

 理解できない。

 意味がわからない。

 こいつには人の心がないっていうのか!?

 

「無論、惜しんではいる。だが、あの二人は己の才能を最大限に使い切って戦い、そして死んだのだ。それは幸せな事であろう? であれば、私が悲しむ必要などないではないか」

「ッ!? 何を、言ってるんだ……?」

 

 幸せ?

 こいつは今、あの二人が幸せだったって言ったのか?

 セレナの慟哭が脳裏に蘇ってくる。

 苦しかったと、辛かったと、戦いたくなんてなかったと、悲痛な声で叫んだ少女の声が。

 目の前の男は、そんなセレナの大切な家族に呪いをかけ、望まぬ戦いに駆り出した張本人の筈だ。

 セレナの幸せを根こそぎ奪った奴が、言うに事欠いて「あいつは幸せだった」と宣う。

 理解できない。

 なんで、そんな酷い事を悪気の欠片もなく、さも当然の事のように語れるんだ……!?

 

「私がするべき事は悲しむ事ではない。私が最優先すべきは失った人材の補充だ。どうだリヒトの息子よ? 今からでも私の配下になってみないか? さすがにノクスの代わりとまではいかんが、セレナと同じかそれ以上の待遇で迎えてやろう。さすれば、お前はリヒト譲りの才能を思う存分に活かす事ができる。悪い話ではないだろう?」

「………………は?」

「今なら新しい六鬼将の筆頭にしてやろう。他に目ぼしい人材がいないのは嘆かわしい事だが、まあ、それは追々探していけばいい。セレナやミア、アルデバランのように思わぬ所で拾える逸材もいるし、私の血を直接引く者達を量産していけば、いずれノクスの代わりも手に入るだろう。ああ、そうだ。セレナが死んだのであればルナマリアを回収しなくてはな。私とエミリアの血を引き、セレナという逸材を産み出した血筋だ。今から教育しておけば将来は有望だろう。実に楽しみだ」

 

 皇帝が楽しそうに先の話を口にする。

 怖じ気の走る光景だった。

 人を人とも思わない外道な考え。

 ああ、そうか、こいつは……

 

「皇帝。俺はお前の配下なんかには死んでもならない。俺はお前を倒してこの国を変える」

 

 純白の剣を皇帝に向けながら、そう宣言する。

 そんな俺を見て、皇帝は不愉快そうに顔をしかめた。

 

「国を変える、か……。お前といい、リヒトといい、何故そんな事に拘るのか理解できん。この国は今が最善の状態であろうに。私を筆頭に絶対的な力を持つ者達を頂点に据え、その下に魔力という特別な力を持ったそこそこ優秀な貴族達を揃え、民衆を問題なく支配している。これが最も効率的な国家の形だ。何故それをわざわざ変えようとするのか。心の底から理解に苦しむ」

「……それがわからないから、お前は俺達に反逆されるんだ」

 

 今の言葉を聞いて確信を深めた。

 皇帝はきっと、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だから、やる事なす事全てが人の心を考慮しない。

 それをやったら誰がどれだけ傷ついて、どれだけの悲劇が巻き起こるのか、その一切を考慮しない。

 無自覚に悲劇を振り撒き続ける怪物。

 それが皇帝だ。

 まるで、この国を覆い尽くしている暗闇その物のような存在。

 こいつだけは絶対に倒さなくちゃいけない。

 こいつを倒さない限り、この国に夜明けは来ない。

 そう強く実感した。

 

「行くぞ、皇帝。俺はお前を止める。もうこれ以上、お前に悲劇を起こさせはしない」

 

 そうして、俺は皇帝に向かって斬りかかった。

 全てを終わらせる為に。

 全てを始める為に。

 最後の敵との戦いが、夜の暗闇を振り払う為の戦いが、今始まった。

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